転生したら人生がサクセスモードだった   作:ねるすと

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第58話

 決勝当日。

 朝から、空気が違った。

 いつもの大会会場なのに、ベンチへ向かう3年生たちの表情が硬い。

 今日勝てば、全国大会。

 負ければ。

 榊原さんたちの夏は、ここで終わる。

 

「成瀬」

「はい」

「今日もショート。7番」

「はい!」

 監督から告げられた。

 準決勝に続いて、スタメン。

 嬉しい。

 でも今日は、それ以上に緊張する。

「水城」

「はい!」

「お前は後ろで準備しておけ」

「はい!」

 玲はスタメンではない。

 それでも、自分の出番があると思っているのか、いつも以上に集中していた。

 

「伊織君」

「何?」

「勝とう」

「当たり前だろ」

 拳を出す。

 玲が合わせる。

 その横から、榊原さんの拳も伸びてきた。

「お前らだけで勝とうとするなよ」

「……はい」

「今日は全員で行くぞ」

「はい!」

 

◇

 

 決勝の相手も強かった。

 初回。

 こちらの3年生エースが、いきなりツーベースを打たれる。

 送りバント。

 ワンアウト3塁。

「先制されるかも」

 そう思った直後だった。

 相手の4番が打った打球は、ショートへの強いゴロ。

「来た!」

 正面より少し三遊間寄り。

 前へ出る。

 捕る。

 3塁ランナーがスタート。

 一瞬。

 1塁へ投げるか。

 ホームへ投げるか。

 迷わなかった。

「ホーム!」

 送球。

 榊原さんが捕る。

 タッチ。

「アウト!」

「よし!」

 ホームで刺した。

 相手ベンチからため息。

 こちらのベンチから歓声。

「ナイス判断、成瀬!」

「はい!」

 続く打者を三振。

 初回。

 無失点。

 

 ベンチへ戻ると、榊原さんに頭を軽く叩かれた。

「今の良かったぞ」

「ありがとうございます」

「1塁アウト欲しくならなかったか?」

「一瞬だけ」

「でもホーム投げた」

「はい」

「それでいい」

 榊原さんが笑う。

「そのために俺がいる」

「……はい」

 野球は9人でやる。

 前より。

 少しだけ、その意味が分かる気がした。

 

◇

 

 2回裏。

 俺の第1打席。

 ツーアウト、ランナーなし。

 相手投手は3年生の右腕。

 球速は130km/h前後。

 変化球も複数ある。

 初球。

 外角ストレート。

「ストライク!」

 2球目。

 低めの変化球。

 見送る。

「ボール!」

 ワンボール、ワンストライク。

 3球目。

 内角。

 130km/h。

 振る。

 カンッ!

 詰まった。

 打球はセンター前。

「落ちろ!」

 センターが前へ走る。

 落ちた。

「ヒット!」

 1塁へ。

 続く打者の初球。

 投手を見る。

 クイック。

 牽制。

 捕手の肩。

「……行ける」

 2球目。

 スタート。

「走った!」

 捕手が投げる。

 滑る。

「セーフ!」

「よし!」

 2塁。

 すぐにシステムが反応する。

【走塁経験を獲得しました】

 次の打者が右方向へゴロ。

 俺は3塁へ。

 ツーアウト3塁。

 でも。

 後続は三振。

 得点にはならなかった。

「惜しかったな」

 戻ると橘さんに言われた。

「はい」

「でも、ああいうの続けてれば点になるよ」

「はい」

 ホームランじゃなくても。

 ヒット。

 盗塁。

 進塁。

 できることはいくらでもある。

 

◇

 

 試合は0対0のまま進んだ。

 4回。

 相手に先制タイムリーを打たれて0対1。

 5回裏。

 こちらもチャンスを作る。

 ワンアウト1、2塁。

 打席には橘さん。

 初球。

 外角。

 カキンッ!

 逆方向。

 レフト前。

「回れ!」

 2塁ランナーがホームへ。

「セーフ!」

 1対1。

 同点。

 さらに。

 ワンアウト1、3塁。

 榊原さん。

 打席へ。

「ここだな」

 俺が呟く。

 初球。

 ボール。

 2球目。

 内角。

 ファウル。

 3球目。

 低め。

 榊原さんが振る。

 カキィン!

