転生したら人生がサクセスモードだった   作:ねるすと

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第34話

 玲が百キロを出してから、チームの中でも少し空気が変わった。

「水城、今日何キロ出るかな」

「百二くらいじゃね?」

「いや、また百じゃない?」

 六年生たちまで、玲がブルペンへ入るたびにスピードガンを気にする。

 本人はもっと単純だった。

「伊織君」

「何?」

「百一出た」

「昨日も聞いた」

「今日は百二出したい」

「監督に怒られるぞ」

「力まない」

「その台詞を言いながら球速の話してる時点で怪しいんだよ」

 五年生の夏が近づく頃。

 玲の最高球速は百一キロ。

 そして俺も。

「九十五!」

「よし!」

 九十五キロまで来ていた。

【球速が上がりました】

【92km/h → 95km/h】

 まだ六キロ差。

 でも俺だって止まっていない。

 コントロールはA。

 チェンジアップもある。

 投手としてなら。

 玲とは違う形で、十分勝負できる。

 

◇

 

「成瀬、水城」

 練習後、監督に呼ばれた。

「夏の大会だが、二人とも先発で使う」

「二人とも?」

「そうだ」

 玲が首を傾げる。

「一試合に二人で投げる?」

「そういう意味じゃない。大会中、水城だけに投げさせ続けるわけにはいかないってことだ」

 連戦になる。

 当然、投球数にも制限がある。

「水城が一番手。それは変わらん。ただ成瀬、お前も先発として試合を作れる」

「はい!」

「ショートとしても必要だから難しいところではあるけどな」

 嬉しい。

 玲がエース。

 それは認めている。

 でも。

 だからって俺が投手を諦める理由にはならない。

「二人でエース?」

 玲が聞く。

「エースが二人っていうより、二枚看板ってやつだな」

「二枚看板」

「なんか強そうだな」

「強いよ」

「自分で言うなよ」

「伊織君も強い」

「……それは否定しない」

 監督がため息をついた。

「お前ら、仲いいのか張り合ってるのかどっちなんだ」

「両方です」

「両方」

 俺と玲の声が重なった。

 

◇

 

 夏の大会、一回戦。

 先発は俺。

「成瀬、四回までを目安に行くぞ」

「はい!」

 相手は六年生中心。

 一回。

 先頭打者への初球。

 外角低め。

「ストライク!」

 二球目は内角。

 ファウル。

 ツーストライク。

 三球目。

 チェンジアップ。

 打者の腰が前に出る。

 ブンッ!

「ストライク! バッターアウト!」

「よし」

 以前は、チェンジアップはただ遅い球だった。

 今は違う。

 ストレートと同じ腕の振り。

 そこから球速が落ちて、少し沈む。

【チェンジアップ 2】

 たった数字一つ。

 でも、打者の反応は明らかに変わった。

 

◇

 

 二回。

 一死一塁。

 相手四番。

 一球目、ストレート。

 ファウル。

 二球目は外。

 ワンボール、ワンストライク。

 三球目。

 チェンジアップ。

 打者が待っていた。

 カキン!

「しまっ――」

 センター前。

 一、二塁。

「読まれたか」

 ベンチから監督の声。

「成瀬! 同じ組み立て続けるな!」

「はい!」

 そうだ。

 球種が増えたからって、それを投げれば抑えられるわけじゃない。

 次の打者。

 一球目。

 今度は内角ストレート。

「ストライク!」

 二球目もストレート。

 ファウル。

 ツーストライク。

 打者はチェンジアップを意識している。

 なら。

 三球目。

 もう一度ストレート。

 外角いっぱい。

「ストライク! バッターアウト!」

「よし!」

 変化球を覚えたことで。

 逆に真っ直ぐも使いやすくなる。

 投球って。

 面白い。

 

◇

 

 四回を投げ終える。

【成瀬伊織 投球結果】

4回

被安打 3

失点 1

与四球 1

奪三振 7

「一点取られたか」

 少し悔しい。

「十分」

 ベンチへ戻ると玲が言った。

「七個三振」

「お前なら?」

「十個」

「聞いてない」

「でも伊織君の方が四球少ない」

「……一個だけどな」

「僕、もっと出す時ある」

 そこは玲の弱点。

 球威で押せる分、少し荒れても抑えられてしまう。

 俺はそこまで圧倒的な球がない。

 だからコースを使う。

「やっぱ違うな」

「何が?」

「俺とお前」

「うん」

「投手として」

「でも二人とも抑える」

「それでいいか」

「うん」

 試合は八対一で勝った。

 

◇

 

 二回戦。

 今度は玲が先発。

 一回。

 初球。

 シュッ!

