転生したら人生がサクセスモードだった   作:ねるすと

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第36話

 五年生の夏。

 去年、四年生だった俺たちは初めて全国大会へ出て、ベスト8で負けた。

 あの時は、全国へ行けたこと自体が嬉しかった。

 でも今年は違う。

「目標は?」

 練習前、監督が全員を見回す。

「全国!」

「違う」

 一瞬、みんなが黙った。

「全国に行くことを目標にするな。今年は全国で勝つ。そのために、まずここを勝ち抜くぞ」

「はい!」

 全国へ行きたい。

 じゃない。

 全国で勝ちたい。

 俺も玲も、もう一度あの場所へ行くつもりでいた。

 

◇

 

 予選一回戦。

「先発、成瀬」

「はい!」

 最近はもう、俺が先発を任されることも珍しくない。

 マウンドへ上がる。

 春先は九十二キロ。

 少し前に九十五。

 そして今。

 初球。

 シュッ!

 バシンッ!

「ストライク!」

 ベンチから監督の声。

「九十八!」

「……!」

 ついに九十キロ台後半。

【球速が上がりました】

【95km/h → 98km/h】

 百まであと二キロ。

 思わず嬉しくなる。

 でも。

「伊織君! 試合!」

 ショートの玲が叫ぶ。

「分かってる!」

 今は数字を見る時間じゃない。

 二球目。

 外角。

 ファウル。

 ツーストライク。

 三球目。

 チェンジアップ。

 打者の身体が前へ出る。

 ブンッ!

「ストライク! バッターアウト!」

 九十八キロのストレート。

 そこから七十キロ台のチェンジアップ。

 球速差だけでもかなりある。

 さらに今の俺は、以前より同じフォームで投げられる。

【チェンジアップ 2】

 普通の相手なら、かなり有効だった。

 

◇

 

 三回を終えて無失点。

 四回。

 一死一塁。

 相手四番。

 一球目はストレート。

 ファウル。

 二球目は外。

 ワンボール、ワンストライク。

 三球目。

 チェンジアップ。

 打者が待っていた。

「……!」

 カキン!

 レフト前。

 一、二塁。

「また読まれた」

 以前にもあった。

 チェンジアップを覚えてから、頼りすぎる時がある。

「成瀬!」

 監督がベンチから指を一本立てる。

 真っ直ぐ。

 多分、そういう意味だ。

 次の打者。

 一球目。

 外角いっぱい。

「ストライク!」

 二球目。

 内角高め。

 空振り。

 ツーストライク。

「……」

 変化球を意識している。

 なら。

 三球目。

 もう一度ストレート。

 外角低め。

「ストライク! バッターアウト!」

 次もストレート中心で詰まらせて、セカンドゴロ。

 無失点。

「変化球があるから真っ直ぐが生きる」

 分かっていたつもりだった。

 でも実戦で使うと、また違う。

 投げられる球が増えるほど。

 考えることも増える。

 

◇

 

 一回戦。

 七対〇。

【成瀬伊織 投球結果】

4回

被安打 3

失点 0

与四球 0

奪三振 8

最高球速 98km/h

「八個」

 玲が言う。

「悪くないだろ」

「うん」

「お前なら?」

「十個」

「聞いてない」

「でも伊織君、四球ゼロ」

「そこは勝った」

「僕も今度ゼロにする」

「何でも勝負にすんな」

「伊織君もするじゃん」

「……そうでした」

 否定できない。

 

◇

 

 二回戦。

 先発は玲。

 一回。

 初球。

 シュッ!

 バァンッ!

「百三!」

 ベンチから声が飛ぶ。

「また上がってる……」

 春先に百。

 その後百二。

 そして今、百三。

【水城玲の解析情報が更新されました】

球速 103km/h

 打者は完全に振り遅れる。

 二球目もファウル。

 ツーストライク。

 三球目。

 チェンジアップ。

 ブンッ!

