転生したら人生がサクセスモードだった   作:ねるすと

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第41話

 全国大会決勝。

 去年は、ベスト8で終わった。

 その時に戦った全国上位の六年生たちは、明らかに俺たちより強かった。

 速い球。

 強い打球。

 高い守備力。

 全国の頂点は、まだ遠い場所に見えた。

 でも一年後。

 俺たちは、その頂点まであと一勝のところにいる。

「伊織君」

「ん?」

「勝とうね」

「おう」

 隣にいる玲は、いつも通りだった。

 一回戦で完全試合。

 十五奪三振。

 最速百八キロ。

 それでも決勝だからと特別緊張している様子はない。

 むしろ。

「何個取れるかな」

「三振?」

「うん」

「勝つこと先に考えろよ」

「勝って、三振も取る」

「欲張りだな」

「伊織君に言われたくない」

「……確かに」

 俺も。

 投げたい。

 打ちたい。

 守りたい。

 走りたい。

 全部欲しい。

 だから何も言い返せなかった。

 

◇

 

「先発、水城!」

「はい!」

「三番、ショート、成瀬!」

「はい!」

 相手は□□リトル。

 六年生中心の全国屈指の強豪。

 エースは百十キロを超えるストレートを投げる。

 打線にも穴がない。

「今日の相手は今までで一番強いと思え」

 監督が全員を見る。

「ただし、ここまで勝ってきたのはお前らだ。最後も自分たちの野球をやってこい」

「はい!」

 円陣が解ける。

 観客席を見ると。

 父さんと母さん。

 玲の家族。

 そして。

「伊織君!」

 詩織もいた。

 俺が気づくと、小さく手を振ってくる。

 俺も手を上げる。

 全国決勝。

 始まる。

 

◇

 

 一回表。

 俺たちは先攻。

 二死走者なし。

 俺の第一打席。

 相手エースが投げる。

 初球。

 シュッ!

 バシンッ!

「ストライク!」

「……速」

 百十キロを超えている。

 一年前なら、見るだけで精一杯だった球。

 でも今は。

 二球目。

 外。

 ボール。

 ワンボール、ワンストライク。

 三球目。

 内角。

「……!」

 振る。

 カキン!

 三遊間。

 ショートが追いつく。

「抜けろ!」

 グラブの先。

 抜けた。

「よし!」

 レフト前。

 決勝最初の打席。

 ヒット。

 でも後続が倒れ、無得点。

 

◇

 

 一回裏。

 玲がマウンドへ。

 一球目。

 百六キロ。

「ストライク!」

 二球目。

 チェンジアップ。

 ファウル。

 ツーストライク。

 三球目。

 高め。

 百八キロ。

 ブンッ!

「ストライク! バッターアウト!」

 一人目。

「今日もいいな」

 でも。

 決勝の相手は、ここまでのチームとは違った。

 二番。

 百七キロのストレートをファウル。

 もう一球。

 またファウル。

 チェンジアップも見送る。

 六球目。

 外角ストレート。

 カキン!

「センター前!」

 ヒット。

 三番。

 送りバント。

 二死二塁。

 そして四番。

 一球目。

 ストレート。

 ファウル。

 二球目。

 チェンジアップ。

 ボール。

 ワンボール、ワンストライク。

 三球目。

 玲の百八キロ。

 少し甘い。

「玲!」

 カキィン!

 右中間。

「抜けた!」

 二塁走者がホーム。

「セーフ!」

 〇対一。

 先制された。

「……打つな」

 完全試合をした玲でも。

 全国決勝なら、普通に打たれる。

 でも玲は。

 もう予選決勝の時みたいに焦らなかった。

 五番。

 初球、ストライク。

 二球目、チェンジアップ。

 セカンドゴロ。

「アウト!」

 一失点。

 それだけで帰ってきた。

「玲」

「なに?」

「悔しい?」

「うん」

「三振じゃなかったから?」

「点取られたから」

「……本当に成長したな」

「?」

 本人には伝わっていない。

 

