転生したら人生がサクセスモードだった   作:ねるすと

1 / 10
初投稿です。

パワプロのような野球育成と、ときメモのような人生育成を組み合わせた転生ものになります。

誤字脱字ありましたらご教示いただけると幸いです。


第1話

 俺の人生は、別に不幸ではなかった。

 虐待されたわけでもないし、借金を背負ったわけでもない。大きな病気を患ったこともない。

 大学を出て、それなりの会社に入り、それなりの給料をもらった。三十八歳、独身。役職は主任。貯金も、まあ人並みにはある。

 休日にはゲームをして、たまに酒を飲み、プロ野球中継を見ながらネットでああでもないこうでもないと評論する。

 どこにでもいる。本当に、どこにでもいる男だったと思う。

 ただ一つ。

 もし人生を最初からやり直せるなら。

 俺は間違いなく、もう一度野球を選ぶ。

 

 

 高校三年の夏。

 地方大会三回戦。

 俺の高校は一点差で負けた。

 俺はベンチにいた。背番号十八。三年間、一度もレギュラーにはなれなかった。

 足は遅くない。肩も弱くない。守備だって、それなりにはできた。

 でも、それだけだった。

 試合を決めるほど打てるわけでもない。飛び抜けて守れるわけでもない。

 一年生の頃は思っていた。

 三年間努力すれば、きっとレギュラーになれる。

 二年生になって思った。

 来年こそは。

 そして三年生になり、一つ下の後輩にポジションを奪われた。

 才能。

 当時は、その言葉が嫌いだった。努力できない奴が言い訳に使う言葉だと思っていた。

 でも違った。

 努力したからこそ分かった。

 同じ百回の素振りでも、吸収する量が違う。一度教えられただけで動きを覚える奴がいる。何度繰り返しても、なかなか感覚を掴めない奴もいる。

 俺は後者だった。

 だから高校卒業と同時に、野球を辞めた。

 それから二十年。

 俺はずっと、野球が好きだった。

 

 

「よっしゃ!」

 深夜一時。薄暗い部屋に、テレビ画面の光だけが浮かんでいる。

 画面には、育成を終えた選手の能力が表示されていた。

 ミートA。

 パワーS。

 走力A。

 肩力B。

 守備力A。

 特殊能力も大量についている。

「今回、かなり上手くいったな」

 自然と頬が緩む。

 育成ゲームが好きだった。特に野球ゲーム。

 どの練習を選ぶか。どのイベントを踏むか。どこで休むか。誰と仲良くなるか。どの経験を、どの能力へ使うか。

 限られた時間の中で、自分なりの最適解を探す。それが楽しかった。

 恋愛シミュレーションも好きだった。

 学力。運動。容姿。芸術。人付き合い。

 必要な能力を上げ、イベントを踏み、好きな女の子とのエンディングを目指す。

 ゲームの中なら、努力した結果が分かる。何が足りないのかも分かる。あとどれだけ頑張ればいいのかも分かる。

「現実にもあれば楽なんだけどな」

 何度口にしたか分からない独り言だった。

 学力が六十なら、この資格に挑戦できる。

 社交が七十なら、人付き合いが上手くなる。

 運動が八十なら、レギュラーになれる。

 そんな風に、人生にも数字が書いてあれば、もう少し頑張れたんじゃないか。

 時々、そう思う。

 ――いや。

 違うな。

 たぶん俺は、数字が見えないことを言い訳にしていただけだ。

 仕事だって、もっと頑張れた。資格だって取れた。結婚したかったのなら、誰かと出会う努力をすればよかった。

 野球だって、高校で完全に辞める必要なんてなかった。草野球でもいい。指導者でもいい。何かしら、関わり続ける方法はあった。

 でも俺はやらなかった。

『もう三十八だから』

『今更やっても』

『俺には才能がないし』

 そうやって、何もしない理由だけはどんどん上手くなった。

 ゲームの中では何百人もの選手を育てた。甲子園にも行かせた。プロにもした。恋愛ゲームでは何人もの女の子とハッピーエンドを迎えた。

 なのに。

「……俺自身は、全然育てなかったな」

 声にすると、妙に胸に刺さった。

 