 センターへ。

 高い打球。

「タッチアップ!」

 3塁ランナーが走る。

「セーフ!」

 2対1。

 逆転。

 榊原さんは。

 大きなガッツポーズもしなかった。

 ただ。

 ベンチへ戻りながら言った。

「まだ1点だぞ!」

「はい!」

 3年生。

 最後の夏。

 その重さを。

 俺たち1年生より。

 ずっと知っている。

 

◇

 

 6回表。

 こちらの3年生エースが先頭打者を歩かせた。

 次の打者にヒット。

 ノーアウト1、2塁。

 ベンチから監督が出てくる。

「……」

 玲が立ち上がった。

 まだ何も言われていない。

 でも。

 もう分かっている顔だった。

「水城」

「はい!」

「行け」

「はい!」

 玲がマウンドへ走る。

 全国大会への切符がかかった決勝。

 1点リード。

 ノーアウト1、2塁。

 こんな場面で。

 1年生がマウンドに立つ。

 

「玲!」

 ショートから声を掛ける。

 玲が振り返る。

「何?」

「楽しそうな顔すんなよ!」

「……してる?」

「してる!」

「だって投げられる」

「知ってるよ!」

 榊原さんがマウンドへ行く。

「水城」

「はい」

「三振3つ取ろうとするな」

「……はい」

「今、一番欲しいアウト何だ?」

 玲が。

 ランナーを見る。

 ノーアウト1、2塁。

「ゴロ」

「そうだ」

「できれば三振も」

「余計なこと言うな」

「はい」

 榊原さんが戻る。

 

◇

 

 最初の打者。

 送りバントの構え。

 初球。

 玲は132km/hを内角へ投げた。

「ストライク!」

 バントできない。

 2球目。

 またバント。

 今度は低め。

 コンッ。

 転がる。

「玲!」

 マウンド前。

 玲が捕る。

 3塁を見る。

「3つ!」

 間に合う。

 投げる。

「アウト!」

 送りバント失敗。

 ワンアウト1、2塁。

「ナイス!」

 玲が。

 少しだけ拳を握る。

 

 次。

 相手の3番。

 強打者。

 初球。

 134km/h。

 ファウル。

 2球目。

 チェンジアップ。

 ボール。

 3球目。

 135km/h。

 高め。

 ファウル。

 ワンボール、ツーストライク。

 玲が。

 少し笑った。

 三振を狙っている。

 榊原さんのミットは。

 外低め。

 玲が頷く。

 4球目。

 132km/h。

 低め。

 打者が振る。

 カンッ!

 ショート正面。

「来た!」

 捕る。

 2塁へ。

 セカンド。

 1塁へ。

「アウト!」

「アウト!」

 ダブルプレー。

「よっしゃあああ!」

 チェンジ。

 玲が。

 マウンドで大きく笑った。

「伊織君!」

「何!」

「ゴロいいね!」

「今さらかよ!」

 榊原さんが笑いながら玲の背中を叩く。

「それでいいんだよ」

「はい!」

 

◇

 

 6回裏。

 俺に第3打席が回ってきた。

 ツーアウト。

 ランナー2塁。

 2対1。

 もう1点欲しい。

 初球。

 外。

 ボール。

 2球目。

 内角。

 ファウル。

 3球目。

 変化球。

 見送る。

 ツーボール、ワンストライク。

 4球目。

 ストレート。

 外角。

 振る。

 カキンッ!

 打球は一、二塁間。

「抜けろ!」

 セカンドが飛びつく。

 届かない。

「ヒット!」

 2塁ランナーが3塁を回る。

「ホーム!」

 送球。

「セーフ!」

 3対1。

「よし!」

 タイムリーヒット。

 ベンチから。

 先輩たちが声を上げる。

「ナイス成瀬!」

「はい!」

 嬉しい。

 でも。

 まだ終わっていない。

 

◇

 

 最終回。

 3対1。

 マウンドには。

 玲がそのまま上がった。

 先頭。

 初球。

 133km/h。

 ストライク。

 2球目。

 チェンジアップ。

 空振り。

 3球目。

 134km/h。

 外角。

 ファウル。

 4球目。

 低めのストレート。

 打者が引っかける。

 セカンドゴロ。

 ワンアウト。

 

