転生したら人生がサクセスモードだった   作:ねるすと

53 / 91
第53話

 5月の終わり。

 シニアの練習前。

 監督から。

 全員集合がかかった。

「来月から夏の全国大会につながる予選が始まる」

 空気が変わる。

 3年生にとっては。

 最後の夏。

 俺たち1年生とは。

 意味が違う。

「大会登録メンバーを発表する」

「はい!」

 名前が。

 順番に呼ばれていく。

 榊原さん。

 橘さん。

 3年生。

 2年生。

 そして。

「成瀬」

「はい!」

 呼ばれた。

「水城」

「はい!」

 玲も。

 呼ばれた。

 それから。

 最後まで。

 高瀬。

 黒田。

 三上の名前は。

 呼ばれなかった。

 

◇

 

「いいなあ」

 発表が終わって。

 三上が。

 露骨に口を尖らせた。

「俺もベンチ入りしたかった」

「次入ればいいだろ」

 黒田が言う。

「簡単に言うなよ」

「俺も入ってねえし」

「悔しくないの?」

「悔しい」

「じゃあもっと悔しそうにしろよ」

「どうやって?」

「こう!」

 三上が。

 地面を叩く。

「くそおおおお!」

「うるせえ」

「気持ちが足りない!」

「お前の気持ちが多すぎる」

 高瀬が。

 俺と玲を見る。

「2人は入ると思ってた」

「そう?」

「成瀬はどこでも使えるし」

「うん」

「水城は135km/h」

「うん」

「それだけでベンチに置く価値あるでしょ」

「僕、投げるよ」

「いや俺に言われても」

 玲は。

 もう。

 試合で投げるつもりだった。

「でも」

 高瀬が続ける。

「水城」

「何?」

「コントロールDなんだろ?」

「……」

 俺が。

 反射的に高瀬を見る。

「何で知ってるんだ?」

「何が?」

「いや、何でもない」

 危ない。

 D評価を知っているのは。

 俺だけだ。

「最近、ブルペンで結構荒れてるから」

「ああ」

 そういう意味か。

「135あってもストライク入らなかったら使えないからね」

「入る」

「この前4球連続ボールだった」

「あれは調整」

「便利な言葉だね」

「高瀬」

「何?」

「今度受けて」

「いいよ」

「絶対三振取る」

「俺キャッチャーなんだけど」

「じゃあ打席立って」

「話変わってるだろ」

 この2人。

 意外と。

 相性いいかもしれない。

 

◇

 

 練習が始まる。

 大会メンバーに入ったからといって。

 すぐ試合に出られるわけじゃない。

 レギュラーの中心は。

 当然。

 3年生。

 ショートにも。

 3年生の先輩がいる。

 投手も。

 3年生のエースがいる。

 捕手は榊原さん。

 センターには橘さん。

 俺と玲は。

 あくまで。

 1年生の控えだった。

 それでも。

「悪くない」

 むしろ。

 少し嬉しかった。

 小学生の最後は。

 最初から。

 俺たちが中心だった。

 今は違う。

 上がいる。

 追いかける相手がいる。

 

◇

 

「成瀬!」

「はい!」

「今日はセカンドも入れ」

「セカンドですか?」

「ショートだけじゃなく、内野全部できるようにしとけ」

「はい!」

 サード。

 セカンド。

 ショート。

 練習では。

 色々な場所に入る。

 守備位置が変わると。

 同じ打球でも。

 見え方が違う。

「面白い」

 セカンドから。

 ゲッツー。

 ベースへ入る。

 送球を受ける。

 反転。

 1塁。

「アウト!」

「今のいいぞ!」

「はい!」

【守備経験を獲得しました】

【送球経験を獲得しました】

 また。

 伸びる。

 控えだからこそ。

 色々やらされる。

 それも。

 俺には。

 都合が良かった。

 

◇

 

 玲は。

 相変わらず。

 榊原さんに捕まっていた。

「水城」

「はい」

「外低め10球」

「はい」

「球速はどうでもいい」

「はい」

「10球中7球入れろ」

「はい」

 1球目。

 ストライク。

 2球目。

 ボール。

 3球目。

 ストライク。

 4球目。

 高い。

「水城」

「はい」

「今、力入れただろ」

「少し」

「何で?」

「速くなりそうだったから」

「目的覚えてる?」

「外低め」

「そうだよな?」

「はい」

 俺は。

 笑いを堪える。

「成瀬」

「はい!」

「笑ってる暇あるなら、お前も投げろ」

「はい!」

 バレた。

 

◇

 

 俺も。

 隣のブルペンに入る。

「外低め」

「はい」

 同じ課題。

 投げる。

 バァンッ!

