「お前が犯人だなァ!!!」
"チョコ"が私に島の武器を向けてきた水色の大きな尻尾の彼に向かって襲い掛かった。彼の親友であった"わたあめ"を食べた犯人、正確にはその中身を見つけたのだから無理もないが、いくら何でも冷静さを欠きすぎている。
「犯人~? なんの話だ~?」
「すっとぼけるんじゃねェ!!! お前が食ったんだろッ!!!」
その証拠にあの爪の攻撃がかすりもしていない。今の彼は復讐の憎しみに取りつかれてしまっているようだ。
「オ~おそろしッ。ほいじゃ」
「逃げるんじゃねェ!!!」
彼らが森の奥に向かって走り出してしまった。
「もしかしてッ……"チョコ"さんは見つけちゃったのかなッ……昔の友達の"わたあめ"さんを食べちゃった犯人ッ……!」
「エッ!?」
「……フゥン?」
3人も今の事態が良くないことはなんとなく分かってくれたようだ。ならば少しでも協力が欲しい。
「今のアイツは何をするか分からないッ! 皆で追いかけてなんとか止めるぞッ!」
彼を追うべく駆け出────
「でもセイレーンがッ!」
その言葉に振り返ると、セイレーンが捕らえた島の住民を連れ去ろうとしていた。あの2人の行方も気になるが、誘拐を目前にして見逃すわけにもいかない────
「ヤハヤハァ!」
耳長の彼が"チョコ"たちの走って行った方に駆け出した。
「『"チョコ"の捜索に人手を割いたほうが良い』って、セイレーンはどうするのッ!?」
「プルルッ!」
耳長の彼が私の方を見て何度か頷いた。彼からセイレーンの事情を詳しく聞いている私が適任、ということだろう。それにあの3人が力を合わせれば彼を探して止めることができるかもしれない。ならば私がやることはただ一つだ。
「お前たちは"チョコ"を追ってくれッ! 私はセイレーンと話し合うッ!」
「せッ、先生ッ……わかりましたッ!」
「ウン!」
2人も耳長の彼の後を追って駆け出して行ったのを視界に収め、私は住民を連れて行こうとしているセイレーンに向けて駆け出した。
ズリズリと地面を進んでいくセイレーンに追い付き手短に要求を話す。
「犯人すぐに見つかるッ! もう襲わないでくれッ!」
私の声に彼女は厳しく眉を寄せて露骨に嫌そうな顔をした。
「じゃあ早く見つけてよ。そうしたらもう襲わないからさ」
彼女からしてみれば今まで彼女なりに犯人を探してきていて、それに加えて協力者が探してくれるだけなのだろう。だから私たちがどう立ちまわろうが関係なく、彼女は犯人探しを続ける。思う所は色々あるがそこまでおかしな行動ではない。
「それにさ、こっちに構ってるヒマないんじゃないの? "チョコ"くん相当怒ってて周り見えなくなってるんじゃないかな~?」
「そッ、それはそうだがッ……」
私だって彼のことが心配なのは事実だ。だからといって今攫われそうになっている住民を無視していい理由にはならない。
「大体……キミ一人で取り戻せるの?」
「何ッ……?」
一呼吸おいて彼女が軽く跳ね、その大きな背ビレを地面にたたきつけた。ドゴンと地面が砕けて盛り上がる威力で、まともに受けたら重傷になることが簡単に想像できた。
「これだけじゃなくて歌の力もあるから」
「何だとッ……!?」
「ハァ~♪」
歌声と共に彼女の口が開かれて住民が落ちる────前に地面から植物のツタが伸びて巻き付くように受け止めた。それどころか私に向かって伸びて目前にまで迫るほどだった。どうやら彼女は陸でも十分すぎるほどの力を持ち、剣を振るえばある程度抵抗できるかもしれないが、私1人ではとても手に負える相手ではないことが分かった。
「このまま君を攫ってもいいケド……"チョコ"くんの友達だから一回だけは見逃してあげるよ」
「くッ……!」
今ここで私まで捕まってしまったら2つの犯人探しに人手が足りなくなってしまうどころか、私を捜索するのにより多くの人手を割いてしまい、全てが上手くいかなくなる可能性がある。それだけは避けなければならず、不本意ながらこの場は退くしかなかった。