 バシンッ!

「ストライク!」

「速っ……」

 相手打者が思わず呟く。

 二球目。

 ファウル。

 ツーストライク。

 三球目。

 チェンジアップ。

 打者のバットが早く出る。

 空振り。

「ストライク! バッターアウト!」

「……あれ反則じゃない?」

 俺はショートから呟いた。

 百一キロ。

 ノビC。

 奪三振。

 そこへチェンジアップ。

【水城玲の解析情報】

球速 101km/h

特殊能力:ノビC

特殊能力:奪三振

【変化球】

チェンジアップ 2相当

「いつの間に二相当になったんだよ」

 俺が何か月もかけて育てた球を。

 玲も普通に追いついてくる。

 こういうところが腹立つ。

 そして。

 楽しい。

 

◇

 

 三回。

 玲は無安打。

 奪三振七。

 四回。

 先頭打者がようやくバットに当てる。

 カキン!

「ショート!」

「任せろ!」

 俺が捕る。

 一塁へ。

「アウト!」

 次も三振。

 最後も三振。

 四回終了。

「十一個」

 俺が数える。

「あと一個で十二」

「お前、本当に三振好きだな」

「うん」

 五回。

 先頭打者。

 チェンジアップをセンター前へ運ばれる。

「ヒット!」

「……」

 玲が少し眉を寄せる。

 続く打者。

 送りバント。

 一死二塁。

 次は三番。

 初球、ストレート。

 ファウル。

 二球目はボール。

 ワンボール、ワンストライク。

 三球目。

 甘い。

「玲!」

 カキィン!

 打球は左中間。

「抜けた!」

 二塁走者がホームへ。

 一点。

 玲が唇を噛む。

 でも次の四番。

 ストレート。

 ストレート。

 最後はチェンジアップ。

 ブンッ!

「ストライク! バッターアウト!」

 さらに五番も三振。

 結局。

【水城玲の投球結果】

5回

被安打 2

失点 1

与四球 0

奪三振 13

「十三……」

「一点取られた」

「そこ気にする?」

「完封したかった」

「俺も一点取られたよ」

「一緒」

「三振数が全然一緒じゃないけどな」

 試合は七対一。

 二回戦突破。

 

◇

 

 大会は進む。

 三回戦は俺が先発。

 五回二失点、八奪三振。

 打っては四打数三安打。

 準々決勝は玲。

 五回無失点、十四奪三振。

 俺はショートで二度の併殺を完成させ、三打数二安打。

 そして準決勝。

「今日の先発、成瀬」

「はい!」

 相手は県内上位。

 簡単にはいかない。

 一回。

 先頭打者にヒット。

 二番に送りバント。

 一死二塁。

 三番。

 外角ストレートをライト前。

「回れ!」

 二塁走者がホームへ。

「セーフ!」

 いきなり一点。

「……強い」

 普通の相手なら、九十五キロとチェンジアップでかなり抑えられる。

 でも強いチームは違う。

 狙い球を決めてくる。

 甘い球を逃さない。

 四番。

 一球目はチェンジアップ。

 見送られる。

 ボール。

 二球目。

 内角ストレート。

 ファウル。

 ワンボール、ワンストライク。

 三球目。

 外角。

 ストライク。

 ワンボール、ツーストライク。

 四球目。

 チェンジアップ。

 打者のバットが止まる。

「ボール!」

 ツーボール、ツーストライク。

 読まれてる。

 なら。

 五球目。

 ストレート。

 外角いっぱい。

「ストライク! バッターアウト!」

「よし!」

 強い。

 でも。

 全国トップほどじゃない。

 なら戦える。

 

◇

 

