遂に俺の"わたあめ"の復讐が終わった。当初の予定とはだいぶ異なる結末になったが、得たものと失ったものを考えれば悪くない結末だ。腹八分目程の満足感に頷いていると、明らかに事態が分かってなさそうな"パフェ"の声が聞こえてきた。
「……流石に説明して貰うぞッ」
後ろのいつもの3人及び元の体に戻ったであろう水色の尻尾のヤツも同じような顔をしていた。だから俺は百聞は一見に如かずの意志で尻を見せた。すると明らかに息をのむ音が聞こえてきた。
「ッ!? そ、その跡はッ!? まさかッ!?」
余りにも想像通り過ぎる反応で思わず笑ってしまったが、笑っていては満足な説明ができないので何とかかみ殺す。
「そのまさかさァ……手に入れたんだァ、"永遠のいのち"をよォ」
しょっぱくて、温くて、海を口に突っ込まれたみたいな。そんな感覚と共に目を覚ます。なんで俺は生きているんだ? 人魚を食べた犯人2人を動けなくさせて、"パフェ"に"わたあめ"の復讐を託して、そこで意識を手放して終わったはずじゃ────
「ッ! よかったッ! 目を覚ましたんだねッ!」
透き通るような声と共にもっちりとした何かが俺に当たる。何が起きているんだと数回瞬きして見て見ると、セイレーンが俺に抱き着いていた。
「……何をしたんだァ?」
疑問で頭が弾けそうだったので口から漏らしてガス抜きをする。そんな質問に彼女は少し困ったような顔をして、口をすぼませながら気まずそうに答えを言った。
「……食べさせたの。人魚のお肉」
「……ハァ?」
耳長の彼みたいな息を漏らしてしまった。
「……どうしても助かりそうもなかったから……ちょっと齧って食べさせてあげたの……ほら」
彼女の目線の先にはお腹にツタをグルグル巻いてギーギーと痛そうに泣いている人魚と、ギャリギャリと励ましている人魚がいた。
「……後で薬になる実を探すかァ」
全く理解が追い付かず人魚の手当てを考えるぐらいしかできなかった。
「……人魚を食べた犯人2人から、何で人魚を食べたのか聞いたの」
そんな俺に対して彼女は、絡まったコードを解くように優しく話し始めた。なんと2人は彼女と人魚が遊んでいる所に不用意に近づいて巻き込まれ、瀕死の重傷を治すために人魚を1匹討伐して食べたそうだ。それを聞いて俺は1つの答えに辿り着いた。
「……自業自得だなァ」
彼女の巨体を考えれば不必要に近づくのは危険だとすぐに分かるはずだし、巻き込まれた段階で話し合いぐらいはするべきだし、何より"永遠のいのち"は人魚1匹分も食べなくても手に入る。島での事件の発端がただの不注意から始まったのかと思うと、不服申し立てあげたい気持ちが込み上げてきた。
「だから2人はこの後オリに入れてなんかずっとくらいとこに閉じ込めるの」
「それでいいと思うよォ。なんだったら"永遠のいのち"のお礼に手伝うよォ」
「そこまで協力してくれるんだ……ありがと」
「でもォ、まずは人魚の手当てをしないとなァ」
こうして俺は彼女と一緒に人魚の手当てをして、人魚を食べた犯人2人に"永遠のいのち"を楽しむ環境を作った。復讐に走った俺と彼らのあまりにも違い過ぎる末路に、俺は復讐をするかどうかよりもどんな風にするかが大切なのだなと学んだ。
翌日、彼女から明日の朝に"パフェ"達が帰り、"わたあめ"を食った中味が入っている水色の尻尾のヤツも帰るとの情報を聞いた。俺としては絶対に逃すわけにはいかないが、今まで思っていた復讐の方法に疑問を抱いた。
「アイツを討伐しても、アイツと仲の良い古本屋がいるんだよなァ……」
「"パフェ"くんがそうするみたいに、古本屋さんがそうするかもね」
