転生したら人生がサクセスモードだった   作:ねるすと

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第39話

 全国大会、一回戦。

 去年は、この場所に立っているだけで少し緊張していた。

 四年生で初めて掴んだ全国大会。俺たちはベスト8まで進み、そこで全国上位との差を思い知らされた。

 あれから一年。

 俺たちは十一歳になった。

 俺は九十八キロ。

 玲は百五キロ。

 そして全国予選の決勝で。

 玲のストレートは、また一つ別のものへ変わった。

【水城玲の解析情報】

球速     105km/h

コントロール B71

スタミナ   A81

【変化球】

チェンジアップ 2相当

【特殊能力】

奪三振

【金特殊能力】

怪童

「……怪童」

 システムが初めて表示した金特殊能力。

 その玲が。

 全国のマウンドへ上がる。

 

◇

 

 一回表。

 玲の初球。

 シュッ!

 バァンッ!

「ストライク!」

 相手打者のバットは動かなかった。

 二球目。

 外角。

「ストライク!」

 ツーストライク。

 三球目。

 チェンジアップ。

 ブンッ!

「ストライク! バッターアウト!」

 一人目。

 二人目はストレート三球。

 最後は高め。

 空振り三振。

 三人目。

 以前の玲なら、ここでも三振を狙ったと思う。

 でも。

 初球ストレート。

 二球目チェンジアップ。

 打者が泳ぐ。

 カンッ!

「セカンド!」

 平凡なゴロ。

「アウト!」

 三者凡退。

「玲」

「なに?」

「三人目、三振じゃなかったな」

「アウトになった」

「分かってるじゃん」

「でも次は三振取る」

「やっぱり玲だった」

 

◇

 

 一回裏。

 一死一塁。

 俺の第一打席。

 相手は六年生投手。百キロ前後。

 一球目、外。

 二球目、ストライク。

 ワンボール、ワンストライク。

 三球目。

 少し甘い。

「そこ!」

 カキィン!

 右中間を破る。

 一塁走者がホーム。

 俺は二塁へ。

「セーフ!」

 先制タイムリーツーベース。

 身体が大きくなった。

 パワーも上がった。

 以前なら外野の間を抜けて終わっていた打球が、今はフェンス際まで転がっていく。

 そして三回。

 二死一、二塁。

 俺の第三打席。

 第二打席は四球。

 相手としては、ここも歩かせたいはずだ。

 でも次は六年生の四番。

 満塁にはしたくない。

「勝負!」

「……来た」

 一球目、外角ストライク。

 二球目、内角ファウル。

 ツーストライク。

 三球目は低め。

 ボール。

 ワンボール、ツーストライク。

 四球目、外。

 ツーボール、ツーストライク。

 五球目。

 真ん中寄り。

「甘い!」

 振り抜いた。

 カキィン!

 打った瞬間に分かる。

 レフトが下がる。

 さらに下がる。

 フェンス。

 越えた。

「ホームラン!」

「よし!」

 三ラン。

【本塁打を記録しました】

【複数走者を置いた場面で本塁打を記録】

【特殊能力《パワーヒッター》取得条件が進行しました】

 昔みたいにホームランを狙って振り回したわけじゃない。

 打てる球を。

 いつも通り強く振った。

 それで入った。

「……こういうのでいいんだよな」

 

◇

 

 一方。

 玲は止まらなかった。

 二回、三者連続三振。

 三回、二三振とショートゴロ。

 四回、三者連続三振。

 五回。

 一死から、初めて強い打球が三遊間へ飛ぶ。

「抜け――」

「させない!」

 追いつく。

 深い位置。

 捕る。

 一塁へ。

 シュッ!

「アウト!」

「……危な」

 玲がマウンドから手を上げる。

「伊織君!」

「取ったぞ!」

「ありがとう!」

「三振じゃなくてもいいだろ!」

「今のは三振がよかった!」

「贅沢言うな!」

 その次の打者を。

 玲は本当に三振に取った。

 

◇

 

 六回。

 ここまで。

 十五人。

 出塁者、ゼロ。

「……完全じゃん」

 ようやく俺も意識した。

 先頭。

 一球目。

 ストレート。

「ストライク!」

「百七!」

「百七?」

 二球目、チェンジアップ。

 空振り。

 三球目。

 ストレート。

 ブンッ!

