転生したら人生がサクセスモードだった   作:ねるすと

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第107話

 

秋季大会、準々決勝。

 

相手は北陵シニア。長打を並べるチームではないが、とにかく足を使う。バント、盗塁、エンドラン。一人走者を出すだけで攻撃の形を作ってくる相手だった。

 

試合前、高瀬がスコアブックを見ながら口を開く。

 

「今日はランナー出した後が面倒だな。特に上位。塁に出たら何かしてくると思っていい」

「盗塁?」

玲が聞く。

「それもある。でも盗塁だけ警戒してストレート増やしたら、今度はエンドランされる。玲はいつも通り打者を抑えること優先でいい。走られたら俺が刺す」

「分かった」

「そこはもうちょい頼もしそうに返事しろよ」

「高瀬なら刺せるでしょ」

「……そういう言い方されると文句言いづらいな」

 

キャプテンになってから、高瀬は試合前に話す量が増えた。前から捕手として考えていたんだろう。でも今は、それを自分だけで持たずに全員へ伝えるようになっている。

 

「佐伯も今日はセンター前、一歩前を意識してくれ。浅い当たりでも二つ狙ってくる」

「了解。前に出すぎて頭越されたら?」

「その時は成瀬が怒る」

「何で俺?」

三上が笑う。

「成瀬は言わない代わりに顔で『今の取れたな』ってやる」

「分かる」

「佐伯まで頷くなよ」

「だってやりそうだし」

 

最近、扱いが雑になってきている気がする。

 

◇

 

1回表。

 

玲の初球が高瀬のミットへ突き刺さる。

 

バァンッ!

「ストライク!」

 

141km/h。

 

先頭をセカンドゴロに打ち取り、2番は粘られながらも高速落下球で空振り三振。3番にはセンター前へ運ばれ、この試合最初のランナーを許した。

 

北陵のベンチがすぐに動く。

 

「走るかもな」

俺が言うと、三上も頷いた。

「だろうね」

 

玲は気にした様子もなくセットに入る。次の打者への初球でランナーがスタートした。

 

「走った!」

 

高瀬が捕る。立ち上がって二塁へ。

 

バァンッ!

 

三上のグラブに収まる。

 

「アウト!」

 

チェンジ。

 

ベンチへ戻った玲に高瀬が言う。

 

「ほら、刺した」

「うん。言った通り」

「もうちょい喜べよ」

「僕、何もしてないし」

「それ言われると俺がすごいみたいじゃん」

「すごかったよ」

「……調子狂うな」

 

玲相手だと、高瀬も少しだけ面倒くさそうだった。

 

◇

 

1回裏。

 

三上がセカンドゴロに倒れ、ワンアウト。佐伯が外角をセンター前へ運んだ。

 

キィンッ!

 

俺の第1打席。

 

初球、2球目と外へ外れる。3球目は内角をファウル。相手投手は俺とまともに勝負する気が薄いらしく、結局は四球になった。

 

ワンアウト1、2塁。

 

黒田が打席へ向かう。

 

「歩かされたなら俺が返せばいいだけだろ」

 

初球。

 

カァァンッ!

 

左中間を破る。

 

佐伯がホームへ。俺は3塁まで進む。

 

1対0。

 

二塁上の黒田がこっちを見る。

 

「どうだ!」

「まだ俺帰ってないけど」

「今から帰れ!」

 

続く高瀬がセンターへ十分な飛距離のフライを上げる。タッチアップ。

 

ザッ!

 

ホームへ滑り込む。

 

「セーフ!」

 

2対0。

 

ベンチに戻ると黒田が満足そうに頷いた。

 

「俺が返した」

「半分だけね」

「俺が3塁まで進めたから高瀬の犠牲フライで帰れたんだろ?」

「それはそう」

「もっと素直に褒めろよ」

「ナイスバッティング」

「遅い!」

 

6番が倒れてチェンジ。

 

初回、2点。

 

悪くない立ち上がりだった。

 

◇

 

2回は両チーム無得点。

 

3回裏、三上がセンター前ヒットで出塁すると、佐伯がきっちり送ってワンアウト2塁。

 

俺の第2打席。

 

今度は勝負してきた。

 

初球は外角のストレートでストライク。2球目、低めの変化球はボール。3球目も外角。

 

振る。

 

カキィンッ!

