俺の唐突な発言に場が再び止まる。また説明を要求されるのも大変なので、言われる前に説明する。
「勘のいい奴ならこの姿から"チョコ"を思いつけるでしょ そうなったらコンビであるお前までこんな風になるかもしれないって思われちまうぞォ?」
「それは説明すればわかってもらえるはずだッ! 彼らが立派な証人になるッ!」
「ウンウン!」
「そうですよッ! 分かってもらえるように説明しますッ!」
「……プルル」
耳長の彼を除いて即座に首を横に振って否定してくれた。しかし、情だけではどうにもならない問題がある。
「それにこの体だといっぱい食べないとお腹がすくんだァ」
「"永遠のいのち"があってもお腹がすくんですかッ……?」
「数日意識を失っていた後、信じられないぐらいの空腹に襲われたよォ。セイレーンの歌で作物を生やしてもらわなかったら、あんなに動けなかったよォ」
思い出すようにお腹を擦る。実どころか葉っぱやツタや茎まで全部食べてやっと収まるほどで、セイレーンの若干冷たい目が少し痛かった。
「そんなのが永遠に生きるんだァ、湧きどころがいくつあっても足りないよォ」
「そッ、それはッ……売っている食べ物を買えばッ……」
「こっちは出禁確定なのにかァ? 買ってきてくれるのは嬉しいがァ、金と時間がいくらあっても足りないと思うなァ……それこそ金と時間の湧きどころがないとなァ」
避けては通れない現実的な問題への解決策がなく、ついに彼も下唇を噛んで黙ってしまった。
「……要は大きいのと小さいので共存は無理ってことだァ。だったら問題が起こる前に離れ離れになったほうがお互いのためだァ……それでも1日ぐらいならどうにかなるかなァ。だから送別会をやるならすぐにやらないとダメかもねェ」
「……ならすぐにでも準備をしようッ。送り出すなら少しでも豪華に送り出すべきだッ。もう少し付き合ってくれッ」
「……ウン」
「……分かりましたッ」
「……ヤハ」
分かり切っている別れなら多少は受け入れられるはずだ。彼らは準備のための買い出しに、俺とセイレーンは島へと向かったあの場所に向かった。
空と海が赤くなる頃、"パフェ"の車がトコトコと走ってやってきた。俺たちの前で止まり、中から俺を送り出すためのメンバーが出てきた。"パフェ"、白色の彼、青頭の彼、耳長の彼、濃い茶色頭の飲み仲間の彼と乗車可能人数目一杯に豪華だった。
「今日はとことん語るぞッ……!」
「聞かせてくださいッ、"チョコパフェコンビ"の思い出話ッ!」
「ウンウン!」
「イヤッハー!」
「ハーッ!」
「食べ物が足りなくなったら任せて。少しぐらいなら生やせるよ」
"わたあめ"を失ってからそれなりの時間が経つが、いつの間にかいろんなものを手に入れていたようだ。早速耳長の彼が木を組んで火をつけ、雰囲気のあるキャンプファイヤーを作ってくれた。
「そうだッ! "チョコ"さんッ! 『今日の日はさようなら』を歌ってくださいッ!」
「ウンウン!」
「あの時はいなかったから聞けなかったなッ……! お前の歌唱力ならきっといいものになるはずだッ……!」
「ヤハヤハ!」
「ハーッ!」
「なら一緒に歌うよ! "チョコ"くんと歌うの楽しみッ!」
ここまでお膳立てされて引くような無粋者ではない。任せろとふ1つ咳払いして、大きく息を吸い込む。
「♪ い~つまでも~絶える~ことなく~と~もだちで~いよォ~♪」
「ワァ……!」
「低くなっても健在だよッ、あのビブラートッ……!」
「♪ あ~すの日を~ゆ~め~みぃて~♪」
「セイレーンの方は言うまでもないなッ……!」
「「♪ き~ぼ~ぉ~の~道を~♪」」
「すごいよッ、ハモリッ……!」
「高低差のある音が見事に噛み合っているッ……!」
耳長の彼の小さな弦楽器も相まってうっかり涙が零れてしまった。それでも一切声をブラすことなく歌いきる。
「……たとえここで別れてもまた会えるさァ」
「プルヤハ?」
「"チョコパフェコンビ"の面白い話ィ? そうだなァ……まずは初めてのチョコ事件だなァ。あの時の"パフェ"の顔と言ったらァ……フッ、思い出すだけでも笑えるねェ」
「チョコレートといったら甘いものが普通だッ……! あんな苦いなんて誰が想像できるかッ……!」
「先生も最初は苦かったんだッ、あのチョコッ」
「ウン……」
「ハァ?」
「ハーッ……」
「お酒と合ういいチョコだったの? 食べてみたいけど、苦いのはヤだなー」
「他にはァ……ウィンナーコーヒー事件とかァ?」
「あの時の"なんでウィンナーがついてこないんだー? "は面白かったぞッ……!」
「お前は砂糖とミルク入れなきゃ飲めなかったくせにィ」