「ストライク! バッターアウト!」

 十六人目。

 次の打者。

 初球。

 バァンッ!

「百八!」

【水城玲の解析情報が更新されました】

球速 108km/h

「……また上がった」

 二球目をファウル。

 三球目、チェンジアップ。

 空振り三振。

 あと一人。

 球場も気づいている。

 完全試合まで。

 最後の打者。

 ワンボール、ツーストライク。

 四球目。

 玲が投げる。

 相手が振る。

 カキン!

「ショート!」

「任せろ!」

 俺の右。

 追いつく。

 捕る。

 一塁へ。

「アウト!」

 一瞬の静寂。

「ゲームセット!」

「玲!」

「伊織君?」

「完全試合!」

「……完全?」

「十八人、一人も塁に出してない!」

「三振は?」

「そこから聞く!?」

【水城玲の投球結果】

6回

打者 18

被安打 0

四死球 0

失点 0

奪三振 15

最高球速 108km/h

【完全試合達成】

「十五!」

 玲が笑う。

「十五個!」

「完全試合も喜べ!」

 全国一回戦。

 玲は。

 十八人を一人も塁へ出さなかった。

 

◇

 

 試合は七対〇。

 俺も三打数三安打、一四球。

 本塁打一本。

 四打点。

 普通なら十分目立つ。

 でも周囲から聞こえるのは。

「完全試合だって!」

「十五奪三振?」

「百八キロ!?」

 玲の話ばかり。

「……俺もホームラン打ったんだけどな」

「伊織君」

「何?」

「ホームランすごかった」

「お」

「僕も打ちたい」

「そっちかよ」

 まあ。

 玲が褒めてくれたからいい。

 

◇

 

 翌日。

 玲は投げなかった。

「投げたい」

「駄目」

「肩軽いよ」

「そういう問題じゃない」

「一球だけ」

「一球投げたら百球投げる顔してる」

「百球は投げない」

「九十九?」

「それくらい」

「駄目です」

 完全試合の翌日に投げさせる必要なんてない。

 二回戦は六年生投手二人が繋いだ。

 俺もショートに専念。

 第一打席でセンター前。

 第二打席は二塁打。

 第三打席は四球。

 六対三。

 二回戦突破。

 全国ベスト8。

 去年と同じところまで来た。

 でも今年は。

 ここから先へ行く。

 

◇

 

 準々決勝。

 この試合も玲は登板しなかった。

「まだ?」

「まだ」

「今日なら投げられる?」

「監督が使わないって言ってるだろ」

「……」

「そんな捨てられた犬みたいな顔すんな」

 先発は六年生の副主将。

 相手は全国常連。

 簡単な試合ではなかった。

 三回を終えて一対二。

 一点を追う四回。

 一死一塁。

 俺の第三打席。

 一球目は外。

 二球目、ストライク。

 ワンボール、ワンストライク。

 三球目。

 内角。

 少し高い。

「……!」

 振り抜く。

 カキィン!

 レフト。

 打球は高く伸びる。

 フェンス。

 越えた。

「ホームラン!」

 逆転ツーラン。

 三対二。

【本塁打を記録しました】

【全国大会で複数本塁打を記録】

【特殊能力《パワーヒッター》取得条件がさらに進行しました】

 試合はそのまま四対三。

「ゲームセット!」

「っしゃあ!」

 全国ベスト4。

 玲の完全試合だけじゃない。

 俺が投げなくても。

 玲が投げなくても。

 このチームは勝てる。

 そして次。

 準決勝。

 監督が先発を告げた。

「成瀬」

「はい」

「行けるな?」

 俺は一瞬、玲を見る。

 一回戦。

 完全試合。

 十五奪三振。

 百八キロ。

 金特殊能力、怪童。

 悔しくないわけがない。

「もちろんです」

 投手として。

 俺だって。

 玲に負けたくない。

 

◇

 

 準決勝。

 全国ベスト4。

 相手には六年生中心の強力打線。

 マウンドへ向かう。

「伊織君」

「何?」

「頑張って」

「おう」

「完全試合?」

「ハードル上げんな」

「十五三振?」

「お前を基準にすんな」

「じゃあ十四」

「そういう問題じゃない!」

 玲が笑う。

 俺も笑った。

 でも。

 胸の奥にあるものは、本物だった。

「……負けたくない」

 玲に。

 投手としても。

 

◇

 

 一回。

 先頭打者。

 一球目。

 外角低め。

「ストライク!」

 二球目。

 内角。

 ファウル。

 ツーストライク。

 三球目。

 チェンジアップ。

 ブンッ!

