転生したら人生がサクセスモードだった   作:ねるすと

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第30話

 全国大会。

 その言葉は、前世の俺にとってずっと遠いものだった。

 高校まで野球を続けた。でも最後の夏も背番号は十八番。ベンチに座って、試合に出る仲間を見ていただけだった。

 全国なんて、そのさらに先。

 テレビや雑誌の中にある世界だった。

 それが今。

「伊織、こっち向いて!」

「父さん、写真はあとでいいって!」

「全国大会なんだからいいだろ!」

「恥ずかしいんだよ!」

 九歳の俺は、ユニフォームを着て全国大会の会場に立っている。

 人生、何があるか分からない。

 

◇

 

「伊織君!」

 聞き慣れた声に振り返る。

「詩織?」

「来たよ」

「マジで?」

「全国大会なんだから見たいって言ったら、お父さんたちが連れてきてくれたの」

 詩織の隣には俺の両親と、玲の家族もいる。

「頑張ってね」

「おう」

「緊張してる?」

「ちょっとだけ」

「ほんと?」

「……あんまりしてない」

「やっぱり」

 詩織が笑う。

「勝てそう?」

「分からない」

「珍しい」

「全国だからな。強い奴ばっかりだろうし」

「でも勝ちたい?」

「もちろん」

「じゃあ応援してる」

「ありがと」

 そこで集合の声がかかった。

「行ってくる」

「うん。伊織君」

「ん?」

「楽しんできてね」

「……おう」

 勝ってね、じゃなくて。

 楽しんできてね。

 少しだけ意外だった。

 でも、その言葉は不思議と嫌じゃなかった。

 

◇

 

 開会式。

 周りを見れば、各地方を勝ち抜いてきたチームばかり。

「玲」

「なに?」

「全国だぞ」

「うん」

「緊張してる?」

「してない」

「だろうな」

 玲は周囲を見回している。

「あ」

「何?」

「あの子大きい」

「……でか」

 六年生らしい。

 俺たちより頭一つ以上大きい。

「あっちは肩強そう」

「分かるの?」

「投げてる球速い」

「開会式でどこ見てんだよ」

「伊織君は?」

「俺?」

 改めて周りを見る。

 強そうな奴。

 速そうな奴。

 身体の大きい奴。

 動きの軽い奴。

 いっぱい、いる。

「……楽しみ」

「同じ」

「お前のがうつったかも」

「僕の?」

「何でもない」

 前世では全国大会を見る側だった。

 今は。

 戦う側だ。

 

◇

 

 一回戦。

「先発、水城」

「はい!」

「三番、ショート、成瀬」

「はい!」

 四年生二人が、全国大会でもスタメン。

 もう、それ自体には驚かなくなった。

「プレイ!」

 一回表。

 玲の初球。

 シュッ!

 ブンッ!

「ストライク!」

「……全国でも空振るな」

 二球目はファウル。ツーストライク。

 三球目はボール。

 ワンボール、ツーストライク。

 四球目。

 高め。

 ブンッ!

「ストライク! バッターアウト!」

 一人目、三振。

 二人目はセカンドゴロ。

 三人目にはセンター前へ運ばれたが、四人目をまた三振。

 無失点。

「伊織君」

「ん?」

「全国でも三振取れた」

「そりゃ取れるだろ」

「嬉しい」

「知ってる」

 玲が笑う。

 普通の全国出場チーム相手なら、こいつの球は十分通用する。

 

◇

 

 一回裏。一死一塁。

 俺の全国大会、初打席。

 相手投手は六年生。球速は九十キロ台後半くらい。

 一球目はストライク。

 二球目は外。ワンボール、ワンストライク。

 三球目。

 真ん中寄り。

「……!」

 振る。

 カキン!

「センター!」

 打球は二遊間を抜けた。

「よし!」

 一、二塁。

【全国大会で安打を記録しました】

「……」

 全国初打席。

 初ヒット。

 前世の俺が聞いたら、どんな顔をするだろう。

 でも今は、余韻に浸っている場合じゃない。

「成瀬、リード!」

「はい!」

 次の打者を見ながら一塁を離れる。

 全国でも。

 やれる。

 

◇

 

 三回。

 俺の第二打席。

 一死二塁。

【チャンス○】

 一球目は外。

 二球目はファウル。ワンボール、ワンストライク。

 三球目。

 低め。

「そこ!」

 カキン!

 センター前。

「回れ!」

 二塁走者がホーム。

「セーフ!」

 追加点。

 試合は三対一で勝利。

 俺は三打数二安打、一打点。

 玲は六回を投げて被安打四、一失点、九奪三振。

「九個」

「うん」

「全国だぞ?」

「あと一個欲しかった」

「そこ?」

「十個の方がきれい」

「お前らしいよ」

 全国初戦。

 勝利。

 

◇

 

 二回戦。

 相手も地方大会を勝ち抜いた強豪。

 でも、俺たちは勢いに乗っていた。

 第一打席、センター前。

 第二打席、四球。

 第三打席。

 一死一塁。

 甘く入った球を振り抜く。

 カキィン!

