転生したら人生がサクセスモードだった   作:ねるすと

108 / 108
第108話

 

秋季大会、準決勝。

 

対戦相手が決まった翌日。

 

教室で弁当を食べていると、詩織が俺の机までやってきた。

 

「次、武蔵野なんだって?」

「よく知ってるね」

「伊織が教えてくれないから自分で調べるようになりました」

「そこまでしなくても」

「誰のせいだと思ってるの?」

 

詩織が向かいの席に座る。

 

「武蔵野って、夏にも戦ったところだよね?」

「全国の準決勝で」

「伊織がホームラン打った」

「よく覚えてるね」

「だからちゃんと見てるって何回言えば信じるの」

 

少し怒られた。

 

「それで、この前の練習試合でも戦ったんでしょ?」

「うん」

「ホームラン3本打ったやつ」

「それまで知ってるの?」

「学校で黒田くんが普通に喋ってた」

「黒田か……」

「でも負けたんだよね?」

「4対3で」

 

詩織が少し考える。

 

「じゃあ今度は勝たないとね」

「もちろん」

「相手のピッチャー、真田くんだっけ。伊織と仲悪い人」

「別に仲悪くないよ」

「そうなの?」

「多分」

「その多分、絶対仲良くないじゃん」

 

違うと思う。

 

少なくとも嫌いではない。

 

「真田は面白いよ」

「それ、友達に言う面白いとは違うでしょ?」

「投げてくる球が」

「ほら」

 

詩織が呆れた顔をする。

 

「伊織って、野球の人の話になると本当に野球のことしか出てこないよね」

「ピッチャーだから」

「じゃあ私のこと聞かれたら?」

「幼馴染」

「それだけ?」

「ピアノが上手い」

「まだ発表会で聴いてないのに?」

「昔から聞こえてたし」

「……覚えてたんだ」

 

詩織の声が少しだけ変わった。

 

「そりゃ家近いからね」

「そういうところなんだよなあ」

「何が?」

「何でもない」

 

教えてくれなかった。

 

◇

 

準決勝当日。

 

武蔵野シニア。

 

マウンドには真田。

 

練習試合では137km/hまで上がっていた。今日も投球練習のボールが、高瀬の構えるミットとは違う音を響かせている。

 

バァンッ!

 

真田がこちらを見る。

 

目が合った。

 

ニヤッと笑う。

 

「成瀬!」

 

試合前なのに普通に呼ばれた。

 

「何?」

「今日は3本も打たせねえからな」

「1本ならいいの?」

「ゼロに決まってんだろ!」

「じゃあ最初からそう言えばいいのに」

「相変わらずムカつくな、お前!」

 

横で黒田が笑う。

 

「仲良いじゃん」

「どこが?」

「今ので仲悪い判定なら俺と成瀬なんか絶交してるぞ」

「黒田とは仲いいの?」

「そこ疑う!?」

 

高瀬が手を叩く。

 

「遊んでないで行くぞ。今日は成瀬が先発。三上はショートな」

「了解」

 

玲はベンチスタート。

 

俺がマウンドへ向かう。

 

練習試合では負けた。

 

今日は公式戦。

 

同じ負けにするつもりはない。

 

◇

 

1回表。

 

武蔵野の先頭打者。

 

初球は131km/hのストレート。

 

バァンッ!

「ストライク!」

 

2球目は外へ。

 

ボール。

 

3球目。

 

同じコースからチェンジアップ。

 

打者の身体が前へ出る。

 

カンッ!

 

セカンドゴロ。

 

ワンアウト。

 

2番にはカーブを続けた。二球目を引っかけてファーストゴロ。

 

3番。

 

初球のストレートを振ってくる。

 

キィンッ!

 

鋭いライナー。

 

三上が横へ飛ぶ。

 

バシッ!

 

グラブに収まった。

 

「アウト!」

 

三者凡退。

 

「ナイス」

ベンチへ戻ると三上が言う。

「そっちこそ」

「俺がショートやる時くらい、もうちょっとゴロ増やしてよ」

「今のライナー取れたからいいじゃん」

「そういう問題じゃないんだけどなあ」

 

高瀬が横から口を挟む。

 

「成瀬に注文すると本当にやりかねないぞ」

「じゃあやっぱ今のなし」

「もう聞いたけど」

「忘れて」

 

無理だと思う。

 

◇

 

1回裏。

 

真田は最初から飛ばしていた。

 

137km/h。

 

バァンッ!

