"チョコ"の最後の願いを果たすべくそれぞれに指示を出す。
「3人は体を入れ替える魔女の場所を調べ、セイレーンは古本屋と一緒に水色の尻尾の彼を拘束し続けてくれッ。私は水色の尻尾の彼の元々の持ち主の居場所を探すッ」
「わかりましたッ! 頑張って下さいッ、先生ッ!」
「オー!」
「イーヤッハー!」
「"チョコ"くんもしっかり守ってるから安心してねー」
「うわーん、やだやだーッ……!」
「ワワッ……!」
まずは彼の車に向かい運転履歴を調べる。飲んだ後の彼の運転代行をすることもちょくちょくあったので、調べるのは大して難しくなかった。
「この森ッ……行っている回数がやけに多いなッ……温泉や郎と同じ頻度で行っているぞッ……」
確かこの森は大きな討伐対象の依頼が良く出される場所だ。あの3人も行ったことがあり、かなり手強い相手がいたと話を聞いたことがある。そんな場所に行くだけならともかく、帰ってきているのは流石にただ事ではない。
「……行くかッ」
思い立ったが吉日で善は急げだ。そして何より────
「虎穴に入らずんば虎子を得ずッ、だなッ」
よく彼が口にしていた危険に挑む際の言葉を借り、アクセルを踏み込んで真相に向かって走り出す。
離れた森の程々の場所に車を停め、大剣に手を構え周囲を警戒しながら歩いていく。ザッザッと所々に傷のある木々の道を進み、やや不自然に開けた場所にソレはいた。凶悪に捻じり曲がって天を突かんとする2本角、銀のセプタムピアス、つり上がってビクビク震えながらかっぴらいている白目と黒目が逆転した目、むき出しでガチガチと鳴り続けている歪な臼歯、ムキムキに肥大した全身、手のように5つに分かれている蹄、囚人服のようにも見える白黒の斑模様。セイレーンから聞いた以前の"チョコ"の姿と一致した。
「くあぁ……お腹空いたなー……」
見た目と地を震わす様な声に反して穏やかな事を言っている。その姿に"チョコ"の面影が見えたが、中身まで同じように穏やかとは限らない。だから私は────
「……すまないッ、キミのその体の持ち主……"チョコ"ついての話がしたいッ」
剣を収めながら堂々と言ってのけた。恐らく私の存在は知っているだろうし、討伐する気がないと伝われば罠試合も簡単にできるはずだ。彼は私の声に反応してドスドスと駆けてきて────
「……キミが噂の"パフェ"だねー?」
品定めをするようにジロジロと私の顔を眺めた。
「ふーん……意外と優しい見た目してるねー。彼の話からもっといかついのかと思ってたよー」
私のことをどんな風に言っていたのか気になるが、今はそれどころではないので早速話を始める。
「実はッ……"チョコ"がッ……」
島での"チョコパフェコンビ"の解散、"わたあめ"を食べた犯人の確保成功、魔女の場所さえわかれば入れ替えができる事。彼は全ての話を頷きながら真摯に聞いてくれた。
「……大変だったねー。関わってない立場でいうのもアレだけど、相当きつかったでしょー?」
「……辛労がないと言ったら嘘になるがッ……弱音を吐いている場合ではないんだッ……」
「それもそうかー……それじゃああの子を呼んでくるよー」
彼はダスダスと急ぎ足に去っていった。思えば彼は"チョコ"の全てを聞いた上で体を渡している。もし私だったら、この体を渡してでも"チョコ"を支えることはできただろうか。本当に今更考えてもどうしようもないことだが、そんなことは1つや2つで済まないから幾つ増えても変わらないだろう。
そんな下らないことを考えていたら彼がドタドタと慌ただしく戻ってきた。
「お待たせー! 連れてきたよー!」
その横には金の毛にちょっと曲がった角、外を向いている赤と黒の眼、剥き出しのギザギザした歯、6本の細い手足、"チョコ"から聞いた"わたあめ"を食べた犯人そのものがいた。
「戻るのッ!? からだッ!?」
「もッ、戻る可能性が出てきたぐらいだッ、まだ確定したわけじゃないッ」
自分の体が戻るとなったら必死になるのも仕方ないが、とりあえず現状を正しく伝えて誤解のないようにするべきだ。もう一度説明して理解してもらう。
「……後は魔女の協力を得らることができれば、というのが今の状況だッ」
「ウウッ……よかったッ……戻るんだッ……」
「大変だったねー。討伐者を追い払うのも楽じゃなかったからねー」
体を入れ替えた(あるいは入れ替えさせられた)大きな者同士思う所があるらしく、白黒の彼が金色の毛の彼の頭を撫でながら宥めている。とはいえぬか喜びにさせてはいけないので、今後の展望を続けて話す。
「魔女の協力が確定し次第、キミと元の体の持ち主を連行、そして元に戻った所を討伐……これが今回の作戦だッ」
「わかったッ……! その日を楽しみに待ってるよッ……!」
「大きいのが大勢現れたら周囲の人に迷惑だろうからー、こっちは応援に徹するよー。頑張ってねー」
しばらくはこの付近にいるようにいることを伝え、私はこの場を去ることにした。討伐対象と協力するなどトップランカーとして失格だろう。だとしても止まることはできないし、止まるつもりもない。その想いは知らず知らずのうちにアクセルを強く踏んでいた。
数日後、あの3人から魔女の居場所と協力可能の報告があった。
「森にある小屋にいましたッ! 地図で言うとここですッ! 来たらいつでもできるそうですッ!」
「ウンウン!」
「ウラララ!」
事情話したら"チョコ"には良くしてもらったから見返りは結構とのことで、相変わらず彼の底知れなさを突きつけられた。
「だからッ……皆で行きたいですッ! "チョコ"さんの敵討ちッ!」
「ワワワッ!」
「プルルル!」
間違いなく相手は強敵になるだろう。1人でも戦力は欲しいが、私たちの個人的な事情に巻き込むわけにはいかない。だから私の答えはとっくに決まっていた。
「ありがとうッ……! 今日は今からしっかりと準備をしてッ……明日に作戦決行だッ……!」
「「「オーッ!」」」
「ハーッ!」
4人で手を突き上げて掛け声を合わせてから別れる。今度は入れ替わりコンビに伝える。
「ついにッ……ついに戻るんだッ……!」
「無事に終わるまでは安心できないけどー、おめでとうー……!」
ある意味一番の被害者である2人で、この事件が円満に解決することを誰よりも望んでいるだろう。最後に海辺で揺蕩っているセイレーンに伝える。
「……ようやくだね。捕まえっぱなしにするのは大変だったよ」
「もうだめかァ……最後にもっとかわいこぶってやるッ。イーヤーヤダヤダッ」
"わたあめ"を食べられたことに始まる"チョコ"の復讐劇は、いつの間にか多くの存在を巻き込んでかつてない程の大事になっている。しかし当の"チョコ"本人がいないまま進んでいるのはどこか虚しさがある。
「いやッ……いつまでも私の心の中にいるッ……!」
トップランカーとしてではなく、ただ一人の友人として終わらせてやる。ツタにくるまれて安らかに眠っている彼を見て、私の心の中に今まで感じた事のない何かがゆらりと燃え始めた。