転生したら人生がサクセスモードだった   作:ねるすと

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第57話

 真田のチームに勝って、ベスト8。

 全国大会まで、少しずつ距離が縮まってきた。

 でも、チームの雰囲気は浮ついていなかった。むしろ勝ち進むほど、3年生たちの空気は張り詰めていく。

「これが最後だからな」

 練習後、三上が小さく言った。

「何が?」

「3年生。負けたら終わりなんだろ?」

「ああ」

 俺たち1年生には、来年がある。その次もある。

 でも、榊原さんたちにはない。

 小学生の頃も最上級生の夏は経験した。それでも今、下級生の立場から見る最後の夏は、少し違って見えた。

 

◇

 

 準々決勝。

 相手は、春の大会でも上位まで残ったチームだった。

 序盤から接戦になり、4回を終えて1対1。

 俺はベンチ。

 玲も隣に座っていた。

「投げたい」

「今日それ何回目?」

「3回」

「もっと言ってる」

「そう?」

「そう」

 5回表。

 先頭の橘さんが四球で出る。

 盗塁。

 送りバント。

 ワンアウト3塁。

 打席には榊原さん。

「スクイズあるかな」

 玲が言う。

「多分打つ」

「何で?」

「榊原さんだから」

 初球。

 外角。

 見送ってストライク。

 2球目。

 内角。

 ファウル。

 ツーストライク。

 相手は完全に追い込んだと思ったはずだ。

 3球目。

 外へ逃げる変化球。

 榊原さんは逆らわず、右方向へ転がした。

「走れ!」

 橘さんがホームへ。

「セーフ!」

 2対1。

 記録は内野ゴロ。

 打点1。

「……こういうのでいいんだ」

 玲が呟いた。

「三振じゃなきゃ駄目だと思ってた奴が言う?」

「最近はゴロも好き」

「成長したな」

「でも三振の方が好き」

「戻った」

 

◇

 

 6回。

「成瀬」

「はい!」

「代走。出たら行け」

「はい!」

 四球で出塁した3年生の代わりに、俺が1塁へ入る。

 点差は1点。

 追加点が欲しい。

 相手投手がセットに入る。

 見る。

 左足。

 肩。

 目線。

「行ける」

 初球。

 スタート。

「走った!」

 捕手の送球。

 滑る。

「セーフ!」

 よし。

 続く打者の内野ゴロで3塁。

 そして、橘さんの犠牲フライでホームを踏んだ。

 3対1。

 ホームランでもない。

 ヒットすら打っていない。

 でも、自分の足で1点を増やした。

 小学生の頃なら、打って決めることばかり考えていた気がする。

「成瀬、そのままショート!」

「はい!」

 守備につく。

 今度は。

 この1点を守る。

 

◇

 

 6回裏。

 ワンアウト1、2塁。

 打球が三遊間へ飛んだ。

「俺!」

 前へ出る。

 捕る。

 2塁へ投げるか。

 一瞬考える。

 でも、間に合わない。

 1塁。

「アウト!」

 ツーアウト2、3塁。

「ナイス判断!」

 榊原さんの声が飛ぶ。

 無理にゲッツーを狙っていたら、全部セーフだったかもしれない。

 取れるアウトを取る。

 それも。

 野球。

 次の打者を3年生エースが三振に取った。

 無失点。

「よし!」

 ベンチへ戻ると、榊原さんが俺の肩を叩いた。

「今の、2塁投げなかったの良かったぞ」

「一瞬迷いました」

「迷っても正しい方選べりゃいい」

「はい」

「何でも派手にやる必要ねえからな」

「……はい」

 最近。

 榊原さんには。

 似たようなことばかり言われている気がする。

 

◇

 

