遂に決着の日がやってきた。まずはあの3人と合流して頭数をそろえる。白色の彼の家に向かうと、入り口前にいつもの顔が揃っていた。
「先生ッ……今日はよろしくお願いしますッ……!」
「フンッ……!」
「……ヤハ」
私にも負けないほどの気合いが入っている。これほど頼もしいと感じたのはTOP4でチームを組んだ時以来だ。だからこそ気合いを入れ直さないといけない。私は一つ息を吐いて目を大きく開いた。
「今日の戦いは普通の討伐とは違うッ……見返りも命の保証もないッ……それでもやらなければならないッ……"チョコ"が果たせなかった夢を叶えるんだッ」
思いを1つにして車に乗る。割れる寸前の風船のように張り詰めた空気の中、セイレーンの下に向かってツタ巻きにされた水色の尻尾の彼を受け取る。
「ご飯と運動は程々にさせておいたから大丈夫だよ」
「もっとうんまいものが食べたかったなァ~……」
水色の尻尾の彼をトランクに押し込み、金色の毛の彼が待つ森へと向かう。以前車を停めた場所で、彼は待ち遠しそうに6本の足をダシダシと動かしていた。トランクの中身を見せるとより一層動きを激しくして喜んだ。
《font:》「これだよッ! からだッ!」《/font》
「ハァ~……また会っちまうとはなァ~……」
役者が全員揃ったところで魔女の所に向かう。今日は歌っている余裕はない。ただ一言、あの言葉を胸の中でつぶやいた。
3人が調べて地図に記してくれた場所に向かうと、木と土壁と藁の屋根の趣のある一軒家があった。その玄関先で黒いローブに緑色の肌のいかにもな魔女がいた。ここで立ち止まる理由も必要もないので、車を降りて挨拶をする。
「……今日はお忙しい中ありがとうございますッ」
「待っておったぞ……あの白黒の2人にはよくしてもらっておるからの……」
「……早速ですが、入れ替えを頼んでもよろしいでしょうかッ?」
「かまわんぞ……ふぉっふぉっふぉ……」
了承を得られたので皆で準備をし、水色の尻尾の彼と金色の毛の彼を魔女の指示に従って配置する。
「やっとッ……やっと戻れるッ……!」
「もう戻っちまうのかァ~……もったいないッ」
「ではいくぞ……」
魔女が両手を構えると、その周りが紫色のオーラ的ななにかに包まれた。
「これがワシの"力"じゃ!!!」
バッと紫色の光が走り、明らかに何か起きたような空気の揺れが走る。
「……ッ! もどったッ、もどったッ!!!」
「戻っちまったかァ~……あ~あ……」
どうやら戻ったらしい。水色の尻尾の彼の拘束を解き、すぐさまに金色の毛の彼に向かって斬りかかる。
「"チョコ"と"わたあめ"の仇ッ!!!」
「ふんッ」
ヤツは左の一番前の足を軽くかざして剣を受け止めた。私だけではこれ以上の攻撃はできないが、今は頼もしい3人がいる。すかさず声を出して連携の指示を出す。
「今だッ! 上下左右から攻めるッ!」
「ハイッ!」
「ヤーッ!」
「ウララ!」
青頭の彼が右を、白色の彼が左を、耳長の彼が上を、そして私が下を。巨体故に避けようのない攻撃が────
「このからだはこう動かすんだったっけなァ~?」
しかしヤツは6本の足を巧みに利用し全て防いだ。
「何ッ!?」
「そんなッ!?」
「エエッ!?」
「ハァ!?」
「うっとうしいんだよォ!」
そのまま押し返されて足を振り抜かれ、全員武器ごと吹っ飛ばされた。
「ほいじゃ」
そのままヤツは逃げるつもりだ。もしもこのまま見失ったら、ヤツは一生姿を現さないだろう。それどころか別の誰かの体を奪って、何食わぬ顔で生きていく可能性もある。それだけはなんとしても避けなければ────
「逃がすかよォ」
やけに低い声が聞こえた瞬間、ヤツが大きな何かにひっくり返された。
「ギッ!?」
ヤツがゴロンと一回転して踏みとどまったが、何者かの追撃によって私たちの方に吹っ飛ばされた。一体何者だ? わざわざ人気のないこの場所に、よりにもよってこのタイミングでやってくる存在なんて────
「これぐらいで終わらせたらァ、"わたあめ"に合わせる顔がないんでなァ」
ウソだ。だってアイツは。
「こいよォッ! こんな姿になっても実力はTOP4なんでなァッ!」
それでも目の前にいるのは大きくなってもどこか愛嬌のある丸い耳、白と黒が交互に続く縞模様、木のように太くなった手足、あの武器をそのまま張り付けたような長くて鋭い爪、あの日別れたはずの"チョコ"だった。
余りの衝撃に私たちは動けないでいた。
「あ、アレってッ……"チョコ"さんッ、だよねッ……?」
「エ、エ、エッ……?」
「ハァ~?」
