転生したら人生がサクセスモードだった   作:ねるすと

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第6話

 数日後。

「ここ?」

「たぶん」

 俺と玲は、公園の奥にある野球グラウンドの前に立っていた。

 フェンスの向こうでは、小学生たちが声を出しながらキャッチボールをしている。

 白いユニフォーム。

 土の匂い。

 金属バットの音。

 前世では何百回、何千回と見た光景。

 なのに。

 五歳の身体で見ると、グラウンドがやけに広く感じた。

「すごい」

 隣で玲が目を輝かせている。

「みんな野球してる」

「野球チームだからな」

「僕もやりたい」

「だから見に来たんだろ」

「うん!」

 玲は今にもフェンスを乗り越えそうな勢いだ。

「勝手に入るなよ」

「なんで?」

「怒られるから」

「そうなの?」

「そうなの」

 中身五歳の玲に常識を教える三十八歳。

 妙な気分だ。

「伊織君」

 後ろから声がした。

 振り返る。

 詩織だ。

「なんで詩織もいるの?」

「見に来た」

「野球興味ある?」

「伊織君たちが何してるか気になっただけ」

「そっか」

「……来ちゃ駄目だった?」

「いや。全然」

 そう答えると、詩織は少し嬉しそうに笑った。

 その瞬間。

 

【藤崎詩織の好感度が少し上がった】

 

「……」

 こういうところで上がるのか。

「伊織君?」

「なんでもない」

 そろそろ慣れないといけない。

 

 

「おや?」

 フェンスの中から声をかけられた。

 四十代くらいの男性。

 帽子を被り、首にタオルを巻いている。

「君たち、誰かのお兄ちゃんでも見に来たの?」

「違います」

「野球やりたい」

 玲が即答する。

「おお、そうか」

 男性が笑った。

「何歳?」

「五歳」

「僕も」

「五歳かあ」

 少し困った顔。

 やっぱり。

 普通の少年野球チームなら、小学生からが基本だろう。

「まだ幼稚園?」

「はい」

「うちは基本的には一年生からなんだよ」

 予想通り。

 玲の顔が一気に曇る。

「できないの?」

「うーん……」

 男性が考える。

 そこへ別の大人が声をかけてきた。

「監督、キッズの体験に入れてあげればいいんじゃないですか?」

「ああ、そうか」

 キッズ?

「最近、低学年の弟妹向けに始めたんだよ。年長さんくらいからなら、遊びながら野球を覚えるクラスがある」

「やる!」

 玲が即答する。

「お前、返事早いな」

「伊織君もやるでしょ?」

「もちろん」

 断る理由はない。

「じゃあ保護者の人がいる日に改めて来てもらおうか。今日は見学だけでも――」

「監督ー!」

 グラウンドから小学生の声。

「ボール足りませーん!」

「はいはい。ちょっと待ってろ」

 男性が走っていく。

 その背中を見ながら。

 俺はグラウンドへ目を向けた。

 小学一年。

 二年。

 三年。

 おそらく、その辺りの低学年組。

 前世の高校野球と比べれば、もちろんレベルは低い。

 でも。

 今の俺から見ると。

「……速いな」

 キャッチボールの球。

 俺より明らかに速い。

 身体も大きい。

 走るスピードも違う。

 当たり前。

 俺はまだ五歳だ。

 すると。

 視界に表示が現れた。

 

【競技レベルの異なる選手を確認しました】

 

【参考表示を行いますか?】

 

「参考表示?」

 はい。

 意識する。

 一人の小学二年生らしき選手へ視線を向ける。

 

【参考評価】

現在のあなたから見た総合的な競技能力:格上

 

「……格上」

 数字は出ない。

 相手の能力まで丸見えにはならないらしい。

 でも。

 面白い。

 今の俺は。

 五歳児の中では前世の知識のおかげでそこそこ動ける。

 それでも。

 二つ三つ年上になるだけで。

 普通に負ける。

「伊織君」

「ん?」

「笑ってる」

 玲が言った。

「そう?」

「うん」

 自分でも気づいていなかった。

 でも。

 確かに楽しい。

 上がいる。

 まだ全然届かない相手がいる。

 育てる意味がある。

「伊織君、あの子たちより上手くなりたい?」

「なるよ」

「僕も」

 玲が当然のように言った。

「じゃあ競争ね」

「何の?」

「先に上手くなる」

「……それ競争になる?」

「なる」

 玲は真剣だった。

「僕、伊織君に勝ちたい」

「俺に?」

「うん」

 昨日まで。

 伊織君みたいになりたい。

 そう言っていた奴が。

 今日はもう。

 勝ちたいと言っている。

「いいよ」

 自然と笑った。

「負けないから」

「僕も負けない」

 その会話を横で聞いていた詩織が呟く。

「二人とも、すごく楽しそう」

「詩織もやる?」

「私はいい」

 即答された。

「でも見てる」

「なんで?」

「……なんでも」

 少しだけ顔を逸らす。

 五歳児。

 分かりやすい。

 いや。

 俺も人のことは言えないか。

 

 

 その日は見学だけの予定だった。

 だが。

「せっかくだし、少しやってみるか?」

 監督が戻ってきて、そんなことを言った。

「やる!」

 玲は当然即答。

 俺も頷く。

「危ないから硬いボールは使わないぞ」

 渡されたのは柔らかいボール。

 そして。

「まずはこれな」

 地面に置かれたのはティースタンド。

 その上にボールが乗せられる。

「打ったことある?」

「ないです」

 今世では。

「じゃあ好きに振ってみろ」

 バットを受け取る。

 軽い子供用。

 でも。

 五歳の身体には、それなりに重い。

 構える。

 懐かしい感覚。

 前世。

 何千回と握ったバット。

 でも。

 身体は別物。

「いきます」

 振った。

 ブンッ。

「……」

 空振り。

「伊織君外した」

 詩織が笑う。

「うるさい」

 ボールは止まっている。

 なのに当たらない。

 頭と身体のずれ。

 前世と同じフォームをしようとして、今の身体がついてこない。

「もう一回」

 二球目。

 今度は大振りしない。

 ボールを見る。

 軽く。

 コン。

 当たった。

 ボールが数メートル転がる。

「おお、ナイス!」

 監督が拍手する。

 たったそれだけ。

 なのに。

 嬉しい。

 そして。

 

【初めて打撃練習を行いました】

 

【筋力が少し上がった】

【技術が上がった】

 

【打撃能力の成長が解放されました】

 

「……来た」

「何が?」

「なんでもない」

 ミート。

 パワー。

 弾道。

 今までただ表示されていただけの能力が。

 初めて。

 育てられるものとして繋がった。

 なるほど。

 経験自体は自由に振れる。

 でも。

 競技として何も知らない能力を、いきなり極端に伸ばせるわけではない。

 まずは。

 実際に経験する必要がある。

 俺はまた少し。

 このシステムの仕組みを理解した。

「次、僕!」

 玲がバットを受け取る。

「玲、ボールよく見ろよ」

「うん」

 玲が構える。

 初めて持つバット。

 当然。

 フォームは滅茶苦茶。

 そして一球目。

 ブンッ。

 空振り。

「難しい」

「そりゃそうだ」

 二球目。

 コン。

「……」

 当たった。

 三球目。

 カンッ。

 少し強くなった。

 四球目。

 カンッ!

 明らかに。

 俺よりいい打球。

「……おい」

「伊織君」

 玲が振り返る。

 満面の笑み。

「野球、楽しいね」

「……そうだな」

 楽しそうで何よりだ。

 ただ。

 やっぱり。

 こいつ。

 ちょっとおかしい。

 

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