 試合は4対1で勝った。

 準決勝進出。

 試合後、監督から翌日のスタメンが発表された。

「明日は少し変える」

 名前が呼ばれていく。

 そして。

「7番、ショート。成瀬」

「……はい!」

 一瞬。

 返事が遅れた。

 中学に入って。

 初めての公式戦スタメン。

「やったな」

 三上が背中を叩く。

「痛い」

「俺の分まで打て!」

「お前まだ登録されてないだろ」

「だからだよ!」

 高瀬も笑っている。

 黒田は少し悔しそうだったけど、それでも拳を出してきた。

「ミスれよ」

「応援する気ある?」

「その後俺が入る」

「絶対ミスらん」

「ちっ」

 拳を合わせる。

 嬉しい。

 でも。

 同時に。

 少しだけ緊張した。

 小学生の頃なら。

 スタメンは当たり前だった。

 今は違う。

 上級生の中に。

 俺が入る。

 

◇

 

 準決勝。

「7番、ショート。成瀬」

 アナウンスされる。

 守備位置へ走る。

「成瀬!」

「はい!」

 3年生の先輩が声を掛けてくる。

「1年だからって遠慮すんなよ!」

「はい!」

「ミスしたら俺らが取り返す!」

「はい!」

 その言葉に。

 少し肩の力が抜けた。

 全部。

 自分でやらなくてもいい。

 頭では。

 分かっている。

 でも。

 まだ。

 身体には染みついていない。

 

◇

 

 試合は、また接戦になった。

 相手先発は左腕。

 球速は120km/h台後半。

 それ以上に。

 変化球の出し入れが上手い。

 2回。

 俺の第1打席。

 ワンボール、ツーストライク。

 外へ逃げる球を引っかけて、セカンドゴロ。

「くそ」

 4回の第2打席は。

 センター前ヒット。

 でも後続が倒れて無得点。

 5回を終えて。

 1対2。

 負けていた。

 

◇

 

 6回表。

 ツーアウト。

 ランナー1塁。

 俺に第3打席が回ってきた。

「成瀬!」

「お願いします!」

 相手投手。

 初球。

 外角ストレート。

「ストライク!」

 2球目。

 内角。

 ボール。

 ワンボール、ワンストライク。

 3球目。

 外へ逃げる変化球。

 見送る。

「ボール!」

 ツーボール、ワンストライク。

 次。

 速球。

 来る。

 そう思った。

 4球目。

 内角。

 128km/h。

「っ!」

 振り抜く。

 カキィン!

 打球は左中間へ。

「抜けた!」

 1塁ランナーが走る。

 俺も1塁を蹴った。

「回せ!」

 3塁コーチの腕が回る。

 ランナーがホームへ。

「セーフ!」

 2対2。

 同点。

 俺は2塁。

「よし!」

 拳を握る。

 ベンチが沸く。

 そして。

 次の打者は。

 榊原さんだった。

 

◇

 

 初球。

 ボール。

 2球目。

 ファウル。

 ワンボール、ワンストライク。

 3球目。

 変化球。

 低い。

 ツーボール、ワンストライク。

 4球目。

 ストレート。

 榊原さんが振る。

 カキィン!

「行け!」

 打球がセンター前へ落ちる。

 俺は。

 迷わず3塁を蹴った。

「ホーム!」

 送球。

 滑る。

「セーフ!」

 3対2。

 逆転。

「よっしゃあ!」

 立ち上がる。

 ベンチへ戻る途中。

 榊原さんと目が合った。

 俺が追いついて。

 榊原さんが返す。

 1人じゃない。

 こういうことなのかもしれない。

 少しだけ。

 そう思った。

 

◇

 

 6回裏。

「水城」

「はい!」

「行け」

 玲が立ち上がる。

 準決勝。

 1点リード。

 大事な場面。

「玲」

「何?」

「三振だけ狙うなよ」

「分かってる」

「本当?」

「多分」

「不安だな」

「でも抑える」

「それは頼む」

 玲がマウンドへ。

 キャッチャーは。

 榊原さん。

 

 初球。

 133km/h。

 外角。

「ストライク!」

 2球目。

 チェンジアップ。

 低め。

 空振り。

 ツーストライク。

 3球目。

 玲は。

 一瞬だけ力を入れようとした。

 でも。

 やめた。

 榊原さんのミット。

 外低め。

 そこだけを見る。

 腕を振る。

 132km/h。

 バァンッ!