 

 その日、俺は死んだ。

 特別、劇的な死に方ではなかった。

 深夜。コンビニへ飲み物を買いに行った帰り。

 交差点。

 信号。

 眩しいヘッドライト。

 気づいた時には、身体が動かなかった。

 音が遠い。誰かが叫んでいる。冷たいアスファルトの感触だけが妙にはっきりしていた。

 俺は死ぬ。

 なぜか、すぐに分かった。

 脳裏に浮かんだのは、高校最後の夏だった。

 夕焼け。グラウンド。ベンチ。最後まで回ってこなかった打席。

 もし。

 本当に、もし。

 もう一度だけ人生をやれるなら。

 次は――。

『自分を、育ててみろ』

「……え?」

 誰かの声が聞こえた気がした。

 それが、前世で最後の記憶だった。

 

 

「おぎゃあああああああ!」

 うるせえ。

 最初に思ったのは、それだった。

「元気な男の子ですよ!」

「よかった……!」

 女の声。泣いている。

 身体が重い。目もまともに開かない。手足が思うように動かない。

 必死に目を開ける。

 ぼやけた視界。白い天井。知らない女性。

「あなた……見て。この子、目を開けた」

「本当だ!」

 今度は男の顔が覗き込んでくる。

「あー……」

 声を出した。

 赤ん坊みたいな声だった。

 いや。

 待て。

 俺、三十八歳だぞ。

「あぎゃああああああああ!」

「ふふっ。元気ねえ」

「声が大きいな。将来はスポーツ選手かな?」

 違う。

 抗議だ。

 こうして、俺――成瀬伊織の二度目の人生は始まった。

 

 

 転生。

 そんなものが本当にあるらしい。

 異世界ではなかった。剣も魔法もない。

 俺が生まれたのは日本。時代も、前世と大きく変わらない。

 父親は会社員。母親は専業主婦。裕福ではないが、生活に困るほど貧しくもない。

 普通の家庭だった。

 そして俺も、普通の赤ん坊だった。

 これが結構きつかった。

 頭の中では三十八歳なのに、自分では何もできない。飯も食えない。歩けない。喋れない。

 最初の一年で、俺は前世で培った大人としての尊厳をほぼ失った。

 諦めというのは大切だ。

 二歳。普通に喋れるようになった。

 三歳。文字を読めることを隠すのに失敗した。

「伊織、これ読めるの?」

「でんしゃ」

「え?」

「……でんしゃ」

「あなたー! 伊織が漢字読んだ!」

 まずい。

 三歳児ってどこまでできるんだ。

 前世では子供と関わることなんてほとんどなかった。

 それからは、意識的に間違えるようになった。

 天才児として目立ちたいわけじゃない。

 今度こそ、自分の人生を自分でちゃんと生きたいだけだった。

 

 

 五歳の春。

「伊織ー! ちょっと庭来てみろ!」

 休日。父さんに呼ばれ、庭へ出る。

「なに?」

「ほら」

 父さんが持っていたものを見て、俺は少しだけ息を止めた。

 グローブ。

 そして、白球。

「父さんな、学生の頃ちょっと野球やってたんだよ」

「野球……」

「そう。伊織もやってみるか?」

 懐かしい。

 ただの軟式ボールなのに、胸がざわついた。

 前世で好きで、嫌いになって、それでも最後まで忘れられなかったもの。

「……やる」

 気づけば答えていた。

 

 

