行き当たりばったりで書き始めたこちらもようやっとシニア編となります。
読みづらい個所などは定期的に修正をしていきますので、
今後ともよろしくお願いいたします!
小学校を卒業した。
6年間。
長かったようで。
振り返れば、あっという間だった。
「伊織君」
「何?」
「卒業、おめでとう」
「詩織もだろ」
「そうだけど」
校門の前。
卒業証書を持った詩織が笑う。
少し離れたところでは。
玲が女子に囲まれていた。
「水城君、一緒に写真撮ろう!」
「私も!」
「……」
玲が。
分かりやすく困っている。
「伊織君」
「助けないぞ」
「まだ何も言ってない」
「顔に書いてある」
「どうしたらいい?」
「笑っとけば?」
「こう?」
玲が少し笑う。
「きゃー!」
女子の声が大きくなった。
「逆効果だったな」
「伊織君」
「知らん」
小学生最後の日。
最後まで。
玲は玲だった。
◇
野球でも。
小学生としてやることは。
全部終わった。
全国大会2連覇。
最後の大会では。
玲が133km/h。
俺が122km/h。
その後。
卒業までの練習で。
玲は135km/h。
俺は124km/hまで伸びた。
少年カテゴリでは。
もう。
ほとんど相手がいなかった。
でも。
俺は知っている。
次は。
違う。
◇
4月。
中学校の入学式。
「でかいな」
廊下を歩く。
前から来る3年生を見るだけで。
身体の違いが分かる。
肩幅。
身長。
脚。
声まで低い。
「伊織君」
「何?」
「中学生」
「俺たちも今日からだぞ」
「まだ小さい」
「そりゃ3年と比べたらな」
俺は今。
160cmにはまだ届かないくらい。
玲も。
俺より少し小さい。
小学校では。
身体が大きい方になっていた。
でも。
ここでは。
普通に小さい。
「なんか懐かしいな」
「何が?」
「上にいっぱい人がいる感じ」
「うん」
玲は。
少し楽しそうだった。
俺も。
同じだった。
◇
「伊織君」
教室へ向かう途中。
後ろから声。
「詩織」
「同じクラスじゃなかった」
「マジ?」
「私は2組」
「俺1組」
「残念」
「休み時間会えるだろ」
「そうだけど」
小学校では。
同じクラスになることも多かった。
でも。
中学になれば。
生徒数も増える。
クラスも増える。
「帰りは?」
「今日はシニア」
「玲君と?」
「うん」
「そっか」
「明日は?」
「明日は多分空いてる」
「多分?」
「予定確認しないと」
「……予定表?」
「まだ使ってる」
「やっぱり」
詩織が少し笑う。
「じゃあ明日ね」
「うん」
別々の教室へ向かう。
それだけのことなのに。
小学校とは。
少しだけ違う生活が。
始まった気がした。
◇
そして。
放課後。
俺と玲は。
5年生の冬に1度だけ体験練習へ参加したシニアのグラウンドへ向かった。
「久しぶり」
「うん」
「覚えてる?」
「マウンド遠かった」
「そこかよ」
「榊原さんも」
「ああ」
あの時。
俺たちはまだ5年生だった。
全国大会で初めて日本一になった後。
監督に勧められて。
中学野球というものを見ておくために体験へ来た。
あれから。
1年以上。
今度は。
体験じゃない。
正式に。
このチームで野球をする。
グラウンドへ入る。
「失礼します!」
「お願いします!」
声を出す。
何人かが振り向いた。
「来たか」
その中から。
1人。
キャッチャーミットを持った選手が歩いてくる。
「お久しぶりです」
「覚えてたか」
「玲が気に入ってました」
「伊織君」
「何?」
「余計」
榊原颯真。
5年生の冬に初めて会った時は。
まだ中学1年生だった。
それが今は。
中学3年生。
チームのキャプテンになっている。
「全国2連覇したらしいな」
「はい」
「最後、水城135まで出たんだって?」
「出ました」
玲が少し嬉しそうに答える。
「成瀬は?」
「124です」
「十分おかしいよ」
「玲の隣にいると遅く感じるんですよ」
「感覚壊されてんな」
榊原さんが笑った。
そして。
俺たちの後ろを見る。
「同級生も来てるぞ」
◇
「高瀬悠真」
最初に名乗ったのは。
少し細身の少年だった。
「キャッチャー」
