転生したら人生がサクセスモードだった   作:ねるすと

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第38話

 全国大会出場をかけた決勝当日の朝。

 目が覚めた俺は、ベッドから起き上がる前にシステムを開いた。

「……一回、ちゃんと見とくか」

 五年生の夏。

 俺も玲も、誕生日を迎えて十一歳になった。

 去年、四年生で初めて全国大会へ出た時から約一年。

 今の俺たちが、どこまで来たのか。

【成瀬 伊織】

年齢:11歳

競技カテゴリ:少年

【野手能力】

弾道  3

ミート A80

パワー B75

走力  B77

肩力  A80

守備力 A82

捕球  B78

【投手能力】

球速     98km/h

コントロール A83

スタミナ   A80

【変化球】

チェンジアップ 2

【特殊能力】

送球○

アベレージヒッター

チャンス○

盗塁○

「A、増えたな」

 ミート、肩、守備、コントロール、スタミナ。

 少年カテゴリでA。

 全国でもトップクラスと言える能力が、少しずつ増えてきた。

 一つだけなら俺より上の奴はいる。

 打撃だけならもっと打つ奴。

 足だけならもっと速い奴。

 投手として見れば、すぐ近くにもっとおかしい奴がいる。

 でも。

 打つ。

 走る。

 守る。

 投げる。

 全部を高いところまで持っていける。

 それが今の俺だった。

「で……玲」

 最近になって、玲についても以前より細かい解析ができるようになっていた。

【水城玲の解析情報】

年齢:11歳

競技カテゴリ:少年

【野手能力・推定換算】

弾道  2

ミート C64

パワー C66

走力  B74

肩力  A89

守備力 C67

捕球  C65

「……初めてちゃんと見たけど」

 思っていたより分かりやすい。

 走力は高い。

 肩は異常。

 でも打撃や守備は、少年カテゴリで普通より明確に上手い程度。

 もちろんCでも十分いい選手だ。

 ただ、俺みたいに何でも高いわけじゃない。

 そして。

【投手能力・推定換算】

球速     103km/h

コントロール B71

スタミナ   A81

【変化球】

チェンジアップ 2相当

【特殊能力】

ノビC

奪三振

「……マウンドに立つと別人だな」

 球速百三キロ。

 肩力はS目前のA89。

 高回転のストレートにノビCと奪三振。

 一方でコントロールはB71。

 俺のA83とは、かなり差がある。

 玲は狙った場所へ完璧に投げ続ける投手じゃない。

 多少外れても。

 多少甘くても。

 球そのものの力で打者をねじ伏せる。

 俺とは真逆だ。

「……だから面白いんだけど」

 今日。

 全国への切符をかけた決勝。

 その玲が先発する。

 

◇

 

「三番、ショート、成瀬」

「はい!」

「先発、水城」

「はい!」

 相手は△△リトル。

 去年も全国大会へ出場している強豪で、主力は六年生。

 試合前の相手ベンチから、すでに声が聞こえてくる。

「水城の高め振るな!」

「ボール球追う必要ないぞ!」

「成瀬は外中心! 塁に出したら走るぞ!」

「……めちゃくちゃ対策されてるな」

「僕、有名?」

「多分そういう意味じゃない」

 玲は少し嬉しそうだった。

 監督がその頭を軽く叩く。

「喜んでる場合じゃない。水城、今日は相手が振ってくれないぞ。力んで三振取りに行くな」

「はい」

「成瀬」

「はい」

「水城の球数次第では最後お前に行ってもらう」

「はい!」

 玲が俺を見る。

「最後まで投げる」

「監督の話聞いてた?」

「早くアウト取ればいい」

「三振じゃなくてもな」

「三振がいい」

「知ってるよ」

 いつもの玲。

 そう思っていた。

 

◇

 

 一回表。

 俺たちは先攻。

 一死走者なしで第一打席が回る。

 相手の六年生エースは百キロ前後。

 一球目、外。

 二球目、外角ストライク。

 ワンボール、ワンストライク。

 三球目。

 内角。

「そこ!」

 振り抜く。

 カキン!

 一、二塁間。

「抜けた!」

 ライト前。

 全国を決める試合。

 最初の打席で一本。

 でも後続が倒れ、無得点。

 

◇

 

 一回裏。

 玲の初球。

 シュッ!

