転生したら人生がサクセスモードだった   作:ねるすと

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第33話

 五年生になってから、季節は春から夏へ向かっていた。

 俺たちは相変わらず、学校へ行って、野球をして、帰って寝る。

 ネットのどこかで自分たちの名前が話題になっていることなんて、もちろん知らない。

 俺が気にしているのは、もっと単純なことだった。

「九十二!」

「……よし!」

 ブルペン。

 スピードガンを持った監督の声に、思わず拳を握る。

 九十二キロ。

 五年生になったばかりの頃は八十六だった。

 フォームを見直し、下半身を鍛え、少しずつ身体も大きくなった。

 その結果が、ようやく数字にも出始めている。

【球速が上がりました】

【86km/h → 92km/h】

「六キロ……」

 一気に上がったように見える。

 でも実際は、何か月も積み重ねた結果だ。

「成瀬、もう一球」

「はい!」

 振りかぶる。

 踏み込む。

 腕を振る。

 シュッ!

 パシンッ!

「九十一」

「ちょっと落ちた」

「十分だ。今の方が力みも少ない」

「はい」

 速い球を投げる。

 それだけなら力を込めればいいように思える。

 でも実際は逆だった。

 余計な力を抜いた方が、身体全体を使える。

 前世で何年も野球をやっていたはずなのに。

 今になって初めて分かることが、まだまだある。

 

◇

 

「次、水城」

「はい!」

 玲がマウンドへ上がる。

 最近。

 こいつが投げる時だけ、監督が少しだけ真剣な顔でスピードガンを見るようになった。

 理由は簡単。

「今日こそ百」

 玲が呟く。

「また言ってる」

「今日はいける気がする」

「毎回言ってるだろ」

「今日は違う」

「何が?」

「なんとなく」

「一番信用できないやつだ」

 玲がセットに入る。

 一球目。

 シュッ!

 バシンッ!

「九十八」

「……」

 俺と玲が同時に監督を見る。

「二人ともこっち見るな」

「あと二キロ」

「数字を追うなって言ってるだろ」

「はい」

 玲は返事だけはいい。

 二球目。

 バシンッ!

「九十九」

「……!」

「玲」

「うん」

「力むなよ」

「分かってる」

 多分。

 今一番力みそうなのは玲だ。

 でも。

 こいつはこういう時、妙に強い。

 

◇

 

 三球目。

 玲が振りかぶる。

 いつもより大きく投げようとした感じはない。

 むしろ。

 自然だった。

 足を上げる。

 踏み込む。

 腰が回る。

 腕が遅れて出てくる。

 そして。

 シュッ!

 次の瞬間。

 バァンッ!

「……」

 捕手のミットから、今までで一番大きな音がした。

 監督がスピードガンを見る。

 少しだけ黙る。

「監督?」

「……百」

「……」

「百キロ」

「……出た」

 玲が呟く。

 次の瞬間。

「伊織君!」

「うおっ!」

 玲が俺に飛びついてきた。

「出た!」

「分かった! 重い!」

「百キロ!」

「分かったって!」

 めちゃくちゃ嬉しそうだ。

 俺も。

 悔しいけど。

 嬉しい。

【水城玲の解析情報が更新されました】

球速 100km/h

【ストレートの球威が向上しています】

【ノビC】

「五年生で百か……」

 以前なら、小学生で百キロなんて聞けばそれだけで驚いた。

 でも玲の場合。

 これが完成形だとは全然思えない。

 むしろ。

 始まったばかりに見える。

 

◇

 

「水城」

「はい!」

「喜ぶのはいい。でも今日これ以上最高球速狙うのは禁止」

「え」

「え、じゃない」

「百一」

「投げるな」

「一キロだけ」

「駄目」

「じゃあ百・五」

「刻むな」

「監督、こいつ止めてください」

「だから止めてるんだよ」

 監督がため息をつく。

「成瀬もだぞ。九十二出たからって九十三狙って余計に投げるな」

「……はい」

「今ちょっと狙ってただろ」

「少し」

「お前も同類だ」

 否定できない。

 

◇

 

 その日の後半は、変化球練習。

 俺はストレートと同じ腕の振りで、チェンジアップを投げる。

 一球目。

 少し抜けすぎる。

「ボール」

「もう一球」

 二球目。

 今度は腕をしっかり振る。

 球速だけが落ちる。

 捕手の手前で、わずかに沈む。

「今のいいな」

「ほんとですか?」

「ああ」

 何度か繰り返す。

 ストレート。

 チェンジアップ。

 ストレート。

 チェンジアップ。

 投げ方の違いをできるだけ消す。

 そして。

【チェンジアップの熟練度が一定値に達しました】

【チェンジアップ 変化量1 → 2】

「……上がった」

 球速だけじゃない。

 新しく覚えた球種も、ちゃんと育つ。

【成瀬伊織 投手能力】

球速     92km/h

コントロール A80

スタミナ   B75

【変化球】

チェンジアップ 2

「コントロールもA……」

 ついに一つ。

 投手能力でもAへ届いた。

 少年カテゴリでA。

 全国でもトップクラスと言える能力。

 玲ほど球速はない。

 でも。

 俺には俺の投げ方がある。

 

◇

 

「伊織君」

「ん?」

「今の球、前より遅く見えた」

「チェンジアップだからな」

「曲がった」

「ちょっと落ちるようになった」

「僕もやる」

「お前さっき百出したばっかなんだから休め」

「変化球なら速くない」

「そういう問題じゃない」

「一球だけ」

「監督ー!」

「水城! 今日は終わり!」

「……はい」

 めちゃくちゃ残念そうに玲がボールを置く。

「そんな顔するなよ」

「投げたい」

「明日もあるだろ」

「明日まで長い」

「一日だよ」

 本当に。

 野球に関してだけは、こいつの感覚がおかしい。

 

