転生したら人生がサクセスモードだった   作:ねるすと

42 / 91
第42話

 全国大会で優勝した。

 日本一になった。

 メダルをもらった。

 優勝旗を掲げた。

 写真もたくさん撮られた。

 それでも。

 大会が終わって家へ帰ると、少しずついつもの生活に戻っていった。

 そして。

 夏休みが終わった。

「行ってきます」

「いってらっしゃい、日本一」

「母さん、それまだ言うの?」

「だって日本一でしょ?」

「そうだけど」

 ランドセルを背負って玄関を出る。

 全国大会で戦っていた俺も。

 今日からは普通の小学5年生だ。

 国語。

 算数。

 理科。

 社会。

 また学校生活が始まる。

「おはよう、伊織君」

「おはよう」

 少し歩いたところで詩織が合流した。

「メダル持ってきた?」

「持ってきた」

「見せて」

「学校でな」

「今見たい」

「ランドセルの奥だから面倒」

「けち」

 いつもの道。

 いつもの会話。

 ここまでは。

 本当に何も変わっていなかった。

 

◇

 

 校門を入ったところで。

「成瀬だ!」

「え?」

 知らない下級生が俺を指差した。

「全国大会でホームラン打った人!」

「……」

「水城君もいる!」

 少し後ろから歩いてきた玲まで見つかる。

「ほんとだ!」

「日本一!」

「水城君って100km/h以上投げるんでしょ?」

「109km/h」

 玲が即座に訂正した。

「そこ訂正するんだ」

「大事」

「109!?」

「速っ!」

「投げて!」

「ここで?」

「校門で投げるなよ」

 まだ朝なのに。

 もう人が集まり始めていた。

「……何これ」

「人気者?」

「玲もだろ」

「僕は野球の話ならいい」

「そういう問題か?」

 夏休み前とは。

 明らかに何かが違っていた。

 

◇

 

 教室へ入ると。

 もっと分かりやすかった。

「成瀬!」

「優勝おめでとう!」

「決勝のホームラン見たぞ!」

「動画も見た!」

「動画?」

「うちの父ちゃんが撮ってた!」

「水城、完全試合したんだろ?」

「15三振」

「すげえ!」

 席に着く前に囲まれた。

 いつも話す友達だけじゃない。

 今までほとんど話したことのないクラスメイトまでいる。

「成瀬って100km/h出るの?」

「ちょうど100」

「水城109なんだろ?」

「そう」

「差ついてんじゃん!」

「……知ってるよ」

「でもホームランは成瀬の方が打つんだろ?」

「まあ」

「全国決勝で逆転ホームランって漫画じゃん」

「3ランな」

「そこ大事?」

「大事」

 笑い声が上がる。

 なんだろう。

 悪くない。

 いや。

 正直に言えば。

 かなり気分がいい。

 

◇

 

「水城君、完全試合ってどんな感じだった?」

 玲の周りにも人が集まっている。

「普通」

「普通じゃないでしょ」

「三振いっぱい取れた」

「それは知ってる」

「109km/hって投げてて怖くないの?」

「投げる方は怖くない」

「そりゃそうでしょ」

 玲は相変わらずだった。

 自分が注目されているというより。

 野球の話ができることの方が嬉しいらしい。

「水城君って顔もかわいいよね」

「分かる」

「髪も綺麗」

「……」

 玲が固まった。

「伊織君」

「何?」

「助けて」

「野球以外の話には弱いんだな」

「どうしたらいい?」

「知らん」

「成瀬君は女子と話すの慣れてそう」

「俺?」

「うん」

「幼馴染が女だからかな」

「藤崎さん?」

「そう」

 その名前が出た瞬間。

 少し離れた席にいた詩織と目が合った。

「……」

 俺が小さく手を上げる。

 詩織も少し笑って手を上げた。

 でも。

 すぐ友達との話に戻った。

 

◇

 

 1時間目の前。

 担任が教室へ入ってきた。

「はいはい。全国優勝した2人に話を聞きたいのは分かるけど、席について」

「先生、今日表彰あるの?」

「あります。全校朝会で2人を紹介します」

「え?」

 俺と玲の声が重なった。

「聞いてない」

「昨日、ご家族には連絡してあります」

「母さん何も言ってなかった……」

「成瀬、メダル持ってきた?」

「持ってきました」

「水城も?」

「持ってきた」

「じゃあ大丈夫」

 玲を見る。

「壇上行くの?」

「多分」

「何か喋るかな」

「15三振って言う」

「聞かれてから言え」

 

◇

 

 全校朝会。

 体育館に全校生徒が集まった。

「続きまして、夏休みに行われました全国大会において、本校5年生の成瀬伊織さん、水城玲さんが所属する○○リトルが、見事全国優勝を果たしました」

 大きな拍手。

「……すごいな」

「全校生徒だから」

「人数の話じゃなくて」

「嬉しい?」

「ちょっと」

「僕も」

 名前を呼ばれる。

「成瀬伊織さん、水城玲さん。前へ」

「はい」

「はい!」

 2人で壇上へ上がった。

 校長先生の横へ並ぶ。

「2人は5年生ながらチームの中心選手として活躍し、水城さんは大会1回戦で完全試合を達成。成瀬さんは準決勝で投手として完投勝利を挙げ、決勝では逆転本塁打を放つなど、優勝に大きく貢献しました」

