転生したら人生がサクセスモードだった   作:ねるすと

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第20話

 一年生として過ごす時間も、残り少なくなっていた。

 

 野球を始めた頃。

 俺は、何でもできると思っていた。

 

 いや。

 今でも、かなり本気でそう思っている。

 

 打つ。

 守る。

 走る。

 投げる。

 

 経験を貯めて、必要な能力へ使う。

 それを続ければ。

 

「エースで四番もいける」

 

 そう思っていた。

 

 

「今日は紅白戦やるぞ!」

 

 監督の声が響く。

 

「はい!」

 

 俺たちは二つのチームに分かれた。

 

 そして。

 

「先発は成瀬と水城」

 

「……!」

 

 俺。

 対。

 玲。

 

「伊織君」

 

「何?」

 

「勝負だね」

 

「そうだな」

 

 球速。

 コントロール。

 三振。

 

 何でも競ってきた。

 

 でも。

 試合で先発同士として投げ合うのは初めてだった。

 

「負けないよ」

 

「俺も」

 

 玲が笑う。

 

 俺も笑った。

 

 

 まず俺のチームが攻撃。

 

 一回表。

 

 玲がマウンドへ上がる。

 

「プレイ!」

 

 一番打者。

 

 一球目。

 ストライク。

 

 二球目。

 ボール。

 

 三球目。

 

 シュッ。

 

 ブンッ!

 

「ストライク!」

 

 そして四球目。

 

 またストレート。

 

 ブンッ!

 

「ストライク! バッターアウト!」

 

「……」

 

 いきなり三振。

 

「次、成瀬!」

 

「はい!」

 

 俺が打席へ入る。

 

「玲」

 

「なに?」

 

「打つぞ」

 

「僕が勝つ」

 

 何度目か分からない会話。

 

 一球目。

 

 外。

 

「ボール!」

 

 二球目。

 

 真ん中寄り。

 

「……!」

 

 振る。

 

 カンッ!

 

 ファウル。

 

 速い。

 

 今の玲は、俺より少し球が速い。

 

 でも。

 それ以上に。

 

 球が浮いて見える。

 

 三球目。

 

 高め。

 

 ブンッ!

 

「……!」

 

 空振り。

 

 また。

 バットが下を通った。

 

「伊織君」

 

 玲が少し笑う。

 

「三振」

 

「まだだ」

 

 二ストライク。

 

 四球目。

 

 外。

 

 見送る。

 

 五球目。

 

 低め。

 

 見送る。

 

 二ボール。

 二ストライク。

 

「……」

 

 ストレート。

 

 多分、また来る。

 

 六球目。

 

 真ん中高め。

 

「来た!」

 

 今度は最初から少し高い位置を意識する。

 

 振る。

 

 カキン!

 

「おっ!」

 

 センター前。

 

「抜けた!」

 

 ヒット。

 

 一塁へ走る。

 

 振り返ると、玲が悔しそうな顔をしていた。

 

「打ったぞ」

 

「次は三振」

 

「またそれか」

 

【水城玲との対戦結果を記録しました】

 

【ストレートへの対応経験を獲得しました】

 

「……」

 

 ただ打っただけじゃない。

 

 玲の球そのものに、少し慣れた。

 

 こういう経験も。

 多分、大きい。

 

 

 一回裏。

 

 今度は俺がマウンド。

 

【球速 63km/h】

【コントロール C69】

【スタミナ D57】

 

 球速では玲に負けている。

 

 でも。

 

 俺にはコントロールがある。

 

 一人目。

 

 一球目。

 外角。

 

「ストライク!」

 

 二球目。

 低め。

 

 ファウル。

 

 三球目。

 

 もう一度、低め。

 

 カンッ。

 

「ショート!」

 

 ゴロ。

 

 アウト。

 

 二人目。

 

 今度もストライクを先行させる。

 

 打たせる。

 

 セカンドゴロ。

 

 二アウト。

 

「……いい感じ」

 

 三人目。

 

 打者。

 

 玲。

 

「伊織君」

 

「何?」

 

「打つよ」

 

「打たせねえよ」

 

 一球目。

 

 外角。

 

 ストライク。

 

 二球目。

 

 内角。

 

 玲が振る。

 

 ファウル。

 

「追い込んだ」

 

 三振。

 

 一瞬。

 頭に浮かぶ。

 

 でも。

 

 以前、それを意識しすぎて崩れた。

 

 今度は。

 

 ちゃんと。

 自分の球を投げる。

 

 三球目。

 

 低め。

 

 投げる。

 

 カンッ!

 

「あ」

 

 レフト前。

 

 ヒット。

 

 玲が一塁からこっちを見る。

 

「打った」

 

「見れば分かる」

 

「僕の勝ち?」

 

「まだ試合終わってない」

 

 玲が嬉しそうに笑う。

 

 ……腹立つな。

 

 

 試合は進む。

 

 俺は打たせて取る。

 

 二回。

 

 被安打一。

 無失点。

 

 三回。

 

 走者二塁。

 

 一死。

 

 初めてのピンチ。

 

「成瀬!」

 

「はい!」

 

「無理に三振いらないぞ!」

 

「はい!」

 

 分かっている。

 

 一球目。

 ストライク。

 

 二球目。

 ボール。

 

 三球目。

 

 打者が振る。

 

 カンッ!

 

「ショート!」

 

 ゴロ。

 

 一塁アウト。

 

 走者は三塁へ。

 

 二死。

 

「……」

 

 あと一人。

 

 一球目。

 ファウル。

 

 二球目。

 ボール。

 

 三球目。

 ストライク。

 

 追い込んだ。

 

 今度は。

 

 三振。

 

 少しだけ。

 欲しい。

 

 でも。

 力まない。

 

 外角低め。

 

 狙ったところへ。

 

 投げる。

 

 シュッ。

 

 打者が振る。

 

 ブンッ!