「いけ!」

 打球はレフトの頭を越え、そのままフェンスの向こうへ消えた。

「ホームラン!」

「よし!」

 全国大会での初本塁打。

 ベースを回りながら、観客席を見る。

「伊織君!」

 詩織が立ち上がっている。

 両親も。

 思わず少し笑った。

 試合は七対二。

 俺は四打数三安打、一本塁打、三打点。

 玲も五回無失点、八奪三振。

 全国ベスト8。

 そして次の相手が決まった。

「……」

 トーナメント表を見る。

「伊織君」

「うん」

「前にやったところ」

「だな」

 あのチーム。

 練習試合で一対五。

 俺が三打数一安打。

 玲が一回一失点。

 全国ベスト8だった強豪。

 もう一度。

 今度は全国大会の本番で戦う。

 

◇

 

 準々決勝。

 相手の六年生エースがマウンドへ上がる。

 前に見た時と同じ。

 いや。

「……ちょっと速くなってない?」

 百キロを超えるストレート。

 全国トップクラス。

「伊織君」

「何?」

「楽しそう」

「お前に言われたくない」

「僕も楽しみ」

「知ってる」

 俺たちは前にも戦った。

 だから分かる。

 普通の全国出場チームと、このチームは少し違う。

 守備。

 走塁。

 打球。

 全部の精度が高い。

 ここからが、本当の全国上位。

 

◇

 

 一回表。

 先発は玲。

 先頭打者。

 一球目をセンター前。

「いきなりか」

 二番は送りバント。一死二塁。

 三番。

 外野フライ。

 二死二塁。

 四番。

 前に玲から長打を打った選手。

 一球目。

 ファウル。

 二球目はボール。ワンボール、ワンストライク。

 三球目。

 ストレート。

 ブンッ!

「ストライク!」

 ワンボール、ツーストライク。

「……!」

 玲が少し笑った。

 楽しいんだろうな。

 四球目。

 低め。

 ボール。

 ツーボール、ツーストライク。

 五球目。

 高め。

 打者が振る。

 カキン!

「ショート!」

 俺の正面。

「よし!」

 捕る。

 一塁へ。

「アウト!」

 無失点。

「玲!」

「伊織君!」

 互いに手を上げる。

 前より。

 やれてる。

 

◇

 

 一回裏。

 一死走者なし。

 俺の第一打席。

 六年生エース。

 一球目。

 シュッ!

「ストライク!」

 速い。

 でも。

 前ほど驚かない。

 二球目は外。ワンボール、ワンストライク。

 三球目。

 内角。

「……!」

 振る。

 カキン!

 ショート正面。

「アウト!」

「くそ」

 凡退。

 でも。

 前みたいに振り遅れて何もできないわけじゃない。

 ちゃんと当たる。

 次はもっと。

 

◇

 

 三回。

 〇対一。

 玲が一点を失っていた。

 一死二塁。

 俺の第二打席。

【チャンス○】

 一球目は外。

 二球目はストライク。ワンボール、ワンストライク。

 三球目。

 真ん中寄り。

「来た!」

 振る。

 カキィン!

「センター!」

 強いライナー。

「抜けろ!」

 センターが前へ。

 飛ぶ。

「……!」

 捕った。

「マジか!」

 いい当たり。

 普通のチームならヒット。

 それをアウトにする。

 これが全国上位。

 二塁走者も動けない。

「……打っただけじゃ駄目か」

 

◇

 

 四回表。

 〇対二。

 玲と相手四番が、また向き合う。

 一球目はストライク。

 二球目はファウル。ツーストライク。

「追い込んだ」

 三球目。

 外。

 ボール。

 ワンボール、ツーストライク。

 四球目。

 玲が投げる。

 少し高い。

 でも玲の得意な高さ。

 打者が振る。

 カキィン!

「……!」

 音。

 打球は高く上がる。

 レフトが下がる。

 さらに下がる。

 フェンス。

 越えた。

「ホームラン……」

 玲がマウンドから打球を見送る。

 〇対三。

 全国トップクラスの打者。

 ノビC。

 奪三振。

 それでも。

 甘ければ持っていかれる。

「玲!」

 俺がショートから声を出す。

 玲がこっちを見る。

「次!」

「……うん!」

 玲が笑う。

 次の打者。

 最後は高めのストレート。

 ブンッ!

「ストライク! バッターアウト!」

 打たれても。

 折れない。

 

◇

 

 五回裏。

 一対三。

 一死一塁。

 俺の第三打席。

 相手エース。

 一球目は高め。ボール。

 二球目、外角ストライク。ワンボール、ワンストライク。

 三球目をファウル。

 ワンボール、ツーストライク。

 四球目は低め。

 見送る。

 ツーボール、ツーストライク。

 五球目。

 内角。

 ファウル。

 六球目。

 外。

 ボール。

 フルカウント。

「……」

 前に戦った時。

 最後の打席で、この投手から二塁打を打った。

 だから。

 打てない相手じゃない。

 七球目。

 真ん中高め。

「そこ!」

 振る。

 カキィン!

