転生したら人生がサクセスモードだった   作:ねるすと

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第45話

 6年生になって。

 野球では、ほとんど負けなくなった。

 春の大会は優勝。

 その後の交流大会でも優勝。

 玲が投げれば。

 相手はほとんど点を取れない。

 俺が投げても。

 地域大会なら十分に抑えられる。

 打席では。

 勝負を避けられることも増えた。

 それでも走者が溜まれば。

 いつまでも逃げ続けるわけにはいかない。

 そこで打つ。

 それを繰り返していた。

 5年生の頃までは。

 全国大会へ出るだけでも特別だった。

 1試合勝つだけで。

 すごく嬉しかった。

 今は。

 勝つことが。

 少しずつ当たり前になり始めている。

 

◇

 

 5月12日。

「伊織君」

「何?」

「誕生日おめでとう」

「ありがとう」

 学校へ向かう途中。

 詩織から小さな袋を渡された。

「何これ」

「プレゼント」

「開けていい?」

「家で」

「今じゃ駄目?」

「駄目」

「何で」

「恥ずかしいから」

「余計気になる」

「帰ってから」

 結局。

 家まで我慢した。

 中に入っていたのは。

 小さなタオルだった。

 青い生地に。

 野球ボールみたいな白い模様が入っている。

「……野球じゃん」

 思わず笑う。

 でも。

 嬉しかった。

 12歳。

 小学生最後の1年。

 あと1年もしないうちに。

 俺は中学生になる。

 

◇

 

 その日の夜。

 久しぶりに。

 野球能力とは別の画面を開いた。

【成瀬 伊織】

年齢:12歳

【人生能力】

学力  B72

運動  A89

容姿  A81

芸術  D48

社交  C66

精神  B78

「……相変わらず偏ってるな」

 まず。

 運動。

 A89。

 あと1つでS。

 これは。

 まあ分かる。

 全国大会で優勝して。

 100km/hを超える球を投げて。

 毎日のように走って。

 振って。

 投げている。

 学校の体育でも。

 短距離走。

 ボール投げ。

 持久走。

 困った記憶はほとんどない。

 むしろ。

 運動だけなら。

 学校でもほとんど負けない。

「容姿A……」

 こっちは。

 未だに少し恥ずかしい。

 鏡を見る。

「……普通じゃない?」

 少なくとも。

 玲ほどじゃない。

 玲は分かる。

 昔から明らかに顔が整っている。

 最近は身体も少しずつ大きくなって。

 かわいいより。

 綺麗とか。

 かっこいいとか。

 そう言われることも増えた。

 俺は。

 そこまでじゃない。

 ただ。

 最近は。

「成瀬君って、よく見るとかっこよくない?」

 なんて言われることもある。

 全国大会で名前を知られたからだと思っていたけど。

 どうやら。

 それだけでもないらしい。

「まあ……Aならいいか」

 問題は。

 その下。

「芸術、D48」

 低い。

 他と比べて。

 明らかに。

 音楽。

 図工。

 絵。

 楽器。

 別に嫌いじゃない。

 でも。

 自分から何かやろうと思ったこともない。

「野球には関係ないしな」

 そう言って。

 画面を閉じようとした。

 その時。

【人生能力は学校生活・交友関係・進路・特定イベントの結果に影響します】

「……ん?」

 初めて見る説明だった。

【能力値によって発生・成功するイベントが変化する場合があります】

「イベント……」

 野球能力なら。

 分かる。

 ミートが高ければ。

 打ちやすい。

 守備が高ければ。

 捕れる。

 コントロールが高ければ。

 狙った場所へ投げられる。

 じゃあ。

 人生能力も。

 同じなのか。

「……これもちゃんと育成要素なんだな」

 今まで。

 なんとなく上がっていく数字くらいにしか思っていなかった。

 でも。

 システムが表示している以上。

 意味がないはずはない。

 

◇

 

 6月。

「はい。算数のまとめテスト返します」

 先生が答案を配り始めた。

「成瀬」

「はい」

 返された紙を見る。

 100点。

「よし」

 小学校の算数なら。

 さすがに。

 前世で大学まで出た俺が間違える方がおかしい。

 見直しさえすれば。

 ほとんど問題はない。

「伊織君」

 隣から詩織。

「何点?」

「100」

「私も」

「……」

「何?」

「引き分けか」

「何の勝負?」

「今決めた」

「ずるい」

「次は国語な」

「いいよ」

「先に解き終わった方が勝ち」

「見直しまで終わってからね」

「それだと俺が不利じゃん」

「ちゃんと見直ししてください」

「先生みたいなこと言うな」

 詩織が笑う。

 野球じゃない。

 でも。

 こういう勝負も。

 少し楽しい。

 

