皆と共にセイレーンに捕まり、日が暮れるまで探索をしても人魚を食べた犯人は見つからなかった。彼女の眉がキュッと寄って、赤くなった目で私の顔を覗き込んできた。
「これだけ探しても見つからないってことは……キミ、ウソをついたね?」
「ちがうッ! こちらに来ているのは本当だッ!」
でなければ岩場にあのような痕跡が残るはずがない。きっと探せば見つかる────
「こんっだけわいガヤ捜しゃあ、あっちに気付かれるだろッ」
水色の尻尾の彼がとんでもないことを口走った。
「……どういうこと?」
「こんな大人数で探してツタも伸ばしまくったら、どこだって叫んでるようなもんだろッ。あっちはもう逃げだしてるだろうなッ」
元討伐対象で追われることもある側だった彼だからこその発想だった。今回私たちが行うのべきだったのは捜索のような目立つものではなく、追跡や尾行のような静かなものだったのだ。その事実に気付き始めた1人を除いた皆の顔が青ざめていく。
「どッ、どうしようッ……! 犯人が見つからなかったらッ、どうなっちゃうのッ……!?」
「ハァ?」
「ワワワッ!」
「こんだけ探してなんも無しかァ~? さっきのあんまいもんか"永遠のいのち"をよこせッ」
「う~ん……本当に探したからいなくなっちゃったのか分かんないケド……一回あの洞窟に戻って休もっか」
彼女も探し方に問題があったかもしれないと思ったのか、私たちに酷いことをするつもりは無いようだ。
ツタで運ばれて彼女と出会った洞窟に戻ってきた。流石にツタは解いてもらえなかったが、"チョコ"のバッグからそれなりの食料を食べさせてもらうことはできた。
「神秘的な洞窟で食べる缶詰……アリかもッ……」
「ハァ?」
「あんまいもんとしょっぱいもん、交互に転がし入れろッ」
「ワワッ……!」
「"チョコ"くんにあったら美味しかったってお礼言わないとねー」
「……ッ、"チョコ"ッ……お前は一体何を隠しているんだッ……」
先程水色の尻尾の彼が言っていたことが気になってしょうがない。口に運んでいる缶詰の味も甘いのかしょっぱいのかよく分からないほどだ。
「アレッ? "パフェ"くんは"チョコ"くんの昔を知らないの?」
「過去に友を亡くしたことは知っているがッ……あまり話したがらなくてなッ……」
彼の話す昔話と言えば"わたあめ"との日々ばかりで、失ってからの事は話してくれなかった。あまり話したくない事情があるのだろうと深堀はしなかったが、それが今になって彼への疑念に繋がるとは思ってもいなかった。
「セイレーンは聞いたのッ、"チョコ"さんの過去ッ?」
「うん。全部話してくれた」
なぜ彼はセイレーンには話せて私には話さなかったのだろうか。もしかしたら何かやましい過去があるのだろうか。あまり考えたくないが彼と話す機会がない可能性がある以上、聞けるうちに聞いておきたい話ではある。
「……話してくれるかッ、"チョコ"の過去ッ」
セイレーンはう~んと唸りながら目を瞑り、首をコテンと傾けてとても悩んでいた。
「……"チョコ"くんは『これを話したらセイレーン以外とは仲良しでいられない』って言ってたよ?」
「……アイツとは話1つぐらいで悪くなるほどの関係ではないッ……!」
「……知りたいですッ、"チョコ"さんのことッ……!」
「……プルヤ」
「ソレ聞いたらうんまいものがもっと食えるかァ~?」
「ウウッ……!」
皆が聞きたい意思を表明すると、セイレーンはハァと重い溜息をつきながら口を開いた。
「"チョコ"くんは……大きな怪物、キミたちで言う討伐対象になったことがあるんだって。それで討伐者を追い払うのが嫌になって、魔女に入れ替わりを頼んで今の"チョコ"くんになったんだって」
「やっぱりなァ~……だからアイツは捕まえようとしてきたのかァ~……オ~おそろしッ」
想像もしていない発言だった。だが元討伐対象だった水色の尻尾の彼に通ずる我儘さ、あるいは気性の荒さが見え隠れしているから意外と受け入れられた。それに────
「"チョコ"と"パフェ"であることにはッ……変わりないからなッ……‼」
