動かなくなった"チョコ"はセイレーンに任せた。友として手厚く弔ってやりたかったが、私たちの力では運ぶこともままならなかったのだ。明後日に来る帰りの船が着くまで洞窟で休ませてやって欲しいと頼んだら、犯人を捕まえてくれたから当然だよと快く引き受けてくれた。
「それじゃあ……帰る時が来たら"チョコ"くんを迎えに来てね……」
彼の協力者であった彼女にとっても辛い出来事のはずだ。それでも冷静に水色の尻尾の彼以外の皆がツタから解放し、私たちに自由を与えてくれた。
「オイッ、何で解かないんだッ! 解けッ!」
「エッ!?」
「ハァッ!?」
「できるワケないよそんなコトッ! キミのせいで────」
「それ以上言わないでくれッ……それ以上は……帰って討伐する時に言うべきだッ……」
「ワワ……」
「……とりあえず、水色の尻尾の彼に関してはおれの店で監視しておくから、宿に帰って休んだほうがいい。島民への報告は明日の朝にしてもいいだろう」
島二郎の提案でそれぞれの宿に戻って行く。私1人だけになった部屋は広くなったはずなのに、どうしようもない息苦しさが押し寄せてきた。その夜は目を瞑っても一睡もできず、ただただ1人になってしまったというどうしようもない現実に苛まれた。
翌朝、島民たちに"チョコ"のことは伏せて事の顛末を話した。
「────ということがあって、葉っぱの2人組が人魚を食べた犯人だったッ。セイレーンは犯人を捕まえたからもう島民を襲わない、と言っていたから安心してほしいッ」
「ワーイ!」
「アッ……ワワワッ」
そういえば以前に一枚葉っぱの彼が何かの入った大きな袋を引き摺っていた、という話が出てきた。魚を釣ったと誤魔化されたが、今考えてみればその中身が人魚だった可能性があるという。今更どうこうすることはできないが、それはお互い様なので深くは言及しなかった。
「……アレッ?」
今夜にお礼のキャンプファイヤーをやりたいのだが、白と黒の彼こと"チョコ"がいないことを指摘された。そんなおめでたい所に彼の訃報を知らせて台無しさせるわけにはいかないので、動揺を隠しながら咄嗟に誤魔化す。
「ッ……"チョコ"はッ……急用ができてッ……先に帰ったッ……」
「聞きたかったねッ……"チョコ"さんの『今日の日はさようなら』ッ……」
「……ウン……」
「……ヤハ」
彼らが上手い事合わせてくれて助かった。ただでさえ私では彼の代わりは務まらないのに、歌となってはなおさらに務まる訳がない。歌は彼らや他にリズム感のあるものにお願いするとして、私たちはお祝いの準備をするために材料調達や調理をすることにした。
「カレーかッ……すまないッ、玉ねぎを切らせてくれないかッ……?」
「エッ? 目に染みちゃいますよ?」
オレンジ色の炎のようなたてがみをしたスーパーアルバイターの彼が不思議がったが、濃い茶色頭のよくお酒を飲んでいる彼が優しくそっと黙って玉ねぎを渡してくれた。
「……すまないッ、感謝するッ……」
「ッ……ハーッ…………」
帰ったら飲み仲間として献杯させて欲しいと言われてしまった。"チョコパフェコンビ"の片方が急に帰る事態と私の不自然な取り繕い方から、何が起きたのか察したのだろう。
「……お願いしようッ……私はお酒が飲めないからなッ……」
濃い茶色頭の彼はウムウムとしみじみと頷いて、私と一緒に玉ねぎを切ってくれた。今日の玉ねぎはやけに沁みて、とても涙を堪えることができなかった。
「やっぱりとても染みてますッ! 代わりましょうか────」
「……ウラヤハ」
「『時には分かっていても辛いことをしなきゃいけないことがある』……?」
「えっとッ、先生は目を鍛える訓練しているんだよッ! だから邪魔しちゃ悪いよッ!」
「ウ、ウンウン!」
良き教え子を持ったものだ。今は彼らの優しさに甘えて、落ち着くまで玉ねぎを切るとしよう。
夜になりキャンプファイヤーが始まる。ゴウゴウと燃える赤い炎、堂々と広がる深い蒼の空、キラキラと散りばめられた白い星々。次に見ることができるか分からないほど綺麗だ。なのに。感動ではない別の何かで目から涙が伝う。
「『離れ島 泣き泣き別つ 友垣よ』……こうにでもならなければいい句は生まれないかッ……」
そういえば"チョコ"の前では句を詠んだことがなかったような気がする。友達と言えど知らないこともあるかと、どこかで何かを諦めたような笑いが込み上げてくる。
「……アノッ……」
あの爪を持った白色の彼が私の隣にそっと座った。"チョコ"に世話になったから、私と同じく思う所が色々あるのだろう。折角だからここで思いを吐くだけ吐いて、"チョコパフェコンビ"への未練を断ち切るとしよう。
「……アイツとはコンビを組めて本当に良かったと思っている。少々荒っぽくて自分本位な所はあったが、そういう所も含めて"チョコパフェコンビ"だった」
堅実で慎重な私と危険でも利益をとる彼、揃えば臨機応変に動ける他の追随を許さない2人組だった。
「アイツに教えたことも教えられたことも多すぎて語るに語れないが……4位という数字以上に実力のある存在だった」
「……ウッ……ウウッ……! ワワッ……!」
彼も草むしり検定や討伐の特訓などでとても世話になり、その明るさと確かな実力にとても励まされたと言っている。青頭の彼の先生は私かもしれないが、彼の先生は"チョコ"だったのかもしれない。彼の師を失った悲しみは到底計り知れるものではなく、実感してしまった今になって涙を流すのも無理はない。彼の肩に優しく手を置いて目を瞑る。
「……共に泣こうッ。強くなるためには涙の味を知ることも大切だッ」
「ッ、ワァ──―!!!」
「……"チョコ"ッ……!」
伝う涙が想いの数だけ零れ落ちる。枯れる程泣くのは後にも先にも今回限りだろう。だから思い切り泣く。
ひとしきり泣いた後、誰が言った訳でもなく『今日の日はさようなら』が流れ始めた。歌詞を聞きながらしんみりと思い馳せる。
「……私は彼と良き友でいることができただろうかッ……」
「……ウン」
見ている分にはとても仲良しだったと彼から好評をもらった。アイツも今際の際に言っていたから間違いないだろう。
「……自由に生きていたのは私よりも彼だったなッ……」
「フ……!」
オリジナルの草むしり検定の問題が面白くてわかりやすかったと彼も笑っている。座学でも意外といい先生だったのかもしれない。
「……もう少し信じてもらえたら嬉しかったがッ……」
「ウウッ……」
過去をもう少し早く知っていたらどうなっていただろうか。変わらず"チョコパフェコンビ"を続けていたのか、それとももっと早く解散になっていたか。今となってはいくら考えても答えが出なくなってしまった。
「……さようならッ、"チョコ"ッ……願わくばッ、また友として会えるといいなッ……」
「ウン……!」
空に登っていく煙を見上げ、その先にあった星々のどれかがアイツかもしれない。そう思ったら『しけた顔してんなー。もっとトップランカーらしく笑えよー』と、アイツがからからと笑いながら言っているような気もしてきた。だから私は剣を抜いて切先を空に向けた。
「私はッ……まだまだこの剣をふるうぞッ……!」
これが最高の餞になるだろう。そう願って私は決意を改めて前を向くことにした。