◇

 

 三回表。

 〇対一。

 無死一塁。

 俺の第二打席。

 一球目は外。

 二球目も外。

 ツーボール。

 三球目。

 外角ストライク。

 ツーボール、ワンストライク。

 四球目。

 また外。

 スリーボール、ワンストライク。

「無理に勝負しなくていい!」

 相手ベンチから声。

 五球目。

 外。

「フォアボール!」

「……やっぱりか」

 俺を歩かせて。

 無死一、二塁。

 でも次は四番。

 簡単じゃない。

 カキン!

 ライト前。

 満塁。

 五番。

 外野フライ。

「タッチアップ!」

 三塁走者がホーム。

「セーフ!」

 一対一。

 同点。

 俺は打てなかった。

 でも塁に出て、一点に繋がった。

 それでいい。

 

◇

 

 三回裏。

 一死一塁。

 相手四番。

 玲のストレート。

 百八キロ。

 ファウル。

 二球目。

 チェンジアップ。

 見送られる。

 ワンボール、ワンストライク。

 三球目。

 百七キロ。

 またファウル。

 ワンボール、ツーストライク。

「粘るな……」

 四球目。

 低め。

 ボール。

 ツーボール、ツーストライク。

 五球目。

 高め。

 打者が振る。

 カキィン!

「ショート!」

 強烈。

 正面ではない。

 左へ。

「届く!」

 飛びつく。

 グラブに入る。

 すぐ二塁へ。

「アウト!」

 一塁。

 シュッ!

「アウト!」

「ダブルプレー!」

「よし!」

 玲が拳を上げる。

「伊織君!」

「後ろに俺いるだろ!」

「うん!」

 玲が笑う。

 三振じゃない。

 でも。

 アウト二つ。

 今の玲なら。

 それでいい。

 

◇

 

 四回裏。

 一対一。

 先頭打者に二塁打。

 送りバント。

 一死三塁。

 七番打者。

 一球目、ストレート。

 ファウル。

 二球目、チェンジアップ。

 ボール。

 ワンボール、ワンストライク。

 三球目。

 外角。

 カキン!

 セカンドゴロ。

 三塁走者がスタート。

「ホーム!」

 間に合わない。

「セーフ!」

 一対二。

 勝ち越された。

 でも。

 玲は打者をアウトにした。

 続く八番は三振。

 九番もセンターフライ。

 一点だけ。

 予選決勝なら。

「取られた」

 と悔しがっていた玲が。

 今は。

「次は〇点」

 とだけ言った。

「そうだな」

 変わった。

 ほんの少し。

 でも確実に。

 

◇

 

 五回表。

 一対二。

 一死一、二塁。

「三番、成瀬!」

 俺の第四打席。

 第三打席はセンターフライだった。

 ここまで二打数一安打、一四球。

 そして今。

 逆転の走者が一塁にいる。

 相手ベンチから声。

「歩かせてもいいぞ!」

「……」

 一塁は埋まっている。

 俺を歩かせれば満塁。

 次は四番。

 それでも、甘い球を投げる必要はない。

 一球目。

 外。

「ボール!」

 二球目。

 また外。

「ボール!」

 ツーボール。

「また逃げるか?」

 三球目。

 外角。

 ぎりぎり。

「ストライク!」

 ツーボール、ワンストライク。

 四球目。

 内角。

 百十二キロ。

「……!」

 ファウル。

 ツーボール、ツーストライク。

「速い」

 でも。

 見える。

 五球目。

 低め。

 ボール。

 フルカウント。

 相手エースが一度息を吐く。

 満塁にしたくない。

 俺も分かる。

 だから。

 次は。

 ストライクゾーンへ来る。

 六球目。

 振りかぶる。

 投げる。

 百十一キロ。

 真ん中より少し内側。

「……来た!」

 踏み込む。

 腰を回す。

 バットを振り抜く。

 カキィン!