 

三上が振り遅れて三振。

 

佐伯も外角のストレートに詰まってセカンドゴロ。

 

ツーアウト。

 

俺の第1打席。

 

真田がマウンドで笑う。

 

初球。

 

外角低め。

 

ストライク。

 

2球目はスライダー。

 

外へ逃げる。

 

見送った。

 

ボール。

 

3球目。

 

内角高め、137km/h。

 

振る。

 

ガキンッ!

 

詰まった。

 

打球はショート正面。

 

「アウト!」

 

ベンチへ戻る。

 

黒田が聞いてきた。

 

「どう?」

「前よりいい」

「真田が?」

「うん。練習試合より球が散らばってない」

「楽しそうだな」

「そう見える?」

「めちゃくちゃ」

 

別に笑っているつもりはなかった。

 

◇

 

試合は0対0のまま3回へ。

 

3回裏。

 

三上が四球を選ぶ。

 

ノーアウト1塁。

 

佐伯が初球からバントの構え。

 

コツンッ。

 

一塁側へ転がす。

 

「アウト!」

 

三上は2塁へ。

 

ワンアウト2塁。

 

俺の第2打席。

 

真田は一度だけ2塁を見る。

 

初球、スライダー。

 

見送る。

 

ストライク。

 

2球目は137km/hのストレート。

 

外。

 

ボール。

 

3球目。

 

また外角。

 

さっきより少し高い。

 

振る。

 

キィンッ!

 

右中間。

 

センターが走る。

 

届かない。

 

「抜けた!」

 

三上が3塁を回る。

 

俺は一塁を蹴った。

 

三上がホーム。

 

「セーフ!」

 

1対0。

 

俺は2塁。

 

タイムリーツーベース。

 

真田を見る。

 

悔しそうな顔をするかと思った。

 

笑っていた。

 

「それだよ」

 

聞こえた。

 

「何が?」

「前はそれ、もっと無理して打ってただろ。今は普通に右へ飛ばしやがる」

「よく見てるね」

「お前に3本食らったんだぞ。見るに決まってんだろ」

 

審判に促され、会話はそこで終わった。

 

黒田は三振、高瀬もライトフライ。

 

追加点は取れなかった。

 

それでも先制。

 

1対0。

 

◇

 

俺も4回まで無失点。

 

真田も、それ以上の点を与えない。

 

4回裏、黒田がヒットを打ったものの、高瀬が併殺打。5回表を迎えた。

 

先頭打者。

 

初球のストレートを左中間へ運ばれる。

 

カァンッ!

 

ツーベース。

 

ノーアウト2塁。

 

高瀬がすぐにマウンドへ来た。

 

「ここ、無理に三振いらないからな」

「分かってる」

「次、バントしてくると思う」

「じゃあ三塁で刺す?」

「いや。一点リードだし、アウト一つもらおう。無理して傷広げる方が嫌だ」

「了解」

 

予想通り、バント。

 

コツンッ。

 

俺が前へ出る。

 

一塁へ。

 

パァンッ!

「アウト!」

 

ワンアウト3塁。

 

次の打者。

 

外角ストレート。

 

ファウル。

 

2球目はカーブ。

 

ボール。

 

3球目。

 

チェンジアップ。

 

カンッ!

 

ライトへのフライ。

 

十分な深さ。

 

3塁ランナーがスタート。

 

返球。

 

間に合わない。

 

1対1。

 

同点。

 

「切り替え!」

 

高瀬の声。

 

続く打者をショートゴロに打ち取る。

 

三上が捌く。

 

パァンッ!