「いくぞー」

「うん」

 父さんが少し離れる。

「最初だから、怖かったら避けていいからな」

 ふわり。

 山なりのボールが飛んでくる。

 遅い。

 前世なら簡単に捕れる。落下地点も分かる。

 グローブを出す。

 ――はずだった。

「わっ」

 ボールはグローブの先に当たり、地面へ転がった。

「惜しい惜しい!」

「……」

 くそ。

 二球目。また弾いた。

 三球目。今度はグローブにすら当たらない。

 頭では分かる。

 でも身体が動かない。

 当たり前だ。

 俺は今、五歳なのだから。

「今度は投げてみろ」

「うん」

 ボールを握る。

 前世のフォームを思い出す。足を出す。腕を引く。身体を回す。

「ふんっ!」

 投げた。

 ボールは父さんの右側を大きく通り過ぎ、そのまま庭の植木鉢へ直撃した。

 ガシャン。

「…………」

「…………」

 父さんと目が合った。

「伊織」

「はい」

「母さんには父さんがやったって言うんだぞ」

「パパ」

「ん?」

「ありがとう」

「なぜだ」

 二度目の父親は、結構いい奴だった。

 

 

 それから俺は、夢中でボールを追った。

 捕って、投げて、失敗して、また投げる。

 少しずつ。本当に少しずつだが、身体が動きを思い出していく。

 いや、正確には頭の中にある前世の知識へ、今の身体が追いついていく。

 そして何十球目だっただろうか。

 父さんの投げたボールが――。

 パシッ。

 初めて、グローブの芯へ収まった。

「おっ!」

 掌に残る衝撃。革の匂い。

 この音。

 覚えている。

「ナイスキャッチ!」

 父さんが笑う。

 俺も、気づけば笑っていた。

 やっぱり好きだったんだ。

 俺は。

 野球が。

 その瞬間、視界の中央にあり得ない文字が浮かんだ。

 

【条件を達成しました】

「……え?」

 目を擦る。

 消えない。

 

【初めて野球練習を行いました】

【競技経験を獲得しました】

【人生育成システムを起動します】

 

 そして俺の目の前に、半透明の画面が広がった。

 

【成瀬 伊織】

年齢:5歳

 

【人生能力】

学力 52

運動 21

容姿 46

芸術 18

社交 31

精神 63

 

「…………」

 心臓が鳴る。

 画面を切り替える。

 

【野球能力】

《競技カテゴリ:幼児》

 

弾道  1

ミート G 10

パワー G 8

走力  F 24

肩力  F 20

守備力 G 12

捕球  G 11

 

【投手能力】

球速     36km/h

コントロール G 12

スタミナ   F 20

 

【特殊能力】

なし

 

「……マジかよ」

「伊織?」

「あ」

 父さんが不思議そうに俺を見る。

「いま、マジかよって言わなかったか?」

「……まじかよー」

「どこで覚えたんだ、そんな言葉」

 適当に誤魔化す。

 それどころではない。

 さらに新しい表示が出た。

 

【本日の練習】

キャッチボール

 

【筋力が少し上がった】

【技術がかなり上がった】

【精神が少し上がった】

 

「……」

 知っている。

 筋力。技術。精神。

 前世で何度も見た。

 さらに。

 

【蓄積した経験は、対応する能力の成長に使用できます】

 

「…………は?」

 思わず声が漏れる。

 意識を向ける。

 ミート。

 パワー。

 肩力。

 守備。

 捕球。

 コントロール。

 いくつもの項目が並んでいる。

 どうやらキャッチボールをしたからといって、コントロールだけが直接上がるわけではない。

 練習で得た経験を。

 俺自身が。

 どの能力に使うか決められる。

「……パワプロじゃねえか」

「伊織?」

「なんでもない!」

 胸の鼓動が止まらない。

 ゲームのキャラなら、俺は何百人も育てた。

 甲子園にも行かせた。プロにもした。化け物みたいな能力の選手だって作った。

 だったら。

 自分自身なら?

 三十八年分の記憶。

 野球の知識。

 そして、努力を経験として蓄え、自分の好きな能力へ使えるシステム。

「パパ!」

「なんだ?」

「もっとやろ!」

「お、おう!」

 父さんがボールを構える。

 俺もグローブを構えた。

 この時の俺は、本気で思っていた。

 今度こそ、失敗しない。

 野球も。

 仕事も。

 恋愛も。

 人生全部。

 ゲームみたいにちゃんと育てれば、きっと全部上手くいく。

 ――そんなわけがないことを。

 俺が知るのは、まだずっと先のことだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。