 次の打者。

 フルカウントまで粘られる。

 玲が投げる。

 135km/h。

 高め。

 空振り。

「ストライク! バッターアウト!」

 ツーアウト。

 あと1人。

 ベンチの3年生たちが。

 立ち上がっている。

 最後の打者。

 相手の4番。

 初球。

 チェンジアップ。

 ボール。

 2球目。

 133km/h。

 ファウル。

 3球目。

 135km/h。

 ボール。

 ツーボール、ワンストライク。

 4球目。

 低め。

 ファウル。

 ツーボール、ツーストライク。

「玲!」

 俺が声を出す。

 玲が一瞬だけこっちを見る。

「あと1つ!」

「うん!」

 榊原さんが構える。

 外角低め。

 玲が頷く。

 

 5球目。

 132km/h。

 ミットへ向かう。

 打者が振る。

 カキンッ!

「ショート!」

 俺の正面。

 捕る。

 握る。

 1塁へ。

 投げる。

「アウト!」

 一瞬。

 静かになった。

 そして。

「ゲームセット!」

「よっしゃあああああ!」

 ベンチから。

 全員が飛び出してくる。

「全国だ!」

「行くぞ全国!」

「やった!」

 3年生が。

 抱き合っている。

 泣いている先輩もいる。

 榊原さんも。

 笑っていた。

 いつもより。

 ずっと大きく。

 玲が。

 マウンドから俺のところへ走ってくる。

「伊織君!」

「おう!」

「全国!」

「行けるな!」

「うん!」

 玲と拳を合わせる。

 その横から。

 榊原さんに2人まとめて抱えられた。

「お前ら、よくやった!」

「痛いです!」

「榊原さん苦しい」

「うるせえ! 今日くらいいいだろ!」

「ははっ」

 勝った。

 全国。

 中学生になって。

 最初の夏。

 俺たちは。

 全国大会への切符を掴んだ。

 

◇

 

 表彰式が終わった後。

 榊原さんは。

 しばらく。

 全国大会出場の賞状を見ていた。

「榊原さん」

「ん?」

「嬉しいですか?」

「当たり前だろ」

「ですよね」

「俺ら3年はな」

 榊原さんが。

 賞状を見る。

「これが最後だから」

「……はい」

「だから全国で、できるだけ長く野球したい」

「はい」

「付き合えよ」

「もちろんです」

 玲も頷く。

「全国優勝したい」

「水城」

「はい」

「まず1回戦な」

「はい」

 でも。

 榊原さんは。

 少し笑っていた。

 

◇

 

 帰宅して。

 システムを開く。

 

【全国大会出場権を獲得しました】

【中学カテゴリ公式戦で重要な打点を記録しました】

【ミート経験を獲得しました】

【走力経験を獲得しました】

【守備経験を獲得しました】

【精神経験を獲得しました】

 

 そして。

 能力を見る。

 

【成瀬 伊織】

年齢:13歳

競技カテゴリ:中学

 

【野手能力】

弾道  3

ミート C68

パワー C66

走力  C65

肩力  C68

守備力 B70

捕球  C65

 

【投手能力】

球速     125km/h

コントロール B70

スタミナ   C68

 

【変化球】

チェンジアップ 3

 

【特殊能力】

送球○

アベレージヒッター

パワーヒッター

チャンス○

盗塁○

対ピンチ○

低め○

リリース○

 

「守備とコントロール、B」

 中学カテゴリで。

 初めて。

 Bに届いた。

 まだ。

 全国トップではない。

 でも。

 確実に上がっている。

「全国か」

 小学生の時とは違う。

 今度は。

 俺たちが中心じゃない。

 榊原さんたち。

 3年生のチーム。

 その中で。

 俺と玲が。

 どこまでできるか。

「面白そうだ」

 予定表を開く。

 全国大会の日程を書く。

 その少し下。

 夏休み。

 勉強。

 自主練。

 詩織との予定。

 全部。

 並べる。

 野球も。

 人生も。

 まだまだ。

 育てるものばかりだった。

 

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