「アウト!」

 

同点で止めた。

 

ベンチへ戻ると高瀬が言う。

 

「一点でいいって言ったろ?」

「言ってたね」

「ならそんな顔すんな」

「どんな顔?」

「自分で全部止めたかった顔」

「……分かる?」

「何年バッテリー組んでると思ってんだよ」

 

高瀬が防具を直しながら続ける。

 

「一点取られたら一点取ればいい。それが野球だろ」

「キャプテンっぽい」

「お前まで言うな!」

 

少し笑った。

 

◇

 

6回裏。

 

先頭の三上が倒れ、ワンアウト。

 

佐伯もセンターフライ。

 

ツーアウト。

 

俺の第3打席。

 

真田が大きく息を吐く。

 

初球。

 

明らかなボール。

 

2球目も外。

 

3球目。

 

外角ギリギリ。

 

見送る。

 

ボール。

 

「おい!」

 

真田がベンチを見る。

 

ベンチから何か指示が飛んだ。

 

4球目。

 

外れた。

 

フォアボール。

 

一塁へ歩く。

 

真田が明らかに不満そうな顔をしている。

 

「勝負したかった?」

俺が聞く。

「当たり前だろ」

「でも公式戦だからね」

「分かってるよ! 分かってるから余計ムカついてんだ!」

 

黒田が打席へ入る。

 

「聞こえてるぞ、真田」

「何がだよ」

「成瀬ばっか見てると俺が打つぞ」

「だったら打ってみろ!」

 

初球。

 

137km/h。

 

ファウル。

 

2球目はスライダー。

 

見逃し。

 

1ボール1ストライク。

 

3球目。

 

内角。

 

黒田が振り抜く。

 

カァァンッ!

 

左中間。

 

「抜けた!」

 

スタートを切る。

 

一塁。

 

二塁。

 

三塁コーチが腕を回している。

 

そのまま3塁を蹴る。

 

「回れ!」

 

外野から返球。

 

ホームへ。

 

ザッ!

 

高瀬じゃない。

 

相手捕手のミットにボールが届く。

 

滑り込む。

 

「セーフ!!」

 

2対1。

 

黒田が2塁上で叫んだ。

 

「見たか真田!!」

「うるせえ!」

 

真田も言い返している。

 

俺はベンチへ戻る。

 

高瀬が笑う。

 

「自分で返さなくても点入ったな」

「そうだね」

「どう?」

「何が?」

「悔しい?」

「全然」

「即答か」

「黒田が打ったんだからいいでしょ」

 

俺が全部打つ必要はない。

 

全国大会から何度も見てきた。

 

分かっている。

 

そのはずだった。

 

でも、黒田が打った瞬間。

 

少しだけ嬉しかった。

 

数字とは別のところで。

 

◇

 

7回表。

 

2対1。

 

監督は俺をそのままマウンドへ送った。

 

「成瀬。最後まで行け」

「はい」

 

先頭打者。

 

初球、カーブ。

 

ストライク。

 

2球目はストレート。

 

カンッ!

 

セカンドゴロ。

 

ワンアウト。

 

次の打者は粘った。

 

ファウル。

 

ボール。

 

ファウル。

 

6球目。

 

チェンジアップ。

 

ブンッ!

「ストライク! バッターアウト!」

 

ツーアウト。

 

最後の打者。

 

初球。

 

131km/h。

 

ファウル。

 

2球目。

 

カーブ。

 

ボール。

 

3球目はストレート。

 

カキンッ!

 

三遊間。

 

三上が横へ動く。

 

届かない。

 

レフト前。

 

ツーアウト1塁。

 

武蔵野ベンチが一気に騒がしくなる。

 

「繋げ!」

「まだ終わってないぞ!」

 

高瀬がマウンドへ来た。

 

「疲れてる?」

「まだ投げられる」

「聞き方変える。次の打者、何で行きたい?」

「ストレートで押したい」

「俺も同じ。変にかわすな。お前の球で終わらせよう」

「分かった」

 

高瀬が戻る。

 

次の打者。

 

初球。

 

バァンッ!

「ストライク!」

 

130km/h。

 

2球目。

 

外へのストレート。

 

ファウル。

 

追い込んだ。

 

高瀬のサイン。

 

一度首を振る。

 

もう一度。

 

ストレート。

 

頷いた。

 

振りかぶる。

 

投げる。

 

バァンッ!!