 バァンッ!

「ボール!」

「……」

 明らかに高い。

 二球目。

 また高め。

「ボール!」

 ツーボール。

 三球目は真ん中。

 打者は見送る。

「ストライク!」

 ツーボール、ワンストライク。

 四球目。

 外へ外れた。

 スリーボール、ワンストライク。

「玲」

 ショートから声を出す。

 玲が一度だけ俺を見る。

 五球目。

 ストレート。

「ボール! フォアボール!」

「……」

 先頭四球。

 珍しくはない。

 玲のコントロールはB71。

 でも今日は、少し違った。

 二番が送りバント。

 一死二塁。

 三番。

 一球目、ボール。

 二球目、ファウル。

 ワンボール、ワンストライク。

 三球目。

 百三キロ。

 真ん中寄り。

 カキィン!

「センター前!」

 二塁走者がホームへ。

「セーフ!」

 〇対一。

 先制された。

「水城! 力むな!」

 監督の声。

「はい!」

 返事はする。

 でも次の四番にも、初球が大きく外れた。

「……珍しいな」

 玲が焦ってる。

 俺には分かった。

 相手が振らない。

 だからもっと速い球を投げようとしている。

 もっと厳しいところへ。

 もっと三振を。

 結果。

 自分で自分を苦しくしている。

 それでも四番は最後に高めで三振。

 五番は俺の正面へゴロ。

 二塁。

 一塁。

「アウト!」

 ダブルプレー。

 一失点で止めた。

 

◇

 

 二回裏。

 また先頭に四球。

「……二個目」

 今度はヒットで無死一、二塁。

 送りバント。

 一死二、三塁。

 次打者。

 外野フライ。

 三塁走者がタッチアップ。

「セーフ!」

 〇対二。

 玲が二回までに二失点。

 普通の相手ならほとんど起こらない。

 でも△△リトルは、玲を打ち崩そうとはしていなかった。

 ボール球を捨てる。

 甘くなるまで待つ。

 アウトになっても走者を進める。

 玲の弱いところを、丁寧に使っている。

「……強いな」

 だから。

 面白い。

 

◇

 

 三回表。

 無死一塁。

 俺の第二打席。

 一球目は外。

 二球目、ストライク。

 ワンボール、ワンストライク。

 三球目。

 外角。

「……!」

 踏み込む。

 カキィン!

 右中間。

「抜けた!」

 一塁走者が一気に三塁を回る。

 俺は二塁へ。

「セーフ!」

 タイムリーツーベース。

 一対二。

「よし!」

 後続は続かなかった。

 でも一点返した。

 ベンチへ戻る途中、玲と目が合う。

「一点」

「うん」

「あと一点」

「僕が取られた二点」

「だったら自分で打て」

「打つ」

「その前に抑えろ」

「うん」

 いつもの返事。

 でも表情は、まだ少し硬かった。

 

◇

 

 三回裏。

 二死走者なし。

 ここまで何とか抑えていた玲が、また四球を出した。

 三個目。

 続く四番。

 初球のストレート。

 甘い。

 カキィン!

「レフト!」

 打球はフェンス際まで飛ぶ。

 一塁走者が一気にホーム。

「セーフ!」

 一対三。

 玲が三点目を失った。

 四番打者は二塁。

「玲!」

「……うん」

 返事が小さい。

 次の打者は三振に取った。

 でもベンチへ戻ってきた玲は、明らかに納得していなかった。

「三点」

「まだ三点」

「三点も」

「俺たちが取ればいい」

「でも」

「玲」

 顔を見る。

「三振取ろうとしすぎじゃない?」

「……」

「相手、お前のボール球振らないぞ」

「分かってる」

「だったらストライク投げればいいじゃん」

「打たれる」

「打たせろよ」

 玲が俺を見る。

「俺いるんだから」

「……」

「後ろにもみんないる。三振じゃなくてもアウトは一個だろ」

「でも三振の方が」

「楽しい?」

「うん」

「知ってる」

 思わず笑う。

「でも今日は勝つ方が大事」

 玲が少し黙った。

「……うん」

 短い返事。

 でも。

 今度は少しだけ、顔から力が抜けていた。

 

◇

 

