白い彼の彼の話を聞いて、俺は即座に最悪の事態を考えた。もし俺が犯人でその会話を聞いていたら、すぐにでも島を出るだろう。その場は合人目のつかない時間である夜、まさに今この瞬間に出て行ってもおかしくない。まして今の今まで島民の被害を見て見ぬふりして黙りこくっていた極悪人だ、賢しく身を隠して捜索ができないこのタイミングこそチャンスだと思うだろう。
「こうしちゃいられないねー……! キミはセイレーンと皆と会って浜辺や付近の海を探すように言ってきてー……! こっちは1人でも探すからー……!」
「ワワッ! エトッ!」
「その体では無茶だッ……! 休んでいたほうが────」
「大切な仲間を食われた辛さも分からねえくせに御託を言うなァッ!」
白い彼は当然、いい体格をしている島次郎ですら俺の怒りに止まった。
「……急に怒鳴って申し訳ないねー……でも、この件はどうしても犯人が許せないんだー……まァ、そのさすまたを杖代わりにすれば多少はマシになるだろうからァ、爪と交換ってことにしてもらえないかなァ?」
俺の事情を察してか2人は止めることはせず、消して快諾とは言い難いが首を縦に振った。
「ン……」
「おれは彼と一緒にセイレーンの下に向かおうッ。無理そうだったらこの店に戻ってきていいからなッ。食事と寝床は準備しておくぞッ」
俺の怒りの矛先を向けるべきはこの2人ではなく、人魚を食べた葉っぱの2人組だ。彼から託されたピンクの刺付きさすまたを杖代わりに、俺は月明かりが照らす道を進んでいった。
しばらく歩いて俺が流れていた川を下り、海と合流する地点に辿り着いた。まだ犯人が出ていないという条件はあるが、ここから可能な限り海に面するように回って行けばどこかで巡り合うはずだ。もし出会えなかったらセイレーンから何をされても文句は言えず、全滅という可能性だって十分にある。そうなったら俺はどうするのだろうか。ここまで言っておいてセイレーンを裏切るのはいくらなんでも過ぎるが、だからといって"チョコ"たちと戦うというのも筋違いで────どこからかあるザフッと程度の重さの物を砂の上に置いた音が聞こえた。その方向を見ると、フードを被った2人組が木製のボートを砂浜の上に置いていた。
「……余計な事考えるのは止めだァ」
この状況で疑わしきは罰せずなどと甘いことは言ってられない。俺はまだ少し痛む体に鞭を打って走り出し、推定犯人である彼らに向かっていった。
「待ちやがれ人魚食い共ォッ!」
「「ワッ!?」」
まずは逃亡を不可能にするべく船体にさすまたの横薙ぎをブチ当てる。バキッと確かな手ごたえと共に穴が開き、船としての機能が果たせなくなった。しかしその反動は本調子ではない俺には大きく、痛みで体の動きが一瞬止まる。その隙を彼らが逃す訳もなく、森の方へ逃げて行った。
「グッ……! 往生際が悪いなァ……!」
何も逃亡ルートがここ1つだけとは限らず、むしろいくつか用意しておいて合流地点を決めてある方が自然だ。ここで逃したら次はない、そう考えたら追う以外の選択肢はありえない。誰かが見つけたら追ってくれるように砂浜に彼らが逃げた方向への矢印を書き、彼らを追って森の中へ挑んでいく。
「クソッ……! 視界も足場も悪いなァ……!」
奴らは事前に逃亡計画を立てていたのか、道なき道を難なく進んでいる。対し俺は初めての道な上、本調子でもないため、少しずつ距離が離れているのが自覚できた。このまま消耗しきるぐらいならと大きく息を吸い込む。
「すぅーッ……ここに人魚を食った犯人がいるぞォ!!! 早く捕まえてくれェ!!!」