 

「ストライク! バッターアウト!! ゲームセット!!」

 

2対1。

 

準決勝突破。

 

◇

 

俺は7回5安打1失点。1四球、7奪三振。

 

打っては2打数1安打、1打点、1四球。

 

真田は7回4安打2失点。2四球、8奪三振。最速137km/h。

 

整列が終わる。

 

真田がこっちへ来た。

 

「負けた」

「うん」

「そこは何か言えよ」

「いい試合だった?」

「疑問形にすんな!」

 

少し黙ってから、真田が続ける。

 

「練習試合で勝った時、ちょっとだけ思ったんだよ。全国の借り返したって」

「ちょっとだけ?」

「公式戦じゃねえからな。だから今日勝ちたかった」

「俺も」

「次は負けねえ」

 

手を差し出してくる。

 

握る。

 

「来年の夏?」

「その前に当たったらその時だ。俺はお前と違って先の予定まで計算してねえから」

「俺もそこまで計算してないけど」

「嘘つけ。絶対してる顔だろ」

 

どんな顔だよ。

 

真田が手を離す。

 

「あと黒田に言っとけ。次は絶対打たせねえ」

「自分で言えば?」

「ムカつくから嫌だ」

「子供だね」

「お前にだけは言われたくねえ!」

 

負けた直後なのに、最後まで真田だった。

 

次は決勝。

 

夏に続いて、秋もここまで来た。

 

でも。

 

同じチームじゃない。

 

同じ勝ち方でもない。

 

新しい城東で取る、最初のタイトルまで。

 

あと一つ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

転生した俺の野球人生には、パワプロの育成システムがある(作者:1番道路)(原作:実況パワフルプロ野球)

AI作品▼自分用▼野球好きの青年が、神様から『パワプロ育成システム』を転生特典として授かり、現代日本に生まれ変わった。▼練習や試合で経験点を獲得し、能力値の強化や特殊能力の習得ができるチートシステム。▼前世の野球経験と育成システムを武器に、少年野球から甲子園、NPB、そしてメジャーリーグへ。▼目指すは、投打ともに世界の頂点に立つ史上最強の二刀流選手!▼これは…


総合評価:117/評価:-.--/連載:30話/更新日時:2026年10月18日(日) 14:29 小説情報

俺だけ使える成長システムで湘北を全国制覇に導きたい(作者:should )(原作:スラムダンク)

バスケ好きの父の家に生まれた佐藤翔真は、1歳の誕生日に、神奈川の高校が初めてインターハイに出場したと伝える雑誌を見て、ここが『スラムダンク』の世界だと気づく。▼その瞬間、彼の前に現れたのは、「育成画面」だった。▼経験点を貯めれば、能力は伸ばせる。▼だが、身長も、怪我も、取り返しのつかないものは先に手を打つべきだ。▼ハイハイや寝返り、歩行まで経験点になる世界で…


総合評価:1045/評価:8/連載:29話/更新日時:2026年10月28日(水) 20:00 小説情報

はじめの一歩転生・・・こいつかよ!?(作者:櫻13)(原作:はじめの一歩)

まさかの梅沢転生。良いキャラしてるのになぁ・・・と思ったので


総合評価:1687/評価:7.92/連載:23話/更新日時:2026年10月29日(木) 01:36 小説情報

超能力者のプロ野球人生(作者:星野林(旧ゆっくり霊沙))(オリジナル:現代/スポーツ)

雷に打たれて超能力に目覚めた高校生、大久保利通は最初ノートのページを数メートル先から開く程度の能力しか持ち合わせていなかったが、練習で投げたボールが顧問の目に留まり、投手を志すことになる。▼・最初数話は高校生で能力を引き上げて、体を作る話になります。▼・4話目にドラフトを行う予定です。▼・長くても9月上旬まで連載できればと思っています。▼・毎日投稿を心がけま…


総合評価:7101/評価:7.61/完結:42話/更新日時:2026年09月11日(金) 18:00 小説情報

大心を宿して(作者:はんたー)(オリジナル:現代/スポーツ)

2003年、ナリタタイシンの種牡馬供用停止。種付数1。▼2004年にナリタタイシン最後の産駒が誕生した。▼これはナリタタイシンのラストクロップに転生した男が勘違いしつつ頑張るお話


総合評価:824/評価:8.53/連載:26話/更新日時:2026年10月24日(土) 09:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>