「ストライク! バッターアウト!」

 三振。

「いいぞ!」

 次。

 2番打者。

 玲は。

 また同じ位置から腕を振る。

 ストレート。

 チェンジアップ。

 球種が変わっても。

 腕の振りが。

 ほとんど変わらない。

 打者のタイミングがずれる。

「ストライク! バッターアウト!」

 2者連続三振。

「……」

 俺には。

 見える。

 玲の投球が。

 少しずつ。

 変わっている。

 

◇

 

 3番打者。

 初球。

 135km/h。

 ファウル。

 2球目。

 外へ外れてボール。

 3球目。

 133km/h。

 ファウル。

 ワンボール、ツーストライク。

 玲が。

 また三振を狙う。

 でも。

 榊原さんは。

 低めへ構えた。

 玲が頷く。

 4球目。

 131km/h。

 低め。

 カンッ!

 弱いゴロ。

 三遊間。

「来い!」

 俺が前へ出る。

 捕る。

 1塁へ。

「アウト!」

 チェンジ。

「ナイス、玲!」

「うん!」

 マウンドから戻る玲が。

 嬉しそうに笑う。

「最後ゴロだったぞ」

「アウトだった」

「お前が言うと成長感じるな」

「でも最初の2人は三振」

「はいはい」

 

◇

 

 7回。

 こちらがさらに1点を追加。

 4対2。

 最終回も。

 玲がマウンドへ上がった。

 先頭打者。

 外角。

 ストライク。

 次。

 低め。

 ストライク。

 同じ腕の振りから。

 チェンジアップ。

 空振り。

 三振。

 2人目。

 ショートゴロ。

 俺が処理する。

 ツーアウト。

 最後の打者。

 ツーボール、ツーストライク。

 玲。

 投げる。

 135km/h。

 高め。

 打者が振る。

 空振り。

「ストライク! バッターアウト!」

「ゲームセット!」

 4対2。

 勝った。

 決勝進出。

 

◇

 

 整列を終えて。

 ベンチへ戻る。

 3年生たちが。

 笑っている。

 でも。

 泣いている人はいない。

 まだ。

 終わっていないから。

「あと1つだ」

 榊原さんが言う。

「次勝って、全国行くぞ!」

「はい!」

 声が。

 グラウンドに響いた。

 俺たち1年生にとっては。

 初めてのシニアの夏。

 でも。

 3年生にとっては。

 最後の夏。

 その夏を。

 まだ。

 終わらせたくなかった。

 

◇

 

 帰宅して。

 システムを開く。

【中学カテゴリ公式戦でスタメン出場しました】

【強豪相手に打点を記録しました】

【ミート経験を獲得しました】

【守備経験を獲得しました】

【走塁経験を獲得しました】

 そして。

 玲を見る。

 今日。

 何かが変わった気がした。

【解析情報が更新されました】

【水城玲の解析情報】

年齢:13歳

競技カテゴリ:中学

【投手能力】

球速     135km/h

コントロール C60

スタミナ   C69

【変化球】

チェンジアップ 3

【確認済み特殊能力】

奪三振

怪童

リリース○

「やっぱり」

 コントロール。

 D58から。

 C60。

 中学のマウンドへ。

 玲の身体が。

 ようやく適応し始めた。

 そして。

 リリース○。

 ストレートも。

 チェンジアップも。

 同じ腕の振りから出る。

 投手として。

 また。

 1段上がった。

「伊織君」

「何?」

 帰り際。

 玲が俺を見る。

「次も投げる」

「監督に言え」

「全国行きたい」

「……俺も」

「じゃあ勝とう」

「おう」

 あと1勝。

 俺たちは。

 初めてのシニア全国大会へ。

 手を伸ばしていた。

 

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