「……!」

 右中間。

 外野が追う。

「抜けろ!」

 落ちた。

「よし!」

 一塁走者は三塁へ。

 俺は二塁。

「セーフ!」

【全国トップクラスの投手から長打を記録しました】

 二、三塁。

 次の四番が外野フライ。

「タッチアップ!」

 三塁走者がホーム。

 二対三。

 一点差。

「まだいける!」

 

◇

 

 でも六回表。

 相手は一死三塁を作り、内野ゴロの間に一点。

 二対四。

 そして最終回。

 六回裏。

 二死一塁。

 俺の第四打席。

 負ければ終わり。

 相手エースも、最後まで投げている。

 一球目。

 外。

 ボール。

 二球目。

 ストライク。

 ワンボール、ワンストライク。

 三球目は低め。

 ボール。

 ツーボール、ワンストライク。

 四球目をファウル。

 ツーボール、ツーストライク。

 五球目。

 低め。

「……」

 見送る。

 ボール。

 フルカウント。

 六球目。

 外角。

「……!」

 振る。

 カキン!

 ライト前。

「よし!」

 一、二塁。

 まだ終わらない。

「繋いだ!」

 次の打者。

 一球目、ファウル。

 二球目、ボール。

 三球目。

 カキィン!

「いけ!」

 センターへ大きな打球。

 外野手が下がる。

 下がる。

 追いつく。

「アウト!」

「ゲームセット!」

「……」

 終わった。

 二対四。

 全国大会。

 ベスト8。

 

◇

 

「ありがとうございました!」

 整列して頭を下げる。

 悔しい。

 めちゃくちゃ悔しい。

 でも、前とは違う。

 前回は一対五。

 今回は二対四。

 俺は四打数二安打。二塁打一本。

 玲は五回を投げて四失点、八奪三振。

 全国トップクラス。

 まだ勝てない。

 でも。

 前より近い。

 

◇

 

 試合後。

「成瀬だっけ?」

 相手の六年生エースが話しかけてきた。

「はい」

「四年?」

「はい」

「……やっぱマジか」

「?」

「今日、一番嫌だった」

「……!」

「前の練習試合でも思ったけど、二年後ヤバそうだな」

「ありがとうございます」

「またどっかでやれたらいいな」

「はい!」

 その横では、相手の四番が玲に話しかけている。

「お前も四年?」

「うん」

「その真っ直ぐ、打ちづらすぎ」

「でもホームラン打った」

「打ったな」

「次は三振取る」

「怖っ」

 相手の四番が笑う。

「二年後、また全国来いよ」

「来る」

 玲は即答した。

「絶対?」

「絶対」

「じゃあ頑張れよ」

 相手選手が俺たち二人を見る。

「怪物二人」

「……」

 地区では何度か聞いた。

 でも。

 全国トップの六年生から言われると、少し意味が違う気がした。

 

◇

 

 会場を出る。

「伊織君」

 詩織が待っていた。

「……負けた」

「見てたよ」

「そっか」

「悔しい?」

「うん」

「すごく?」

「すごく」

 詩織が少し考える。

「でも楽しかった?」

「……」

 開会式の前に言われた言葉を思い出す。

「楽しかった」

「そっか」

「次は勝ちたいけどな」

「二年後?」

「いや、来年もある」

「そうなの?」

「五年生でも全国来る」

「じゃあまた応援する」

「来るの?」

「伊織君が来たらね」

「……そっか」

「だから頑張って」

「おう」

 玲とプロになる約束がある。

 全国で勝ちたい。

 もっと強くなりたい。

 その隣で。

 詩織が来年も応援すると言った。

 全部。

 まだ俺の手の中にあるような気がしていた。

 

◇

 

 夜。

 能力画面を開く。

【成瀬 伊織】

年齢:9歳

【競技カテゴリ:少年】

弾道 3

ミート B75

パワー C67

走力  B71

肩力  B73

守備力 B76

捕球  B70

【投手能力】

球速     81km/h

コントロール B78

スタミナ   B71

【特殊能力】

送球○

アベレージヒッター

チャンス○

「……ほとんど変わってない」

 全国大会を戦った。

 強い投手から打った。

 全国トップの守備を見た。

 強い打者の打球も受けた。

 それでも能力値は、大きくは動かなかった。

 でも。

 前回は全国上位が、ただ強く見えた。

 今回は違う。

 何が強いのか。

 どこなら戦えるのか。

 どこがまだ足りないのか。

 少し分かった。

 数字が動かなくても、経験は残る。

「次は……」

 全国ベスト8。

 九歳。

 四年生。

 初めて自分たちで掴んだ全国大会は、そこで終わった。

 でも。

 俺たちはもう、全国を遠い世界だとは思っていなかった。

 次はもっと上へ。

 そう思った。

 そして、この全国大会を境に。

 俺と玲を見る周囲の目は、さらに大きく変わっていくことになる。

 

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