特殊能力。
その言葉を。
俺は。
ずっと気にしていた。
通常能力は。
経験を貯めて。
好きな能力へ使う。
ミート。
パワー。
走力。
肩力。
守備。
捕球。
球速。
コントロール。
スタミナ。
育て方は。
少しずつ分かってきた。
でも。
特殊能力だけは。
違う。
【特殊能力候補】
ノビ
玲に表示された。
あの文字。
まだ。
取得してはいない。
でも。
条件を満たしかけている。
なら。
俺にも。
同じようなものが。
あるはずだ。
◇
「今日は試合形式やるぞー!」
コーチの声に。
子供たちが一斉に集まる。
「今日は守備も走塁もちゃんとやるからな!」
「はい!」
俺も。
少し。
気合が入る。
最近。
練習も好きだ。
でも。
試合は。
やっぱり違う。
相手がいる。
点が入る。
アウトがある。
そして。
何より。
特殊能力。
あれは。
実戦で何かをした時に。
動く気がしていた。
◇
今日の俺は。
ショート。
玲は。
ピッチャー。
「またピッチャー?」
「うん」
「好きだな」
「伊織君もやる?」
「今日はショート」
「じゃあ次」
「なんでお前が決めるんだよ」
「伊織君もピッチャー好きでしょ?」
「まあな」
否定はできない。
今の俺は。
何でもやりたい。
エースも。
四番も。
ショートも。
全部。
欲しい。
その欲張りさを。
まだ。
悪いとは思っていなかった。
◇
「成瀬! 来るぞ!」
「はい!」
打球。
正面。
捕る。
一塁へ。
シュッ。
「アウト!」
「ナイス!」
次。
二遊間。
一歩。
二歩。
捕る。
身体をひねる。
一塁へ。
パシッ。
「アウト!」
「成瀬、送球安定してきたな!」
「ありがとうございます!」
嬉しい。
前世で。
散々。
練習した動き。
今の身体で。
少しずつ。
再現できるようになっている。
次の打者。
走者一塁。
「来るぞ!」
「はい!」
打球。
二塁ベース寄り。
俺が。
前へ出る。
捕る。
走者が来る。
頭の中に。
前世の景色が浮かぶ。
ここは。
一つじゃない。
「二塁!」
セカンドへ。
シュッ。
パシッ。
「アウト!」
そのまま。
一塁へ。
送球。
パシッ!
「アウト!」
「おおー!」
「ダブルプレー!」
コーチたちが。
声を上げる。
「成瀬、今のいいぞ!」
「ありがとうございます!」
思わず。
笑う。
気持ちいい。
やっぱり。
ショート。
好きだ。
◇
試合は続く。
次の守備。
少し深いゴロ。
捕る。
一塁へ。
体勢が崩れたまま。
投げる。
シュッ。
パシッ。
「アウト!」
「ナイス送球!」
さらに。
前へ出て。
捕球。
そのまま。
素早く投げる。
「アウト!」
何度か。
難しい体勢から。
送球を成功させた。
そして。
試合終了。
「お疲れー!」
子供たちが。
ベンチへ戻る。
その瞬間。
視界に。
表示が出た。
【実戦結果を確認しました】
「……来た」
【正確な送球を複数回成功】
【動作中の送球を複数回成功】
【併殺プレーを成功】
「これ……」
さらに。
【特殊能力の取得条件を満たしました】
心臓が。
少し跳ねる。
【送球○を取得しました】
「……!」
取得。
した。
経験を。
使っていない。
選択もしていない。
試合で。
実際に。
結果を残した。
それだけ。
◇
家に帰るまで。
ずっと。
気になっていた。
夜。
布団へ入る。
画面を開く。
【成瀬 伊織】
【特殊能力】
送球○
「ほんとに付いてる……」
詳細。
【送球○】
送球がそれにくくなります。
「なるほど」
通常能力と。
特殊能力。
完全に。
育て方が違う。
通常能力は。
経験を貯める。
使う。
数字を上げる。
特殊能力は。
試合で。
実際に。
その能力にふさわしい結果を出す。
その積み重ねで。
身につく。
【特殊能力は、実戦での行動・成績・経験などによって取得する場合があります】
「やっぱり」
【一部の特殊能力には、単一試合での結果が取得条件として設定されています】
「一試合……」
例えば。
一試合で。
誰が見ても。
明らかにおかしい結果を出す。
ホームランを何本も打つ。
何度も。
難しいプレーを成功させる。
そういうものかもしれない。
【一部の特殊能力には、一定期間の成績が取得条件として設定されています】
「期間もあるのか」
一試合じゃない。
一か月。
一大会。
一年間。
その間。
ずっと。
結果を残す。
そこで。
初めて。
身につく能力。
それもある。
◇
「……これ」
かなり。
面白い。
例えば。
ずっとヒットを打ち続ければ。
打撃系の特殊能力。
ホームランを量産すれば。
長打系。
盗塁を成功させ続ければ。
盗塁。
ピンチで抑え続ければ。
投手用。
結果が。
能力になる。
「ゲームっぽいけど」
ゲームより。
ずっと。
難しい。
特殊能力が欲しいから。
条件を達成しよう。
そう思っても。
試合には。
相手がいる。
ホームランを打ちたいからといって。
打てるわけじゃない。
盗塁したいからといって。
毎回走って。
アウトになれば。
チームに迷惑をかける。
「……」
そこまで考えて。
少しだけ。
引っかかった。
特殊能力。
欲しい。
増やしたい。
ゲームなら。
当然。
そう思う。
でも。
現実の試合で。
能力を取ることだけ考えたら。
どうなる?
「まあ……」
まだ。
そんなことまで。
考えなくてもいいか。
今は。
ただ。
もっと上手くなりたい。
それだけだ。
◇
翌週。
「伊織君」
「ん?」
「勝負」
玲が。
ボールを持っている。
「また?」
「うん」
「好きだな」
「伊織君も」
「まあな」
打席へ入る。
玲を見る。
今。
こいつには。
【特殊能力候補】
ノビ
が表示されている。
まだ。
取得していない。
でも。
前回より。
空振りを取っている。
ファウルも。
増えている。
このまま。
実戦で。
結果を出し続けたら。
そのうち。
本当に。
特殊能力になる。
「……」
俺は。
送球○を取った。
玲は。
ノビを。
取りかけている。
俺には。
システムがある。
条件を。
確認できる。
何が起きているのか。
理解できる。
玲は。
何も知らない。
なのに。
普通に。
そこへ辿り着いている。
「伊織君」
「ん?」
「今日、三振取る」
「じゃあ俺は打つ」
「無理」
「言ったな?」
「うん」
玲が。
笑う。
俺も。
バットを構える。
特殊能力。
通常能力。
育成。
実戦。
まだ。
知らないことは。
山ほどある。
でも。
だから。
楽しい。
今度こそ。
自分を。
どこまで育てられるのか。
試したかった。