転生したら人生がサクセスモードだった   作:ねるすと

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第29話

 四年生の秋。

 地区大会で優勝してから、俺と玲に対する相手チームの戦い方は明らかに変わった。

「成瀬には無理に勝負するな!」

「水城の高めは捨てろ! 球数を投げさせろ!」

 名前を覚えられるだけじゃない。最初から俺たちをどう止めるか考えられるようになった。

 少し前までなら、それだけで嬉しかったと思う。

 いや、今も嬉しくないわけじゃない。

 ただ。

「……打たせてくれないな」

 一死二塁。俺の第一打席。

 一球目は外。二球目も外。ツーボール。

 三球目は外角ぎりぎりのストライク。ツーボール、ワンストライク。

 四球目はまた外。

 スリーボール、ワンストライク。

「無理すんな! 歩かせていい!」

 相手ベンチから声が飛ぶ。

 五球目。

 明らかなボール。

「フォアボール!」

「またか……」

 バットを一度も振らずに一塁へ向かう。

 前なら、打たせてもらえないことに苛立ったかもしれない。

 でも今は。

「成瀬、走るぞ!」

 相手が警戒する。

 初球は牽制。次も牽制。

 三球目。

「今!」

 スタート。

 捕手が投げる。

「セーフ!」

【盗塁成功】

【盗塁に関する特殊能力取得条件が進行しました】

「よし」

 打たせてくれないなら、塁に出る。

 塁に出たなら、走る。

 できることは他にもある。

 

◇

 

 玲への対策も変わっていた。

「高め振るな!」

「ファウルで粘れ!」

「簡単に三振するな!」

 先頭打者は玲の初球を見送った。二球目も見送る。三球目、低めのストライク。

 ツーボール、ワンストライク。

 四球目をファウル。五球目もファウル。

 ツーボール、ツーストライク。

「……粘るな」

 玲が少し嫌そうな顔をする。

 六球目は外。

 フルカウント。

 七球目。

 高め。

 打者は止めようとする。

 でも。

 ブンッ!

「ストライク! バッターアウト!」

 結局、三振。

 ただし七球。

 次の打者も六球。三人目も五球。

 一回だけで十八球。

「玲、今日は球数多いな」

「うん。みんな振らない」

「それが狙いだよ。お前を早く降ろしたいんだろ」

「……じゃあ早く三振取る」

「そういう問題でもないんだけど」

 でも次の回。

 三球三振。

 四球三振。

 三球三振。

「……適応早すぎるだろ」

 相手が粘ろうとしてくるなら、ストライクゾーンの中で勝負する。

 それでも空振りが取れる。

 普通の相手なら、対策を立てただけで玲のストレートを打てるようになるわけじゃない。

 

◇

 

 そして秋。

 全国大会へつながる予選が始まる。

 練習後、監督が全員を集めた。

「この大会の優勝チームには、全国大会の出場権が与えられる」

「全国……」

 玲がすぐ反応する。

「前にやった強いところも来る?」

「全国に出てくれば、また当たる可能性はあるな」

「やった」

「まずお前らが優勝しないと行けないぞ」

「勝つから」

「簡単に言うな」

 俺は笑った。

 でも気持ちは同じだった。

 前に全国ベスト8のチームと戦った。

 一対五。

 俺は最後に二塁打を打ったけど、それまでかなり苦しんだ。玲も三振は取ったが、甘く入れば普通に長打を打たれた。

 普通の相手なら、今の俺たちはかなり上。

 それはもう分かった。

 だから次は、その上へ行きたい。

 

◇

 

 大会前日。

「明日から大事な大会なんでしょ?」

 帰り道、詩織に聞かれた。

「うん。優勝したら全国」

「全国大会?」

「そう」

「すごいね」

「まだ行ってないけどな」

「伊織君なら行ける?」

「行く」

「また言い切った」

 詩織が笑う。

「玲君も一緒?」

「もちろん」

「二人とも野球ばっかりだね」

「最近は約束忘れてないだろ」

「最近はね」

「まだ言う?」

「忘れた方が悪いです」

「はい……」

 何も言い返せない。

「全国決まったら教えてね」

「自分で聞いてくるだろ。母さん経由で」

「それでも伊織君から聞きたい」

「……分かった」

「約束?」

「約束」

 詩織が笑う。

 今度は忘れない。

 そう思いながら。

 頭の半分では、もう明日の第一打席を考えていた。

 

◇

 

 一回戦。

 八対一。

 俺は三打数二安打、二四球、二盗塁。

 玲は四回一失点、九奪三振。

 二回戦。

 六対〇。

 俺は四打数三安打。

 玲は五回、被安打一、無失点、十一奪三振。

 ただ、試合を重ねるほど俺への四球は増えていった。

「また歩かされた」

「今日三回目」

「数えるなよ」

「僕、伊織君が打つところ見たい」

「俺も打ちたいよ」

【高い出塁率を継続しています】

【盗塁成功を継続しています】

 別の成長も進んでいる。

 打つだけが野球じゃない。

 分かってはいる。

 それでもバットを持っている以上、やっぱり打ちたい。

 