 

ライト前。

 

三上が3塁を回る。

 

「回れ!」

 

ホームへ。

 

「セーフ!」

 

3対0。

 

外へ来たから、外へ打った。

 

それだけ。

 

でも広角打法を覚えてから、その「それだけ」が前より簡単にできるようになっていた。

 

◇

 

4回表。

 

北陵の先頭がライト前ヒットで出塁。次の打者は初球からバントの構えを見せた。

 

玲が投げる。

 

コツンッ。

 

三塁線への送りバント。ワンアウト2塁。

 

続く打者には外角ストレート、高速落下球で追い込んだ。3球目の内角はわずかに外れ、4球目。

 

カキンッ!

 

ライト前。

 

2塁ランナーが3塁を回る。返球は間に合わない。

 

3対1。

 

なおワンアウト1塁。

 

次の打者が高速落下球をなんとかバットに当てた。

 

カンッ!

 

浅いセンター前。

 

「前!」

 

佐伯が猛然と走る。

 

ザザッ!

 

滑り込みながらグラブを伸ばす。

 

パシッ!

 

「アウト!」

 

飛び出していた一塁ランナーも戻れない。佐伯から三上、そして一塁へ。

 

パァンッ!

「アウト!」

 

ダブルプレー。

 

「佐伯、今のデカい!」

ベンチへ戻った佐伯に高瀬が声をかける。

「前って言われてたからな。最初から一歩浅く守ってた」

「頭越されなくてよかったね」

俺が言う。

「それ試合前の話まだ引っ張る?」

「取ったからいいじゃん。ナイスプレー」

「最初からそう言えよ!」

 

佐伯は文句を言いながらも、嬉しそうに笑った。

 

橘さんなら取っていたか。

 

そんなことを考える必要はない。

 

今のセンターは佐伯だ。

 

◇

 

5回表。

 

玲は先頭をこの試合初めての四球で歩かせた。北陵は迷わず送りバント。ワンアウト2塁。

 

高瀬がマウンドへ向かい、俺たちも集まる。

 

「玲、投げづらい球ある?」

「高速落下球、ちょっと抜ける」

「じゃあ無理に使わない。低め中心でいこう。内野は一点やっても慌てるな。まずアウト一つずつ」

「了解」

 

黒田が高瀬を見る。

 

「キャプテンっぽくなったな」

「試合中に言うことか?」

「褒めてんだよ」

「だったら後で言え!」

 

次の打者はショートゴロ。俺が捕って一塁へ送り、ランナーは3塁へ進む。

 

ツーアウト3塁。

 

最後は玲が141km/hのストレートで押し込み、空振り三振。

 

無失点。

 

高瀬がベンチへ戻りながら玲に言う。

 

「高速落下球使わなくてもいけただろ」

「うん。高瀬がそう言ったから」

「お前、たまにすごい信頼の置き方するよな」

「嫌?」

「嫌じゃないけど、急に言われると困る」

 

玲は何が困るのか分からないという顔をしていた。

 

◇

 

5回裏。

 

9番が倒れてワンアウト。

 

三上がセンター前へ運び、続く佐伯も右前打。三上は一気に3塁まで進んだ。

 

ワンアウト1、3塁。

 

俺の第3打席。

 

相手内野は併殺狙い。

 

初球、外角低め。

 

カンッ!

 

セカンド正面。

 

二塁へ。

 

パァンッ!

 

一塁へ。

 

バシッ!

 

「アウト!」

 

ダブルプレー。

 

三上は先にホームを踏んでいたが、俺が一塁でアウト。

 

第3アウトがフォースプレーだから、得点は認められない。

 

「くそ」

 

ベンチへ戻ると黒田が笑った。

 

「珍しいな。成瀬が打点損した」

「嬉しそうだね」

「お前が悔しがってると安心する」

「何それ」

「人間っぽい」

「俺を何だと思ってるの?」

「野球やってる計算機」

「ひどくない?」

「半分褒めてる」

「半分は?」

「悪口」

「正直だな」

 

結局、3対1のまま6回へ。

 

◇

 

6回表。

 

ワンアウトから北陵の3番が左中間へツーベース。

 

続く4番。

 

玲の141km/hをファウル。高速落下球も見逃して2ストライク。

 

高瀬のサインはチェンジアップ。

 

打者の身体が前へ出る。

 

それでもバットに当てた。

 

カキンッ!

 

センター前。

 

2塁ランナーが3塁を回る。

 

佐伯が前へ出て捕球。そのままホームへ投げる。

 

バァンッ!