◇

 

 放課後。

「伊織君」

「ん?」

「これ」

 詩織が俺のノートを指差した。

「字、汚い」

「読めるだろ」

「読めるけど」

「なら問題ない」

「そういうところ」

「何が」

「分かればいいって思ってるところ」

「実際分かればいいだろ」

「提出する人が読むんだよ?」

「先生なら読める」

「先生に甘えるな」

「厳しい」

 机を並べて。

 宿題を進める。

 昔から。

 何度もやってきたことだった。

 でも。

 今日は。

 少し違った。

【学力経験を獲得しました】

【社交経験を獲得しました】

「……」

 本当に。

 出た。

 勉強する。

 誰かと話す。

 それだけで。

 人生能力に経験が入っている。

「どうしたの?」

「いや」

 画面は。

 俺にしか見えない。

「詩織って勉強好き?」

「嫌いじゃないよ」

「俺も嫌いじゃない」

「野球より?」

「それはない」

「知ってた」

 即答だった。

「そんな分かりやすい?」

「うん」

「俺の頭の中、そんな野球ばっか?」

「半分くらい」

「半分?」

「もっと?」

「……否定できない」

 詩織が笑った。

 

◇

 

 6月も終わりに近づいた頃。

「伊織君」

「何?」

「今年の秋の発表会、曲決まったよ」

「ピアノ?」

「うん」

「何弾くの?」

「来てからのお楽しみ」

「またそれ?」

「去年も来たでしょ」

「行った」

「感想覚えてる?」

「上手かった」

「……」

「何だよ」

「それだけ?」

「え」

 詩織が。

 少し呆れた顔をする。

「どこが良かったとか」

「……」

「ほら」

「いや、なんかすごかった」

「もっとひどくなった」

「待て。ちゃんと拍手しただろ」

「そういう問題じゃないよ」

 怒ってはいない。

 笑っている。

 でも。

 何を言えばいいか。

 本当に分からなかった。

【芸術能力が不足しています】

「……!」

 突然。

 システムが表示された。

【一部の会話・イベントでは、関連する人生能力によって選択肢や理解度が変化します】

「……マジか」

「何が?」

「いや」

 去年の発表会。

 詩織が弾いた曲。

 上手かったことは分かる。

 でも。

 どう上手かったのか。

 何が良かったのか。

 俺には。

 上手く言葉にできない。

 能力不足。

 そう言われると。

 妙に納得してしまった。

「今年はちゃんと聞く」

「去年もちゃんと聞いてたでしょ?」

「もっとちゃんと」

「変なの」

 詩織は笑った。

 でも。

 俺は少しだけ。

 本気だった。

 

◇

 

 その日の帰り。

「成瀬君」

 別のクラスの女子に呼び止められた。

「何?」

「全国大会の時の写真、まだ廊下に貼ってあるじゃん」

「あるな」

「あれ見て思ったんだけど」

「うん」

 少し。

 顔を見られる。

「成瀬君って、普通にかっこいいよね」

「……普通に?」

「水城君が目立ちすぎるから気づかなかった」

「それ褒めてる?」

「褒めてるよ」

 笑いながら。

 友達のところへ戻っていく。

「……」

 褒められた。

 多分。

「伊織君」

「うわ」

 振り返る。

 詩織。

「聞いてた?」

「聞こえた」

「最近こういうの増えた」

「そうなんだ」

「玲の方が多いけど」

「聞いてない」

「……怒ってる?」

「怒ってない」

 先に歩いていく。

「その言い方の時、大体怒ってるだろ」

「怒ってません」

「待てって」

 追いかける。

 後ろから。

 女子の声が聞こえた。

「やっぱ藤崎さんと仲いいよね」

「幼馴染なんでしょ?」

「水城君は顔だけでもすごいけど、成瀬君は試合してる時の方がかっこいいよね」

「分かる」

 口元が。

 少し緩んだ。

「伊織君」

「はい」

「嬉しそう」

「……別に」

「ふーん」

 今度は。

 俺がその言葉を使った。

 

◇

 

