転生したら人生がサクセスモードだった   作:ねるすと

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第31話

 全国大会が終わってから、四年生の残りはあっという間に過ぎていった。

 秋の大会。冬の走り込み。守備練習。打撃練習。そして投球練習。

 全国ベスト8。

 結果だけを見れば十分すごい。

 でも俺の中には、最後に戦った六年生たちの姿がずっと残っていた。

 百キロを超えるストレート。

 俺の強い打球に追いつく守備。

 玲の球をスタンドまで運んだ四番。

「もっと強くなりたい」

 前から思っていた。

 でも全国を経験してから、その気持ちはさらに強くなった。

 

◇

 

 冬。

「成瀬、水城。今日は投げ方見るぞ」

「はい!」

「はい!」

 監督に呼ばれ、俺と玲はブルペンへ向かった。

「球速上げたいからって、力任せに投げるなよ。お前らはこれから身体が大きくなる時期だ。フォーム崩して肩や肘を痛めたら意味ないからな」

「はい」

「分かりました」

 俺は前世でも野球をやっていたから、その意味はよく分かる。

 小学生の身体で毎日全力投球なんて論外だ。

 だから最近は投げる量を無理に増やすんじゃなく、走る。体幹を鍛える。柔軟をする。フォームを繰り返し確認する。

【筋力が上がりました】

【技術がかなり上がりました】

【投球動作の効率が向上しています】

「効率……」

 今までは球を速くするなら、筋力を増やすことばかり考えていた。

 でも野球はそんな単純じゃない。

 足で作った力を、腰、肩、腕、指先まで無駄なく伝える。

 同じ身体でも、それだけで球速は変わる。

「成瀬、投げてみろ」

「はい!」

 振りかぶる。踏み込む。力まずに腕を振る。

 シュッ!

 パシンッ!

「お」

 監督がスピードガンを見る。

「八十六」

「……!」

 全国大会の頃は八十一キロ。

 そこから五キロ上がった。

「もう一球」

 今度はさらに力を抜く。

 シュッ!

 パシンッ!

「八十五」

「……あんまり変わらない」

「だから力むなって言ってるだろ」

「はい」

 分かってはいる。

 でも数字を見ると、どうしても全力で投げたくなる。

 

◇

 

「次、水城」

「はい!」

 玲がマウンドへ。

 俺は後ろからフォームを見る。

 最近また少し身体が大きくなった。

 下半身の使い方も前より滑らかになっている。

「いくよ」

「おう」

 玲が投げる。

 シュッ!

 バシンッ!

「……」

 音が違う。

 監督がスピードガンを見る。

「九十三」

「九十三?」

 思わず声が出た。

「もう一球」

「うん」

 玲が楽しそうに振りかぶる。

 二球目。

 バシンッ!

「九十五」

「……」

 俺は八十六。

 玲は九十五。

 九キロ差。

「速くなった!」

 玲は純粋に喜んでいる。

「お前、冬の間に何した?」

「いっぱい走った」

「それ俺もやってる」

「いっぱい食べた」

「それもやってる」

「いっぱい寝た」

「……それはお前の方が上かもしれない」

 玲が首を傾げる。

 練習量だけじゃない。

 身体が成長している。

 そして玲は、その成長を球速へ変えるのが異常に上手い。

【水城玲の解析情報】

球速 95km/h

ストレート回転量:非常に多い

回転効率:非常に高い

特殊能力:ノビC

特殊能力:奪三振

「……まだ四年の冬だぞ」

 笑えてくる。

 こいつ、本当にどこまで速くなるんだ。

 

◇

 