「なんで……何でお前がここに……」
「話は後だァ! 今はコイツを痛めつけるゥッ!」
「お前もしつこいんだよォッ!」
大きな者同士による取っ組み合いの戦いは辺りの木々をなぎ倒すほどの規模で、迂闊に近づいたら巻き込まれて危険な目に遭うのが明らかだった。だから私たちは現実を受け止めていたとしても、動くことはできなかっただろう。
「オラオラオラァッ!」
「ウギャアァッ!」
"チョコ"がヤツの動きを超えだし、ヤツの顔を思いっきり引っかいて傷をつけた。
「お前のせいで"わたあめ"は食われてェ! あげくこっちも死にかけたんだァ! 最低でも死にかけにしなきゃ釣り合わねェ!」
さらに馬乗りになってヤツの顔を連続で殴った。ズドンズドンと一発一発が重いのに目で追うのがやっとの速さで、私たちが苦戦したヤツでさえ反撃できないほどの連撃だった。
「ガハッ……カッ……」
連撃が終わった時、ヤツは息も絶え絶えで逃げたり抗ったりする気もなくなっていた。その様子を見ても彼はまだ不服そうな顔をしていた。
「なんだよもう終わりかよォ? 強くやりすぎちまったかァ?」
「も、もうやめてェ……うわーん……」
「今更可愛い子ぶってんじゃねえよォ……」
彼が爪を振り上げてギラリと輝かせる。あの長さならどこを貫かれても重傷、場所によっては致命傷にもなり得る。
「コイツで仕舞いだァッ!!!」
その爪が振り下ろされヤツの顔を刺し貫く────寸前でピタリと止まった。
「……と言いてえところだがァ、このままやっちまったら本当の仕舞いにならねえんでなァ」
何故討伐しないんだ。ずっと追い続けた"わたあめ"の仇で、討伐しても晴らせるかどうか分からないほどの恨みが────
「おーい! 連れてきたよー!」
こんな時でもよく通る聞きなじみのある綺麗な声が聞こえてきた。
その声の方を見ると、ツタ巻きにされた古本屋を連れたセイレーンがいた。
「もしかして結構ギリギリだった?」
「んな訳あるかァ。余裕だったぜェ」
「ワワワッ!? ワワッ!」
「安心しろォ、ちとキツめに痛めつけただけで命に別状はねェ」
何が何だか分からない。この場にセイレーンがいること、古本屋を連れていること、何より彼がまるでヤツを討伐する気がないことが。
「なッ……なぜ討伐しないんだッ……」
疑問がそのまま出てきた私の発言に、彼はやれやれと言わんばかりに首を横に振って笑った。
「ここでコイツを討伐しちまったらァ、古本屋が大きくなってこっちの誰かに復讐するかもしれないだろォ? その復讐でこっちの誰かが倒れたらァ、今度はこっち誰かが大きくなって古本屋に復讐するかもしれないだろォ? そうなったら復讐が仕舞いにならねえだろォ? だから、ここで仕舞いにするんだァ」
「"パフェ"くんが"チョコ"くんの復讐を継ごうとしたのは、"チョコ"くんがいなくなったと思ったからでしょ? 今こうやって"チョコ"くんが出てきたら……"チョコ"くんの言う通りにしたほうがいいと思うよ?」
2人の言うことはもっともだ。その通りでしかない。だからといってここでヤツを見逃したら、誰かが入れ替わりの被害に遭うかもしれない。そうなったら二度と私たちの目の前に────
「だからといって無罪放免さようならなんてしたらァ、"わたあめ"に合わせる顔が無くなっちまうゥ……だからお前らに提案するぜェ、
彼はヤツと古本屋を指差し、そのまま腕を交差させてジェスチャーも交えて説明した。
「お前は可愛い子ぶりたくてェ、お前はコイツを討伐されたくないィ、でも復讐はしっかりしたいィ……これが精一杯の妥協点だな」
「ワッ、ワワワッ……?」
「断ったら2人とも討伐だ。そうなったら討伐対象にはなるだろうがァ、この姿じゃ遅かれ早かれなるだろうから問題ないなァ」
第三者から見たらとんでもない交渉、あるいは脅迫を見てしまった。とはいえその条件を飲めば穏便に済むのであれば、それに越したことはないだろう。ヤツと古本屋もそれを理解したらしく、目を合わせて二人同時に首を縦に振った。
「そッ、それでいいからッ、早く離してくれッ……」
「ウンウン!」
「んじゃァ、気が変わらない内に魔女の所に行くかァ」
その後魔女の所に行って事情を説明し、ヤツと古本屋が入れ替わった。
「ン~……やっぱ可愛い子ぶるならこっちのからだの方がいいなァ~」
「ワァッ……!」
「ほいじゃ、疲れたから乗せてけッ」
「ワッ!」
ヤツの体になった古本屋が古本屋になったヤツの体を背中に乗せて、トタトタと不慣れな感じを出しながらも去って行った。それはなんともあっけない復讐の終わりだった。