 

高瀬が捕った。

 

「セーフ!」

 

3対2。

 

一点差。

 

北陵のベンチが一気に騒がしくなった。

 

「いけるぞ!」

「もう一点!」

 

高瀬がボールを返す。

 

「玲、ここから抑えるぞ」

「うん」

「……それだけ?」

「高瀬がそう言うならそうする」

「またそれかよ」

 

次の打者。

 

バァンッ!

 

141km/h。

 

空振り。

 

もう一球をファウルにさせ、最後は高速落下球。

 

ブンッ!

「ストライク! バッターアウト!」

 

ツーアウト。

 

続く打者はセカンドゴロ。三上が捌いてチェンジ。

 

追いつかせなかった。

 

玲は6回5安打2失点、1四球8奪三振。

 

監督が告げる。

 

「水城、ここまで」

「はい」

 

そして7回。

 

「白石、行け」

「はい! ……俺ですか?」

「お前だ」

「一点差ですよ?」

「見れば分かる」

「いや、その……もっとこう、水城さんとか」

「玲はもう投げた」

 

監督はそれだけだった。

 

白石が俺たちを見る。

 

「これ、結構大事な場面ですよね?」

黒田が肩を叩く。

「大丈夫だ。打たれたら俺たちがもう一回打つ」

「裏の攻撃ない可能性ありますよね?」

「……細かいな」

「そこ大事です!」

 

高瀬が笑った。

 

「白石。三者三振なんかいらない。今日ずっと見てただろ? 後ろに俺たちがいる。ストライク投げろ」

「……はい」

「声小さい」

「はい!」

 

少しだけ白石の顔が戻った。

 

◇

 

7回表。

 

白石の初球。

 

パァンッ!

「ストライク!」

 

先頭はショートゴロ。俺が捌いて一塁へ。

 

パァンッ!

「アウト!」

 

次の打者はスライダーを打ち上げた。

 

カンッ!

 

センターへ。

 

佐伯が落下地点に入り、

 

パシッ!

 

ツーアウト。

 

最後の打者。

 

初球、ボール。2球目も外れて2ボール。

 

白石が一度息を吐く。

 

3球目。

 

パァンッ!

「ストライク!」

 

4球目はファウル。

 

2ボール2ストライク。

 

5球目。

 

スライダー。

 

カンッ!

 

三塁へのゴロ。

 

黒田が前へ出る。

 

捕る。

 

一塁へ。

 

パァンッ!!

 

ボールがファーストのミットに収まる。

 

「アウト!! ゲームセット!!」

 

3対2。

 

白石がマウンドで大きく息を吐いた。

 

「終わった……」

「終わったな」

高瀬が笑う。

「マジで怖かったです」

「その割には普通に投げてたぞ」

「中ではずっと無理無理無理って思ってました」

玲が横から言う。

「でも抑えたならいいじゃん」

「水城さんは絶対こういう緊張しないですよね?」

「するよ」

「本当ですか?」

「多分」

「成瀬さんみたいなこと言わないでください!」

「俺を見るなよ」

 

◇

 

秋季大会、準決勝進出。

 

玲は6回5安打2失点、1四球8奪三振。

 

白石は1回無安打無失点。

 

俺は2打数1安打、1打点、1四球。

 

派手な数字じゃない。

 

でも今日は、それより印象に残ったものが多かった。

 

盗塁を刺した高瀬。浅い打球を捕った佐伯。一点差の最終回を任された白石。

 

帰り支度をしていると、高瀬が声をかけてきた。

 

「成瀬。今日、自分が全部やらなくても勝てただろ?」

「一点差だったけど」

「そういう意味じゃない。玲が投げて、お前が打つ。それだけでも強い。でも、それだけじゃ秋は勝てないってこと」

「キャプテンっぽいこと言うね」

「最近みんなそれ言うけど、俺は前からこれくらい考えてたからな?」

「口に出してなかったじゃん」

「それは……まあ、そうだけど」

 

高瀬が少しだけ照れくさそうに頭をかく。

 

「だから今は言うようにしてんの。俺が分かってても、みんなに伝わってなきゃ意味ないだろ」

 

なるほど。

 

高瀬はキャプテンとして変わっている。

 

佐伯も少しずつセンターになっている。

 

白石も、緊張しながら公式戦でアウトを取れるようになってきた。

 

ステータスには出ない。

 

でも、こういうのも成長なんだろう。

 

次は準決勝。

 

新しい城東でどこまで行けるのか。

 

少し楽しみになってきた。

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