たまにはパーッとはっちゃけたい夜もある。そんな時は夜に紛れる様な炭を体に塗り、大きなどんぐりの実と帽子でドレスコードを満たしてあの場所へ行く。かがんで洞窟を進み唸るような合言葉を言って開かれた先には、ティロリティロリと陽気な揚がる音と共にぎらついた照明の太陽が昇っていた。
「……んじゃァ、キメますかねェ」
バレないように低くがなる声に調整し、光が当たる岩の舞台に立っていた1人と交代し声を上げる。
「パ・パ・パ・パパパフェェェッ!!!」
どんぐりを磨く甲高い音とは裏腹の地を揺らす様なデスボイスが放たれる。
「パフェッ! パフェッ! パフェッ! みんなみんなパフェェェッ!!!」
時にどんぐりを叩いてドラム代わりにし、時に渾身のシャウトを轟かせ、一気にフロアのボルテージをマックスにする。この時だけは俺は自由になれる。TOP4という鎖から解き放たれ、ただの1匹の獣となって吠えることができる。声が大きすぎて誰かがいる所は当然、討伐対象が出そうな場所でもできない、心が弾けるような解放だ。
「パフェイズペルフェクシオォォォンンンッ!!!」
ラストフレーズを絶叫して舞台にへたりこむと同時に、観客からパチパチと拍手の豪雨を受ける。
そんな俺に向かってクリーム色の体のフワフワした尻尾のヤツがやってきた。
「ウラ」
多分、自分の番だと言っているのだろう。
「熱下げたら承知しないからなァ」
体力的に限界なので後を託して舞台から降りる。サービスのジュースを呷りながら、見慣れないニューフェイスの腕前を拝見するとしよう。彼は座りながらテクニカルにどんぐりを磨いて、それはそれは盛り上がるスウィングを作っていた。
「へェ……やるじゃん、彼ェ……パフェよかよっぽどセンスあるぜェ」
俺と同じように炭塗れにしたアイツを連れてワンセッションやってみたが、アイツは出禁にされる程ノリが悪かった。トップランカーとて向き不向きがあるとは思っていたが、いくらなんでもあんなに酷いとは思っていなかった。
「……へッ、ちと滾っちまうなァ……!虎穴に入らずんば虎子を得ず、だァッ……!」
浮かされたは熱枯渇していたはずの体力をゴボゴボと沸き上がらせ、居ても立っても居られない衝動となって俺を突き動かそうとしていた。今すぐにでも彼と組みたいが、まずは彼のパートが終わるのを待つのがルールだ。周りの観客に合わせて俺も体を動かし、彼の後に続けられるようにする。彼がどんぐりをクルクルと回転させながら投げ、葉っぱで擦りながらキャッチする。
「ヤハ!!」
これでフィニッシュだと言わんばかりにポーズを決め、周りからスポットライトと紙吹雪が舞い踊る。こんな熱に飛び込むのは討伐と同じぐらいに難しいだろう。だか、今の俺を止めることはアイツにだってできやしない。彼に向かってズンズンと観客の波をかき分けて進み、ポーズを決めてご満悦な彼に手を差し伸べる。
「ワンセッションどうだァ?」
「フゥン……」
一瞬悩んだようだが彼もこの熱を下げたくないらしく、右手で葉っぱをひらひらさせて来いと誘っている。お誘いに乗って俺も壇上に登りフゥンと鼻を鳴らした。
「さっきのリズムでやるが、合わせられるかァ?」
「ヤハヤハ、プルル」
任せてほしいらしく、自信満々にどんぐりを叩いて返してくれた。ならば遠慮なくやるとしよう。
足をタンタンと踏み鳴らしリズムをとり、彼のスクラッチが合わさった所で大きく息を吸い込む。
「パ・パ・パ・パパパフェェェ!!!」
彼はキュッ・キュッ・キュキュキュシュゥィーと完璧に合わせてくれた。そのままドラムパートも完全に再現してくれて、上々のセッションが期待できた。
「パフェッ! パフェッ! パフェッ! みんなみんなパフェェェ!!!」
「ヤー! ハー! ヤー! ウラウラプルルルル!!!」
バックコーラスまでも合わせてくれるとは。もし討伐を引退することがあったら彼とバンドでも組もうか。
「パフェイズペルフェクシオォォォンンン!!!」
ラストフレーズに差し掛かると同時に彼がどんぐりを高く放り投げたが、先とは違い回転がかかっていない。そして軌道的に俺に向かっている。
「ヤル」
彼が立ち上がって胸を張った。なるほどパートを交代して2番ということか。今度は俺が任せろと言わんばかりにどんぐりを受け止めてスクラッチを決める。
「まだ終わりじゃないぞォ! カマしちまいな!」
「ラ・ラ・ラ・ラララプルルルル!!!」
たった2回しか聞いていないはずなのに音程を完璧に合わせている。彼のセンスはどうなっているんだ。言語野を犠牲にしてそのセンスを手に入れたというのか。
「プルッ! プルッ! プルッ! イーハーイーハープルルルル!!!」
なら俺も負けていられない。スクラッチとドラムのダブルハンド奏法で彼の声に負けない曲を奏でる。
「プルヤハプルルルプルヤ──ー!!!」
遂に彼も完璧にラストフレーズを決めた。会場は今までにないほど盛り上がり、耳をふさがないと耳が無くなってしまいそうだった。
彼と一緒に一礼をして舞台から降り、礼に何か奢りたいと話をしている時だった。
「あ、あのッ! すごかったです! さっきの演奏ッ!」
「ウンウン!」
どんぐり帽子をかぶった、この間一緒にサウナに行ったの青頭の彼と白い彼が声をかけてきた。連れかと聞いたらヤハと誇らしげに返されたから、それなりに仲の良い関係に間違いないだろう。
「体が勝手に動いちゃってッ! わあってなっちゃいましたッ!」
「フンフン!」
この姿でも彼らからいい評価を貰うことができた。この場では間違いなくアイツを超えたと言えるだろう。
「ヤルヤツ」
ヤハヤハの彼が両腕を胸の前でクロスさせる。アレは俺のランカー写真のポーズだが、もしかしたら彼は気付いているのだろうか?ともかくセッションの礼に握手ををしようと彼に手を伸ばしたが、彼は両手をクロスさせたままで握手しようとしなかった。流石にまだ一夜限りのコンビ止まりということなのだろう。ならここは一旦引いて元の奢る話に戻すとしよう。
「いい演奏の礼だァ、飯奢るぜェ? お2人もどうだァ?」
「エッ!」
「いいんですかッ!? ありがとうございますッ!」
「プルルル!」
ということで4人で屋台を目指そうとしたのだが、体が炭まみれであることをすっかり忘れていた。これでは店の人に迷惑をかけてしまうので、まずは近くの湖で体を洗うことにした。
「……これから起こることは誰にも言っちゃダメだぜェ」
俺は帽子を脱いで炭がなくても黒い耳を出し、そのまま湖にダイブをした。火照る体が冷えていくと同時に、炭が流されて俺の白い毛が露になっていく。あらかた炭が落ちた所でザボリと湖から上がる。
「……やあー、こんばんはー?」
「エエッ!?」
「チョ、チョコさんだったんですかあッ!?」
「ヤハリヤルヤツ」
概ね期待通りの反応が返ってきたので良しとしよう。さらりとしたそよ風と共に空腹の音がググゥと響く。今晩は何を食べようかな。
作者の一番の推しはウサギです。身近に居たら絶対に面白そうですよね。落ち込んで仰向けになってる時に「プルヤ?」とか言いながら顔を覗き込んでもらいたいです。