転生したら人生がサクセスモードだった   作:ねるすと

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第24話

 三年生になった。八歳。リトルリーグに入って三年目。

 そして最近、俺には一つ気になることがあった。

「玲、もう一球!」

「うん!」

 放課後。いつもの公園で、俺が捕手役になって玲の球を受ける。

 シュッ!

 パシンッ!

「……」

 速い。

「どう?」

「もう一球」

「うん」

 玲が振りかぶる。

 シュッ!

 パシンッ!

「……」

 やっぱり。

「伊織君?」

「もう一球」

「また?」

「いいから」

 三球目。

 シュッ!

「っ!」

 ミットが少し押される。

「……なんだこれ」

「なに?」

「いや」

 球速だけじゃない。

 それは、ずっと前から分かっていた。でも最近、その違いがさらに分かりやすくなってきた。

 

◇

 

 家に帰ってから、玲の投球をシステムで確認する。

【水城玲の解析情報】

【ストレート】

球速:70km/h台後半

回転量:非常に多い

回転効率:非常に高い

軌道:通常より落下が少ない

【特殊能力候補】

ノビ

奪三振

「……」

 俺の球速は七十キロ台前半。数字だけなら、そこまで大きな差じゃない。

 でも玲の球は、明らかに数字以上に速く感じる。

 システムが玲に何かを与えているわけじゃない。現実に投げている玲の球を、俺に分かる形で解析しているだけだ。

「玲」

「なに?」

「今度、打たせて」

「いいよ」

 受けるのと、打つのでは違う。実際に打席へ立てば、もっと分かるはずだ。

 

◇

 

 週末。フリー打撃。

「水城、無理に全力で投げんなよ」

「はい!」

「成瀬もムキになるなよ」

「はい!」

「特にお前な」

「なんで俺だけ……」

 打席へ入る。

「玲」

「なに?」

「ストレートだけでいい」

「分かった」

 変化球なんて、まだほとんど必要ない。真っ直ぐだけ。

「いくよ」

「来い」

 一球目。

 シュッ!

「……!」

 振る。

 ブンッ!

 空振り。

「……」

 バットがボールの下を通った。

「もう一球」

 二球目。今度は最初から少し上を意識する。

 カンッ!

 ファウル。

 当たった。でも差し込まれた。

 三球目。玲が少し笑っている。

「何笑ってんだ」

「楽しい」

「こっちは結構真剣なんだけど」

「僕も真剣」

「その顔で言うな」

 シュッ!

「……っ!」

 振る。

 カキン!

 センター方向。

「よし!」

 今度は捉えた。でも思ったほど打球が伸びない。

 その後も続けて、全部で十球。安打性の当たりが三本。ファウルが三本。そして空振りが四つ。

「四回……」

 俺はミートB70。アベレージヒッターも持っている。

 少年カテゴリ全体で見ても、かなり打てる方だ。普通の同年代相手なら、ストレートだけと分かっていて四回も空振りすることなんて、まずない。

「伊織君」

「何?」

「僕の勝ち?」

「十球勝負じゃない」

「でも四回空振り」

「数えるな」

「嬉しい」

「……」

 悪気がないから余計に腹が立つ。

 

◇

 

「成瀬」

 後ろから監督に呼ばれた。

「はい」

「どうだった?」

「速いです」

「それだけ?」

「……思ってるより、球が落ちてこないです」

「だな」

「監督も分かるんですか?」

「そりゃ見てればな」

 監督が玲を見る。

「水城は真っ直ぐがいい。球速もあるが、それだけじゃない。回転がきれいなんだろうな。打者が思ってる軌道より上を通ってくる」

「……」

 システムの解析と、ほとんど同じことを言っている。

「成瀬」

「はい」

「逆に、お前は何が一番いいと思う?」

「俺ですか?」

「ああ」

「……コントロール?」

「投手としてならな」

「なら?」

 監督が少し笑う。

「お前は野手やってる時の方が面白い」

「……」

「打つ。守る。走る。全部できる。特にショートは、同学年じゃもうかなり抜けてるだろ」

「ピッチャーは?」

「十分うまい」

「十分……」

「悪い意味じゃないぞ。水城と同じものを持ってるわけじゃないって話だ。逆に、水城が今のお前と同じショート守備できるわけでもない。同じ選手になる必要はない」

「……はい」

 分かる。言っていることは分かる。

 でも、同じ年に生まれて、同じ頃に野球を始めて、ずっと一緒にやってきた。

 なら、同じ場所でも勝ちたい。

 まだ、この頃の俺はそう思っていた。

 

◇

 

 春の大会初戦。

「先発、水城」

「はい!」

「四番、ショート。成瀬」

「はい!」

 もう、この形には慣れてきた。

 一回。玲は三者凡退。二奪三振。

 二回。三奪三振。

 三回。さらに一つ。

「……三回で六個」

 アウト九つのうち六つが三振。

 普通の同年代の打者では、玲のストレートにまともに当たらない。速い。でも、それ以上にバットが下を通る。

 

◇

 

 一回裏。一死二塁。俺の第一打席。

 一球目は外。二球目はストライク。三球目。

 甘い。

「……!」

 振る。

 カキィン!