何も俺が捕まえる必要はない。俺は可能な限りヤツらを追って逃亡までの時間を稼ぎ、誰かが合流をしてより確実に捕まえられる状況を作るだけで────叫んで無くなった空気を吸い込むタイミングで彼らが振り返り、不思議な顔がついている棒を俺に向けて振った。その2つ顔がびんよよと伸びてさすまたに絡みつき、2人分の力で引っ張られて俺の手から離れて彼らの足下に転がった。
「何だとッ……!?」
「「……ッ、ワァーッ!」」
武器が無くなった俺なら倒せると判断したのか、彼らが俺に向かって走り出した。
直りかけの体の上に走り叫んで消耗したとあっては武器持ちの2人にまともに戦えるわけがない────などと諦めているようではアイツを超えることなどできない。むしろここで彼らを倒すことができれば全てが終わる大チャンスだ。拳を握り締めて俺がいつも大切にしている心を唱える。
「虎穴に入らずんば虎子を得ずゥ……! TOP4の意地と実力見せてやるよォ……!」
彼らの武器の本質は近距離の打撃よりも中から遠距離の拘束にあると判断し、一気に踏み込んで懐に潜り込む。当然迎撃するべく再度びんよよが飛ばされたが、直線的な軌道でしか飛ばせないため簡単にくぐり抜けれた。
「「エッ!?」」
「どうやら銭湯経験は無いようだなァ……! だァッ!!!」
2つ葉っぱ頭の方の腹部に拳をめり込ませる。メシリと重い音がして明らかに彼の顔色が悪くなった。
「ウグッ……」
「次はお前の方────」
「ヤーッ!」
1つ葉っぱ頭の奴がいつの間にか持っていたピンクのさすまたで、俺を思い切り突き刺した。鋭い先端は当たらなかったものの、内側に付いている刺がザクザクと刺さり俺の白い毛を汚していった。
「いっ────」
「ワァー!」
俺が痛みにひるんだ隙に、立て直した2つ葉っぱ頭が棒で俺の頭を思い切り叩いた。
「ガッ……」
ボカと明らかに重い音と共に俺の視界と意識が揺らぐ。マズい。次に何か来たら避けれない────
「ウワーッ!!!」
1つ葉っぱが突き出したさすまたの先端が俺を刺す。先よりもより深く、命が熱く流れ出すほどに。
多くの討伐してきたから分かった。俺は死ぬ。助かる訳がない。
「……マジ、かァ……あ、ははッ……」
何ともあっけない最期になるのかと変な笑いが込み上げてきた。俺は何も果たせないまま死ぬ。"わたあめ"を食べられた復讐も、セイレーンとの約束も、何より"パフェ"を超えるという欲望も。
「……嫌だァ……」
嫌だ。
「そんなの……嫌だァ」
嫌だ嫌だ。
「また……失うなんて嫌だァ」
嫌だ嫌だ嫌だ。
「くふッッ、ワアーッ、ワーッ!!!」
このまま何も果たせず死ぬぐらいなら。それがあの苦しい日々を味わうよりも嫌なら。
「「エッ……!?」」
「アハハァ……! なっちゃったァ……! またッ、なっちゃったァ……!」
体の内側から空気を入れられたかのように膨らんでいく感覚が走り、立ち上がると明らかに目線が高くなっていた。手の爪も大きく伸びて武器を装備しているみたいだった。
「「ワァ……アッ……!」」
「全部全部……お前たちのせいだァ!!!」
泣いて怯える目の前の2人を思い切り吹き飛ばした。カシャンと何かが飛ぶ音がして、2人とも動かなくなった。傷一つ付いていないのに不思議だと思って彼らの尻を確認したら、何かをはめ込むようなくぼみができていた。セイレーンの言っていた"永遠のいのち"の何かだろう。俺は地を震わす様な笑い声を上げた。
「アッハッハッハァ! 見つけたぞォ……! やっぱりィ……お前らがァ、はん、に、ん……」
そこで体に力が入らなくなって仰向けに倒れた。木々の隙間から見える星空はとても綺麗で、俺の心とは真反対に澄んで晴れ渡っていた。