メジャー組へ上がって。
二か月。
最初こそ。
上級生の身体の大きさには驚いた。
でも。
結論から言えば。
俺は。
普通に通用した。
というより。
「成瀬! また打ったぞ!」
「四年だよな、あいつ?」
「ショートも上手すぎるだろ……」
思っていた以上に。
通用した。
◇
【成瀬 伊織】
年齢:9歳
【競技カテゴリ:少年】
弾道 3
ミート B74
パワー C66
走力 B70
肩力 B72
守備力 B75
捕球 C69
【投手能力】
球速 80km/h
コントロール B78
スタミナ B70
【特殊能力】
送球○
アベレージヒッター
チャンス○
最初。
俺は。
少年カテゴリのBを。
少し勘違いしていた。
B。
かなり優れている。
それは。
『同年代では上手い』
くらいじゃない。
六歳から十二歳まで。
全部を含めた少年カテゴリで。
かなり優れている。
つまり。
九歳の俺でも。
普通の六年生より。
打てる。
守れる。
走れる。
こともある。
実際。
メジャー組へ上がってから。
練習試合では。
六年生の球を普通に打った。
三遊間の深い位置から。
六年生の走者を刺した。
盗塁も決めた。
五年生相手なら。
「また成瀬かよ」
なんて。
嫌そうな顔をされることすらある。
そして。
玲は。
もっと分かりやすかった。
◇
「ストライク! バッターアウト!」
「……また?」
六年生。
三振。
「水城の球、なんか打ちづらいんだよ」
「速さだけじゃないよな?」
「上振ってるつもりなのに下になる」
玲。
九歳。
球速。
八十五キロ前後。
六年生のトップ投手と比べれば。
球速だけなら。
まだ上がいる。
でも。
【水城 玲】
【ストレート】
回転量:非常に多い
回転効率:非常に高い
軌道:通常より落下が少ない
【特殊能力】
ノビC
球質。
これが。
おかしい。
普通の六年生なら。
ストレートだけと分かっていても。
普通に空振りする。
「水城!」
「はい!」
「今度は変化球なしな!」
「まだほとんど投げてないです!」
「……そうだった」
そんな会話が。
本気で起きる。
俺たちは。
四年生。
でも。
もう。
普通の上級生を。
目標にはしていなかった。
◇
だから。
少し。
調子に乗っていたのかもしれない。
「今週の練習試合、相手かなり強いからな」
監督が言った。
「強い?」
玲が反応する。
「ああ」
「どのくらい?」
「昨年の全国大会ベスト8」
「……」
俺。
少し。
止まる。
「全国?」
「そうだ」
監督が。
俺たちを見る。
「今年も全国優勝候補の一つだ」
「……」
なるほど。
それは。
強い。
「特に六年生の世代は評判がいい。エースも四番も、県内じゃかなり有名だ」
玲。
目。
輝く。
「伊織君」
「何?」
「楽しみ」
「だと思ったよ」
俺も。
口元が。
少し緩む。
「俺も」
普通の六年生には。
通用する。
じゃあ。
全国トップクラスの六年生には?
今の俺は。
どこまで。
やれる?
◇
試合当日。
相手の練習を。
見た瞬間。
「……あ」
違う。
分かった。
すぐに。
カキィン!
六年生。
打球。
レフト。
そのまま。
フェンスを越える。
「……」
次。
カキィン!
右中間。
鋭い。
外野手の間を。
一瞬で抜ける。
さらに。
守備。
ショート。
三遊間。
深い。
普通なら。
内野安打。
そこから。
シュッ!
「アウト!」
「……肩強」
ただ。
身体が大きい。
だけじゃない。
上手い。
一つ一つの。
動作が。
速い。
「伊織君」
「ん?」
「ピッチャー」
「見てる」
マウンド。
六年生。
相手のエース。
投げる。
シュッ!
パシン!
「……速っ」
スピードガン。
「百五キロ!」
「……」
百五。
六年生。
玲。
目。
さらに輝く。
「僕も投げたい」
「今のお前と二十キロ差あるぞ」
「うん」
「怖くない?」
「なんで?」
「そうだった。お前そういう奴だった」
でも。
俺は。
少し。
緊張した。
百五キロ。
今まで。
試合で。
まともに対戦したことのない球速。
しかも。
全国クラス。
速いだけじゃない。
コントロールも。
悪くない。
「……なるほど」
これが。
少年カテゴリの。
トップ。
◇
「スタメン発表するぞ!」
監督。
「八番、ショート、成瀬」
「はい!」
八番。
普通なら。
四番。
低学年では。
ずっと。
中心。
でも。
今日。
相手は。
全国ベスト8。
こっちも。
六年生中心。
俺は。
四年生。
それでも。
スタメン。
ショート。
「水城はベンチスタート」
「はい!」
「展開見て投げてもらう」
「はい!」
玲。
少し。
残念そう。
「先発したかった?」
「うん」
「全国ベスト8相手だぞ」
「だから」
「……なるほど」
こいつ。
本当に。
変わらない。
◇
一回。
守備。
相手。
一番打者。
六年生。
初球。
カキン!
