リトルリーグへ入って。
一か月。
俺たちは。
初めての公式戦の日を迎えた。
「……緊張するな」
ユニフォーム姿で。
ベンチに座る。
前世。
試合なんて。
何度も経験した。
小学校。
中学校。
高校。
でも。
今の身体では。
初めて。
しかも。
今回は。
ベンチに座っているだけじゃない。
「成瀬」
「はい!」
監督が。
メンバー表を読み上げる。
「二番、ショート」
「はい!」
名前が。
ある。
スタメン。
前世。
高校最後の夏。
俺は。
背番号十八。
ベンチだった。
結局。
最後まで。
まともな出番はなかった。
でも。
今日は違う。
「水城」
「はい!」
「先発ピッチャー」
「はい!」
玲が。
俺を見る。
満面の笑み。
「伊織君」
「何?」
「僕がエース」
「今日だけな」
「今日勝ったら?」
「今日だけ」
「じゃあずっと勝つ」
「そういう意味じゃねえよ」
玲が笑う。
こいつ。
本当に。
マウンドが好きになったらしい。
◇
試合開始。
先攻。
俺たち。
「成瀬!」
「はい!」
二番打者。
初回。
一死走者なし。
初打席。
バットを握る。
打席へ向かう。
途端。
少しだけ。
胸がざわついた。
高校三年。
最後の夏。
ベンチから見た打席。
俺は。
そこへ。
一度も立てなかった。
「……」
今は。
立っている。
六歳。
相手も。
子供。
試合の規模だって。
高校野球とは比べものにならない。
でも。
俺にとっては。
大きかった。
「プレイ!」
投手。
同じくらいの年齢。
構える。
一球目。
外。
「ボール!」
二球目。
真ん中。
「……っ」
振る。
カキン!
「おっ!」
打球。
三遊間。
「走れ!」
走る。
一塁。
「セーフ!」
「よし!」
初打席。
初ヒット。
【公式戦で初安打を記録しました】
【技術が上がった】
【精神が上がった】
「……いいね」
試合。
やっぱり。
練習より。
経験が大きい。
◇
次の打者。
初球。
俺は。
一塁から。
投手を見る。
走力。
【D53】
少年カテゴリになって。
評価は下がった。
でも。
一年生としてなら。
遅くない。
「……走れるか?」
盗塁。
特殊能力にも。
あった。
成功を重ねれば。
いつか。
能力になるかもしれない。
投手。
セット。
俺は。
少しだけ。
リードを取る。
「成瀬!」
一塁コーチが。
俺を見る。
「まだ無理するなよ」
「はい!」
「……」
やめた。
特殊能力は欲しい。
でも。
今。
走るべきか。
それとは。
別の話。
次の打者が。
打つ。
カキン!
「走れ!」
二塁へ。
さらに。
外野がもたつく。
「三塁!」
回る。
「……っ!」
三塁。
滑り込む。
「セーフ!」
「ナイスラン!」
ベンチから。
声。
気持ちいい。
【好走塁を確認しました】
「……」
今のも。
何かの条件。
なのかもしれない。
◇
その後。
内野ゴロの間に。
俺はホームへ帰った。
一点。
先制。
そして。
守備。
「水城、いけるか?」
「はい!」
玲が。
マウンドへ。
俺は。
ショート。
後ろから。
玲を見る。
小さな背中。
でも。
妙に。
堂々としている。
一球目。
シュッ。
「ストライク!」
速い。
二球目。
外。
三球目。
高い。
「水城、落ち着け!」
「はい!」
まだ。
硬式球へ。
完全に適応したわけではない。
コントロールは。
荒れる。
でも。
四球目。
真ん中。
打者。
振る。
ブンッ。
「ストライク!」
空振り。
「……やっぱり」
玲のストレート。
硬式になっても。
変わらない。
いや。
むしろ。
硬いボールになったことで。
回転の良さが。
もっと分かりやすくなっている気がする。
五球目。
シュッ。
ブンッ。
「ストライク! バッターアウト!」
「やった!」
玲が。
マウンドで。
小さく跳ねる。
【水城玲】
【公式戦初奪三振】
俺に。
関係ない表示まで。
出るようになっている。
「……システム、お前玲好きだろ」
もちろん。
返事はない。
◇
次の打者。
玲が。
ストライクを取りにいく。
カキン!
