転生したら人生がサクセスモードだった   作:ねるすと

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第2話

 夕食を食べている間も、俺の頭の中はそれどころではなかった。

「伊織、ピーマン残さないの」

「……うん」

「聞いてる?」

「きいてるー」

 母さんへ返事をしながら、視界の端へ意識を向ける。

 見たい。

 そう思っただけで、半透明の画面が現れた。

 

【成瀬 伊織】

年齢:5歳

 

【人生能力】

学力 52

運動 21

容姿 46

芸術 18

社交 31

精神 63

 

 出た。

 どうやら、いつでも好きな時に呼び出せるらしい。

 しかも他人には見えていない。

 さっき父さんの目の前でも何度か確認したが、特に反応はなかった。

「……すげえな」

「伊織?」

「ピーマンおいしい」

「今日はどうしたの?」

 危ない。

 五歳児として振る舞うのも意外と大変だ。

 

 

 夕食と風呂を終え、自分の布団へ潜り込む。

 両親からすれば、もう寝る時間。

 前世の俺からすれば、ここからが本番だった。

「さて……」

 まずは野球能力を確認する。

 

【野球能力】

《競技カテゴリ:幼児》

 

弾道  1

ミート G 10

パワー G 8

走力  F 24

肩力  F 20

守備力 G 12

捕球  G 11

 

【投手能力】

球速     36km/h

コントロール G 12

スタミナ   F 20

 

【特殊能力】

なし

 

 どう見ても、前世で散々遊んだ野球ゲームに近い。

 そして昨日のキャッチボールで得た経験も残っている。

 

【蓄積経験】

筋力 少し

敏捷 わずか

技術 かなり

精神 少し

 

「これを好きな能力に使えるんだよな……」

 試しにミートへ意識を向ける。

 

【ミート G 10】

【成長可能】

 

「おお」

 昨日やったのはキャッチボールだ。

 それなのに、ミートも成長可能になっている。

 ということは。

 練習によって筋力や技術などの経験を得て、その経験を何に使うかは俺が決められる。

 まさしく、ゲームの育成システムだ。

「じゃあミートを……いや、待て」

 まだバットすら振っていない。

 いきなりミートだけ上げても、この身体がどんな感覚になるのか分からない。

 それより。

 昨日一番困ったのは、まともに父さんへボールを返せなかったことだ。

 なら。

「コントロールだな」

 

【コントロール G 12】

【蓄積した経験を使用しますか?】

 

 はい。

 

【コントロールが上がった】

【G 12 → F 20】

 

「……一気に?」

 

 思わず身体を起こした。

 G12からF20。

 かなり上がった。

 だが、自分の腕を見ても何かが劇的に変化したようには思えない。

「どういうことだ?」

 能力表示の上にある《競技カテゴリ:幼児》へ意識を向ける。

 

【競技カテゴリ】

野球能力は、現在の年齢・競技環境を基準として評価されます。

能力ランクは同一カテゴリ内での相対評価です。

カテゴリが移行した場合、新しい基準に基づいて能力が再評価されます。

 

「……なるほど」

 つまり。

 今のコントロールF20は、プロ野球選手のF20とはまったく違う。

 五歳児として見れば、ある程度相手の近くへ投げられる。

 その程度のFだ。

 仮に今後パワーAまで上げても、五歳児がプロ野球選手みたいに百メートル飛ばすわけじゃない。

『五歳児としては、とんでもなく飛ばす』

 そういう評価なのだろう。

 さらに説明を見る。

 

【現在カテゴリ:幼児】

【次回カテゴリ:少年】

 

「上に行くたびに再評価されるのか」

 小学生になれば小学生の基準。

 中学生なら中学生。

 高校生。

 プロ。

 さらにその先。

 今どれだけ能力を高くしても、次の世界へ進めば基準そのものが上がる。

「……いいじゃん」

 思わず笑った。

 その方が面白い。

 五歳でオールSになって、そのまま一生無双。

 そんな育成ゲーム、一時間で飽きる。

 上へ行くたびに壁がある。

 そのたびにまた育てられる。

 俺は、こういうのが好きなんだ。

 

 

 次に人生能力を見る。

 

【人生能力】

学力 52

運動 21

容姿 46

芸術 18

社交 31

精神 63

 