「捕手?」
「うん」
玲の目が。
少し輝く。
「球受けて」
「いきなり?」
「駄目?」
「いや……いいけど」
「水城、初対面の捕手にいきなり135投げるなよ」
榊原さんが止める。
「じゃあ軽く」
「それも後」
「はい」
「素直になったな」
「休むのも練習」
「それまだ覚えてんのか」
「はい」
榊原さんが少し笑った。
「黒田大河」
次。
俺より。
明らかに身体が大きい。
「サードとファースト。打つ方が好き」
「よろしく」
「成瀬だろ?」
「そうだけど」
「ホームラン何本打った?」
「覚えてない」
「じゃあ今度勝負な」
「何の?」
「ホームラン」
「いいよ」
面白そう。
そして。
「三上翔太」
最後は。
小柄で。
やたら明るそうなやつ。
「セカンドとセンター! 足なら負けない!」
「よろしく」
「水城って本当に135投げるの?」
「うん」
「成瀬は124?」
「うん」
「俺、チーム選び間違えた?」
「何で?」
「守備する機会なくない?」
「知らん」
こいつは。
多分。
うるさいタイプだ。
◇
「全員集まれ!」
監督の声。
新1年生。
上級生。
全員が並ぶ。
「今日から新年度だ。1年はまず中学野球に慣れろ。小学生でどれだけ有名だったかは関係ない」
「はい!」
「身体も違う。距離も違う。野球そのものが変わる。焦って結果を出そうとするな」
「はい!」
分かっている。
5年生の冬に。
1度。
それを経験した。
マウンドが遠くなっただけで。
玲の制球も。
俺の制球も。
大きく落ちた。
でも。
あれは。
体験だった。
今度は。
違う。
今日から。
ここが俺たちの野球になる。
その瞬間。
視界の端に。
システムが開いた。
◇
【競技カテゴリの変更を確認しました】
「……来た」
【《少年》から《中学》へ移行します】
【競技能力の再評価を開始します】
一瞬。
文字が消える。
そして。
新しい能力が。
表示された。
【成瀬 伊織】
年齢:12歳
競技カテゴリ:中学
【野手能力】
弾道 3
ミート C66
パワー C64
走力 C62
肩力 C66
守備力 C68
捕球 C63
【投手能力】
球速 124km/h
コントロール C68
スタミナ C66
【変化球】
チェンジアップ 3
【特殊能力】
送球○
アベレージヒッター
パワーヒッター
チャンス○
盗塁○
対ピンチ○
低め○
「……」
分かっていた。
分かっていたけど。
「Cばっか……」
小学校では。
全部Aだった。
ミートも。
パワーも。
走力も。
肩も。
守備も。
捕球も。
それが。
全部。
C。
【能力値そのものが低下したわけではありません】
【競技カテゴリ変更に伴い、評価基準が変更されました】
「やっぱり」
124km/h。
球速だけは。
変わっていない。
でも。
その124km/hを投げる俺が。
中学では。
コントロールC。
スタミナC。
「……面白い」
また。
育てられる。
全部。
もう1度。
◇
そして。
玲を見る。
当然。
解析する。
【解析情報が更新されました】
【水城玲の解析情報】
年齢:12歳
競技カテゴリ:中学
【投手能力】
球速 135km/h
コントロール D58
スタミナ C69
【変化球】
チェンジアップ 3
【確認済み特殊能力】
奪三振
怪童
「……」
思わず。
笑った。
「伊織君」
「何?」
「何笑ってるの?」
「いや」
玲は。
小学校では。
あれだけ圧倒していた。
なのに。
コントロールD。
スタミナC。
「お前もまだまだだなと思って」
「?」
「こっちの話」
でも。
135km/hだけは。
そのまま。
中学生の中でも。
異常な数字。
「水城」
榊原さんが呼ぶ。
「はい」
「ブルペン入るぞ」
「はい!」
「最初は7割」
「はい」
「本当に7割な」
「……はい」
「間があったぞ」
「大丈夫です」
玲が嬉しそうに走っていく。
「成瀬」
「はい」
「お前はショート入れ」
「はい!」
グラブを持つ。
守備位置へ。
5年生の冬の体験とは違う。
正式な。
中学生としての。
最初の練習。
◇
「1年! 守備つけ!」
「はい!」
打球が飛ぶ。
カキィン!
