夜遅くまで勉強していると空腹とも戦わなければならない。あの高めのホーヘーという金管楽器の音に誘われて白色の彼が買ってきてくれたた湯豆腐では姑息な手にしかならず、何だったら呼び水で余計に腹が減ってしまう始末だ。
「この時間になると料理するのも億劫だよねー……」
「ンー……ン~? ……」
彼は同意するようにコクコクと頷いてくれたが、不思議がって窓の外を見たので意識を向けた。
♪ 象さんが~夜なべ~をしてお夜食つくってく~れ~た~♪
どこか脱力感のある不思議な歌を歌いながら夜食を売っている屋台があるらしい。すでにお互いの腹の音がデュエットを奏でていて、このままでは勉強に支障が出るのも時間の問題だった。
「今度はこっちが奢る番だねー。食べたいものがあったら遠慮なく言ってねー」
「エーヘヘッ……」
彼はバターのせ焼きおにぎりやケチャップライスといった、少々重めのものが御所望らしい。俺としても好都合なので、喜んで家から跳び出すようにおつかいに行く。歌の出所には屋台はなく、草の茂みから聞こえてくるようだ。そういうタイプでの営業もあるかと勝手に納得し声をかける。
「すみませんー。お夜食下さいー」
「はいは~い」
茂みの中から黒い体、薄黄色い顔や腹や手足、下がり糸目が特徴的な二足歩行の象のようなヤツが現れた。
「ソーレッ」
何か投げてきたので持ち前の反射神経で掴み、揚げ餃子だったのでバキッバキと食べる。バリバリの皮に肉と野菜のうまく混ぜ合わさった濃い目のタネの味が実に背徳的だった。ごくりと飲み込んだ所で勘定を頼む。
「お代はいくらかなー?」
「お代の代わりに勝負してくれたらいいよ~」
そういうタイプの店もあるかと勝手に納得し武器を構える。
「先に言うけどー、こっちはTOP4──-」
「♪ だ~るまさんだ~るまさんに~らめっこし~まょわ~らうとまっけよ~♪」
にらめっこで勝負するのか。それでも負けるつもりは────
「あ・く・む!!」
そんな歌詞だったかと若干の疑問は残るが、笑わせられるいい手段はある。俺はわざとらしく咳払いをして声を出す。
「♪ チョ・チョ・チョ・チョコレート~超・上・々・チョコレート~今・日・も・チョコレート~♪」
「懐かしCMソングで笑わせるのかな~」
「♪ も・っ・と・チョコレート~超・飄・々・チョコレート~今・日・もチョコレート~♪」
「う~ん……悪くないけど~、角の生えているコが歌っている時の方が良かったかな~」
ヤツは頬に手をブニッと当てて変顔をしている。あれぐらいで笑えるほど楽しい過去は持っていないので、今度はあっちの歌で攻めてみるとしよう。
「♪ パ・パ・パ・パパパフェェェッ!!! パフェッ! パフェッ! パフェッ! みんなみんなパフェェェッ!!! パフェイズペルフェクシオォォォンンンッ!!!♪」
「うるさッ」
ヤツが両手を上げて両耳を抑えた。その隙をついてヤツに近づき、がら空きになった脇を攻める。
「オ~~~。でも、脇、締めちゃえば大丈夫」
ギュッと脇を締められ両手の自由が奪われる。
「ちィッ!」
「そしたら今度はこっちの番だ~」
するとヤツの両手と尻尾が伸びて、逆に俺の脇を攻めだした。
「ウグッ」
何かの本でくすぐったいのは急所を守るための原始的な防御反応と知った。さしもの俺とて急所は常人と変わらず、まして自分ではなく他人からやられると刺激の強弱やタイミングが予測できず、より一層くすぐったく感じる。
「ほらほら~こしょこしょこしょ~笑っちゃダメだよ~」
とどめに笑ってはいけないという状況がカリギュラ効果を生み、ついにその時を迎えてしまった。
「ングッ……ブッ、ギャハハハァッ!!!」
堪えきれずに笑ってしまった。
「負け」
ただそうやって宣告されて解放された。勝敗関係なくお代はもらわないタイプらしいからよかったが、これが負けたら高額請求とかだったら懐事情に響いてしまう。休日の豪遊もしばらくお預けになっていたかもしれないと反省をし、白色の彼の家に戻って事の顛末をはなす。
「……ということでお夜食は家にあるものになっちゃったー……自分だけ良い思いをしてごめんねー……」
「ワワッ、ンーンー」
むしろ自分の代わりに行ってくれたせいで大変な目に遭わせてしまった、と彼が慌ただしくワタワタとしだしてしまった。彼の底なしの優しさが心に染みるが、優しさだけでは腹は満たせないので夜食を作るとしよう。彼が湧きどころからとっておいたロールパンを出してくれたので、豆乳とココアパウダーを合わせてパン粥を作った。
「ホッ……」
「一息つくにはこういう優しいものがいいんだよねー……でも、明日になったらちょっとがっつりしたモノを食べようかー」
「ウンウン……」
こうして小腹を満たし夜の勉強を終え、いい所まで進んだのでおやすみなさいをしてそれぞれの寝床に別れる。自動車の後部座席を贅沢に二席分使った寝心地は中々の物で、先の戦闘と勉強の疲れもあってかすぐに夢の世界に旅立った。
「助けて、チョコッ!」
"わたあめ"の悲鳴で意識がはっきりする。俺の目の前で彼があの金の毛の大きなやつに襲われている。
「ッ!? わたあめェッ!? 今助けてやるからなァ!」
しかしいくら手足を動かしても、まるでその場所に打ち込まれているかのように一向に前に進めない。
「守ってくれ、チョコッ!」
「分かってるゥッ! でもォッ! 体が動かないんだァッ!」
「嫌だッ! 食べられたくないッ! いやだいやだいやだッ!!!」
泣き叫ぶ彼に構わず、ヤツは彼を咥えてブゥンブゥン振り回した。
「止めろォォォッッッ!!!」
泣き叫ぶ俺に構わず、ヤツは彼をバクリと口に入れた。
「ワァァァッッッ!!!」
それでも俺は動けなかった。なのにヤツはンガッと口を開けて口の中にいる彼を見せつけた。
「わたあめェッ────」
「何で……助けてくれなかったんだ……」
その一言を遺して、彼はまた俺の前から消えた。
アニメ最新話をリアルタイムで見ました。感動しすぎて言葉を失うしかなかったです。声優さんには感謝しかないです。