転生したら人生がサクセスモードだった   作:ねるすと

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第60話

 夏休みに入ってすぐ。

 俺たちは、初めてシニアの全国大会を迎えた。

 

 小学生の頃にも全国大会には出た。

 しかも最後は2年連続で優勝した。

 それでも、会場へ入った瞬間に感じた空気は少し違っていた。

 

「でかいな」

 三上が観客席からグラウンドを見下ろしながら呟く。

「選手?」

「全部。選手も球場も」

「お前、登録されてないのに一番緊張してない?」

「応援にも緊張はあるんだよ!」

 

 周りを見れば、身体の大きな3年生がいくらでもいる。

 130km/hを超える投手も珍しくない。

 強豪チームの中心選手ともなれば、打球の速さも小学生とは比べものにならなかった。

 

 その中で。

 俺たちはまだ1年生だった。

 

◇

 

「今日は7番ショート、成瀬」

「はい!」

 全国初戦。

 予選決勝に続いて、俺はスタメンに入った。

 

「水城は後ろ」

「はい!」

 玲はリリーフ待機。

 最近はもう、それがチームの中でも自然になりつつある。

 

「伊織君」

「何?」

「全国」

「うん」

「楽しみ」

「顔見れば分かる」

 

 玲は本当に楽しそうだった。

 全国なら。

 自分の球を打てる相手がいるかもしれない。

 多分、そんなことを考えている。

 

「お前、打たれたいの?」

「打たれたくはない」

「じゃあ何がしたいんだよ」

「本気で振ってほしい」

「面倒くさい投手だな」

「伊織君も同じでしょ?」

「……まあな」

 

 強い相手ほど。

 試したくなる。

 自分が今、どこまで通用するのか。

 

◇

 

 初戦の相手も、地方予選を勝ち抜いてきたチームだった。

 でも試合を動かしたのは、やっぱり上級生だった。

 

 1回。

 橘さんがセンター前ヒットで出塁。

 すぐに盗塁。

 送りバントで3塁まで進む。

 

 そして。

「4番、キャッチャー、榊原君」

 初球。

 外角ストレート。

 榊原さんは逆らわず、右方向へ弾き返した。

 

 カキィン!

 

「抜けた!」

 ライト前。

 あっという間に1点。

 

「うまいな」

 ベンチから見ていて、思わず声が出る。

 

 ホームランじゃない。

 派手な長打でもない。

 でも、必要な場面で必要な打撃をする。

 

 小学生の頃の俺なら。

 ここでホームランを打つ方がすごいと思っていたかもしれない。

 

◇

 

 俺の第1打席は2回。

 ワンアウト、ランナーなし。

 

 相手投手は3年生の右腕。

 球速は130km/h前後。

 さらに、縦に落ちる変化球がある。

 

 初球。

 外角低め。

「ストライク!」

 

 2球目。

 似た軌道。

 俺はストレートだと思って振った。

 

「っ!」

 

 ボールが落ちる。

 

「ストライク!」

 

「フォーク……?」

 

 小学生ではほとんど見なかった球種。

 ツーストライク。

 

 3球目。

 今度はストレート。

 外角高め。

 カンッ!

 

 ファウル。

 

「危な」

 

 4球目。

 また低めから落ちる。

 今度は止めた。

 

「ボール!」

 

 ワンボール、ツーストライク。

 

「こういう投手もいるのか」

 

 面白い。

 でも。

 次の球を打ち上げた。

 

 ライトフライ。

 

「アウト!」

 

 ベンチへ戻る。

「どうだった?」

 橘さんが聞いてきた。

「フォーク、初めてちゃんと見ました」

「落ちるでしょ?」

「思ったより」

「全国来ると、ああいうの増えるよ」

「……いいですね」

「その顔、水城と同じだよ」

「マジですか」

「マジ」

 

◇

 

 試合は、こちらが少しずつ差を広げた。

 3回に2点。

 5回に1点。

 

 4対1。

 6回から。

「水城」

「はい!」

 玲がマウンドへ上がる。

 

 全国大会。

 中学1年の夏。

 それでも、玲の球は通用した。

 

 初球。

 134km/h。

「ストライク!」

 

 次。

 135km/h。

 打者が振る。

 

 カキンッ!

 

「ファウル!」

 

「当てた」

 俺がショートから見る。

 相手打者は、驚いていない。

 速いことを分かった上で。

 ちゃんと振ってきている。

 

 玲も。

 それが嬉しいらしい。

 

 3球目。

 チェンジアップ。

 空振り。

 

 ワンボール、ツーストライク。

 

 4球目。

 ストレート。

 高め。

 

 カキィン!