「……!」

 打った瞬間。

 分かった。

 レフトが下がる。

 下がる。

 でも。

 途中で止まった。

 打球はその頭上を越え。

 フェンスの向こうへ。

「ホームラン!」

「……っしゃあああ!」

 三ラン。

 一対二から。

 四対二。

 逆転。

 全国大会決勝。

 百十キロを超えるエースから。

 逆転三ラン。

 ベースを回る。

 観客席から大きな声が聞こえる。

「伊織君!」

 詩織も立ち上がっていた。

 俺は少しだけ拳を握った。

【全国大会決勝で本塁打を記録しました】

【全国トップクラスの投手から本塁打を記録しました】

【重要な場面で逆転本塁打を記録しました】

【パワーヒッター】

「……最高」

 ホームへ戻る。

 仲間が待っている。

 玲も。

「伊織君!」

「おう!」

「すごい!」

「次は抑えろよ!」

「任せて!」

 あと。

 六つ。

 

◇

 

 五回裏。

 逆転した直後。

 玲がマウンドへ。

 先頭。

 一球目。

 百七キロ。

 ストライク。

 二球目。

 チェンジアップ。

 ファウル。

 ツーストライク。

 三球目。

 百八。

 高め。

 空振り三振。

 二人目。

 初球を打たせる。

 ショートゴロ。

「俺か!」

 捕る。

 一塁。

「アウト!」

 三人目。

 センターフライ。

 三者凡退。

 わずか九球。

「……前なら全部三振狙ってたな」

 俺が言う。

「最後まで投げたいから」

「賢くなった」

「僕、前から賢い」

「それは知らない」

「ひどい」

 笑う。

 でも。

 全国優勝まで。

 あと三つ。

 

◇

 

 六回表。

 一死三塁。

 六番の内野ゴロの間に一点。

 五対二。

 そして。

 最後の守備。

 

◇

 

 六回裏。

 玲がマウンドへ上がる。

 ここまで五回。

 二失点。

 決勝の相手は。

 一回戦みたいに簡単じゃない。

 それでも。

 今の玲は、試合を支配していた。

 先頭。

 一球目、百七。

 ファウル。

 二球目、チェンジアップ。

 空振り。

 ツーストライク。

 三球目。

 ストレート。

 カキン!

 センターフライ。

「アウト!」

 一つ。

 次打者。

 百八キロ。

 空振り。

 二球目。

 チェンジアップ。

 ボール。

 ワンボール、ワンストライク。

 三球目。

 百七。

 ファウル。

 ワンボール、ツーストライク。

 四球目。

 低め。

 カキン!

 セカンドゴロ。

「アウト!」

 あと一人。

 そして。

 最後の打者は。

 四番。

 

◇

 

「……最後に四番か」

 俺がショートで構える。

 相手四番は、初回に玲からタイムリーを打っている。

 今日一番、玲の球についてきている打者。

 一球目。

 百八キロ。

 ファウル。

「ストライク!」

 二球目。

 チェンジアップ。

 見送る。

 ワンボール、ワンストライク。

 三球目。

 ストレート。

 ファウル。

 ワンボール、ツーストライク。

「あと一球!」

 観客席から声。

 でも相手も全国決勝の四番。

 簡単には終わらない。

 四球目。

 百八キロ。

 ファウル。

 五球目。

 チェンジアップ。

 ファウル。

「粘る……」

 六球目。

 外。

 ボール。

 ツーボール、ツーストライク。

 玲が一度マウンドを外す。

 そして。

 俺を見る。

「伊織君!」

「何!」

「最後、三振でいい?」

「……」

 思わず笑った。

「取れるなら取れ!」

「うん!」

 玲が笑う。

 マウンドへ戻る。

 七球目。

 振りかぶる。

 足を上げる。

 力んでいない。

 全国予選決勝で掴んだ。

 あのフォーム。

 身体全体が滑らかにつながる。

 腕が振られる。

 シュッ!

 打者が振る。

 ブンッ!

