転生したら人生がサクセスモードだった   作:ねるすと

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第5話

 翌日。

 俺はいつもより早く目が覚めた。

「……まだ六時か」

 五歳児の身体になってから、夜更かしはできなくなった。

 その代わり朝は早い。

 布団の中で右腕を持ち上げる。

 昨日。

 貯めていた経験を使って、コントロールをG12からF21まで上げた。

 能力を上げた直後、右腕に妙な感覚があった。

 痛みではない。

 どちらかと言えば。

『こうすれば、ここへ投げられる』

 そんな感覚が、頭の中に少しだけ増えたような。

「本当に変わったのかな」

 能力画面を開く。

 

【成瀬 伊織】

年齢:5歳

 

【投手能力/幼児カテゴリ】

球速     36km/h

コントロール F 21

スタミナ   F 20

 

 数字は変わっている。

 でも。

 数字が変わったからといって、本当に投げられるようになったのか。

 それは実際に試さないと分からない。

「伊織ー! 起きてるなら着替えなさい!」

「はーい」

 今日は玲とキャッチボールする約束だ。

 それなら。

 すぐに確認できる。

 

 

「おはよう、伊織君」

「おはよう」

 玄関を出ると、詩織が待っていた。

「今日は早いね」

「野球するから」

「……玲君と?」

「うん」

 ほんの一瞬。

 詩織の目が細くなった気がした。

「詩織も来る?」

「行く」

 即答だった。

「今日は砂場じゃなくてもいいの?」

「……見てる」

「そっか」

 昨日の件がある。

 今日はちゃんと詩織も含めて予定を立てた。

 午前中は玲と野球。

 その後、三人で遊ぶ。

 午後は父さんとのキャッチボール。

 一応。

 全員の予定を両立したつもりだ。

 こういうところまで考えないといけないのだから。

 人生育成。

 やっぱり育成ゲームより面倒である。

 

 

 公園に着くと。

 玲はすでに来ていた。

「伊織君!」

 俺を見つけると、ぱっと顔を明るくする。

「早いな」

「待ってた」

「何時から?」

「わかんない」

「玲、三十分くらい前からいるぞ」

 玲のお父さんが苦笑しながら教えてくれた。

「三十分?」

「うん」

「何してたの?」

「投げる練習」

「一人で?」

「お父さんと」

 横を見る。

 父親が疲れた顔で笑っている。

「朝からずっと投げさせられてるよ」

「玲……」

「昨日、楽しかったから」

 嬉しそうに笑う。

 昨日会ったばかりなのに。

 こいつ。

 本当に野球が好きらしい。

「じゃあやろう」

「うん!」

 俺たちは昨日と同じくらいの距離で向かい合った。

 まずは。

 能力を上げた効果を確認したい。

「いくよ」

「うん」

 ボールを握る。

 玲の胸を狙う。

 昨日までなら。

 狙っていても、実際には少し右へ行ったり左へ行ったりしていた。

 でも今日は。

 なんとなく。

 指先からボールを離す場所が分かる。

 踏み出す。

 腕を振る。

 離す。

 ぽん。

 パシッ。

「……」

 玲が胸の前で捕った。

「もう一球」

「うん」

 同じ場所を狙う。

 投げる。

 パシッ。

 また胸元。

「……おお」

 思わず声が出る。

 もう一球。

 今度は玲の右肩付近を狙う。

 投げる。

 少しずれた。

 でも。

 狙った方向には行った。

「なるほど……」

「どうしたの?」

「なんでもない」

 分かった。

 能力を上げたからといって。

 突然、機械のように狙ったところへ投げられるわけではない。

 ただ。

 成功するための感覚が。

 明らかに増えている。

 前世なら。

 何十球。

 何百球と投げて身体に覚えさせたこと。

 それを。

 システムが少しだけ、近道してくれる。

「……強いな、これ」

 思っていた以上に。

 このシステムは強力だ。

 努力して得た経験を。

 自分の欲しい能力へ使える。

 使えば。

 その能力を身につけるための感覚まで手に入る。

 だったら。

 本当に。

 俺はどこまで行けるんだろう。

 

