夏休みが終わった。
全国大会、新チーム始動、武蔵野との練習試合。その後も何試合か実戦を重ねているうちに、気づけば二学期になっていた。
久しぶりに制服を着て教室へ入る。
「成瀬!」
席に着く前に呼び止められた。
「全国優勝おめでとう!」
「今さら?」
「夏休みだったから言うタイミングなかったんだよ!」
「メッセージ来てたけど」
「直接言うのは別だろ」
別の男子も寄ってくる。
「ていうか武蔵野との練習試合でホームラン3本打ったってマジ?」
「何で知ってるの?」
「野球部の奴が言ってた」
「情報早くない?」
「有名人だからな」
そんな話をしながら席へ向かうと、詩織がこっちを見ていた。
「おはよう」
「おはよう。有名人」
「詩織まで言うの?」
「ホームラン3本?」
「うん」
「1試合で?」
「うん」
「伊織、ちょっとおかしくなってない?」
「前から野球はやってるけど」
「そういう意味じゃない」
詩織が笑う。
「でも負けたよ」
「え?」
「3対4」
「3本打ったのに?」
「全部ソロだったから」
「そんなことあるんだ」
「あるみたい」
自分で言って、少し笑った。
3本打った。それでも負けた。
数字だけなら最高に近い試合だったけど、不思議と悔しさも残っている。
「じゃあ、次はランナーいる時に打たないとね」
「簡単に言うね」
「伊織なら打つでしょ」
「期待が重い」
「日本一なんだから頑張って」
チャイムが鳴り、詩織が前を向いた。
野球以外の時間も、また戻ってきた。
◇
放課後。
練習へ行く前にシステムを確認する。
武蔵野戦以降、条件が進んでいた特殊能力。
【打撃経験値が一定値に達しました】
【特殊能力の習得条件を満たしました】
画面が切り替わる。
【広角打法を習得しました】
「……やっとか」
全国大会前から意識していた能力。
外角を無理に引っ張らない。右方向へ強い打球を飛ばす。それでいて、甘い球なら普通に引っ張る。
使える方向を増やす。
橘さんにも言われた。
グラウンド全部。
【広角打法】
【打球方向による打撃能力の低下を軽減します】
ステータスを開く。
《野手能力》
弾道 3
ミート B72
パワー B71
走力 B70
肩力 B72
守備力 B77
捕球 B71
《特殊能力》
送球○
アベレージヒッター
パワーヒッター
チャンス○
盗塁○
流し打ち
広角打法
「増えたな」
最初の頃とは比べものにならない。
パワーもミートも、特殊能力も増えた。
まだ中学2年。
もっと増やせる。
次は何を狙う?
そう考え始めたところで、スマホが鳴った。
高瀬。
『遅れるなよ』
時計を見る。
「……危な」
システムを閉じ、鞄を持つ。
今日は新チームのミーティングもある。
◇
グラウンドへ着くと、全員が集められた。
監督の手には一枚の紙。
「秋季大会の組み合わせが決まった」
空気が変わる。
新チームになって最初の公式戦。
監督がトーナメント表を掲げる。
「全国優勝したからって、秋も勝てる保証はない。夏とは別のチームだと思え」
「はい!」
高瀬が最初に返事をした。
白石もいる。武蔵野戦でエラーをした新しい二塁手もいる。
夏の全国大会とは違うメンバー。
それでも、玲がいて、黒田がいて、高瀬がいて、三上がいる。俺もいる。
「目標は?」
監督が聞く。
「優勝です」
高瀬が答える。
「その先は?」
「来年、全国連覇です」
監督が頷いた。
「なら、ここから始めろ」
トーナメント表を見る。
秋の大会。
新しい城東で戦う、最初の公式戦。
少し楽しみだった。