「ショート!」
「……!」
正面。
速い。
でも。
取れる。
腰。
落とす。
捕る。
握り替え。
一塁。
シュッ!
「アウト!」
「よし!」
普通に。
取れた。
俺の守備。
B75。
全国クラス相手でも。
正面のゴロなら。
問題ない。
でも。
二番。
カキィン!
「……!」
三遊間。
速い。
走る。
追いつく。
逆シングル。
「っ!」
捕った。
そのまま。
送球。
【送球○】
シュッ!
一塁。
「セーフ!」
「……!」
間に合わない。
俺。
悪くない。
むしろ。
かなりいいプレー。
でも。
走者。
速い。
「成瀬!」
「はい!」
「今のでいい!」
「はい!」
悔しい。
今まで。
上級生相手でも。
あれなら。
かなりアウトにできた。
でも。
全国クラス。
少し。
違う。
◇
三番。
ヒット。
一、二塁。
そして。
四番。
「……でかいな」
六年生。
身体。
もう。
中学生みたいだ。
一球目。
ボール。
二球目。
ストライク。
三球目。
カキィン!
「っ!」
打球。
三遊間。
俺。
反応する。
「届く!」
飛び込む。
グローブ。
触った。
でも。
弾かれる。
「くっ!」
ボール。
レフト前。
二塁走者。
ホーム。
「セーフ!」
一点。
「……」
今の。
低学年なら。
止めていた。
普通の上級生相手でも。
かなり取れる。
でも。
打球が。
強すぎた。
「これが……」
全国トップクラス。
Bでも。
無双できない。
相手も。
それだけ。
高いレベルにいる。
◇
二回。
俺の。
第一打席。
相手。
六年生エース。
百五キロ。
「お願いします!」
打席。
構える。
一球目。
投げる。
シュッ!
「……!」
パシン!
「ストライク!」
「速……」
見えた。
でも。
身体。
動かなかった。
二球目。
今度は。
早めに。
準備。
シュッ!
「っ!」
振る。
ブンッ!
「ストライク!」
「……」
遅い。
完全に。
差し込まれている。
二ストライク。
「……すげえな」
ちょっと。
笑う。
楽しい。
三球目。
外。
ボール。
四球目。
高め。
「っ!」
カンッ!
ファウル。
「当たった!」
押されてる。
でも。
当たる。
五球目。
低め。
ボール。
六球目。
外角。
速い。
「……!」
振る。
ブンッ!
「ストライク! バッターアウト!」
「……」
三振。
普通に。
三振した。
◇
ベンチ。
「伊織君」
「何?」
「三振」
「見てたから知ってる」
「速かった?」
「めちゃくちゃ速い」
「打ちたい」
「だと思った」
「僕も投げたい」
「そっちもかよ」
でも。
俺。
少し。
嬉しかった。
「玲」
「なに?」
「全国ってすごいな」
「うん」
「俺、普通に三振した」
「うん」
「二回言うな」
でも。
これ。
欲しかった。
俺が。
本気で。
上を目指すための。
基準。
◇
四回。
第二打席。
また。
同じ投手。
一打席目。
六球。
見た。
タイミング。
球速。
軌道。
少し。
頭に残っている。
【上位能力投手との対戦経験を確認しました】
一球目。
ストレート。
見送る。
「ストライク!」
速い。
でも。
さっきより。
見える。
二球目。
ボール。
三球目。
内角。
「……!」
振る。
カキン!
ファウル。
詰まった。
でも。
当たった。
四球目。
外。
ボール。
五球目。
真ん中低め。
「そこ!」
振る。
カキィン!
「……!」
センター方向。
強い。
「抜けろ!」
セカンド。
横っ飛び。
グローブ。
「……!」
止めた。
起きる。
一塁。
「アウト!」
「くそ!」
アウト。
でも。
しっかり。
捉えた。
「成瀬!」
監督。
「今のいいぞ!」
「はい!」
次。
打てる。
そう。
思った。
◇
五回。
〇対四。
「水城!」
「はい!」
「行くぞ!」
「はい!」
玲。
ついに。
マウンド。
「玲」
「なに?」
「全国だぞ」
「うん!」
「楽しそうだな」
「うん!」
「じゃあ行ってこい」
「うん!」
玲。
投げる。
一人目。
六年生。
一球目。
ストレート。
ブンッ!