「ストライク」

 もう1球。

 同じフォーム。

 同じ腕の振り。

 バァンッ!

「ストライク」

 3球目。

 チェンジアップ。

 腕の振りを。

 変えない。

 バァンッ!

「……いいな」

「はい」

「今のストレートと同じに見えた」

「本当ですか?」

「ああ」

 もう1度。

 ストレート。

 次。

 チェンジアップ。

「そう。それ」

 榊原さんが言う。

「球種で腕の振り変えるなよ」

「はい」

「打者に分からせない」

「はい」

 何度も。

 繰り返す。

 同じ場所から。

 同じように。

 放す。

【特殊能力候補《リリース○》の習得条件が進行しています】

 前にも見た表示。

「もう少し」

 あと。

 一歩。

 

◇

 

 そして。

 予選初戦。

 俺は。

 ベンチにいた。

「緊張する?」

 隣。

 玲が聞いてくる。

「少し」

「僕は投げたい」

「聞いてない」

「いつ投げるかな」

「監督に聞け」

「聞いた」

「聞いたの?」

「展開次第って」

「じゃあ待て」

「うん」

 返事だけは。

 素直だ。

 試合が始まる。

 先発は。

 3年生のエース。

 キャッチャー。

 榊原さん。

 センター。

 橘さん。

 俺たちは。

 見る。

 まず。

 上級生の野球を。

 

◇

 

 1回。

 先頭打者。

 初球。

 ストライク。

 2球目。

 外。

 3球目。

 内角。

 詰まらせる。

 ショートゴロ。

「上手い」

 球速だけじゃない。

 打者の反応を見て。

 次を変える。

 榊原さんが。

 試合を作っている。

 2番。

 追い込む。

 低めの変化球。

 空振り三振。

 3番。

 初球。

 外角。

 ゴロ。

 三者凡退。

「玲」

「何?」

「見てる?」

「見てる」

「何が違う?」

「無駄な球が少ない」

「だよな」

 玲が。

 少し考える。

 小学校では。

 玲の球なら。

 真ん中近くでも。

 打たれなかった。

 でも。

 中学では。

 それだけじゃない。

 

◇

 

 試合は。

 こちらが優勢に進んだ。

 3回。

 橘さんが。

 左中間を破る。

 三塁打。

「速っ」

 三上がいたら。

 絶対叫んでいただろう。

 続く。

 榊原さん。

 犠牲フライ。

 1点。

 さらに。

 打線がつながる。

 5回終了。

 6対0。

「成瀬」

「はい!」

 監督に呼ばれる。

「次、代打」

「はい!」

 来た。

 公式戦。

 中学生になって。

 初めての打席。

 

◇

 

「6回表。代打、成瀬」

 打席へ入る。

 相手投手。

 右。

 球速は。

 120km/h台中盤くらい。

 小学生なら。

 速い。

 でも。

 今の俺なら。

 見える。

 初球。

 外角。

 ストライク。

 見送る。

「……」

 2球目。

 変化球。

 低い。

 ボール。

 ワンボール、ワンストライク。

 3球目。

 内角。

 ストレート。

「そこ」

 振る。

 カキィン!

 打球。

 左中間。

「抜けた!」

 走る。

 1塁。

 蹴る。

「2つ!」

 コーチの声。

 2塁へ。

「セーフ!」

 立ち上がる。

「よし!」

 中学生。

 初公式打席。

 二塁打。

 ベンチから。

 声が飛ぶ。

「ナイス、成瀬!」

「はい!」

 嬉しい。

 小学生の時とは。

 少し違う。

 自分が主役じゃないチームで。

 与えられた。

 1打席。

 そこで。

 結果を出す。

 これも。

 悪くない。

 

◇

 

 そのまま。

 俺は。

 ショートの守備に入った。

 6回裏。

 そして。

 マウンドには。

「水城!」

「はい!」

 玲。

「出た」

 俺が笑う。

 玲は。

 明らかに。

 嬉しそうだった。

「成瀬!」

「何!」

「全部アウトにする」

「三振じゃなく?」

「……できれば三振」

「榊原さんに怒られるぞ」

「聞こえてるぞ!」

 ホームから声。

「はい!」

 玲が。

 慌てて前を向いた。

 

◇

 