「……分かったッ……だがッ、なるべく住民には手を出さないで欲しいッ……!」
届かぬだろう頼みを吐き捨て、私も"チョコ"と"わたあめ"を食べたの犯人を捜すことにした。
先に捜索に向かった3人の足跡を辿ると、崩れた橋の前で3人が悩んでいた。
「渡れなくて立ち往生、と言った所かッ……」
「あッ、先生ッ! セイレーンとの話し合いはどうでしたッ!?」
青頭の彼の質問に対し私は目を瞑って首を横に振り、決裂に終わったことを暗に示した。
「犯人を差し出せば止めるだろうがッ……まずはあの2人を探したほうが良いと思ってなッ……」
「確かにセイレーンと話すなら必要かもッ、"チョコ"さんの力ッ」
「……プルヤ」
「……ン? エッ!? ワワッ!」
白色の彼が慌てた様子で橋を指差した。真ん中辺りで紐が切れたのか力なくだらんと垂れていて────その所々に白と黒と水色の3色の毛が付着していた。しかも水色の毛は手前と奥の両方にに付いていたが、白黒の毛は手前にしかついていなかった。
「まさかッ……彼はここから落ちたのかッ!? 調べてくるから宿から彼のバッグを持ってきてくれッ! 赤い花が咲いているバンガローが私たちのだッ!」
イヤッハー! と大急ぎで耳長の彼が持ってきてくれた彼のバッグからロープを取り出し、橋の残骸に結び付けて崖を降りる。もしこの高さから直に水面に落ちたら大怪我は間違いない。彼の無事を祈りながら辺りを見渡す。降りてきた側の崖の壁面に橋と同じ白黒の毛が付いていて、川底には彼の爪が2つ沈んでいた。
「"チョコ"ッ……まさかッ……」
ややひしゃげている爪を拾って最悪の事態が頭をよぎったが、まだ彼の体が見つかっていないから今は否定して考えないようにする。崖を戻って3人に見つけたものを報告する。
「……とりあえず彼がどんな状態かは分からないがッ、出られる状態や事情ではないからこの島にいるはずだッ」
「"チョコ"さんッ……」
「ワァ……」
「……ヤハ」
消して喜べる状況ではないが、希望を捨てるような状況でもない。私は彼の爪を見て彼のとある言葉を思い出した。
「白色の彼はとんでもない素質を持っているんだー。もしこの爪を誰かに譲るなら彼一択だねー」
白色の彼は彼に一撃を入れたことがあるらしい。もしそうならこの爪を持っているべきは私ではなく、間違いなく彼だろう。私は意を決して白色の彼に爪を差し出した。
「……コレを託そう……アイツは君の事を高く買っていたッ……何かに使えるかもしれないから持っていてくれるとありがたいッ……」
「エッ、エッ」
「すごいよッ! TOP4の武器を託してもらえるなんてッ!」
「ヤハヤハ」
「……ウン!」
彼はたどたどしい手つきで爪を装備しようとしたが、サイズが合わないらしかったので彼と同じようにポーチの横に括りつけた。
一度集落に戻って住人たちに事情を説明する。
「セイレーンは人魚を食べた犯人を差し出すまで襲うのを止めないッ……ここで一度住民全員を調べた方がいいだろうッ……」
「ワワッ……エ~ト……」
「放送で集められるだけの住民を集めて調べるしかないかッ……それでもやるしかないなッ」
急いで放送で呼びかけて可能な限り住民を集めて調べる。しかし誰一人として尻に異常があるものはおらず、あくまで容疑者が減るだけでしかなかった。
「あッ……エトッ……」
「エッ? ……本当だッ、いないよッ、あの2人ッ」
「……フゥン」
「あの2人? ここにいない住人がいるのかッ?」
3人曰く、頭に葉っぱが1枚生えた住人と2枚生えた住人の仲の良さそうな2人組がいないらしい。この事態でいないとなると、セイレーンに攫われてしまったか────人魚を食べた犯人である可能性がある。
「ならッ……その2人を探したほうがよさそうだなッ……」
「セイレーンよりも先に見つけないとッ……!」
「ウン……!」
「プルルッ!」
私たちは無実の証明ができた住人たちには集落から出ないように伝え、葉っぱの2人組を探すための捜索に向かった。