 四回表。

 一対三。

 一死走者なし。

 俺の第三打席。

 相手は明らかに勝負を避けてきた。

 ボール。

 ボール。

 外角ストライク。

 ボール。

 スリーボール、ワンストライク。

 五球目。

 外。

「フォアボール!」

「またか」

 でも。

 今はそれでいい。

 一塁。

 次打者への初球は牽制。

 二球目。

「行く!」

 スタート。

「走った!」

 送球。

 滑り込む。

「セーフ!」

【盗塁○】

 無死ではない。

 一死二塁。

 続く四番がセンター前。

「回れ!」

 三塁を蹴る。

 ホームへ。

「セーフ!」

 二対三。

 さらに二死一、三塁から六番が内野安打。

 三対三。

 同点。

「よし!」

 ベンチが一気に沸く。

 試合を振り出しに戻した。

 

◇

 

 四回裏。

 玲がマウンドへ戻る。

 先頭。

 一球目。

 ストレート。

「ストライク!」

「……」

 九十九キロ。

 いつもより遅い。

 でも。

 フォームが綺麗だった。

 二球目。

 外角。

 またストライク。

 ツーストライク。

 三球目。

 チェンジアップ。

 打者が引っかける。

「ショート!」

「はいよ!」

 捕って一塁。

「アウト!」

 玲が俺を見る。

「アウト」

「一個な」

「三振じゃない」

「でも一球少なく済んだだろ」

「……うん」

 少し笑った。

 二人目。

 一球目。

 百二キロ。

 ストライク。

 二球目。

 チェンジアップ。

 空振り。

 ツーストライク。

 三球目。

 玲が振りかぶる。

 今までみたいに。

 速く投げようとしている感じがしない。

 ただ。

 身体全体が滑らかにつながった。

 シュッ!

 バァンッ!

「ストライク! バッターアウト!」

 同時にベンチから声。

「百五!」

「……え?」

 玲が振り返る。

「百五!?」

 本人が一番驚いていた。

「力入れてない」

 俺も分かった。

 だからこそ。

 さっきまでの百三より。

 今の百五の方が。

 遥かに怖かった。

【水城玲の解析情報が更新されました】

【投球動作の効率が大幅に向上】

【ストレートの回転効率がさらに上昇】

【特殊能力《ノビ》の上位特性を確認しました】

「……上位?」

 さらに表示が続く。

【金特殊能力:怪童】

「……」

 ノビC。

 今までそう解析されていた玲のストレートが。

 一段。

 違う場所へ入った。

 もちろんシステムが玲に何かを与えたわけじゃない。

 玲自身の投球が変わった。

 それを。

 俺のシステムが《怪童》と解析しただけだ。

「玲」

「なに?」

「今の、もう一回」

「うん!」

 三人目。

 初球。

 百四キロ。

 空振り。

 二球目。

 百五キロ。

 ファウル。

 ツーストライク。

 三球目。

 高め。

 打者が振る。

 ブンッ!

「ストライク! バッターアウト!」

 三者凡退。

 玲がマウンドから帰ってくる。

「伊織君」

「何?」

「三振取れた」

「結局そこかよ」

「でも最初はゴロ」

「成長したな」

「うん!」

 多分。

 本人はまだ分かってない。

 今。

 何かが変わったことを。

 

◇

 

 五回表。

 三対三。

 一死二塁。

 俺の第四打席。

 相手エースも疲れてきている。

 一球目、外。

 二球目、ストライク。

 ワンボール、ワンストライク。

 三球目。

 内角。

 ファウル。

 ワンボール、ツーストライク。

 四球目。

 低め。

 ボール。

 ツーボール、ツーストライク。

 五球目。

 外角。

「……そこ!」

 踏み込む。

 カキィン!