 投球練習が終わる頃、監督がボールを持ったまま俺たちを見る。

「そろそろ真っ直ぐ以外の球も覚えていい頃だな」

「変化球?」

 玲がすぐに反応する。

「いきなり曲げる球ばっかり覚える必要はない。まずは握りと抜き方で球速を変える球からだ」

「チェンジアップですか?」

「そう。腕の振りを落とさず、球だけ遅くする」

 リトルリーグだから変化球が禁止というわけじゃない。

 でも身体はまだ小学生。

 投げられるからといって、何でも好きなだけ投げればいいわけでもない。

「成瀬、お前からやってみろ」

「はい」

 監督に握りを教えてもらう。

 いつものストレートと同じように腕を振る。

 シュッ。

 パシン。

「……遅い」

 玲が言う。

「チェンジアップなんだから当たり前だろ」

「七十くらいだな」

 監督がスピードガンを見る。

「もう一球。今度は腕を緩めるな」

「はい」

 握りだけ変える。

 腕はストレートと同じ。

 投げる。

 シュッ。

 パシンッ!

「今の方がいい」

「ほんとですか?」

「ああ。真っ直ぐと同じ腕の振りだった」

 その瞬間。

【新たな球種を習得しました】

【チェンジアップ 変化量1】

「……来た」

 今まで空欄だった変化球欄に、初めて名前が追加された。

【投手能力】

球速     86km/h

コントロール B79

スタミナ   B73

【変化球】

チェンジアップ 1

「……いいな、これ」

 球速を上げるだけじゃない。

 投手として育てられるものが、また一つ増えた。

 

◇

 

「次、水城」

「うん!」

 玲もチェンジアップを握る。

 一球目。

 シュッ!

 パシンッ!

「……速くない?」

「八十二」

「それチェンジアップ?」

「遅く投げた」

「お前の遅いが、俺のちょっと前の全力なんだけど」

 玲は楽しそうにもう一球投げる。

 今度は七十キロ台後半。

「変な感じ」

「腕を緩めるなよ」

「うん」

 三球目。

 フォームはストレートとほとんど同じ。

 でも球だけが遅い。

 パシンッ!

「お」

 監督が少し笑う。

「今のは悪くない」

【水城玲の解析情報が更新されました】

【球種:チェンジアップ】

【変化量:1相当】

「……こいつも覚えるの早いな」

 もちろん、玲の画面が本人に見えているわけじゃない。

 玲が現実に投げた球を、俺のシステムがそう評価しただけだ。

「二人とも、今は変化量を大きくしようとするな。まずストレートと同じフォームで投げられるようにしろ」

「はい」

「はい!」

 俺は頷く。

 玲は真っ直ぐだけでも普通の小学生には十分すぎる。

 そのストレートと同じ腕の振りから、遅い球まで来るようになったら。

「……嫌だな」

「なにが?」

「お前と対戦する打者」

「伊織君も打つよ」

「俺は打つけど」

 そうだった。

 俺は投手としてこいつを追いかけている。

 それと同時に、打者としてもいつかこいつを打たなきゃいけない。

 

◇

 

 五年生になった。

 十歳。

「伊織君、五年生だね」

 登校中、隣を歩く詩織が言った。

「そうだな」

「あと二年で小学校終わり」

「早いな」

「伊織君、最近また大きくなった?」

「ちょっと」

「玲君も大きくなってた」

「あいつは球も速くなった」

「何キロ?」

「九十五」

「それって速いの?」

「めちゃくちゃ速い」

「伊織君は?」

「八十六」

「負けてるね」

「……はっきり言うな」

 詩織が笑う。

「悔しい?」

「悔しい」

「またいっぱい練習する?」

「する」

「そっか」

 少しだけ間があった。

「でも遊ぶ日も作ってね」

「分かってる」

「前科あるから」

「まだ言う?」

「六年生まで言う」

「長いな」

 笑いながら歩く。

 野球も。

 詩織も。

 玲も。

 全部続いている。

 今のところは。

 

◇

 

 五年生最初の公式戦。

「三番、ショート。成瀬」

「はい!」

「先発、水城」

「はい!」

 もう誰も、俺たちが五年生だからという理由で扱いを変えない。

 一回。

 玲の初球。

 シュッ!

 バシンッ!

