転生したら人生がサクセスモードだった   作:ねるすと

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第19話

 小学校へ入ってから、もうすぐ一年が経つ。

 

 最初は硬式球を捕るだけで手が痛かった。打球の速さに驚いて、上級生の球には普通に空振りした。

 でも、毎週練習して、試合に出て、また練習する。

 そんな生活を繰り返しているうちに、俺はリトルリーグの野球にもすっかり慣れていた。

 

「成瀬! 次お前!」

「はい!」

 

 秋の大会。

 二死一、二塁。

 

 俺はバットを持って打席へ向かう。

 

【得点圏に走者がいます】

 

 最近、この表示を見る機会が増えた。

 

【特殊能力進行】

チャンス

 

 まだ取得には至っていない。

 一度や二度、得点圏で打ったくらいでは特殊能力にはならないらしい。

 

 なら、何度でも打てばいい。

 

「プレイ!」

 

 一球目。外。ボール。

 二球目。高め。ストライク。

 三球目。低い。見送る。

 

「ボール!」

 

 二ボール、ワンストライク。

 

 前世の俺なら、こういう場面で『打たなきゃ』と焦っていた気がする。

 でも今は違う。

 

 六歳の身体でも、頭の中は三十八歳まで生きた男だ。

 野球の経験だって、上手かったわけではないが十年以上ある。

 

 甘い球だけを待つ。

 

 四球目。

 真ん中。

 

「来た」

 

 振る。

 

 カキン!

 

「抜けた!」

 

 二遊間を破る。

 二塁走者が三塁を回る。

 

「回れ回れ!」

 

 送球が返ってくるより早く、走者がホームを踏んだ。

 

「セーフ!」

 

「よし!」

 

【得点圏で安打を記録しました】

【打点を記録しました】

【特殊能力《チャンス》の取得条件が進行しました】

 

 また一つ。

 でも、今の俺が積み上げているものは、それだけじゃなかった。

 

◇

 

 この一年、俺はとにかく打った。

 

 ホームランを量産しているわけじゃない。

 まだ身体は小さいし、パワーだって少年カテゴリ全体で見れば特別高くない。

 

 だから、狙ったのはヒット。

 

 センター返し。

 逆方向。

 引っ張り。

 

 ボールを芯で捉えて、野手のいないところへ飛ばす。

 

 前世で知っていた打撃の考え方と、システムで得た成長。それを六歳の身体で一つずつ形にしていった。

 

「成瀬、また打ったのか」

「はい!」

「お前ほんと一年生か?」

 

 そんなことを上級生に言われることも増えた。

 

 もちろん、毎回打てるわけじゃない。

 速い球には差し込まれる。

 身体の大きな選手の強い球には負けることもある。

 

 それでも、同学年の試合では明らかに打っていた。

 

 そして、シーズン最後の公式戦。

 

 三打数二安打。

 

 試合終了と同時に、いつもより大きな表示が開いた。

 

【今季の公式戦成績が確定しました】

 

「お」

 

【成瀬 伊織】

 

公式戦出場 18試合

打数 51

安打 21

本塁打 1

打点 13

盗塁 6

 

打率 .412

 

「……四割」

 

 自分でも最近かなり打っているとは思っていた。

 でも数字で見ると、なかなかすごい。

 

「俺、四割打者じゃん」

 

 低年齢の試合ではある。

 上級生中心の野球になれば、同じようにはいかないだろう。

 

 それでも、公式戦を一年間戦って四割を超えた。

 その結果を、システムも認めた。

 

【一定期間、高い打率を維持しました】

【安打能力に関する条件を達成しました】

 

「……!」

 

【特殊能力を取得しました】

 

【アベレージヒッター】

 

「きた!」

 

【アベレージヒッター】

ミート打ちの際、ヒット性の打球が出やすくなります。

 

 送球○に続いて、二つ目の特殊能力。

 しかも今度は打撃系。

 

「これは嬉しいな……」

 

 能力値を直接上げたわけじゃない。

 試合で打ち続けた結果、身についた能力。

 

 こういう成長もある。

 

◇

 

「伊織君」

「ん?」

 

 隣から玲が顔を覗き込んでくる。

 

「何笑ってるの?」

「今日二本打ったから」

「僕も勝った」

「投手としてだろ」

「うん」

 

 玲も今日、先発していた。

 三回を投げて無失点。

 そして五奪三振。

 

「今日何個?」

「五個」

「……多いな」

「もっと取りたかった」

「三回で五個取ってまだ言うのかよ」

「全部三振にしたい」

「守ってる俺たちいらなくなるだろ」

「打たれたら伊織君が取って」

「全部三振じゃなかったのかよ」

「打たれた時」

「保険か」

 