 右中間。

「抜けた!」

 二塁走者がホームへ。

 俺は二塁。

「セーフ!」

 四対三。

 勝ち越しタイムリーツーベース。

「よっしゃ!」

 今日。

 三安打。

 二打点。

 一盗塁。

 まだ終わってない。

 でも。

 俺にできることは全部やる。

 

◇

 

 五回裏。

 玲は完全に別人だった。

 先頭をストレートで三振。

 二人目はチェンジアップでタイミングを外し、セカンドゴロ。

 三人目。

 最後は百五キロ。

 空振り三振。

 三者凡退。

【水城玲の投球結果】

5回

被安打 5

失点 3

与四球 3

奪三振 8

最高球速 105km/h

 数字だけを見れば。

 最近の玲としては、かなり苦しんだ試合。

 でも。

「最後の二回の方が怖いな」

「何が?」

「お前の球」

「百五だったから?」

「それもあるけど……違う」

「?」

 うまく説明できない。

 ただ速いだけじゃない。

 力を入れていないのに。

 前より速く。

 前より伸びる。

 そう見えた。

「水城、ここまで!」

「はい!」

 監督が言う。

 玲も今日は素直に頷いた。

「成瀬!」

「はい!」

「最後頼む」

「はい!」

 全国まで。

 あとアウト三つ。

 

◇

 

 六回裏。

 四対三。

 俺がマウンドへ上がる。

「伊織君!」

 ショートへ入った玲が声を出す。

「三振三つ!」

「注文多い!」

「一個でもいい!」

「急に妥協したな!」

 少し笑った。

 緊張が抜ける。

 先頭打者。

 一球目。

 九十八キロ。

 外角。

「ストライク!」

 二球目。

 内角。

 ファウル。

 ツーストライク。

 三球目。

 チェンジアップ。

 ブンッ!

「ストライク! バッターアウト!」

 一人。

 次は三番。

 一球目、ボール。

 二球目、ストライク。

 ワンボール、ワンストライク。

 三球目。

 ストレート。

 カキン!

 センター前。

 一死一塁。

 そして四番。

 一番怖い打者。

 一球目。

 外角。

 ボール。

 二球目。

 内角。

 ファウル。

 ワンボール、ワンストライク。

 三球目。

 チェンジアップ。

 見送られる。

 ツーボール、ワンストライク。

「……読んでる」

 さすが。

 なら。

 四球目。

 外角ストレート。

 ファウル。

 ツーボール、ツーストライク。

 五球目。

 玲なら。

 高めへ投げる。

 百五キロでねじ伏せる。

 でも。

 俺は玲じゃない。

 俺の武器は。

【コントロール A83】

 外角低め。

 ギリギリ。

 そこへ投げる。

 シュッ!

 打者が振る。

 カンッ!

「ショート!」

「伊織君!」

 玲が捕る。

 二塁へ。

「アウト!」

 一塁。

 送球。

「アウト!」

「ゲームセット!」

「……っしゃあ!」

 四対三。

 勝った。

 全国大会出場。

 二年連続。

 決定。

 

◇

 

「伊織君!」

 玲が走ってくる。

「全国!」

「おう!」

「また行ける!」

「今度はベスト8より上な」

「優勝」

「いきなり一番上?」

「その方がいい」

「……まあ、そうだな」

 笑う。

 今日。

 玲は苦しんだ。

 三点取られた。

 三つも四球を出した。

 いつもみたいに三振だけで全部終わらせることもできなかった。

 でも。

 その玲が。

 試合の途中で少しだけ変わった。

【水城玲の解析情報】

年齢:11歳

球速 105km/h

コントロール B71

スタミナ   A81

【変化球】

チェンジアップ 2相当

【特殊能力】

奪三振

【金特殊能力】

怪童

「……金」

 初めて見る表示。

 通常の特殊能力とは明らかに違う。

 玲本人は知らない。

 自分のストレートが、システム上でそんな評価になっていることなんて。

「伊織君?」

「ん?」

「どうしたの?」

「いや」

 玲を見る。

「今日のお前、三点取られたのに」

「うん」

「最後の球が一番怖かった」

「ほんと?」

「うん」

 玲が笑う。

「じゃあ全国ではもっと速くする」

「そういう意味じゃないんだけどな」

「百十」

「早い早い」

「出したい」

「まず今日の投げ方覚えとけよ」

「今日の?」

「……やっぱ分かってないのか」

 玲は首を傾げた。

 こいつはまだ。

 自分が何を掴みかけたのか分かっていない。

 それでも。

 全国大会までには。

 きっともっと強くなる。

 俺も。

 負けていられない。

 五年生の夏。

 俺たちは再び。

 全国への切符を掴んだ。

 そして水城玲は、この日。

 初めて。

 ただ速いだけではない、本当の怪物への一歩を踏み出した。

 

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