「ストライク!」

 相手の六年生が少し驚いた顔をする。

 二球目はファウル。

 ツーストライク。

 三球目は高め。

 ブンッ!

「ストライク! バッターアウト!」

「……九十五でノビC」

 普通の小学生なら、かなりきつい。

 二番も三振。

 三番はセカンドゴロ。

 そして四番。

 初球はファウル。

 二球目はボール。

 ワンボール、ワンストライク。

 三球目。

 玲の腕が振られる。

「……?」

 でも球が遅い。

 打者の身体が前へ出る。

 カンッ!

「ショート!」

「俺か!」

 捕る。

 一塁へ。

「アウト!」

 チェンジ。

「玲!」

「なに?」

「今のチェンジアップ?」

「うん」

「試合で使ったの?」

「使いたくなった」

「監督に怒られるぞ」

 ベンチを見る。

 監督が額に手を当てている。

「水城ー! まずサイン見ろー!」

「はーい!」

「やっぱり」

 でも初めて試合で使ったチェンジアップは、六年生の四番から簡単にタイミングを外した。

 ストレート九十五キロ。

 そこから球速差のあるチェンジアップ。

「……さらに打ちにくくなるじゃん」

 こいつ。

 また武器が増えた。

 

◇

 

 一回裏。一死二塁。

 俺の第一打席。

 相手は六年生投手。

 九十キロ台。

 四年生の頃なら、十分速いと思った球。

 今は。

「見える」

 一球目は外。

 二球目はストライク。

 ワンボール、ワンストライク。

 三球目。

 真ん中。

「そこ!」

 カキィン!

 右中間。

「抜けた!」

 二塁走者がホームへ。

 俺は二塁。

「セーフ!」

 先制タイムリー。

【得点圏で長打を記録しました】

【チャンス○】

「よし」

 全国を経験した。

 百キロを見た。

 冬の間は玲の九十キロ台も見ている。

 普通の六年生の球が、前よりさらに遅く見える。

 

◇

 

 試合は七対〇。

 俺は四打数三安打、二打点。

 玲は五回を投げ、被安打一、無失点、十一奪三振。

 試合後。

「水城」

「はい」

「チェンジアップ勝手に投げるな」

「はい」

「でも悪くなかった」

「ほんと?」

「そこで喜ぶな。まずサイン見ろ」

「はい!」

 玲が笑う。

 監督も少し笑っていた。

「成瀬」

「はい」

「お前も投手練習は続けるぞ」

「……はい!」

 嬉しい。

「ただし今まで以上に投球数は管理する。二人とも球速上がってるからって調子乗って投げすぎるな」

「はい」

「はい!」

「特に水城」

「はい?」

「お前だ」

「はい!」

 また全員が笑った。

 

◇

 

 その夜。

【成瀬 伊織】

年齢:10歳

【競技カテゴリ:少年】

弾道 3

ミート B76

パワー C69

走力  B72

肩力  B75

守備力 B78

捕球  B72

【投手能力】

球速     86km/h

コントロール B79

スタミナ   B73

【変化球】

チェンジアップ 1

【特殊能力】

送球○

アベレージヒッター

チャンス○

「……増えたな」

 野手能力。

 投手能力。

 そして初めての変化球。

 どれも上がっている。

 でも玲は。

【水城玲の解析情報】

年齢:10歳

球速 95km/h

特殊能力 ノビC

特殊能力 奪三振

【変化球】

チェンジアップ 1相当

「九十五……」

 五年生になったばかり。

 まだ十歳。

 ここから身体はもっと大きくなる。

「百キロ、すぐ行きそうだな」

 多分。

 玲は行く。

 その先にも。

 俺も球速を上げたい。

 チェンジアップも育てたい。

 でも打撃も。

 守備も。

 走塁も。

 全部伸ばしたい。

 そして。

 詩織との時間も減らしたくない。

 五年生。

 育てたいものは、また一つ増えた。

 なのに一日は。

 増えてくれない。

 

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