 初球。

 134km/h。

「ストライク!」

 歓声。

 2球目。

 135km/h。

「ファウル!」

 速い。

 でも。

 打者も。

 ちゃんと振ってくる。

 3球目。

 チェンジアップ。

 空振り。

「ストライク! バッターアウト!」

「よし!」

 玲が。

 拳を握る。

 次。

 2番。

 初球。

 高い。

 ボール。

 2球目。

 外。

 ボール。

「玲」

 少し。

 力んでいる。

 3球目。

 135km/h。

 外れて。

 スリーボール。

「水城!」

 榊原さんが。

 立ち上がる。

「球速いらねえ!」

「はい!」

「俺のミットだけ見ろ!」

「はい!」

 4球目。

 128km/h。

 ストライク。

 5球目。

 129km/h。

 ストライク。

 フルカウント。

 6球目。

 130km/h。

 低め。

 打者が振る。

 カンッ!

 ショート正面。

「来た!」

 捕る。

 1塁。

「アウト!」

 玲を見る。

 少し。

 不満そう。

「何だよ」

「三振じゃなかった」

「アウトだろ」

「うん」

 そして。

 3人目。

 相手の3番打者。

 初球。

 ファウル。

 2球目。

 チェンジアップ。

 ボール。

 3球目。

 外角。

 ストライク。

 ワンボール、ツーストライク。

 玲が。

 少し。

 力を入れようとする。

「水城」

 榊原さんの声。

「はい」

「三振いらねえ」

「……」

「ここはゴロ打たせろ」

「はい」

 玲が。

 一瞬。

 嫌そうな顔をした。

 でも。

 頷く。

 4球目。

 外低め。

 132km/h。

 カンッ!

 弱い打球。

 三遊間。

「俺!」

 前へ。

 捕る。

 投げる。

「アウト!」

 チェンジ。

「ナイス、水城!」

 ベンチから声。

 玲は。

 マウンドを降りながら。

 俺を見る。

「伊織君」

「何?」

「ゴロも悪くない」

「だろ?」

「でも三振の方が好き」

「知ってる」

 

◇

 

 7回。

 玲は。

 続投した。

 先頭。

 四球。

「……」

 まだ。

 完璧じゃない。

 でも。

 その後。

 内野ゴロ。

 奪三振。

 最後。

 センターフライ。

「ゲームセット!」

 8対0。

 初戦突破。

 玲。

 2イニング。

 被安打0。

 四球1。

 無失点。

 奪三振2。

 最高球速135km/h。

 俺。

 1打数1安打。

 二塁打。

 守備機会2。

 失策0。

 悪くない。

 いや。

 初戦としては。

 十分だった。

 

◇

 

 試合後。

「水城」

「はい」

 榊原さん。

「どうだった?」

「もっと三振取れた」

「聞き方変える。中学の公式戦、どうだった?」

「……」

 玲が考える。

「小学生より打者が振ってくる」

「うん」

「低めならゴロになる」

「うん」

「力入れると高くなる」

「分かってんじゃん」

「はい」

「じゃあ次までに直せ」

「はい!」

「成瀬」

「はい」

「お前は?」

「楽しかったです」

「それだけ?」

「もっと出たいです」

「それでいい」

 榊原さんが。

 少し笑った。

「1年は焦るな」

「はい」

「今は俺たち3年がいる」

 そして。

 俺と玲を見る。

「見とけ。覚えろ」

「はい!」

 この人たちが。

 いるのは。

 今年だけ。

 それを。

 初めて。

 実感した。

 

◇

 

 帰宅。

 システムを開く。

【中学カテゴリ公式戦で結果を残しました】

【打撃経験を獲得しました】

【守備経験を獲得しました】

 そして。

 少し遅れて。

 別の表示。

【投球フォームの反復経験が一定値に到達しました】

「ん?」

【特殊能力《リリース○》を習得しました】

「来た」

【特殊能力】

送球○

アベレージヒッター

パワーヒッター

チャンス○

盗塁○

対ピンチ○

低め○

リリース○

「よし」

 まだ。

 中学に入って。

 2か月も経っていない。

 能力は。

 まだCばかり。

 でも。

 少しずつ。

 中学生の野球に。

 自分の身体が合い始めている。

 俺は。

 画面を閉じる。

「次も出る」

 控えで。

 満足するつもりはない。

 いつか。

 このチームの中心になる。

 投げて。

 打って。

 守って。

 全部で。

 それが。

 俺の育て方だった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。