 

「ストライク! バッターアウト!」

 

「よしっ!」

 

 初めて。

 

 試合の中で。

 狙って取った三振。

 

【奪三振を記録しました】

 

【投球経験を獲得しました】

 

 嬉しい。

 

 でも。

 

 その裏で。

 

 

 玲は。

 

 二回で三奪三振。

 

 三回でさらに二つ。

 

「……五個」

 

 俺。

 

 一個。

 

 玲。

 

 五個。

 

「多いな……」

 

 ベンチで呟く。

 

「何が?」

 

 今日は詩織が応援に来ていた。

 

「玲の三振」

 

「すごいね」

 

「すごい」

 

 これは。

 普通に認めるしかない。

 

「伊織君も三振取ったでしょ?」

 

「一個だけ」

 

「でも取ったよ」

 

「……まあ」

 

 詩織が笑う。

 

「伊織君って、負けるの嫌いだよね」

 

「別に」

 

「嫌いでしょ?」

 

「……嫌い」

 

「知ってる」

 

 また笑う。

 

 何で分かるんだよ。

 

 

 四回。

 

 俺も玲もマウンドを降りた。

 

 年齢。

 球数。

 身体。

 

 無理はさせない。

 

 結局。

 

 俺。

 

 三回。

 失点ゼロ。

 奪三振一。

 

 玲。

 

 三回。

 失点ゼロ。

 奪三振五。

 

 試合はその後、三対二。

 

 俺のチームが勝った。

 

「やった!」

 

 チームとしては。

 俺の勝ち。

 

 でも。

 

 

 試合後。

 

「伊織君」

 

「何?」

 

「どっちがエース?」

 

「……」

 

「今日勝ったの俺のチーム」

 

「でも僕、三振五個」

 

「俺も無失点」

 

「僕も」

 

「……」

 

 平行線。

 

「引き分け」

 

「やだ」

 

「なんでだよ」

 

「勝ちたい」

 

「俺だって」

 

 監督が横で笑う。

 

「お前ら、まだ一年生だぞ」

 

「でも」

 

 玲が監督を見る。

 

「エースになりたい」

 

「俺もです」

 

 俺も続く。

 

「そうか」

 

 監督が少し考える。

 

「じゃあ二人とも頑張れ」

 

「どっちですか?」

 

「今決める必要ないだろ」

 

「……」

 

 正論。

 

 でも。

 納得しづらい。

 

「ただな」

 

 監督が俺たちを見る。

 

「二人はタイプが違う」

 

「タイプ?」

 

「成瀬はストライクを取れる。試合を作れる」

 

「はい」

 

「水城はまだ荒い。でも、打者が空振りする球を持ってる」

 

「……」

 

 それは。

 俺も知っている。

 

 玲のストレート。

 

 速いだけじゃない。

 

「どっちがいい投手かなんて、今決めなくていい」

 

 監督が笑う。

 

「違う強みがあるんだからな」

 

「……はい」

 

 少し。

 

 だけ。

 

 納得した。

 

 

 その日の夜。

 

【紅白戦結果】

 

【投手成績】

3回

失点0

奪三振1

 

【投球経験を獲得しました】

 

【技術がかなり上がった】

【精神がかなり上がった】

 

【特殊能力進行】

低め○

 

「お」

 

 まだ取得ではない。

 

 でも。

 

 投手としての経験も。

 ちゃんと積み上がっている。

 

 そして。

 

 玲。

 

【水城玲】

 

【一定期間、ストレートで高い空振り率を記録しました】

 

【特殊能力候補】

ノビ

 

【取得条件が大きく進行しました】

 

「……」

 

 まだ。

 

 正式取得ではない。

 

 でも。

 

 俺より。

 明らかに。

 

 投手らしい能力が。

 育っている。

 

「負けられねえな」

 

 打撃も。

 

 守備も。

 

 投手も。

 

 全部。

 

 俺は。

 

 まだ。

 

 何も捨てるつもりはなかった。

 

 

 そして。

 

 三月。

 

 俺たちは一年生を終えた。

 

【成瀬 伊織】

年齢:7歳

 

【競技カテゴリ:少年】

 

弾道 2

ミート C66

パワー D56

走力  C62

肩力  C64

守備力 C66

捕球  C61

 

【投手能力】

球速     65km/h

コントロール B70

スタミナ   C60

 

【特殊能力】

送球○

アベレージヒッター

 

「……」

 

 一年前。

 

 少年カテゴリに上がった直後は。

 DやEが中心だった。

 

 今は。

 

 Cが並ぶ。

 

 そして。

 

 コントロールだけ。

 ようやくB。

 

「一年でこれか」

 

 幼児期みたいに。

 

 どんどん数字が上がるわけじゃない。

 

 でも。

 

 試合では。

 

 去年よりずっと打てる。

 

 守れる。

 

 投げられる。

 

 能力値以外の部分も。

 少しずつ。

 増えている。

 

「あと五年」

 

 少年カテゴリ。

 

 まだ。

 

 五年もある。

 

 オールA。

 

 届く。

 

 まだ。

 

 本気でそう思っていた。

 

「伊織君!」

 

 外から玲の声。

 

「野球しよう!」

 

「今行く!」

 

 画面を閉じる。

 

 春。

 

 もうすぐ二年生。

 

 俺はまだ。

 

 エースも。

 

 四番も。

 

 ショートも。

 

 全部。

 

 手に入れるつもりだった。

 

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