「ストライク! バッターアウト!」

「いや、それズルくない?」

 思わず呟く。

 百三を見せられた直後に、二十キロ以上遅い球。

 しかも玲のストレートは、ただ速いだけじゃない。

 ノビC。

 高回転。

 空振りを取ることに向いた真っ直ぐ。

 普通の小学生相手なら。

 かなり理不尽だ。

 

◇

 

 二回戦。

 六対〇。

 玲は五回一安打、無失点、十四奪三振。

「十四?」

「うん」

「十五アウトのうち十四?」

「あと一個」

「十分だろ」

「全部三振取りたかった」

「お前守備信用してないだろ」

「信用してるよ」

「ほんとか?」

「伊織君いるし」

「じゃあ打たせろ」

「三振の方が楽しい」

「正直だな」

 玲が笑う。

 こいつにとって。

 三振は本当に楽しいらしい。

 

◇

 

 三回戦。

 俺はショート。

 一回裏、一死一塁。

 第一打席。

 相手投手は六年生。九十キロ台後半。

 一球目は外。

 二球目、ストライク。

 ワンボール、ワンストライク。

 三球目。

 内角。

「来た!」

 振り抜く。

 カキィン!

 打球は右中間。

「抜けた!」

 一塁走者が三塁を回る。

 俺は二塁へ。

「セーフ!」

 先制タイムリーツーベース。

 次の打者。

 外野フライ。

「成瀬、三塁!」

「はい!」

 タッチアップ。

 三塁へ。

 さらに次打者の内野ゴロ。

「ホーム!」

 スタート。

「セーフ!」

 二点目。

 打つ。

 走る。

 点を取る。

 投げない試合でも、やれることはいくらでもある。

 

◇

 

 五回。

 一死一塁。

 俺の第三打席。

 四球。

「また歩かされた」

 一塁へ向かう。

 相手捕手がすぐ俺を見る。

「走るぞ!」

 相手ベンチから声。

「……警戒されてるな」

 初球、牽制。

 二球目も牽制。

 三球目。

 投手がホームへ。

「今!」

 スタート。

 捕手が二塁へ送球。

 滑り込む。

「セーフ!」

【盗塁成功】

【一定期間、高い盗塁成功率を記録しました】

「……ん?」

 見慣れない表示。

【特殊能力取得条件を達成しました】

【盗塁○を取得しました】

「来た」

 ついに。

 走塁でも特殊能力。

 結果を積み重ねて。

 初めて形になる。

 やっぱり。

 こういう瞬間は嬉しい。

 

◇

 

 三回戦は八対二。

 準々決勝も六対一。

 俺と玲は交互にマウンドへ上がった。

 俺が投げる時は、コースと緩急。

 玲が投げる時は、圧倒的な真っ直ぐと三振。

 タイプは違う。

 でも。

 どちらが投げても試合を作れる。

「本当に二枚看板になってきたな」

 試合後、六年生の主将が言った。

「水城だけじゃなく、成瀬も普通にエースだろ」

「……」

 ちょっと嬉しい。

「伊織君、ニヤニヤしてる」

「してない」

「してる」

「お前は百三出た時ずっと笑ってただろ」

「百三だから」

「俺もエースって言われたから」

「じゃあ一緒」

「そういうことにしとく」

 

◇

 

 準決勝。

 相手は県内でも有名な強豪。

 去年も全国予選で当たったチームだった。

「水城対策! 高め振るな!」

「成瀬は外中心! 塁に出したら走るぞ!」

 試合前から名前が飛ぶ。

 去年以上に。

 俺たちへの対策がはっきりしている。

「完全に狙われてるな」

「僕たち?」

「そうだよ」

「嬉しい」

「まあ、分かる」

 対策される。

 それだけ警戒されている。

 悪い気はしない。

 

◇

 

 先発は玲。

 一回。

 相手は徹底して高めを捨てる。

 一番打者。

 一球目、高め。

 見送る。

「ボール!」

 二球目。

 低めストライク。

 ワンボール、ワンストライク。

 三球目。

 ファウル。

 ワンボール、ツーストライク。

 四球目。

 チェンジアップ。

 打者が止まる。

「ボール!」

 ツーボール、ツーストライク。

 五球目。

 外角。

 ファウル。

 六球目もファウル。

「粘るな」

 七球目。

 玲がストレート。

 高め。

 打者が我慢する。

「ボール!」

 フルカウント。

 八球目。

 外角低め。

「ストライク! バッターアウト!」

 結局三振。

 でも八球。

 簡単には終わらせてもらえない。

 

◇

 

 二番は四球。

 三番にセンター前。

 一死一、二塁。

 四番。

 玲の百三キロをファウル。

「当ててくる」

 二球目。

 チェンジアップ。

 ボール。

 ワンボール、ワンストライク。

 三球目。

 内角ストレート。

 カキン!

