全国大会から三日後。
城東シニアは数日間のオフに入っていた。
朝起きても、今日はグラウンドへ行かなくていい。全国大会の間ずっと野球漬けだったせいか、逆に何をすればいいのか少し迷う。
スマホを開くと、まだメッセージがいくつも残っていた。
『全国優勝おめでとう!』
『決勝見たぞ!』
『準決勝のホームランやばかった』
学校の友達からも来ている。
全国大会は終わった。
でも、自分が思っていたより周りは見ていたらしい。
ピコン。
新しい通知。
詩織だった。
『今日暇?』
『暇』
『メダル見たい』
『それが目的?』
『ほぼそれ』
少し笑う。
『いいよ』
送ってから十分もしないうちに、インターホンが鳴った。
「早くない?」
「近いから」
「それにしても早い」
「メダルは?」
「挨拶より先なんだ」
部屋へ戻り、机の上に置いていたケースを渡す。
「おお……」
詩織が両手で持ち上げる。
「重っ」
「俺も最初そう思った」
「これが日本一のメダルかあ」
裏返したり、文字を読んだりしながら、かなり楽しそうに見ている。
「首にかけていい?」
「いいよ」
詩織がメダルを首に掛ける。
「どう?」
「似合ってる」
「私、何もしてないけど」
「応援してたでしょ」
「それだけでいいの?」
「少しくらいなら」
詩織が笑った。
カシャッ。
「何撮ってるの?」
「記念」
「俺のメダルなんだけど」
「だから記念」
今度は俺の横へ来る。
「伊織も」
「俺は大会でいっぱい撮ったよ」
「そうじゃなくて。ほら」
肩が触れるくらいの距離。
カシャッ。
画面には、俺と詩織。
真ん中に金色のメダル。
「送るね」
「うん」
ピコン。
届いた写真をそのまま保存した。
全国大会で撮った写真とは全然違う。
でも。
こういうのも悪くない。
◇
詩織が帰ったあと、改めてシステムを開いた。
全国大会の夜、途中で閉じた成長通知が残っている。
【全国大会の経験値を反映します】
画面が切り替わった。
【ミート B70 → B72】
【パワー B70 → B71】
【走力 C69 → B70】
【肩力 B71 → B72】
【守備力 B76 → B77】
【捕球 B70 → B71】
「走力もBか」
69で止まっていた数字が、ようやく70へ届いた。
続いて投手能力。
【球速 130km/h → 131km/h】
【コントロール B78 → B79】
【スタミナ B76 → B77】
131km/h。
玲は141km/h。
まだ10km/h差。
でも、130から131へ進んだ。
それでいい。
《投手能力》
球速 131km/h
コントロール B79
スタミナ B77
《野手能力》
弾道 3
ミート B72
パワー B71
走力 B70
肩力 B72
守備力 B77
捕球 B71
投げて、打って、守る。
全国大会でやってきたことが、そのまま数字になっていた。
ピコン。
さらに通知が出る。
【特殊能力の経験値が一定値に達しました】
【広角打法 習得条件進行中】
【現在習得率 82%】
「あと18%か」
準決勝では真田から逆方向へホームラン。
決勝でも右中間へタイムリーツーベース。
右方向への打球は確実に増えている。
どうすれば残りを埋められる?
外角への対応。
逆方向への長打。
センターから右方向への打球。
頭の中で練習メニューを組み始める。
ふと、机の上のスマホが目に入った。
さっき詩織と撮った写真。
一度だけ開く。
メダルを挟んで、2人とも笑っている。
数秒見てからスマホを置いた。
秋の大会もある。
新しいチームも始まる。
もっと速く投げたい。
もっと打ちたい。
もっと守れるようになりたい。
日本一になっても、まだ上げられる数字はいくらでもある。
そう思うと。
やっぱり、少し楽しくなった。