翌朝、勉強で疲れてまだ眠っている白色の彼のために朝ご飯を作る。車からガスコンロ、ガスボンベ、フライパン、包丁、まな板、食材と色々持ってきて準備をする。まずは手とまな板と包丁を洗い、エリンギとミニトマトを食べやすい大きさにカットする。次にガスコンロにフライパンをセットして、オリーブオイルと塩とにんにくを入れる。香りが出てきたらに切具材と鯖缶を入れ、フランスパンを薄めにカットして、具材に火が通るのを待てば俺流アヒージョの完成だ。
「ン……」
ふくよかで香ばしい匂いに釣られたのか彼が目覚め始めた。後は余熱で火を通せして完成するから丁度いい。彼の頬をタシタシ揺らして覚醒を促す。
「おはよー。今日も勉強するけど、まずは朝ご飯からだぞー」
「フンフン……ンッ……! ワァ~……!」
起き上がって豪華な卓上を見て目をキラキラさせている。こういう反応を見れるから料理はできたほうがいい。
「アツアツだよー。冷めないうちに食べようかー」
「ウン!」
ということで手を合わせていただきますをして、2人分取り分けて食べていく。コクのあるオリーブオイルにニンニクのガツンとクるパンチ、エリンギのコリコリ食感、ミニトマトのキュッとした酸味、鯖缶の旨味と骨のアクセント。我ながら上手にできた。
「ンン~……!」
彼も体をプルップル震わせているほどだ。しかし、このアヒージョの真骨頂は具材ではない。彼に見てろよと注目させてから油にフランスパンを浸す。具材の旨味を吸った油がパンに染みこんで、ヒタヒタになった所でかぶりつく。
「カーッ! サイコー! やってみなー!」
「ウ、ウン……ワーッ!?」
どうやら彼も分かる側だったようだ。一滴の油も残さずぬぐい取って完食し、余韻が残る口内をもぐもぐしながら2人で片付けをして優雅な朝食が終わった。
勉強の最中、ドアからコンコンとノックの音が響いてきた。開けると白いマントと刺付きの青いさすまたを装備した、青頭の彼がいた。
「アッ、おはようございますッ!」
「おはよー、ってちょっとニオイがきついかな?」
「エッ? あっ、確かにすごく良い匂いがしますッ!」
「?」
「アッ、もしかして邪魔しちゃったッ?」
「んーんー!」
どうやら特訓前にあいさつに来てくれたらしい。こちらの調子は順調だと伝えたら、彼は安心したように息を吐き出した。
「よかったぁ……もしかしたら厳しい指導かもしれないって思ってたからッ……」
「あははー。怒るのは楽しみを邪魔された時だけだよー。むしろあんなに頑張ってるのに怒ったら逆効果だよー」
「エヘヘ……」
「いつか一緒に特訓しようなー」
「ハイッ! チョコさんとも"特訓"したいですッ!」
「ウンウン!」
「その時は一緒だよねッ! お互い頑張ろうねッ!」
去り際、彼が振り返って両手を口元に当てて拡声器のように構えた。
「4級は一緒に受けようッ!」
「うんッ!!」
本当にお互いに友達思いのようだ。良き友を持つことは良い事だと伝えて、パフェとの討伐の特訓に送り出す。
「……懐かしいなァ……」
「……?」
本から学び俺からの例題を解くという方式で彼はメキメキと実力をつけていった。
「問題ー。この中で道具を使ってむしらなきゃいけない草はどれでしょうかー?」
「エト……エト……ン! ……アッ、ン!」
「正解ー! 2つあるのよく分かったねー!」
「フンフン!」
ブンブンと腕を振って喜ぶ彼を見て、ふと俺と友達の試験の時を思い出す。
「"チョコ"、見ろ、受かった」
まるで角の生えた白いもこもこの毛玉のような体からは想像もできない野太い声と共に、にゅっと黒い手と銀色の2級草むしり検定証を出された。
「おー、やるじゃん"わたあめ"」
見た目もそうだったし本人がいつも食べていたから、"わたあめ"という呼び名になったのは当然だった。
「だからこっちも受かったぞー」
それに負けじと俺も3級草むしり検定証を突きつけた。すると彼はいつも開いているかどうか分からない糸目の目尻をゆるりと下げて、俺の頭をサスサスと撫でた。
「やるな、チョコ」
「お前毎回それやるよなー……まあいいけどよー」
「でも、撫で辛い。コレ取ってもいいか?」
彼が俺の頭に生えているアレをグイグイと引っ張る。
「止めろよー。痛いし俺のチャームポイントなんだからー。お前もそうだろー?」
言うほど強く引っ張ってはいないのだが、コレが恒例の流れなのだから仕方ない。
「悪かった。コレやるから、許して」
そう言って俺の好きなビターチョコレートを出すまでがワンセットなのだ。
「お前の毛の中に入ってると不思議と食べやすい硬さになってるんだよなー……」
「むふん」
「CM応募したらー?」
「歌、上手くない。お前の方が、向いてる」
そういえば俺があのチョコレートのCMを受けたのって、"わたあめ"がきっかけだったっけ。
「……?」
つい思い出に浸ってしまい彼が不思議そうな顔をしていた。
「ああァ、ごめんねェ。ちょっと昔の友達"わたあめ"のこと思い出しちゃってさァ」
「ワタ……?」
いつの間にかいい時間になっていたので、休憩がてらに彼に"わたあめ"の事を話した。
「……口数は少なかったけどォ、ふわふわであったかくて優しくて良いヤツだったんだァ」
「へー……!」
パフェぐらいにしか話したことのない珍しい俺の昔話に、彼は興味津々になって聞いてくれていた。
「……ン……? ……エーット……?」
「……まあそうくるよねェ……」
だとしたら当然、何故今は"わたあめ"ではなく"パフェ"と付き合っているのかという疑問になる。アイツも同じ質問をしたから予想と準備はできていたが、改めて話そうとするとどうしても口が重くなる。
「……青頭の彼やクリーム色の彼にも話すことになるだろうからァ、3人が揃ったらその時に話すよォ……何度も同じ話するのは好きじゃないからねー」
「ンー……ウン……!」
彼らの友情をダシにした引き延ばしに若干の罪悪感を覚えながらも、やはり教える側がしっかりしていないとダメだなと改めて学んだ。この"特訓"は俺にとっても成長するいい機会かもしれない。
"わたあめ"くんのモチーフは羊です。綿に角と黒い糸目と手足がついてるみたいな見た目です。