「速っ」
小学校とは。
明らかに違う。
3年生の打球。
強い。
速い。
正面。
捕る。
「っ!」
グラブが。
少し押される。
それでも。
握る。
1塁へ。
投げる。
「アウト!」
「いい肩だ!」
「はい!」
次。
深い位置。
追いつく。
投げる。
少し逸れる。
「セーフ!」
「……」
小学校なら。
アウトだった。
足も速い。
距離も違う。
「成瀬!」
「はい!」
「今の取ったところまではいい! そこから急ぐな!」
「はい!」
榊原さんの声。
悔しい。
でも。
楽しい。
◇
少し離れたブルペン。
バァンッ!
音が響いた。
「うおっ!?」
「何だ今の」
「1年だろ?」
玲。
見る。
投げている。
速い。
でも。
「ボール!」
次。
「ボール!」
さらに。
「ストライク!」
高い。
やっぱり。
まだ合っていない。
「水城!」
榊原さんが叫ぶ。
「球速いらねえ! ミット見ろ!」
「はい!」
「三振取る練習じゃねえぞ!」
「……はい!」
少し。
不満そうだった。
「はは」
笑ってしまう。
5年生の冬と。
同じだ。
いや。
違う。
今度は。
毎日。
ここでやる。
この距離を。
この身体の相手を。
この速さを。
普通にする。
◇
練習が終わった。
「疲れた」
三上が。
地面に座り込む。
「中学生やばくない?」
「俺たちも中学生だけどな」
黒田が言う。
「3年が別の生き物なんだよ」
「確かに」
高瀬が。
ブルペンの方を見る。
「でも」
「何?」
「あっちも別の生き物じゃない?」
玲が。
まだボールを握っている。
「もう投げるなよ!」
俺が叫ぶ。
「投げてない!」
「握ってる!」
「持ってるだけ!」
「信用できねえ!」
「成瀬」
黒田が俺を見る。
「お前、あれ毎日相手してたの?」
「うん」
「よく生きてるな」
「俺もそう思う」
三上が。
真顔で頷いた。
◇
帰宅して。
人生能力も確認した。
【成瀬 伊織】
年齢:12歳
【人生能力】
学力 B77
運動 A89
容姿 A84
芸術 C54
社交 B71
精神 B79
「こっちは変わらない」
当たり前だ。
中学生になったからといって。
頭が悪くなるわけでも。
人付き合いが下手になるわけでもない。
人生能力は。
積み上げたまま。
野球だけ。
基準が変わった。
「なるほどな」
中学では。
学校生活も。
小学校とは変わる。
勉強も難しくなる。
定期テスト。
行事。
進路。
人間関係。
そして。
シニア。
「やること増えるな」
少しだけ。
笑った。
野球能力。
人生能力。
また。
全部育てればいい。
小学校でも。
できた。
中学でも。
できる。
そう思って。
俺は。
予定表の新しいページを開いた。
中学生活。
1日目。
俺の2度目の育成が。
始まった。