 7月。

 1学期の終業式。

 通知表をもらった。

 国語。

 算数。

 理科。

 社会。

 大体。

 よくできている。

 音楽。

 図工。

「……普通」

 家へ帰って。

 システムを開く。

【1学期の学校生活を評価しました】

【学力経験を獲得しました】

【社交経験を獲得しました】

【学力 B72 → B73】

「お」

 1つ上がった。

 でも。

【芸術 D48】

「変わってない」

 当然か。

 音楽の授業を受けて。

 図工をやって。

 それだけ。

 野球で言えば。

 授業の時間だけ。

 軽く練習しているようなものだ。

 能力を伸ばしたければ。

 ちゃんと時間を使わないといけない。

「時間、か」

 野球。

 勉強。

 詩織。

 学校。

 友達。

 全部に。

 時間がいる。

 1日は。

 24時間しかない。

 

◇

 

 夏休みに入ると。

 また野球中心の毎日が始まった。

 大会。

 練習。

 自主練。

 試合。

 地区大会。

 優勝。

 上位大会。

 優勝。

 もう。

 普通の地域大会なら。

 勝つこと自体は珍しくなくなっていた。

 玲の球速も。

 さらに伸びた。

「125km/h!」

「よし」

「よし、じゃねえよ」

「伊織君は?」

「111km/h」

「14km/h差」

「言うな」

「事実」

「腹立つなあ」

 玲が笑う。

 俺も笑った。

 投手としては。

 差が広がっている。

 でも。

 打撃では。

 俺の方が明らかに上だった。

 3試合連続ホームラン。

 高い打率。

 盗塁。

 守備。

 ショートなら。

 誰にも負けたくない。

 玲は投手として。

 どんどん先へ行く。

 俺は。

 打って。

 走って。

 守って。

 そして。

 投げる。

 違う形で。

 俺たちは強くなっていた。

 いつの間にか。

 俺と玲は。

「6年生の怪物2人」

 そう呼ばれることが。

 当たり前になっていた。

 

◇

 

 夏のある夜。

 久しぶりに。

 両方の画面を見る。

 まず。

 野球能力。

【成瀬 伊織】

年齢:12歳

競技カテゴリ:少年

【野手能力】

弾道  3

ミート A86

パワー A84

走力  A81

肩力  A86

守備力 A88

捕球  A83

【投手能力】

球速     111km/h

コントロール A88

スタミナ   A85

【変化球】

チェンジアップ 3

【特殊能力】

送球○

アベレージヒッター

パワーヒッター

チャンス○

盗塁○

対ピンチ○

低め○

「……強くなったな」

 自分の能力なのに。

 改めて並べると。

 少しおかしい。

 野手能力は。

 全部A。

 ミート。

 パワー。

 走力。

 肩。

 守備。

 捕球。

 昔の俺なら。

 どれか1つでも欲しかった能力が。

 全部並んでいる。

 投手としても。

 111km/h。

 玲には大きく離されている。

 でも。

 小学生の投手として見れば。

 十分すぎるくらい速い。

「全部育ってる」

 野球については。

 そう言っていい。

 じゃあ。

 次。

 人生能力を開く。

【成瀬 伊織】

年齢:12歳

【人生能力】

学力  B73

運動  A89

容姿  A82

芸術  D48

社交  C67

精神  B78

「……」

 並べて見ると。

 余計に分かる。

「差あるな」

 野球は。

 全部A。

 穴らしい穴がない。

 人生能力は違う。

 運動は。

 もうすぐS。

 容姿もA。

 学力も悪くない。

 精神もB。

 でも。

 芸術はD。

 社交もC。

 野球能力みたいに。

 全部が高いわけじゃない。

「これも育てられるなら……」

 高い方が。

 絶対にいい。

 野球だってそうだった。

 ミートだけ高くても。

 パワーが低ければ長打は出ない。

 守備だけ高くても。

 肩が弱ければ取れるアウトを逃す。

 だから。

 俺は全部育てた。

 打つ。

 走る。

 守る。

 投げる。

 どれか1つじゃなく。

 全部。

 だったら。

 人生だって。

「全部高くすればいい」

 学力も。

 運動も。

 容姿も。

 芸術も。

 社交も。

 精神も。

 全部。

 育てればいい。

 野球でできたんだ。

 人生だって。

 同じようにやればいい。

 その時の俺は。

 まだ知らなかった。

 能力を1つ上げるために。

 何を使うのか。

 そして。

 全部を育てようとした時。

 1番足りなくなるものが。

 能力値ではなく。

 時間だということを。

 

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