ただ討伐するだけでは事が長引くことになりそうだ。いい案を出すために、まずはそれぞれの思惑を考えてみる。俺は"わたあめ"の復讐がしたい、"パフェ"達は俺の復讐を次いで遂げたい、元水色の尻尾のヤツは元の体に戻りたい。"わたあめ"を食ったヤツは可愛い子ぶりたい、古本屋は"わたあめ"を食ったヤツと一緒にいたい。俺に関してはアイツを討伐しなくても気が済むまで痛めつければいい。"パフェ"達は俺が生きていると知ればそこで説得できる。問題は残った3人だ。これらを一度に解決できる方法などそうそうない。
「入れ替えた段階でそこが破綻しちまうゥ……だからといって元の体に戻さないのは不義理だしなァ……うーん……」
「じゃあ
「もう1回ィ? そんなの────」
彼女の単純な一言で全ての問題が解決した。
「まずは入れ替わっている2人を元に戻してェ、元の体に戻った"わたあめ"を食ったヤツと古本屋を入れ替えるゥ……これで全部解決だァッ! 助かったよォセイレーンッ!」
思わず彼女を抱きしめて喜んだ。彼女と同じ大きさになったからこういうこともできる。そう考えたらこの姿も悪いとは言い切れないようだ。
「"チョコ"くんの役に立ったならよかったよ。それにしてもこの姿の"チョコ"くんはふわふわであったかいね」
「ふわふわなのは小さい頃からだけどなァ。そうと決まったら2人で作戦を練り上げようかァ。まずは生きているのがバレたらアイツが逃げ出しかねないからァ、帰るまでは大人しくしないとなァ」
「それならお尻の単3電池を抜けば大丈夫だよ。意識を失って動けなくなるし、はめれば元通りだからね」
「抜きっぱなしにしたり電池をなくしたりしないでくれよォ。そうなったら計画が全部台無しだからなァ」
こうして俺は意識を失って彼女に体を委ね、"パフェ"達が動き出す時まで待っていた。そして意識が戻ったところで彼女から話を聞いて、以前俺が入れ替わりを頼んだ魔女のいるあの場所に"パフェ"達が行くだろうとすぐに思いついた。彼女に聞いてみたら案の定予想通りだった。
「明日の朝かァ……現れたらさぞびっくりするだろうなァ」
「皆"チョコ"くんがいないと思ってるからね。近くで見るのが楽しみだよ」
生きていて一番長く感じた夜だった。
俺の今に至るまでを話して"パフェ"達は口を開けたまま固まっていた。対し俺たちはとても楽し気にケラケラと笑っていた。
「いやー傑作傑作ゥ……こんなの生きてる間に1回見れるかどうかだよォ」
「"パフェ"くんなんか『いつまでも私の心の中にいるッ……!』って言ってたからね」
「それ見たかったなァ~……やってくれないィ、"パフェ"?」
「いいかげんにしろッ!!!」
彼はかなりの大声をあげたが俺は何も意に介さず、むしろより一層明るい笑顔を向けた。
「も、もうッ、二度とッ、会えないと思ったんだぞッ……!! なのにッ、こ、こんなバカげた理由で、会えなかっただけなんてッ……!! いいかげんにしろッ……!!」
彼の目に浮かぶ涙を見て、誰が本気で怒っていると思っているだろうか。だから俺は明るい笑顔のまま、腕を大きく広げて迎え入れる体勢をとった。
「……"チョコパフェコンビ"の再結成だなァ」
「当たり前だッ!!!」
彼が走って来てモファリとめり込み、大泣きしながら俺にギュッと抱き着いた。
「二度とッ……二度といなくなるんじゃないぞッ……!」
「……黙っていなくなることはしないがァ、なるべく早く離れないと不都合が多いんだよねェ」
「そッ、それもそうかッ……トップランカーが討伐対象と仲良くしていたらッ……どっちにとっても良くないからなッ……」
まだ涙もロクに乾いていない顔で彼は俺を見上げた。いつも俺が見上げる側だったから新鮮な光景で優越感があったが、いつまでも浸っている場合ではない。早く言うべきことを言わないと。一つ大きく息を吸い込んで覚悟を決める。
「……