 

「次、僕」

 玲がボールを握る。

「うん」

 構える。

 昨日の玲なら。

 ここから投げれば、俺が一歩か二歩動くことが多かった。

 玲が足を出す。

 身体を回す。

 腕を振る。

 ぽん。

 パシッ。

「……え?」

 胸元。

 俺は一歩も動かなかった。

「もう一回」

「うん」

 玲が投げる。

 パシッ。

 また。

 胸元。

「……」

 昨日より。

 明らかに良くなっている。

「玲」

「なに?」

「昨日帰ってからも練習した?」

「うん」

「どれくらい?」

「わかんない」

 玲のお父さんが答える。

「夕方に一時間くらいかな。今朝も三十分くらい」

「……」

 一時間半。

 それだけで。

 ここまで変わる?

「昨日、伊織君がこうやってたでしょ」

 玲が左足を前へ出す。

「それで、お父さんに見てもらった」

「教えてもらったの?」

「ううん。伊織君の真似」

「……」

 またそれか。

 俺は前世の経験がある。

 さらにシステムまである。

 昨日の夜。

 貯めた経験を使って、コントロールを上げた。

 だから上手くなった。

 玲は。

 何もない。

 ただ。

 見て。

 真似して。

 投げただけ。

 それなのに。

「もう少し離れてみる?」

 玲が言う。

「……いいよ」

 一歩。

 二歩。

 距離を広げる。

 俺が投げる。

 玲が捕る。

 玲が返す。

 少し低い。

 でも捕れる。

 もう一球。

 今度は胸元。

「……」

 胸の奥がざわついた。

 嫌な感覚。

 知っている。

 前世で何度も味わった。

 自分が一生懸命練習して身につけたことを。

 誰かが。

 あっさりと覚えていく。

 あの感覚。

 才能。

 嫌いだった言葉。

「伊織君?」

「ん?」

「もっと遠くする?」

「……する」

 負けたくなかった。

 五歳児相手に。

 中身三十八歳の俺が。

 何を張り合っているんだ。

 そう思う。

 でも。

 嫌だった。

 まだ。

 追いつかれたくなかった。

 

 

 三十分後。

「はぁ……」

 先に疲れたのは俺だった。

「伊織君、もう終わり?」

「ちょっと休憩」

「そっか」

 玲はまだ元気そうだ。

 スタミナもあるのか。

「玲ちゃん元気だね」

 詩織が言った。

「玲ちゃん?」

「だって玲君、女の子みたいにかわいいから」

「僕、男だよ」

「知ってるよ」

 詩織は当然のように答える。

「でも玲ちゃんの方がかわいい」

「……そう?」

「うん」

 玲はあまり気にしていないらしい。

「伊織君もそう思うでしょ?」

「まあ……」

 実際。

 玲はかなり整った顔をしている。

 俺より明らかにかわいい。

 なんとなく人物情報を開く。

 

【水城 玲】

年齢:5歳

関係:友人

 

【人物傾向】

運動適性:非常に高い

学習適性:高い

社交適性:高い

容姿適性:非常に高い

???:未解放

 

「……おい」

「伊織君?」

「なんでもない」

 容姿まで非常に高い。

 運動。

 頭。

 人付き合い。

 顔。

「ずるくない?」

「なにが?」

「何でもないって」

 才能だけじゃなく。

 顔までいい。

 しかも性格まで素直。

 神様。

 配分間違えてないか?

