転生したら人生がサクセスモードだった   作:ねるすと

23 / 37
第23話

 夏の大会、決勝。

 相手は、ここまでで一番強いチームだった。身体も大きい。打球も速い。守備も上手い。とはいえ、まだ低学年中心の大会だ。今の俺たちなら十分に勝負できる。

「プレイ!」

 先発は玲。

 一回表。先頭打者への初球はストライク。二球目。

 カキン!

「センター!」

 いきなりヒット。

「……」

 いつもの相手なら空振りしていた球だった。それを普通に打ち返してきた。

「玲!」

「大丈夫!」

 二番は送りバント。一死二塁。三番は最後にストレートで三振。そして四番。

「……でかいな」

 同じ小学生でも身体つきが違う。

 三球目。

 カキィン!

「ショート!」

 俺の右。追いついてグローブを出す。

「っ!」

 触った。でも弾いた。

 すぐに拾って一塁へ投げる。

「セーフ!」

 その間に二塁走者がホームへ。

「セーフ!」

 〇対一。

 取れた。いや、取りたかった。

「伊織君!」

「ん?」

「次!」

「……おう!」

 いつも俺が玲に言っていた言葉を、今日は玲に言われた。

 

 

 一回裏。二死一塁。俺の第一打席。

 相手投手も三年生。球速だけなら特別速いわけじゃない。でもコントロールがいい。

 一球目は外。二球目はストライク。三球目は内角。

「……!」

 振る。

 カキン!

 三遊間。

「抜けろ!」

 サードが飛びつく。

「……!」

 捕った。

 一塁へ送球。

「アウト!」

「うわ……」

 いい当たりだった。でもアウト。

 今までならヒットになっていたような打球を、普通に止めてくる。

「守備もうまいな」

 決勝まで来るだけある。

 

 

 三回。〇対二。

 玲はもう一点を失っていた。それでも崩れない。

「ストライク! バッターアウト!」

 今日五つ目の三振。

 ベンチへ戻ってきた玲が、少し俯いた。

「ごめん」

「何が?」

「二点取られた」

「まだ二点だろ」

「でも」

「取り返す」

「伊織君が?」

「俺だけじゃない。みんなで」

 玲が少し笑った。

「うん」

 

 

 三回裏。一死二、三塁。俺の第二打席。

【得点圏に走者がいます】

【特殊能力《チャンス》取得条件進行中】

 二点差。ここで一本。

 一球目はボール。二球目は外角ストライク。三球目は低めのボール。ワンストライク、ツーボール。

 四球目。

 真ん中。

「来た!」

 振る。

 カキン!

「センター!」

 打球が前へ落ちる。

「回れ!」

 三塁走者がホーム。二塁走者も三塁を回る。

 送球。

「セーフ!」

 二対二。

「よし!」

【得点圏で安打を記録しました】

【複数試合にわたり、得点圏で高い結果を記録しました】

【特殊能力取得条件を達成しました】

【チャンス○を取得しました】

「きた……!」

【チャンス○】

得点圏に走者がいる際、打撃能力を発揮しやすくなります。

 三つ目の特殊能力。

 嬉しい。

 でも今は、それよりも試合が振り出しに戻ったことの方が大きかった。

 

 

 五回。二対二。

 玲はまだマウンドにいた。

 一死一塁。

「水城! この打者までな!」

「はい!」

 相手は四番。

 一球目、ストライク。二球目、ファウル。ツーストライク。

 三球目。

 玲が投げる。

 ブンッ!

「ストライク! バッターアウト!」

「よし!」

 今日七つ目。

 強い相手でも、玲のストレートは普通に空振りを取る。

「ナイス玲!」

「伊織君!」

 玲が笑いながらマウンドを降りる。

 五回途中、二失点、七奪三振。

 十分。いや、かなりすごい。

 

 

 最終回。三対三。二死二塁。

 俺の第三打席。

【チャンス○】

 さっき取ったばかり。

 一球目は外。二球目は内角をファウル。三球目は低めのボール。四球目は高めを見送る。

 ワンストライク、スリーボール。

「歩いてもいいぞ!」

 ベンチから声が飛ぶ。次の打者も今日打っている。なら無理する必要はない。

 五球目。

 真ん中。

 甘い。

「これは!」

 振る。

 カキン!