「ショート!」

 俺の正面。

「もらった!」

 捕る。

 二塁へ。

「アウト!」

 一塁へ。

「アウト!」

 ダブルプレー。

「よし!」

 玲がマウンドから拳を上げる。

「伊織君!」

「三振だけがアウトじゃないぞ!」

「でも三振がいい!」

「知ってる!」

 強豪相手でも。

 二人で守れば抑えられる。

 

◇

 

 三回裏。

 〇対〇。

 一死二塁。

 俺の第二打席。

 一球目、外。

 二球目も外。

 ツーボール。

「また外か」

 三球目。

 外角ストライク。

 ツーボール、ワンストライク。

 四球目。

 少し内側へ入った。

「そこ!」

 踏み込む。

 カキン!

 ライト前。

 二塁走者がホーム。

「セーフ!」

 一対〇。

【チャンス○】

 派手な長打じゃない。

 でも。

 警戒されても、打てるところを打つ。

 今の俺にはそれができる。

 

◇

 

 試合は二対一。

 最終回。

 玲の投球数はかなり増えていた。

「水城、ここまで」

「……」

「球数だ。交代」

「はい」

 玲がマウンドを降りる。

 そして監督が俺を見る。

「成瀬」

「はい」

「最後頼む」

「……はい!」

 ショートからマウンドへ。

 玲とすれ違う。

「伊織君」

「何?」

「一点守って」

「任せろ」

「三振取って」

「それは約束しない」

 玲が笑う。

 俺も笑った。

 

◇

 

 一点差。

 相手の先頭は三番。

 一球目。

 外角。

「ストライク!」

 二球目。

 内角。

 ファウル。

 ツーストライク。

 三球目。

 チェンジアップ。

 打者が止まる。

 ボール。

 ワンボール、ツーストライク。

 四球目。

 外角ストレート。

 カンッ!

 セカンドゴロ。

「アウト!」

 一人。

 次は四番。

 一球目、ストレート。

 ファウル。

 二球目はボール。

 ワンボール、ワンストライク。

 三球目。

 チェンジアップ。

 空振り。

 ワンボール、ツーストライク。

 四球目。

 外角低め。

「ストライク! バッターアウト!」

「よし!」

 二人。

 最後は五番。

 一球目。

 ストレート。

 ボール。

 二球目。

 チェンジアップ。

 ファウル。

 ワンボール、ワンストライク。

 三球目。

 内角。

 詰まらせる。

 打球はショート。

 そこには玲。

「玲!」

「うん!」

 捕る。

 一塁へ。

「アウト!」

「ゲームセット!」

 準決勝突破。

 全国まで。

 あと一勝。

 

◇

 

 試合後。

「伊織君」

「ん?」

「最後、三振一個だった」

「抑えたからいいだろ」

「でも一個」

「お前は何個?」

「九個」

「知ってるよ」

「僕の勝ち」

「勝手に勝負始めんな」

 玲が笑う。

 俺も笑う。

 でも。

 今年の俺は。

 去年より投げられる。

 去年より打てる。

 去年より守れる。

 玲も。

 去年よりずっと速い。

 俺たちは確実に強くなっている。

 だから。

 今年こそ。

 全国へ行くだけじゃない。

 もっと上へ。

 

◇

 

 その夜。

【成瀬 伊織】

年齢:10歳

【競技カテゴリ:少年】

弾道 3

ミート A80

パワー B75

走力  B77

肩力  A80

守備力 A82

捕球  B78

【投手能力】

球速     98km/h

コントロール A83

スタミナ   A80

【変化球】

チェンジアップ 2

【特殊能力】

送球○

アベレージヒッター

チャンス○

盗塁○

「ミートも、肩も、スタミナもA」

 少しずつ。

 Bだった能力がAへ入っていく。

 少年カテゴリで全国トップクラス。

 そして。

【水城玲の解析情報】

年齢:10歳

球速 103km/h

特殊能力:ノビC

特殊能力:奪三振

【変化球】

チェンジアップ 2相当

「あと一勝」

 全国への切符。

 去年は、それを手にしただけで嬉しかった。

 今年は違う。

 全国へ行く。

 そして。

 去年より先へ行く。

 そのための決勝が。

 翌週に迫っていた。

 

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