 試合は三対二。

 俺は五回二失点、九奪三振。

 打者としては三打数二安打、一打点。

 最終回は玲がマウンドへ。

「水城、一点差だ。三つ頼む」

「はい!」

 先頭打者。

 ストレート。

 空振り。

 ファウル。

 ツーストライク。

 三球目。

 チェンジアップ。

 空振り。

 一人目。

 二人目。

 高めのストレート。

 空振り三振。

「二人」

 最後。

 相手四番。

 一球目。

 百二キロ。

 ファウル。

「……百二?」

 ベンチがざわつく。

 玲は気にしない。

 二球目。

 チェンジアップ。

 ボール。

 ワンボール、ワンストライク。

 三球目。

 ストレート。

 ファウル。

 ワンボール、ツーストライク。

「玲!」

 俺がショートから声を出す。

 玲が一度だけこっちを見る。

 そして。

 四球目。

 高め。

 ブンッ!

「ストライク! バッターアウト!」

「ゲームセット!」

 三者連続三振。

 準決勝突破。

【水城玲の解析情報が更新されました】

球速 102km/h

「……また上がった」

 玲はマウンドで笑っている。

 俺も笑った。

 俺が試合を作る。

 玲が最後を締める。

 こういう勝ち方も。

 悪くない。

 

◇

 

「二人とも投げるんだね」

 翌日。

 詩織に大会の話をすると、そんなことを言われた。

「うん」

「玲君だけじゃないんだ」

「俺も投手だからな」

「でもショートもやるんでしょ?」

「やる」

「打つのも?」

「やる」

「走るのも?」

「やる」

「大変そう」

「大丈夫」

「ほんと?」

「今のところ」

 そう答える。

 でも最近。

 少しだけ分かってきた。

 投手練習を増やせば、打撃練習の時間が減る。

 守備を増やせば、投げる時間が減る。

 野球だけでも。

 全部を伸ばそうとすると、時間が足りない。

「伊織君」

「ん?」

「今週の日曜日、空いてる?」

「日曜?」

 決勝の翌日。

 一瞬。

 自主練の予定を考えた。

 でも。

「午後なら空いてる」

「ほんと?」

「うん」

「じゃあ遊ぼ」

「いいよ」

 詩織が笑う。

【藤崎詩織の好感度が少し上がりました】

「……」

 野球。

 詩織。

 全部。

 まだできる。

 そう思った。

 

◇

 

 そして決勝。

「先発、水城」

「はい!」

「成瀬、ショート」

「はい!」

 全国大会へつながる大会ではない。

 それでも。

 目の前の大会で負けるつもりなんてない。

 一回。

 玲が百キロを超えるストレートで二三振。

 俺は一回裏に先制タイムリー。

 三回には盗塁。

 五回。

 俺の第三打席。

 一死二塁。

 相手投手の九十キロ台後半。

 一球目、ボール。

 二球目、ファウル。

 ワンボール、ワンストライク。

 三球目。

 内角。

「そこ!」

 振り抜く。

 カキィン!

 高い打球。

 レフトが下がる。

 フェンス。

 越えた。

「ホームラン!」

「よし!」

 二ラン。

 四対〇。

 試合はそのまま五対一で勝利。

 優勝。

 

◇

 

 夜。

【成瀬 伊織】

年齢:10歳

【競技カテゴリ:少年】

弾道 3

ミート B79

パワー B73

走力 B75

肩力 B79

守備力 A80

捕球 B76

【投手能力】

球速     95km/h

コントロール A82

スタミナ   B78

【変化球】

チェンジアップ 2

【特殊能力】

送球○

アベレージヒッター

チャンス○

「守備もA……」

 コントロールに続いて二つ目。

 少年カテゴリで全国トップクラス。

 少しずつ。

 Aが増え始めた。

 そして。

【水城玲の解析情報】

年齢:10歳

球速 102km/h

特殊能力:ノビC

特殊能力:奪三振

【変化球】

チェンジアップ 2相当

 俺は九十五。

 玲は百二。

 差は七キロ。

「まだ追える」

 投手としても。

 野手としても。

 どっちも。

 そして詩織との時間も。

 全部。

 全部育てる。

 そう思っていた。

 ただ。

 育てたいものが増えるほど。

 一つに使える時間は、確実に減っていた。

 

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