 

 

「ねえ、伊織君」

 休憩していると玲が隣へ座った。

「なに?」

「伊織君、野球ずっとやる?」

「……たぶん」

「プロになる?」

「え?」

「お父さんが言ってた」

 玲が俺のグローブを見る。

「野球すごく上手い人は、プロになるんだって」

「ああ」

「伊織君、なる?」

 五歳児からの質問。

 でも。

 俺にとっては。

 前世からずっと引きずっていたものだった。

 プロ野球選手。

 子供の頃。

 夢見たことがある。

 高校へ上がる頃には。

 自分には無理だと分かっていた。

 でも今回は。

 システムがある。

 努力が必ず残る。

「なるよ」

 口から自然に出た。

「俺、プロ野球選手になる」

 玲が目を輝かせる。

「ほんと?」

「うん」

「じゃあ僕もなる」

「……え?」

「僕もプロになる」

 あまりにも軽く。

 玲は言った。

「なんで?」

「伊織君がなるから」

「理由それだけ?」

「うん」

 玲が笑う。

「伊織君と、ずっと野球したい」

「……」

 なんだそれ。

 五歳児の言葉だ。

 深い意味なんてない。

 それなのに。

 少しだけ。

 胸が熱くなった。

「じゃあ、負けないから」

「僕も」

 玲が手を出す。

「なに?」

「約束」

「何の?」

「二人でプロになる」

「……」

 馬鹿みたいな約束。

 でも。

 嫌いじゃない。

 俺は玲の小さな手を握った。

「約束な」

「うん!」

 

【水城玲との特別イベントが発生しました】

 

【水城玲の好感度がかなり上がった】

 

「……特別イベント?」

「伊織君?」

「いや」

 新しい表示が出る。

 

【イベント:二人の約束】

水城玲と「共にプロ野球選手になる」という約束をしました。

 

【特殊条件が解放されました】

 

「特殊条件?」

 詳細を見ようとする。

 だが。

 

【現在は確認できません】

 

「またそれかよ」

「何が?」

「なんでもない」

 気になる。

 気になるけど。

 今は分からない。

 なら仕方ない。

 ただ。

 これでまた一つ。

 俺の二度目の人生に。

 目標が増えた。

 

 

「ところで伊織君」

 詩織が俺の前に立つ。

「ん?」

「野球終わった?」

「あ」

 忘れてた。

「今日は約束守るんだよね?」

「……もちろん」

「じゃあ遊ぼ」

「うん」

 玲を見る。

「玲も来る?」

「いいの?」

「もちろん」

「行く!」

 三人で砂場へ向かう。

 その途中。

 公園の入口から声が聞こえた。

「すみませーん!」

 振り返る。

 ユニフォーム姿の小学生たちが何人か歩いている。

 胸には同じチーム名。

 その後ろを、帽子を被った大人が歩いていた。

「今日、グラウンド空いてるかな」

「午後から練習ですよね?」

「ああ。新入部員も見に来るらしいぞ」

 少年野球。

 俺は足を止めた。

 玲も同じ方向を見ていた。

「伊織君」

「ん?」

「あれ何?」

「野球チーム」

「チーム?」

「みんなで野球するんだよ」

 玲の目が輝いた。

「入りたい」

「……早いな」

「伊織君は?」

「俺?」

 少年野球チーム。

 前世では小学四年から始めた。

 でも今回は五歳。

 まだ幼稚園児だ。

 入れるのかどうかも分からない。

 それでも。

 ユニフォーム姿の子供たちを見ると。

 胸が高鳴る。

「……見に行ってみるか」

「うん!」

「伊織君」

 詩織の声。

 振り向く。

 笑っていない。

「今日は?」

「……砂場です」

「よろしい」

 危ない。

 また同じ失敗をするところだった。

 少年野球は逃げない。

 今日は。

 ちゃんと約束を守る。

 そう思っていた俺は。

 数日後。

 水城玲と一緒に。

 初めて少年野球のグラウンドへ足を踏み入れることになる。

 そして。

 そこで初めて。

 今の俺が。

 この年代の野球選手の中で。

 どの程度の位置にいるのかを知ることになった。

 

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