「……!」
空振り。
全国クラス。
それでも。
空振る。
二球目。
ファウル。
三球目。
ボール。
四球目。
ストレート。
ブンッ!
「ストライク! バッターアウト!」
「……」
一人目。
三振。
「やっぱおかしいわ」
全国。
相手でも。
玲の球質。
通用する。
でも。
二人目。
一球目。
ファウル。
二球目。
ボール。
三球目。
甘く入る。
カキィン!
「……!」
右中間。
速い。
抜ける。
二塁打。
「玲!」
「うん!」
今まで。
普通の六年生なら。
空振りしていた高さ。
全国クラス。
甘ければ。
逃さない。
「……」
玲。
少し。
驚いた顔。
そして。
笑った。
「なんで笑ってんだよ」
多分。
嬉しいんだ。
自分の球を。
本気で。
打ってくる相手。
だから。
◇
三番。
ヒット。
一、三塁。
四番。
さっき。
俺のグローブを弾いた。
六年生。
玲。
ストレート。
ファウル。
二球目。
ボール。
三球目。
また。
ストレート。
カキィン!
「ショート!」
「来た!」
正面。
強い。
でも。
今度は。
捕る。
二塁へ。
「アウト!」
一塁。
間に合わない。
その間に。
三塁走者。
ホーム。
〇対五。
玲。
失点。
「……」
でも。
崩れない。
次。
ストレート。
空振り。
ファウル。
そして。
最後。
高め。
ブンッ!
「ストライク! バッターアウト!」
二つ目。
次。
内野ゴロ。
三アウト。
玲。
一回。
一失点。
二奪三振。
全国トップクラスの。
六年生相手。
それでも。
二つ。
三振。
「……十分バケモンだろ」
◇
最終回。
〇対五。
二死。
俺。
三打席目。
相手エース。
まだ。
投げている。
一打席目。
三振。
二打席目。
セカンドゴロ。
「……今度こそ」
一球目。
外。
ボール。
二球目。
ストライク。
三球目。
ファウル。
四球目。
低め。
ボール。
二ボール。
二ストライク。
最初より。
見える。
間違いなく。
見える。
五球目。
真ん中高め。
「そこ!」
振る。
カキィン!
「……!」
打球。
右中間。
速い。
外野。
追う。
でも。
その前。
落ちる。
「よし!」
一塁。
回る。
二塁。
「セーフ!」
ツーベース。
「……打った」
全国トップクラス。
六年生エース。
百キロを超える球。
そこから。
一本。
取った。
「……!」
嬉しい。
ホームランを。
打った時とは。
また。
違う。
何か。
壁に。
爪をかけたような。
そんな。
感覚。
【全国上位レベルの投手から長打を記録しました】
【技術がかなり上がった】
【高レベル対戦への適応経験を獲得しました】
「……」
能力値。
変わらない。
【ミート B74】
それでも。
最初の俺と。
今の俺。
同じじゃない。
◇
試合。
一対五。
負け。
俺。
三打数一安打。
一二塁打。
玲。
一回。
一失点。
二奪三振。
帰り道。
「伊織君」
「ん?」
「全国、強かった」
「強かったな」
「僕、打たれた」
「打たれたな」
「でも三振取れた」
「二個な」
「うん」
玲。
少し笑う。
「伊織君も打った」
「一本だけな」
「でも打った」
「……そうだな」
全国トップクラス。
相手。
俺たちは。
まだ。
勝てない。
でも。
何もできないわけじゃない。
「玲」
「なに?」
「追いつこうぜ」
「全国に?」
「うん」
「追い越す?」
「……そうだな」
笑う。
「追い越そう」
「うん!」
九歳。
四年生。
普通の相手なら。
俺たちは。
もう。
かなり強い。
でも。
全国には。
俺たちより。
強い奴がいる。
Aに近い。
いや。
もしかしたら。
本当に。
Aを持っているような。
怪物が。
「……いいな」
「なにが?」
「まだ上がいる」
だったら。
育てる。
もっと。
打つ。
もっと。
守る。
もっと。
走る。
もっと。
投げる。
Bで。
全国に。
食らいつける。
なら。
Aになったら。
どこまで。
行ける?
それを。
俺は。
見てみたくなった。