「ストライク! バッターアウト!」

 一人目。

 二番はストレートをセンター前。

 一死一塁。

 三番。

 四球は出したくない。

 でも甘くもしたくない。

 一球目、外角ストライク。

 二球目、チェンジアップ。

 ボール。

 ワンボール、ワンストライク。

 三球目。

 内角。

 ファウル。

 ワンボール、ツーストライク。

 四球目。

 外角低め。

 ギリギリ。

 打者が振る。

 カンッ!

 ショートゴロ。

「玲!」

「うん!」

 二塁。

 一塁。

「アウト!」

 ダブルプレー。

 無失点。

「……いい」

 玲みたいな百八キロはない。

 怪童もない。

 でも。

 狙ったところへ投げる。

 打者の考えを外す。

 俺には。

 俺の投球がある。

 

◇

 

 三回。

 無死一、二塁。

 この試合最大のピンチ。

 相手は三番。

 一球目。

 ストレート。

 ボール。

 二球目。

 内角。

 ファウル。

 ワンボール、ワンストライク。

 三球目。

 チェンジアップ。

 空振り。

 ワンボール、ツーストライク。

 四球目。

「低め」

 自分に言い聞かせる。

 外角低め。

 投げる。

 シュッ!

 バットが出る。

 カンッ!

 浅いセカンドフライ。

 一死。

 四番。

 同じように外角低めへ集める。

 ファウル。

 ボール。

 ファウル。

 ツーストライク。

 最後。

 チェンジアップ。

 ブンッ!

「ストライク! バッターアウト!」

 二死。

 五番。

 外角低め。

 内角。

 最後は外へ逃げるチェンジアップ。

 ショートゴロ。

「アウト!」

 無死一、二塁。

 無失点。

 ベンチへ戻る途中。

【重要な場面で失点を防ぎました】

【特殊能力取得条件を達成しました】

【対ピンチ○を取得しました】

「……来た」

 俺にも。

 投手としての特殊能力。

 

◇

 

 四回。

 二死走者なし。

 六番打者。

 外角低め。

「ストライク!」

 七番。

 外角低め。

「ストライク!」

 八番。

 また低め。

 詰まらせる。

「アウト!」

【低めへの高精度な投球を継続しています】

【特殊能力取得条件を達成しました】

【低め○を取得しました】

「二つ目……」

 玲が球威なら。

 俺は。

 制球。

 そう言われているみたいだった。

 

◇

 

 五回。

 俺のチェンジアップにも変化が出始めた。

 ストレート。

 チェンジアップ。

 同じ腕の振り。

 でも。

 以前より打者の手元で落ちる。

 ブンッ!

「ストライク! バッターアウト!」

【チェンジアップの熟練度が一定値に達しました】

【チェンジアップ 2 → 3】

「……よし!」

 投げながら。

 成長している。

 玲を見て。

 負けたくないと思って。

 投げる。

 それが。

 楽しい。

 

◇

 

 そして六回。

 試合は二対一。

 俺たちが一点リード。

 ここまで俺は一失点。

 最終回もマウンドへ上がった。

 先頭打者。

 三振。

 二人目。

 ライト前。

 一死一塁。

 三番。

 センターフライ。

 二死一塁。

 最後は四番。

「伊織君!」

 ショートの玲が叫ぶ。

「あと一人!」

「分かってる!」

 一球目。

 外角低め。

「ストライク!」

 二球目。

 内角。

 ファウル。

 ツーストライク。

 三球目。

 チェンジアップ。

 打者は止まる。

 ボール。

 ワンボール、ツーストライク。

 四球目。

 外。

 ボール。

 ツーボール、ツーストライク。

 五球目。

「……ここ」

 玲なら。

 百八キロ。

 高め。

 怪童。

 俺にはない。

 だから。

 外角低め。

 俺が一番投げられる場所へ。

 シュッ!