◇

 

 準決勝。

 相手は県内でも上位に入る強豪。六年生を中心に、全国大会を経験している選手もいる。

「水城の高め振るな! 追い込まれるまで狙い球絞れ!」

「成瀬は外中心! 甘く入れるな!」

 最初から徹底していた。

 一回。

 玲は先頭を三振に取ったが、二番に八球粘られて四球。三番にヒットを打たれ、一死一、二塁。

 四番。

 一球目はファウル。二球目はボール。ワンボール、ワンストライク。

 三球目。

 低め。

 カキン!

「ショート!」

 俺の正面。

「もらった!」

 捕る。

 二塁へ。

「アウト!」

 一塁へ。

 シュッ!

「アウト!」

「ダブルプレー!」

「よし!」

 玲がマウンドから手を上げる。

「伊織君!」

「守備も使え!」

「うん!」

 全部三振じゃなくてもいい。

 それは俺も玲も、少しずつ覚えてきた。

 

◇

 

 一回裏。一死二塁。

 俺の第一打席。

 一球目は外。二球目も外。ツーボール。

 三球目は外角ストライク。ツーボール、ワンストライク。

 四球目は外。

 スリーボール、ワンストライク。

「また歩かせる気か……」

 五球目。

 ほんの少しだけ真ん中へ寄った。

「そこ!」

 踏み込む。

 カキン!

 ライト前。

「抜けた!」

 一、三塁。

「ナイス成瀬!」

「はい!」

 完全な甘い球じゃない。

 でも外中心と分かっているなら、最初から逆方向を意識できる。

 続く四番の犠牲フライで先制。

 一対〇。

 

◇

 

 三回。

 一対一。

 一死二塁。

 俺の第二打席。

【チャンス○】

「無理に勝負するな!」

 相手ベンチから声が飛ぶ。

「……やっぱりか」

 一球目は外。二球目も外。ツーボール。

 三球目はストライク。ツーボール、ワンストライク。

 四球目はボール。

 スリーボール、ワンストライク。

 五球目。

 外角。

 ぎりぎり。

「……」

 見送る。

「ボール! フォアボール!」

 一塁へ。

 悔しい。

 でも次の打者が打つ。

 カキン!

「抜けた!」

 二塁走者がホーム。

 俺は三塁へ。

 二対一。

 さらに次打者の犠牲フライ。

「タッチアップ!」

 スタート。

 ホームへ。

「セーフ!」

 三対一。

 俺はこの回、一度もバットを振っていない。

 それでも一点取った。

「……こういうのも野球か」

 

◇

 

 五回。

 三対三。

 玲はまだマウンド。

 さすがに強豪。普通の地区チームみたいにはいかない。

 それでも、玲は三振を取る。

「ストライク! バッターアウト!」

 今日八個目。

 その瞬間、視界に表示が出た。

【水城玲の解析情報】

【高い奪三振率を一定期間継続】

【解析情報が更新されました】

【特殊能力:奪三振】

「……来た」

 ノビC。

 そして奪三振。

 システムが玲に能力を与えたわけじゃない。

 玲自身が現実の試合で三振を積み重ね続け、その投球が「奪三振」と評価されるところまで来た。

 投手としての玲の形が、また一つはっきりした。

 

◇

 

 最終回。

 三対三。

 一死二塁。

 俺の第三打席。

「敬遠!」

「……」

 今度は完全に勝負を避けられた。

 捕手が立つ。

 四球。

 一塁へ向かう。

「伊織君!」

 玲がベンチから声を出す。

「なに!」

「また打てなかった!」

「見れば分かる!」

「悔しい?」

「悔しい!」

 でも一死一、二塁。

 次の打者は六年生の四番。

 カキィン!

「抜けた!」

 二塁走者がホーム。

 四対三。

 勝ち越し。

 俺も三塁へ。

 さらに犠牲フライ。

「成瀬、行け!」

 ホームへ。

「セーフ!」

 五対三。

 結局、俺への敬遠から二点入った。

「……勝負しないのも、簡単じゃないんだな」

 試合終了。

 五対四。

 決勝進出。

 全国まで、あと一勝。

 

◇

 

 決勝。

 勝てば全国大会。

 相手は去年も全国へ出場した県内トップクラスのチーム。

 この試合、俺たちは先攻だった。

「三番、ショート、成瀬」

「はい!」

「先発、水城」

「はい!」

 試合前。

「緊張してる?」

「してない」

「玲は?」

「楽しみ」

「だろうな」

 玲が俺を見る。

「伊織君」

「ん?」

「勝ったら全国」

「おう」

「絶対勝とう」

「……おう」

 

◇

 

 一回表。

 一死一塁。

 俺の第一打席。

 相手エースは六年生。九十キロ台後半。

 一球目は外。二球目はストライク。ワンボール、ワンストライク。

 三球目。

 低め。

「……!」

 カキン!