 左中間。

「抜けた!」

 二塁走者がホームへ。俺は二塁まで進む。

「セーフ!」

【得点圏で長打を記録しました】

【チャンス○の効果を確認しました】

 俺も打つ。

 玲みたいに、分かりやすく三振を積み上げるわけじゃない。でも試合を重ねるほど、相手チームが俺の打席で守備位置を変えるようになった。

「成瀬だぞ!」

「外野ちょっと下がれ!」

「四番警戒!」

 八歳。

 それなのに、相手ベンチに名前を覚えられている。

 

◇

 

 大会を勝ち進んだ。

 準々決勝。俺は三打数二安打。玲は四回七奪三振。

 準決勝。俺は四打数三安打、二打点。玲は四回八奪三振。

 普通の相手なら、もう俺たちはかなり目立つ。

 その頃、学校でも少しだけ変化があった。

「伊織君、また勝ったんでしょ?」

 帰り道、詩織が聞いてくる。

「勝ったよ」

「玲君、またいっぱい三振取ったって聞いた」

「誰から聞いたんだよ」

「玲君のお母さん」

「情報早いな……」

 詩織が笑う。

「伊織君も打った?」

「三本」

「ホームラン?」

「一本もない」

「じゃあ残念?」

「いや、勝ったからいい」

「へえ」

「何だよ」

「前だったらホームラン打ちたかったって言いそう」

「……俺も成長してるんだよ」

「野球だけ?」

「それどういう意味?」

「さあ?」

 詩織は楽しそうに先を歩いていく。

 前なら気にしなかったような一言が、少しだけ引っかかった。

 でも、その週末には決勝がある。

 俺の意識は、すぐに野球へ戻った。

 

◇

 

 決勝。

「先発、水城」

「はい!」

「成瀬はショート、四番」

「はい!」

 監督が俺を見る。

「守備で水城を助けてやれ」

「……はい!」

 ピッチャーとして頼られるのは玲。

 野手として頼られるのは俺。

 その違いが、少しずつはっきりしてきていた。

 

◇

 

 試合は三対一で最終回。

 二死一塁。

 玲が最後の打者と向き合う。

 一球目、ストライク。二球目、ファウル。ツーストライク。

 三球目。

 玲が腕を振る。

 シュッ!

 打者も振る。

 ブンッ!

「ストライク! バッターアウト!」

「ゲームセット!」

「……!」

 優勝。

「勝った!」

 全員がグラウンドへ飛び出す。玲も両手を上げる。

「伊織君!」

「玲!」

「優勝!」

「おう!」

「今日九個!」

「知ってる!」

「あと一個で十だった!」

「そこかよ!」

 笑う。

 去年の夏、決勝で負けた。

 今年は勝った。

 だから純粋に嬉しかった。

 

◇

 

 表彰。

「優秀選手、水城玲!」

「はい!」

 玲が前へ出る。

 拍手。

 俺も手を叩く。

 当然だと思った。決勝でも、大会全体でも、玲は圧倒的に三振を取った。

 でも胸の奥に、少しだけ何かが引っかかる。

 羨ましい。

 俺も、そこに立ちたい。

「次は俺も」

 小さく呟いた。

 

◇

 

 その夜。

【水城玲の解析情報】

球速 80km/h

【ストレート】

回転量:非常に多い

回転効率:非常に高い

軌道:通常より落下が少ない

【解析情報が更新されました】

【特殊能力:ノビC】

「……ついに」

 ずっと候補として表示されていた特徴が、正式にノビCとして認識された。

 もちろん、システムが玲に能力を与えたわけじゃない。

 玲が現実に投げ続けた結果、そのストレートがノビCと評価されるところまで来たということだ。

【ノビC】

ストレートが球速以上に速く感じられます。

 八歳。

 まだ身体だって、これから大きくなる。

 それなのに、もうストレートそのものにはっきりした武器がついている。

「俺は……」

 自分の投手能力を見る。

【成瀬 伊織】

球速     74km/h

コントロール B76

スタミナ   C67

 投手として十分強い。普通の同年代相手なら、俺だってかなり抑えられる。

 でも玲を見ると、足りないと思ってしまう。

「もっと……」

 球速を上げたい。

 打撃も。守備も。投手も。

 全部。

 俺はまだ、何一つ諦めるつもりなんてなかった。

 

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