 打者が振る。

 カンッ!

 セカンドゴロ。

「アウト!」

「ゲームセット!」

「……っしゃああ!」

 拳を握った。

 全国準決勝。

【成瀬伊織 投球結果】

6回

被安打 5

失点 1

与四球 1

奪三振 9

最高球速 100km/h

「……百?」

 最後に表示された数字を見る。

【球速が上がりました】

【99km/h → 100km/h】

 俺も。

 ついに百キロ。

 

◇

 

「伊織君!」

 玲が飛んでくる。

「百キロ!」

「そっち?」

「あと完投!」

「そこは完全試合じゃないの?」

「完全試合は僕」

「……腹立つなあ」

「でも伊織君すごかった」

「お前より?」

「今日は伊織君」

「……」

 不意打ちだった。

「そっか」

 嬉しい。

 めちゃくちゃ嬉しい。

 俺も。

 投手として。

 全国で勝てる。

 

◇

 

 打撃でも。

 この日は終わらなかった。

 三回。

 俺の第二打席で同点タイムリー。

 五回。

 一対一。

 一死一塁。

 第三打席。

 相手の六年生エースは百十キロ近い。

 一球目、ストライク。

 二球目、外。

 ワンボール、ワンストライク。

 三球目。

 百九キロ。

 ファウル。

 ワンボール、ツーストライク。

 四球目、低め。

 ボール。

 ツーボール、ツーストライク。

 五球目。

 真ん中高め。

「甘い!」

 振り抜く。

 カキィン!

 レフトが見上げる。

 打球は。

 そのままフェンスを越えた。

「ホームラン!」

 勝ち越しツーラン。

 三対一。

【全国トップクラスの投手から本塁打を記録しました】

【重要な試合で本塁打を記録しました】

【本塁打を継続的に記録しています】

【特殊能力取得条件を達成しました】

【パワーヒッターを取得しました】

「……!」

 投げて。

 打って。

 勝つ。

 俺がやりたかったことを。

 全国準決勝で。

 全部やった。

 

◇

 

 試合終了。

 三対一。

 全国大会。

 決勝進出。

 去年はベスト8。

 今年は。

 最後の二チームまで来た。

 宿泊先へ戻り、システムを開く。

【成瀬 伊織】

年齢:11歳

競技カテゴリ:少年

【野手能力】

弾道  3

ミート A81

パワー B79

走力  B78

肩力  A82

守備力 A83

捕球  A80

【投手能力】

球速     100km/h

コントロール A85

スタミナ   A82

【変化球】

チェンジアップ 3

【野手特殊能力】

送球○

アベレージヒッター

パワーヒッター

チャンス○

盗塁○

【投手特殊能力】

対ピンチ○

低め○

「……増えたな」

 投手能力にも。

 俺らしい形が出始めている。

 玲とは違う。

 それでいい。

【水城玲の解析情報】

年齢:11歳

球速     108km/h

コントロール B72

スタミナ   A83

【変化球】

チェンジアップ 2相当

【特殊能力】

奪三振

【金特殊能力】

怪童

【全国大会一回戦】

完全試合

6回15奪三振

「……でも八キロ差か」

 まだ遠い。

 だから。

 追いかける価値がある。

 

◇

 

 隣の布団で玲が寝転がっている。

「玲」

「なに?」

「決勝、お前だろうな」

「うん」

 一回戦以来。

 玲は一球も公式戦で投げていない。

 肩も十分休んでいる。

「投げたい?」

「すごく」

「だろうな」

「伊織君は?」

「ショートで守って、打つ」

「ホームラン?」

「打てる球が来たらな」

「僕、三振取る」

「知ってる」

 玲が天井を見る。

「優勝したい」

「俺も」

 全国大会。

 あと一勝。

 玲が完全試合をして。

 俺が準決勝を投げ切って。

 二人で。

 ここまで来た。

 次。

 最後の一試合。

 マウンドには。

 十分に休んだ怪童が立つ。

 

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