「ショート!」
「はい!」
俺の正面。
ゴロ。
捕る。
一塁へ。
シュッ。
「アウト!」
「ナイス伊織君!」
「おう!」
二死。
三人目。
玲。
一球目。
ボール。
二球目。
ボール。
三球目。
ストライク。
四球目。
ファウル。
五球目。
シュッ。
ブンッ。
「三振!」
二奪三振。
初回。
三者凡退。
玲が。
ベンチへ戻ってくる。
「伊織君」
「何?」
「二個」
「見てた」
「三振二個」
「聞こえてる」
「すごい?」
「すごいすごい」
「ほんと?」
「うん」
これは。
素直に。
すごい。
玲が。
嬉しそうに笑った。
◇
三回。
一対一。
二死。
二塁。
俺の。
二打席目。
ここで打てば。
勝ち越し。
打席へ入る。
画面。
【得点圏に走者がいます】
「……」
そういえば。
特殊能力に。
あった。
【チャンス】
得点圏で。
打てるかどうか。
でも。
今は。
それを取りたいから。
打つんじゃない。
勝ちたい。
それだけ。
一球目。
外。
二球目。
ファウル。
三球目。
低め。
見送る。
「ボール!」
四球目。
真ん中寄り。
「来た」
振る。
カキン!
「抜けた!」
センター前。
「回れ回れ!」
二塁走者。
三塁を回る。
ホームへ。
「セーフ!」
「よし!」
二対一。
勝ち越し。
俺は。
一塁で。
思わず。
拳を握った。
【得点圏で安打を記録しました】
【打点を記録しました】
【特殊能力《チャンス》の取得条件が進行しました】
「……進行?」
取得ではない。
一回。
打っただけ。
それじゃ。
身につかない。
「なるほど」
こういう能力は。
何度も。
結果を出さなきゃいけない。
面白い。
◇
そして。
最終回。
二対一。
俺たちが。
一点リード。
玲は。
まだマウンドにいた。
「水城、最後だぞ!」
「はい!」
低年齢の試合。
球数も。
登板時間も。
無理はさせない。
これが。
玲の最後の打者。
一死。
走者二塁。
今日。
初めてのピンチ。
「玲!」
俺が。
ショートから声をかける。
玲が。
振り向く。
「一点取られても同点! 打たせろ!」
「……」
「俺が取る!」
玲が。
少し笑った。
「うん!」
一球目。
ストライク。
二球目。
ファウル。
三球目。
ボール。
四球目。
玲が投げる。
カキン!
「ショート!」
「来た!」
俺の左。
走る。
腕を伸ばす。
捕る。
体勢。
崩れる。
でも。
一塁へ。
投げる。
シュッ。
「アウト!」
「ナイス!」
その間。
二塁走者は。
三塁へ。
二死。
「伊織君!」
玲が。
マウンドから。
手を上げる。
俺も。
返す。
◇
最後の打者。
一球目。
空振り。
二球目。
ボール。
三球目。
ファウル。
追い込む。
「玲!」
「うん!」
四球目。
玲。
投げる。
シュッ。
打者。
振る。
ブンッ。
「ストライク! バッターアウト!」
ゲームセット。
「勝った!」
玲が。
マウンドで。
両手を上げる。
俺も。
思わず。
走っていた。
「玲!」
「伊織君!」
「ナイスピッチ!」
「伊織君も打った!」
二人で。
笑う。
初めての公式戦。
二対一。
勝利。
◇
試合後。
システムが。
次々に表示を出す。
【公式戦結果】
3打数2安打
1打点
1得点
【守備機会】
3
失策0
【実戦経験を獲得しました】
【技術がかなり上がった】
【敏捷が上がった】
【精神がかなり上がった】
【特殊能力進行】
チャンス
走塁
「……」
そして。
少し遅れて。
【水城玲との関係性が更新されました】
「?」
【友人】
↓
【友人・ライバル】
「……ライバル」
横を見る。
玲は。
監督から。
今日の投球を。
褒められている。
嬉しそう。
でも。
俺を見ると。
すぐ。
走ってきた。
「伊織君」
「何?」
「次も僕がピッチャー」
「いや次は俺」
「僕、今日勝ったよ」
「俺だって投げたい」
「じゃあ勝負」
「何で決める?」
「三振」
「意味分からん」
「いっぱい取った方」
「俺まだ公式戦で投げてないだろ」
「じゃあ次」
「だから俺が投げるって」
また。
言い合い。
でも。
悪くない。
むしろ。
楽しい。
俺には。
システムがある。
玲には。
異常な才能がある。
どっちが。
先に。
エースになる?
どっちが。
もっと。
強くなる?
この頃の俺は。
まだ。
全部。
競争すればいいと思っていた。
野球も。
人生も。
勝てば。
きっと。
うまくいくと。
そう。
信じていた。