 右中間。

「抜けた!」

 二塁走者がホームへ。

「セーフ!」

 四対三。

 勝ち越し。

「よし!」

【得点圏で安打を記録しました】

【チャンス○の効果を確認しました】

 取ったばかりの能力が、すぐ試合で役に立つ。

 気持ちいい。

 でも。

 野球は、俺一人で終わるゲームじゃない。

 

 

 最終回裏。一死一、二塁。

 マウンドは玲から代わった投手。俺はショート。

 一点差。

「守れ!」

「はい!」

 相手四番。

 三球目。

 カキィン!

「……!」

 三遊間。

 俺の左。

「取れ!」

 走る。飛ぶ。グローブを伸ばす。

 あと少し。

 届かない。

 センター前。

「回れ!」

 二塁走者がホーム。

「セーフ!」

 四対四。一塁走者は三塁へ。

 次の打者。

 外野フライ。

「タッチアップ!」

 送球。

 ホーム。

「セーフ!」

 四対五。

「ゲームセット!」

「……」

 終わった。

 

 

「ありがとうございました!」

 整列して頭を下げる。

 準優勝。

 負けた。

 俺は二本のタイムリーで三打点。チャンス○も取った。

 玲は七奪三振。

 それでも負けた。

 ベンチに戻ってから、しばらく誰も喋らなかった。

「伊織君」

「ん?」

「僕、七個取った」

「うん」

「伊織君、三点取った」

「うん」

「でも負けた」

「……そうだな」

 玲が不思議そうにスコアボードを見る。

「もっと三振取ればよかった?」

「違うと思う」

「じゃあ伊織君がもっと打つ?」

「それも違う」

「じゃあ何?」

「……」

 答えられない。

 野球は、一人で全部できる競技じゃない。

 そんなこと、前世から知っていたはずなのに。

 システムを手に入れてから、どこかで思っていたのかもしれない。

 自分が全部できれば、全部解決できると。

「……みんなで強くなるしかないんじゃない?」

「みんな?」

「うん」

「じゃあ、みんなで練習する」

「……そうだな」

 玲の答えは、いつも単純だった。

 

 

 大会が終わった翌日。

「伊織君」

「ん?」

「約束、覚えてる?」

「……覚えてるよ」

「今ちょっと間があった」

「気のせい」

 危なかった。

 詩織と遊ぶ約束。

 負けた悔しさで、朝から素振りでもしようかと思っていたところだった。

「で、何する?」

「図書館行きたい」

「図書館?」

「うん。そのあと公園」

「それ遊びなの?」

「遊びです」

「そうですか」

 詩織が笑う。

 図書館では詩織が音楽の本を読み、俺は横で野球の本を読んだ。公園に移ってからは、久しぶりに野球とは関係のない話をした。

「伊織君、昨日負けたんだよね」

「……うん」

「悔しい?」

「めちゃくちゃ」

「そっか」

「でも次は勝つ」

「また野球」

「悪いかよ」

「悪くないよ」

 詩織は少し考えてから言った。

「でも今日、ちゃんと来てくれたから」

「約束したし」

「うん」

 その言葉に、少しだけ胸を張る。

【藤崎詩織の好感度が少し上がりました】

 野球で負けた。

 でも詩織との約束は守った。

 どっちもやれる。

 この時は、まだそう思えた。

 

 

 その後も秋、冬と試合と練習を重ねた。

 能力値は以前ほど簡単には上がらなくなった。それでも、打席での判断、守備の一歩目、投球の組み立て。数字に出ない部分まで少しずつ変わっていく。

 そして、二年生の終わり。

【成瀬 伊織】

年齢:8歳

【競技カテゴリ:少年】

弾道 2

ミート B70

パワー C61

走力  C65

肩力  C67

守備力 B70

捕球  C64

【投手能力】

球速     71km/h

コントロール B74

スタミナ   C65

【特殊能力】

送球○

アベレージヒッター

チャンス○

「……Bが二つ」

 ミートと守備。

 少年カテゴリ全体でB。

 能力値の上がり方は、もう昔ほど速くない。でも試合では、去年より明らかに強くなっている。

 そして玲も、この冬に七十五キロを超えた。

 球速差は、まだ数キロ。

「追いつける」

 そう思っていた。

 三年生。八歳。

 少年カテゴリ、三年目。

 ここから俺たちの野球は、少しずつ低学年の範囲からはみ出し始めることになる。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。