 玲は悪びれもせず笑っている。

 

 システムで玲を見る。

 

【水城 玲】

 

【特殊能力候補】

ノビ

奪三振

 

 やっぱり進んでいる。

 

 俺はヒットを重ねて、アベレージヒッター。

 玲は三振を重ねて、奪三振の候補。

 

 同じように野球を始めたのに、少しずつ伸びる方向が違ってきた。

 

「玲」

「なに?」

「来年、もっと三振取る?」

「うん」

「即答か」

「全部」

「それは無理だろ」

「やってみる」

「……まあ、お前なら本当にやりそうで怖い」

 

 玲が投げて、俺が守る。

 

 そんな形も、いつの間にか当たり前になり始めていた。

 

◇

 

 家に帰って、能力画面を開く。

 

【成瀬 伊織】

年齢:6歳

 

【競技カテゴリ:少年】

 

弾道 2

ミート C64

パワー D54

走力  C60

肩力  C62

守備力 C65

捕球  C60

 

【投手能力】

球速     63km/h

コントロール C69

スタミナ   D57

 

【特殊能力】

送球○

アベレージヒッター

 

「……あれ?」

 

 少し。

 不思議だった。

 

 かなり野球をやった。

 かなり試合にも出た。

 

 なのに、半年ほど前と比べれば、数値そのものは思っていたほど上がっていない。

 

 ミートもまだC。

 守備もC。

 コントロールも、あと少しでBだけどまだC。

 

「幼児の時より遅いな」

 

 当然と言えば当然なのかもしれない。

 

 能力が低かった頃は、少し練習するだけでもどんどん伸びた。

 でも今は違う。

 

 Cを一つ上げるにも、前より多くの経験が必要になっている。

 

「高くなればなるほど、上げづらくなるのか」

 

 育成ゲームなら普通の仕様だ。

 

 なのに、自分の人生になると忘れていた。

 

 ただし。

 

 数字の伸びが遅くなっても、試合では去年より明らかに活躍できている。

 

 配球を読む。

 球を見る。

 走者を見る。

 状況に応じて打つ方向を変える。

 

 そういうものは、能力値だけじゃ表しきれない。

 

 そして今日。

 

【アベレージヒッター】

 

 新しい武器も増えた。

 

「数値だけじゃないんだな」

 

 少しだけ。

 システムのことが分かった気がした。

 

◇

 

 ついでに人生能力も開く。

 

【人生能力】

 

学力 56

運動 39

容姿 48

芸術 22

社交 38

精神 65

 

「……こっちはあんまり変わらないな」

 

 野球ほどではない。

 

 当たり前だ。

 学校が終われば野球。

 休日も野球。

 

 人生能力を伸ばすようなことを、それほどしていない。

 

「まあ、まだ一年生だし」

 

 小学校だけでも、あと五年。

 中学。

 高校。

 

 時間はいくらでもあるように思えた。

 

 野球をやりながら、他も少しずつ上げればいい。

 

 この頃は、本当にそう思っていた。

 

◇

 

 翌日。

 

「伊織君」

 

 学校からの帰り道。

 詩織が俺を見る。

 

「今度の日曜日、空いてる?」

「日曜日?」

 

 予定を思い出す。

 

「午前中は野球」

「また?」

「午後は自主練しようかなって」

「……」

 

 詩織が少し黙る。

 

「何?」

「別に」

「なんかある?」

「みんなで遊びに行こうって話してたの」

「みんな?」

「クラスの子たち。伊織君も来るかなって」

「日曜か……」

 

 頭に浮かぶ。

 

【ミート C64】

 

 もう少し。

 もっと打てるようになりたい。

 

 玲も練習するって言っていた。

 

「ごめん。今回はいいや」

「……そっか」

「また今度行くよ」

「うん」

 

 詩織が笑った。

 

【藤崎詩織】

 

【好感度変動なし】

 

「……」

 

 上がらない。

 

 でも。

 下がってもいない。

 

「なら、大丈夫か」

 

 そう思った。

 

 日曜日。

 

 俺は朝から野球をした。

 

 ミートの数値は上がらなかった。

 守備も上がらなかった。

 

 でも。

 

【技術がかなり上がった】

 

 経験は、ちゃんと貯まった。

 

「よし」

 

 今すぐ数字にならなくてもいい。

 

 いつかまとめて。

 能力に変えればいい。

 

 俺はまた。

 少しだけ強くなった。

 

 その代わりに。

 

 その日、詩織たちがどこへ遊びに行って。

 どんな話をして。

 どんな思い出を作ったのか。

 

 俺は何も知らなかった。

 

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