 改めて説明されると。

 自分たちのことなのに。

 少しおかしく感じる。

「水城さん、最高球速は?」

「109km/hです」

 体育館がざわついた。

「えー!」

「速っ!」

「109!?」

 玲が少しだけ得意そうに俺を見る。

「良かったな」

「うん」

「成瀬さんも100km/hを記録したそうですね」

「はい」

 また。

 体育館がざわつく。

「2人ともまだ5年生です。今後の活躍も楽しみにしています」

 拍手。

 頭を下げる。

 顔を上げると。

 体育館にいる全員が。

 俺たちを見ていた。

 

◇

 

 前世。

 こんな経験はなかった。

 野球はやっていた。

 でも。

 試合に出る選手ではなかった。

 学校で名前を呼ばれることも。

 知らない下級生に憧れられることも。

 大勢から拍手されることも。

 ほとんどなかった。

「……」

 気持ちいい。

 素直に。

 そう思った。

 

◇

 

 朝会が終わった後も。

 廊下で声を掛けられた。

「成瀬君、ホームランどうやって打つの?」

「水城君、握手して!」

「野球部なの?」

「リトル」

「次の試合いつ?」

「中学でも一緒に野球するの?」

「プロになる?」

「プロ?」

 玲が反応した。

「なるよ」

「え?」

「僕、プロになる」

 迷いのない答えだった。

「伊織君も」

「俺まで決めるな」

「ならないの?」

「……なる」

 言った瞬間。

 周りがまたざわついた。

「2人ともプロ目指してるんだ!」

「すげえ!」

「絶対テレビ出るじゃん!」

「その時、同じ学校だったって言う!」

「もう自慢する気かよ」

 笑い声。

 でも。

 嫌じゃない。

 期待される。

 名前を呼ばれる。

 すごいと言われる。

 前世ではほとんど知らなかった感覚だった。

 

◇

 

 休み時間。

 俺の席の周りには。

 また人が集まった。

「成瀬、野球教えてよ」

「今?」

「バットの振り方」

「教室で振るなよ」

「放課後は?」

「練習ある」

「じゃあ今度!」

「時間あればな」

「成瀬って勉強もできるよな?」

「普通」

「普通じゃないだろ」

「この前の算数何点?」

「100」

「ほら!」

「小学校の算数だぞ」

「100点は100点だろ」

「運動できて勉強もできるとかズルくね?」

「顔もまあまあじゃね?」

「まあまあって何だよ」

 笑う。

 人が増える。

 話しかけられる。

 夏休み前なら。

 休み時間に詩織と話していることも多かった。

 今日は。

「……」

 ふと。

 教室の向こうを見る。

 詩織は友達と話している。

 一瞬。

 目が合った。

 俺が手を上げると。

 詩織も小さく手を上げる。

 それだけ。

「成瀬、決勝のホームランってどんな球だった?」

「内角寄りのストレート」

「110くらい?」

「111」

「そこまで覚えてんの?」

「そりゃ覚えてるよ」

 すぐ。

 また野球の話へ戻った。

 

◇

 

 昼休み。

「伊織君」

「ん?」

 玲が牛乳を持って隣へ来た。

「人、多い」

「お前の周りにもいたじゃん」

「疲れた」

「珍しいな」

「野球の話ならいい」

「女子に顔かわいいって言われて困ってたもんな」

「言わないで」

「顔赤くなってた」

「伊織君」

「悪い悪い」

 玲が不満そうに牛乳を飲む。

「でも」

「何?」

「みんな野球のこと知ってた」

「そうだな」

「嬉しい」

「俺も」

 素直に答える。

「もっと勝ったら、もっと知ってもらえるかな」

「多分」

「じゃあ来年も勝とう」

「もちろん」

 何の疑問もなく答えた。

 全国優勝。

 学校での表彰。

 周りからの称賛。

 もっと。

 欲しい。

 そんな気持ちが。

 確かに俺の中にもあった。

 

◇

 

 放課後。

「伊織君」

 校門のところで詩織に呼び止められた。

「一緒に帰る?」

「うん」

 並んで歩く。

 学校から少し離れると。

 ようやく人の声が減った。

「今日すごかったね」

「朝会?」

「それも」

「それも?」

「ずっと人に囲まれてた」

「なんか急に増えた」

「人気者だね」

「玲もだろ」

「伊織君も」

「……そうかな」

「そうだよ」

 詩織が前を見る。

「知らない子まで伊織君のこと知ってた」

「俺もびっくりした」

「そっか」

「何?」

「別に」

 ほんの少しだけ。

 声が違った気がした。

「そういえば次の練習――」

「あ」

 また野球の話をしようとして。

 詩織が俺を見る。

「何?」

「今日も野球?」

「……」

「別にいいけど」

 詩織が笑った。

「日本一だもんね」

「いや、そういう意味じゃ」

「分かってる」

 いつもの笑顔だった。

 だから。

 俺もそれ以上は気にしなかった。

 

◇

 

 全国優勝して。

 変わったものがある。

 メダルが増えた。

 能力が上がった。

 特殊能力も増えた。

 そして。

 俺たちの周りに。

 人が増えた。

 前世では知らなかった感覚。

 名前を覚えられる。

 期待される。

 褒められる。

 人が集まる。

 それは。

 能力値が上がるのとは違う。

 でも。

 どこか似ていた。

 積み重ねた結果が。

 目に見える形で返ってくる。

「……悪くないな」

 その時の俺は。

 ただそう思っていた。

 その輪の外から。

 幼い頃からずっと俺を知っている詩織が。

 どんな顔で俺を見ていたのか。

 ちゃんとは。

 見ていなかった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。