◇

 

 週末。

 公式戦。

 この日は俺が先発だった。

「成瀬、今日は四回まで」

「はい!」

「無理に三振狙うな。お前の強みはコントロールだ」

「はい」

 マウンドへ上がる。

 玲が先発じゃない試合では、相手ベンチの空気が少し違う。

「今日は水城じゃないぞ!」

「最初から打っていけ!」

「……」

 聞こえてますけど。

 俺も投手なんだけどな。

 ちょっと腹が立つ。

「伊織君!」

 ショートに入った玲が声を出す。

「三振取って!」

「監督の話聞いてた!?」

「聞いてた!」

「じゃあ言うな!」

 相手ベンチから笑い声が出る。

 まあいい。

 投げれば分かる。

 

◇

 

 一回。

 先頭打者。

 一球目。

 外角低め。

「ストライク!」

 二球目。

 同じところ。

 ファウル。

 ツーストライク。

 三球目。

 チェンジアップ。

「……!」

 打者のバットが先に出る。

 ブンッ!

「ストライク! バッターアウト!」

「よし」

 一人目。

 三振。

 二人目。

 ストレートを二球続ける。

 ワンボール、ワンストライク。

 三球目。

 チェンジアップ。

 カンッ!

 セカンドゴロ。

「アウト!」

 三人目。

 ストレート。

 チェンジアップ。

 最後は外角のストレート。

「ストライク! バッターアウト!」

 初回。

 三者凡退。

 二奪三振。

「……普通に抑えられるな」

 玲ほど派手じゃない。

 百キロも出ない。

 でも。

 九十二キロ。

 コントロールA80。

 チェンジアップ2。

 これだけあれば。

 普通の六年生相手でも十分戦える。

 

◇

 

 三回。

 一死一塁。

 相手四番。

 一球目はストレート。

 ファウル。

 二球目はチェンジアップ。

 見送られる。

 ワンボール、ワンストライク。

 三球目。

 内角。

 カキン!

「ショート!」

 玲の正面。

「伊織君!」

 捕る。

 二塁へ。

「アウト!」

 一塁へ。

「アウト!」

 ダブルプレー。

「ナイス!」

「伊織君もナイス!」

 玲が笑う。

 俺が投げて。

 玲が守る。

 普段とは逆。

 でも。

 これはこれで楽しい。

 

◇

 

 四回を投げ終える。

【成瀬伊織 投球結果】

4回

被安打 2

失点 0

与四球 0

奪三振 6

「六個か」

 悪くない。

 いや。

 かなりいい。

「成瀬、ナイスピッチング」

「ありがとうございます!」

「チェンジアップも使えるようになってきたな」

「はい」

「ただ、頼りすぎるなよ。真っ直ぐあっての球だ」

「はい!」

 ベンチへ戻る。

「伊織君」

「何?」

「六個」

「取ったな」

「僕なら?」

「張り合うな」

「八個くらい」

「帰れ」

 玲が笑う。

 腹立つ。

 でも多分。

 本当にそれくらい取る。

 

◇

 

 試合は六対〇で勝利。

 俺は投手として四回無失点。

 打者としても三打数二安打。

 帰り道。

「伊織君、今日試合だった?」

 詩織が聞いてきた。

「うん」

「勝った?」

「勝った」

「玲君が投げた?」

「今日は俺」

「伊織君?」

「その驚き方やめてくれる?」

「だって最近玲君の話ばっかりだから」

「俺も投げるって」

「どうだった?」

「四回無失点」

「……すごいの?」

「すごい」

「自分で言った」

「今日は言っていい結果だから」

 詩織が笑う。

「玲君は?」

「今日じゃないけど、百キロ出した」

「百?」

「うん」

「それは分かる。すごそう」

「俺も九十二」

「じゃあ玲君の方が速い」

「……十歳の女の子に現実突きつけられた」

「でも伊織君も速いんでしょ?」

「速い」

「ならいいじゃん」

「よくない。追いつきたい」

「玲君に?」

「うん」

「勝ちたいの?」

 少し考える。

「勝ちたい」

「仲良いのに?」

「仲良いから勝ちたい」

「よく分かんない」

「俺も上手く説明できない」

 詩織が首を傾げる。

 俺も。

 玲に負けたくない。

 でも玲には強くなってほしい。

 もっと速い球を投げてほしい。

 その上で。

 いつか俺が打ちたい。

 不思議な関係だと思う。

 

◇

 

 夜。

 システムを開く。

【成瀬 伊織】

年齢:10歳

【競技カテゴリ:少年】

弾道 3

ミート B77

パワー B70

走力  B73

肩力  B77

守備力 B79

捕球  B74

【投手能力】

球速     92km/h

コントロール A80

スタミナ   B75

【変化球】

チェンジアップ 2

【特殊能力】

送球○

アベレージヒッター

チャンス○

「パワーもBに入ったか」

 少しずつ。

 確実に上がっている。

 そして玲。

【水城玲の解析情報】

年齢:10歳

球速 100km/h

特殊能力 ノビC

特殊能力 奪三振

【変化球】

チェンジアップ 1相当

「百キロ……」

 俺との差は八キロ。

 追いつけない差じゃない。

 今は。

 そう思った。

 でも。

 玲の成長は、ここで止まるわけじゃない。

 もちろん。

 俺も止まるつもりはなかった。

 五年生。

 まだ始まったばかり。

 俺たちの球は。

 ここからもっと速くなる。

 

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