 二遊間を抜ける。

「よし!」

 一、三塁。

 続く四番の犠牲フライで一点を先制する。

 一回裏。

 玲はいきなりヒットを打たれた。送りバントで一死二塁。三番に四球。

 一死一、二塁。

 四番。

 強い打球。

「ショート!」

 俺の正面。

 捕る。

 二塁へ。

「アウト!」

 一塁。

「アウト!」

「ダブルプレー!」

 無失点。

「よし!」

 

◇

 

 三回表。

 一対一。

 一死二塁。

 俺の第二打席。

【チャンス○】

 一球目はボール。二球目はファウル。ワンボール、ワンストライク。

 三球目は外。ツーボール、ワンストライク。

 四球目。

 真ん中低め。

「そこ!」

 カキィン!

 右中間。

「抜けた!」

 二塁走者がホーム。

 俺は二塁へ。

「セーフ!」

 二対一。

 勝ち越し。

 でも、相手も強い。

 四回裏に同点。

 五回裏には一点を奪われ、二対三。

 そして最終回。

 

◇

 

 六回表。

 一死一塁。

 俺の第三打席。

 負ければ終わり。

 全国には行けない。

 一球目は外。二球目も外。ツーボール。

 三球目はストライク。ツーボール、ワンストライク。

 四球目はボール。

 スリーボール、ワンストライク。

 相手ベンチから声が飛ぶ。

「歩かせてもいい!」

「……またかよ」

 五球目。

 外。

「フォアボール!」

 一、二塁。

 でも今は、悔しがっている場合じゃない。

「次、お願いします!」

「任せろ!」

 六年生の四番。

 三球目。

 カキィン!

「抜けた!」

 左中間。

 二塁走者がホーム。

「セーフ!」

 三対三。

 同点。

 俺は三塁まで進む。

 一死一、三塁。

 次打者。

 外野フライ。

「成瀬、タッチアップ!」

「はい!」

 捕球。

 スタート。

 ホーム。

 送球。

 滑り込む。

「セーフ!」

「……!」

 四対三。

 逆転。

 

◇

 

 六回裏。

 全国まで、あとアウト三つ。

 マウンドには玲。

「あと三つ!」

 先頭。

 ストレート。

 空振り。

 ファウル。

 ツーストライク。

 最後もストレート。

 ブンッ!

「ストライク! バッターアウト!」

 一人目。

 二人目。

 打球はショート。

「伊織君!」

「任せろ!」

 捕る。

 一塁へ。

「アウト!」

 あと一人。

 最後は相手四番。

 一球目はファウル。

 二球目はボール。ワンボール、ワンストライク。

 三球目。

 空振り。

 ワンボール、ツーストライク。

 玲が振りかぶる。

 四球目。

 高め。

 相手も振る。

 ブンッ!

「ストライク! バッターアウト!」

 一瞬、静かになった。

 そして。

「ゲームセット!」

「……!」

「全国だあああ!」

 全員が飛び出す。

 俺もマウンドへ走る。

「玲!」

「伊織君!」

「全国!」

「うん!」

 九歳。

 四年生。

 全国大会出場。

 決定。

 

◇

 

 その日の夜。

 家へ帰る前に、詩織の家へ寄った。

 インターホンを押す。

 少しして扉が開いた。

「伊織君?」

「詩織」

「どうしたの?」

「全国、決まった」

「……ほんと?」

「うん」

 詩織の顔が一気に明るくなる。

「おめでとう!」

「ありがと」

「わざわざ言いに来てくれたの?」

「約束したから」

「……覚えてたんだ」

「今回はな」

「今回はって言った」

「そこ拾う?」

 詩織が笑う。

【藤崎詩織の好感度が少し上がりました】

 その表示を見て。

 俺も少しだけ嬉しくなる。

 でも同時に。

 明日から何を練習するか考えている自分もいた。

 

◇

 

 能力画面を開く。

【大会結果】

優勝

【全国大会出場権を獲得しました】

【成瀬 伊織】

弾道 3

ミート B75

パワー C67

走力  B71

肩力  B73

守備力 B76

捕球  B70

【投手能力】

球速     81km/h

コントロール B78

スタミナ   B71

【特殊能力】

送球○

アベレージヒッター

チャンス○

「……少し上がったな」

 でも、まだ全部B以下。

 Aには届いていない。

 全国には、前に戦ったような奴が何人もいる。

 百キロを超える投手。

 俺の打球に追いつく野手。

 玲の球を長打にする打者。

 今度は。

 そいつらと本番で戦える。

「楽しみだな」

 いつの間にか。

 玲みたいなことを呟いていた。

 

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