 こちらには《幼児》という表記がない。

 詳細を開く。

 

【人生能力】

知識、経験、性質、習慣などを総合的に数値化したものです。

年齢カテゴリによる再評価はありません。

ただし年齢・肉体・社会的立場により、能力を発揮できる範囲は異なります。

 

「こっちはそのままか」

 学力52。

 精神63。

 五歳児として考えれば明らかに高い。

 だが俺には三十八年間生きた記憶がある。

 その分が反映されているのだろう。

 一方で運動21。

 いくら高校まで野球をやっていた記憶があっても、今の身体は五歳。

 だから低い。

 芸術18。

「……これは前世からだな」

 美術は昔から苦手だった。

 音楽も特別得意ではない。

 妙に納得できる。

 人生能力の上げ方を確認する。

 

【学力】

学習・読書・授業・知識に関する経験などによって成長します。

 

【運動】

身体を動かす行動・運動習慣・競技経験などによって成長します。

 

【社交】

他者との交流・集団行動・人間関係に関する経験などによって成長します。

 

「こっちは経験を振るんじゃないのか」

 野球能力とは違う。

 人生能力は、実際の生活そのものによって自然に成長するらしい。

 ゲームで言えば、コマンドを選んだ結果としてパラメータが上がっていくタイプ。

「じゃあ……人間関係は?」

 そう考えた瞬間。

 

【人物情報機能は現在ロックされています】

【解放条件を満たしていません】

 

「あるんかい」

 思わず突っ込んだ。

 好感度。

 イベント。

 恋愛。

 その辺まで本当に存在するらしい。

 胸が高鳴った。

 野球だけじゃない。

 勉強も。

 人付き合いも。

 恋愛も。

 全部育てられる。

「これなら……」

 前世ではできなかったことを。

 全部。

 今度は取りにいけるんじゃないか。

 俺には三十八年分の知識がある。

 育成ゲームの知識もある。

 そして、このシステム。

「人生攻略……か」

 悪くない。

 今度こそ。

 最高の人生にしてやる。

 そう思いながら、俺は眠りについた。

 

 

 翌朝。

「伊織ー。起きなさーい」

「……ねむい」

 中身が三十八歳でも、五歳児の身体はよく眠る。

 朝食を食べ、顔を洗い、幼稚園へ行く準備をする。

「伊織、早くしないと詩織ちゃん待たせちゃうわよ」

「……ん?」

 歯ブラシを咥えたまま止まった。

「誰?」

「誰って、詩織ちゃんよ。いつも一緒に幼稚園行ってるでしょう?」

「……しおり?」

「寝ぼけてるの?」

 母さんが笑う。

 いや。

 待て。

 詩織。

 幼馴染。

 同い年。

 ものすごく覚えのある組み合わせだ。

 玄関のチャイムが鳴った。

「おはようございます」

 女の子の声。

「ほら、来たわよ」

 恐る恐る玄関へ向かう。

 そこには、同い年くらいの少女が立っていた。

 整った顔立ち。

 年齢の割にしっかりした雰囲気。

 俺を見ると、当たり前のように微笑む。

「おはよう、伊織君」

「…………」

「どうしたの?」

「……名前、なんだっけ?」

 一瞬。

 少女の顔が固まった。

「……伊織君、ひどい」

「あ、いや」

「昨日も一緒に遊んだのに」

 母さんが呆れたように言った。

「何言ってるの。藤崎詩織ちゃんでしょう?」

 俺は固まった。

「……藤崎」

「うん」

「詩織?」

「そうだけど?」

 藤崎詩織。

 前世で知っている育成型恋愛ゲーム。

 その中でも、何でもできる男を求める最難関クラスの幼馴染。

 そして今。

 俺の人生能力には。

 学力。

 運動。

 容姿。

 芸術。

 社交。

 あまりにも見覚えのある項目が並んでいる。

「……マジか」

「また変なこと言ってる」

 その瞬間。

 

【条件を達成しました】

【重要人物との交流を確認】

【人物情報機能を解放します】

 

「……え?」

 少女の横へ、新しい表示が現れた。

 

【藤崎 詩織】

関係:幼馴染

好感度:???

恋愛条件:未解放

 

「…………」

 二度目の人生。

 どうやら。

 野球だけを育てればいいゲームではないらしい。

 

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