翌朝、今日の朝ご飯は何にしようかなと車から降りると、いつもの装備をした青頭の彼と黄色い棒状の長い何かを持ったクリーム色の耳長の彼が家の前にいた。事情を聞く前にまずは挨拶だ。
「おはよー」
「おはようございますッ!」
「イヤッハー!」
「何でいるのー?」
「今日は先生に外せない用事があるみたいでッ、先生からチョコさんに特訓を頼んだらいいって言われましたッ!」
そういえば今日はスイーツ市の日だったような気がする。なら仕方がないかと納得できたが、クリーム色の彼がいる理由が分からなかったので再び質問する。
「君はー?」
「ヤハ」
見せつけるように黄色い棒を見せつけてきた。彼のご自慢の武器なのだろうか。すると彼はその先端をポリッッと齧った。
「たくあんですッ」
「へー……ちょっと貰ってもー?」
「ウラ」
ズイと差し出されたので彼の齧っていない部分を包丁で切り取り、コリッッと爽快な音を鳴らして咀嚼する。硬さと酸味と甘みが調和した最高の武器兼食料だった。
「……朝食に欲しいなー……朝ご飯奢るからもっと貰っていい?」
「フゥン……ヤヤヤル」
ということで少し分けてもらい、4人で白米と焼き魚とたくあんとみそ汁という、実に優雅な和食を頂くことができた。討伐と草むしり検定の特訓のどちらから始めようかと悩んでいると、白色の彼が両手を体の横でクルクルさせ始めた。
「エット……ワタ……」
「ウラ?」
「その動きでワタってことはッ……フワフワした綿がどうかしたの?」
きっと"わたあめ"の話が聞きたいのだろう。先日3人揃ったら話すと約束したし、いずれ話す必要があることだから今話すとしよう。
「……昔の友達"わたあめ"のことだねェ。これ以上往生際を悪くしたらみっともないから話すよォ」
俺と"わたあめ"の出会いは草むしりの時、俺の後方不確認で彼の体にモファリとめり込んだ事件から始まる。
「おっとー? コレは失礼ー」
「いや、こっちも不確認、失礼した」
「お詫びにコレあげるよー」
俺はいつもの角の生えた白黒ポーチからいつものビターチョコレートを取り出して彼に渡した。
「……苦い、でも、悪くない」
「おー、珍しいねー。皆グエッてなるのにー」
「お返し、コレ」
彼はふわふわの体からタッパーを取り出し、中から白くてふわふわしたものを差し出してきた。
「わたあめ」
「……失礼なこと聞くけどー、君のその体じゃないよね?」
「……早く食べないと、そうなる」
多分、一度か二度はやらかしたことがあるのだろう。もしゃっとかぶりついたソレはひたすら甘く、甘い以外の感覚が出てこないほどだった。
「あンまー!? ナニコレー!?」
「特別な砂糖、めっちゃ甘い」
すぐにビターチョコで口直しをしても、ビリビリと舌が痺れる程だった。
「うへー……辛いものと同じぐらい食べられないよー……」
「分かる。辛いもの、カッとキて、食べられない」
こんな感じで妙にどこか波長があう彼とは次第に仲良くなっていった。
「わたあめー、ドライブ行こうぜー」
「チョコ、免許あるのか」
「便利だからとったー」
「良い湧きドコロある、一緒に行くぞ」
ある日はドライブに行ったり。
「チョコ、今日は討伐、行くぞ」
「討伐ー? まあいいけどー、そっちは専門外だよー?」
「文武両道、大切」
またある日は討伐に行ったり。そこで俺は爪が馴染むと知って、彼は斧を振り回すのが楽しいと物騒な事を言っていた。ともかく、俺とわたあめは知る人ぞ知る"オセロコンビ"としてちょっと有名だった。
俺の楽しかった頃の昔話に3人は夢中になってフンフンと鼻息を荒くしていた。
「"オセロコンビ"ッ……初めて聞きましたッ……!」
「プルヤハ、フゥン?」
「んー……」
パフェの奴も知らないと言うほどの昔話で、彼らが知らないのも当然だ。ただ、それだけのコンビであったのならば、今の俺のコンビに疑問を持つのも当然だ。
「……でもッ、今チョコさんが先生と組んでいるってことはッ……何か、あったんですかッ……?」
「んふへェッ」
青頭の彼からの答えのような質問に思わず変な笑いが出る。何か無ければ今頃は"チョコパフェコンビ"ではなく"オセロコンビ"の名がはせていただろう。だから何があったのかを言わなければならない。
「……食べられちゃったんだァ、大きなヤツにィ」
「「エッ」」
「ハァ?」
それはどこかの森で普通の討伐を終えた直後だった。木々の間から金の毛にちょっと曲がった角、外を向いている赤と黒の眼、剥き出しのギザギザした歯、6本の細い手足をした大きなヤツが現れた。一目でわかる強敵に俺とわたあめはほぼ同時に武器を構えて、ヤツから目を離さずにジリジリと後ずさりをしていた。
「「……構えながら逃げるぞッ」」
いつ何があってもいいように────気付いた時にはすでに俺の視線は元の位置より遠く低くなっていた。ヤツの体当たりに吹っ飛ばされていたのだ。
「……マジかー……」
「お前だけでも逃げろッ、チョコッ!!!」
ふわふわの体のおかげで俺より軽傷だった彼は斧を拾って、俺が逃げれるだけの時間稼ぎをしようとヤツに挑んだ。
「でもそれじゃあ────」
「いいから逃げろッ、友達だろッ!!!」
友達を見捨てるなんてそんなの友達じゃない。でも、ここで2人ともやられたら何もかも無くなる。だから俺は────
「う、う、うわあああッ!!!」
泣きながら走って逃げた。振り返ると彼がヤツの手で吹っ飛ばされて木に叩きつけられていた。それでも止まらずに逃げた。もう一度振り返ると奴が白くてフワフワしたものを口に咥えていた。きっと彼がいつも持っているわたあめだと思い込んで逃げた。息が鉄臭くなって、足が自分の物じゃなくなるまで逃げた。
「わ……わたッ、あめッ……! 無事ッ、だよなァッ……!」
動けるようになって元の場所に戻ると────砂に塗れた白くてフワフワした毛と、クルクルと渦巻かれた2本の角と、ぐんにゃりと柄が曲がった斧があった。それしかなかった。だから全てを理解してしまった。
「くふッッ、ワアーッ、ワーッ!!!」
そうして俺は泣き叫んで────ここから先はどうしても話す気になれなかった。
悲惨な過去を聞いて3人は口をギュッと結んで何も言えなくなってしまっていた。流石にここまでの話だとは思っていなかったのだろう。だから俺はこの話を教訓に変えようと何とか口を開いた。
「……だから君たちは強くなってェ、君たちを守れるようになるんだァ。二度と戻らない友情ほど後悔する物はないからねェ」
「……強くなったらッ、皆を守れますかッ……?」
「ン……」
「……ヤハ?」
「……絶対に守れるよォ。それはこの討伐ランカー4位の名に懸けて保証するよォ」
あの時は弱くて守れなかった俺だが、二度と守れないことがないように強くなった。その言葉の重みが彼らにのしかかるかもしれないが、それを超えてこそ強くなれる。
「……それじゃあお願いしますッ、"特訓"ッ!」
「ウン!」
「イヤッハー!」
今日は皆で討伐の特訓を頑張ることになりそうだ。