思い出と共に夜は更けていく。今思えば笑いあり涙ありの"チョコパフェコンビ"だった。事実上の解散になるのは悲しいが、積み重ねてきた時間まで無くなるわけではない。それでも確実に近づいている別れは避けられない。会おうと思えばセイレーンに頼んで会いに行けるはずだ。それでも別れてしまうということがどうしても寂しい。だからどうしてもやっておきたいことがある。
俺はすっと立ち上がって爪を"パフェ"に向けた。
「最後の手合わせェ……頼んでもいいかァ?」
彼は応えるように立ち上がり、大剣を抜いて切先を俺に向けた。
「……断るわけないだろうッ」
2人の間に走った本気の圧に皆が黙った。火から離れた安全な場所でお互いに構えをとる。
「……負けても言い訳しないでくれよォ」
「……そのまま返そうッ」
パチリと火が弾けた。それと同時に剣と爪が甲高い音共にぶつかる。まずはちょうどいい力加減を知るために軽く振ってみたが、すでに彼の口からギリギリと苦しい音がしていた。
「加減しないと一瞬で終わっちゃうかもなァ!」
「ぐッ……分かってはいたがッ……正面から受け止められる力ではないなッ……!」
「まだ本気じゃないからなァ?」
「だろうなッ……! ならばッ!」
彼は一度距離をとって、小刻みの左右ステップで的を絞らせないようにした。小さい体だったらうまく当てられないだろうが、大きくなった体なら動く範囲を全て攻撃できる。
「それで避けられるかなァ!」
「それを待っていたッ!」
右腕で一気に薙ぎ払ったが、彼は軽く跳んで回避し距離を詰めてきた。
「その巨体では細かな制御ができないだろうッ!」
彼の言う通りでこの体で動きを一度止めると、再び動かすのに若干の隙ができる。だかそれを知っているのは俺も同じで、そのままぐるりと回って左腕で再び薙ぎ払う。
「それを補うのが純粋な力さァ」
「なにッ!?」
咄嗟に剣で受け止めたが彼の小さな体では受け止めきることができず、逆に剣が飛んで砂浜に転がった。
「やっぱり強くなりすぎたかァ────」
「やはりお前は甘いなッ!」
彼は想定通りと言わんばかりに俺に向かって飛び込んできた。素手では何もできない────闇の中でヤツの手元がきらりと光った。アレには見覚えがある。
「餞別だッ!」
「……甘んじて受け入れるよォ」
万が一彼の手元が狂ってもいいように目を閉じる。瞬間、右目の右斜め上辺りに引き裂かれた時特有の、あの熱い痛みが走る。確か俺の使っている爪は四本仕様だから、3×3のマス目ができているはずだ。右目を開けると生暖かい液体が入って来て、俺の敗北の証となって涙のように地面を濡らした。
「……手合わせではなく、本気の討伐だったら結果は違っただろうなッ」
「手合わせだろうと負けは負けだァ……やっぱりお前は最高のともだちだよォ、"パフェ"」
「……ありがとうッ。お前と出会えて本当に良かったぞッ、"チョコ"」
言葉だけでなく握手も交わす。お揃いになった傷が"チョコパフェコンビ"の永遠の証だ。
夜が明けて遂に旅立ちの時が来た。俺はセイレーンの背中に乗って、みんなに向けて手を振った。
「じゃあねェ。風邪ひいたり大きな体になったりしないようにねェ」
それを聞いて皆が笑顔で手を振り返してくれた。
「向こうでも達者でなッ……!」
「いつか遊びに行きますッ……!」
「ウン!」
「イーヤッハー!」
「ハーッ!」
いつかまた会えるのだから笑顔で送り出してくれた方が、こちらとしてもすっぱりと別れられていい。
「それじゃあ行くよー」
彼女が明らかに船よりも高い速度で泳ぎ出す。皆の姿がどんどん遠くなっていき、飛び散る波飛沫と変わらないほどの大きさになってしまった。
「……もうちょっとゆっくり泳いでくれると嬉しいなァ? 簡単な手当てしかしてないからァ、傷口にかかって滲みるんだよねェ」
「……今はその方がいいでしょ?」
今の俺の顔は彼女からは見えていないはずだ。まだ数日程の付き合いなのに、俺の事がある程度わかってきているようだ。
「"チョコ"くんは分かりやすいからね。良くも悪くも真っ直ぐなんだよ」
「……永い付き合いになるからァ、取り扱い方は知っておいて損はないよォ」
痛んで熱い目頭を押さえながら笑う。島まではまだまだ時間がかかりそうだから、ご機嫌に一曲でも歌うとしようか。
「♪ チョ・チョ・チョ・チョコレート~♪ 超・上・々・チョコレート~♪ 今・日・も・チョコレート~♪」
「何その歌ー?」
「昔CMに出てた頃の歌だよォ」
「もしかしてそれで"チョコ"を名乗ってるのー?」
「それよりも前からだよォ。元々チョコレートが好きでェ────」
別れもあれば出会いもある。生きていれば当たり前の事だが、それは"永遠のいのち"であっても変わらないことだ。むしろ永いからこそ多くあるだろう。これからやってくるであろう様々な出来事に夢を見て、俺はより一層ご機嫌になって続きを歌った。
これにて今作は完結です。ご愛読ありがとうございました。