 バァンッ!

「ストライク! バッターアウト!」

 ベンチから声が飛ぶ。

「百九!」

「……!」

 そして。

「ゲームセット!」

 一瞬。

 全部の音が遠くなった。

 百九キロ。

 怪童。

 空振り三振。

 全国大会。

 決勝。

 五対二。

 勝った。

「……日本一?」

 呟く。

 次の瞬間。

「伊織君!」

 玲がマウンドから走ってくる。

「日本一!」

「おう!」

「優勝!」

「おう!」

 抱きつかれる。

「重い!」

「勝った!」

「分かってる!」

 チームメイトも集まってくる。

 全員でもみくちゃになる。

 五年生。

 十一歳。

 俺たちは。

 全国の頂点に立った。

 

◇

 

【水城玲の投球結果】

6回

被安打 4

失点 2

与四球 1

奪三振 11

最高球速 109km/h

【全国大会優勝】

 完全試合じゃない。

 無失点でもない。

 それでも。

 俺には。

 一回戦より今日の玲の方が強く見えた。

 三振だけを追わない。

 力まない。

 必要なら守備に任せる。

 そして。

 本当に欲しい三振だけを。

 怪童で奪う。

 

◇

 

 表彰式。

 全国優勝の旗。

 メダル。

 拍手。

 夢みたいだった。

 前世。

 最後の夏は背番号十八。

 試合に出ることすらできなかった俺が。

 今は。

 全国大会の優勝メダルを首から下げている。

「……日本一」

 何度言っても。

 少し不思議だった。

 

◇

 

「伊織君!」

 会場を出ると、詩織が待っていた。

「おめでとう!」

「ありがと」

「ホームランすごかった!」

「見てた?」

「見てたよ」

「玲の最後も?」

「見た。速かった」

「百九」

「もう数字言われてもよく分かんない」

「確かに」

 詩織が笑う。

「日本一だね」

「うん」

「嬉しい?」

「めちゃくちゃ」

「そっか」

 詩織も嬉しそうに笑った。

「本当にすごいね、伊織君」

「……ありがと」

 素直に嬉しかった。

 でも。

 その瞬間。

 俺の頭の中に浮かんだのは。

 今日打ったホームラン。

 百キロになった自分の球速。

 百九を投げた玲。

 そして。

 来年。

「……」

「伊織君?」

「ん?」

「また野球のこと考えてた?」

「……ちょっと」

「やっぱり」

 詩織が呆れたように笑う。

 日本一になった。

 なのに。

 もう次を考えている。

 六年生になったら。

 もっと打てる。

 もっと速く投げられる。

 能力も。

 まだ上げられる。

 玲にも。

 まだ追いつける。

 全国の頂点に立ったはずなのに。

 俺の育成は。

 少しも終わった気がしなかった。

 

◇

 

 夜。

 システムを開く。

【全国大会優勝】

【成瀬 伊織】

年齢:11歳

競技カテゴリ:少年

弾道  3

ミート A82

パワー A80

走力  B79

肩力  A82

守備力 A84

捕球  A80

【投手能力】

球速     100km/h

コントロール A85

スタミナ   A82

【変化球】

チェンジアップ 3

【特殊能力】

送球○

アベレージヒッター

パワーヒッター

チャンス○

盗塁○

対ピンチ○

低め○

「パワーもA」

 全国決勝。

 逆転三ラン。

 少しずつ。

 全部がAへ近づいている。

 そして。

【水城玲の解析情報】

年齢:11歳

球速     109km/h

コントロール B73

スタミナ   A84

【変化球】

チェンジアップ 2相当

【特殊能力】

奪三振

【金特殊能力】

怪童

「百九……」

 差は九キロ。

 全国優勝したのに。

 悔しいと思う。

 もっと。

 もっと強くなりたい。

 日本一。

 それは。

 ゴールじゃなかった。

 俺にとっては。

 次に進むための。

 新しいスタート地点になっただけだった。

 

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