それが全てだった。例え彼にどんな過去があろうと、この呼び方の関係になれたのは事実だ。
「ッ、ギャリギャリ!」
外で見張りをしていた人魚が急いだ様子でやってきた。
「白い子が大きな誰かを連れてきてやってきたの?」
「ギャーギャー!」
「えっ、"チョコ"くんは1人で犯人を捜しているの?」
「何だってッ!?」
彼が生きていたのはとても嬉しいが、あの高さの橋から落ちて無事とは思えない。しかし彼はセイレーンにとても肩入れしているから、体が動くのなら無事でなくとも人魚を食べた犯人を捜すだろう。
「早く合流しないと"チョコ"が危ないッ! もし犯人と戦闘になったら彼の状態によってはただでは済まないッ!」
「それは困るね。それじゃあ本気で行くよ……ハァ~!!!」
食事で回復したであろう彼女は全力で泳ぎながら歌い、あっという間に私たちを洞窟の外まで運んだ。そこには白色の彼と、『味自慢』と書かれた前掛けをした大きな何者かがいた。
「ワアァッ!」
「こっちだッ! 砂浜に矢印が描いてあったッ!」
彼らにしたがって浜辺を進んでいくと、船体に穴の開いた木製の船と森の方向へ伸びている雑な矢印があった。
「きっと逃げようとした犯人と戦ったんだッ!」
「でも逃しちまったみたいだなァ~」
「……ヤッハァ!」
「エッ、森から何か聞こえるのッ!?」
「くふッッ、ワアーッ、ワーッ!!!」
明らかに何事かあったであろう"チョコ"の大声が地を揺らすように響いた。
「あっちだ! ハァ~!!!」
その方向に全員で向かう。もしや"チョコ"が犯人との戦いの最中、何か別の存在に襲われたのだろうか。
「全部全部……お前たちのせいだァ!!!」
雄叫びと共にドズンと痛々しい肉の音が聞こえる。少し太く低い雄叫びだったが、今のは間違いなく"チョコ"の声だった。つまり今の状況は"チョコ"が犯人を襲っているのだ。
「アッハッハッハァ! 見つけたぞォ……! やっぱりィ……お前らがァ、はん、に、ん……」
笑い声と勝利宣言が消えると同時にドスンと大きな何かが地面に倒れる音がした。その方向に白と黒色の毛をした大きな何かが見えた。急いで近付くと大きくなってもどこか愛嬌のある丸い耳、白と黒が交互に続く縞模様、木のように太くなった手足、あの武器をそのまま張り付けたような長くて鋭い爪、例え討伐対象のような姿になっても見間違える訳がない。"チョコ"が横たわっていた。
「"チョコ"ッ!!!」
駆け寄って声をかけると彼が微かに目を開いた。白い部分と黒い部分が逆になった目だったが、恐ろしさは何一つ感じなかった。
「"パフェ"……お前には……この姿を……見せたくなかったな……」
「どんな姿でもお前はお前だッ!!!」
「は……ははッ……だからお前は……1位なんだろうな……」
「誰かッ!!! 早く手当をッ!!!」
「任せてッ! ハァ~!!!」
セイレーンの伸ばしたツタが彼の傷口を強く締め付ける。これで少しは────
「セイレーンがいるのか……なら頼みがある……」
「なんだッ!?!?!?」
「犯人を捕まえたんだ……もう島民を……襲わないでくれ……」
セイレーンが倒れて動かない頭に葉っぱが生えている2人組の尻を調べた。
「……跡があるッ! この2人が犯人だッ! もう襲わないよッ!」
「よ……よかった……これで……セイレーンの復讐が……終わる……」
全てが終わったと満足げに笑う彼に更に詰め寄る。
「お前の復讐はどうするんだッ!?!?!? 水色の尻尾のヤツを捕まえたんだぞッ!?!?!?」
「お前、が、継いで、くれ…………そして、1位の、かつ、やくにして…………俺の、一番の、とも、だち、として…………生、き、て────」
彼の口が動かなくなった。
「"チョコ"…………ッ、ウワァ────!!!」
彼がなぜ変わってしまったのがよく分かった。大切な友達を失うというのは、全てを捨て去ってしまいたいほど辛いのだ。こんな形で彼を理解してしまう私自身の無力さを、私はただただ星空に響かせることしかできなかった。