 

「センター!」

 

 橘さんが下がる。

 捕球。

 

「アウト!」

 

「玲!」

「何?」

「普通に打たれてるぞ!」

「うん!」

「嬉しそうに言うな!」

 

 その後も。

 玲は三振だけにこだわらなかった。

 

 低めへ投げる。

 ゴロを打たせる。

 必要なら球速を130km/h前後まで落とす。

 

 2イニング。

 被安打1。

 四球0。

 無失点。

 奪三振3。

 

 最高球速135km/h。

 

 7対1。

 全国初戦。

 勝利。

 

◇

 

 2回戦。

 俺は再び7番ショート。

 玲はベンチスタート。

 

 相手は、初戦より明らかに強かった。

 3年生エースは左投手。

 球速は130km/h台前半。

 

「左か」

 俺は打席へ向かう。

 

 初球。

 内角。

 ストライク。

 

 2球目。

 外へ逃げる変化球。

 見送る。

 

 3球目。

 また内角。

 

「っ!」

 

 詰まる。

 ファウル。

 

「見え方違うな」

 

 左投手。

 右打者の俺からすると、内角への球が身体へ向かってくるように見える。

 

 今まで。

 左の好投手との対戦経験は、そこまで多くなかった。

 

 第1打席。

 三振。

 

「くそっ」

 

 全国へ来れば。

 知らないものが。

 いくらでも出てくる。

 

◇

 

 第2打席。

 同じ左投手。

 

 今度は。

 少しだけ立ち位置を変えた。

 

 初球。

 外角。

 ボール。

 

 2球目。

 内角。

 見送る。

 

「ストライク!」

 

 3球目。

 外へ逃げる。

 

 振らない。

 

「ボール!」

 

 ツーボール、ワンストライク。

 

「次、内」

 

 そう思った。

 

 4球目。

 やっぱり。

 内角ストレート。

 

「そこ!」

 

 振る。

 

 カキィン!

 

 打球は。

 レフト線。

 

「落ちろ!」

 

 フェア。

 

「よし!」

 

 1塁を蹴る。

 2塁へ。

 

「セーフ!」

 

 二塁打。

 

 1打席目に。

 見た。

 2打席目で。

 少し合わせた。

 

【対左投手経験を獲得しました】

 

「……こういうのもあるか」

 

 システムの表示。

 まだ。

 特殊能力ではない。

 

 でも。

 何度も経験すれば。

 いつか。

 形になるのかもしれない。

 

◇

 

 試合は3対2。

 1点リードで最終回を迎えた。

 

 マウンドには3年生エース。

 先頭打者にヒット。

 次の打者に送りバント。

 

 ワンアウト2塁。

 

「タイム!」

 

 監督が出る。

 

 玲が立ち上がった。

 

「行く?」

「多分」

 

 でも。

 監督は。

 3年生エースを代えなかった。

 

「……」

 

 玲が少し残念そうに座る。

 

「玲」

「何?」

「今日は先輩に任せろ」

「うん」

 

 3年生エース。

 次の打者を内野ゴロ。

 ツーアウト3塁。

 

 最後。

 相手の4番。

 

 フルカウント。

 

 変化球。

 空振り。

 

「ストライク! バッターアウト!」

 

 ゲームセット。

 

 3対2。

 

「よっしゃあ!」

 

 ベンチが沸く。

 玲も。

 すぐに立ち上がっていた。

 

 投げられなかった。

 でも。

 ちゃんと笑っている。

 

「どうした?」

「勝ったから」

「投げたかっただろ」

「投げたかった」

「正直だな」

「でも先輩が抑えた」

「うん」

「それも嬉しい」

「……成長したな」

「何が?」

「何でもない」

 

◇

 

 2試合を勝って。

 全国ベスト8。

 

 準々決勝。

 ここからは。

 どこも強い。

 

 試合前。

 監督がメンバー表を見る。

 

「成瀬」

「はい」

「今日もショート」

「はい!」

 

 最近。

 もう名前を呼ばれても。

 驚かなくなってきた。

 

 でも。

 それが当たり前だと思うつもりはない。

 

 3年生の先輩から。

 ポジションを預かっている。

 

「伊織君」

「何?」

「スタメン慣れた?」

「少し」

「僕は?」

「何が?」

「リリーフ」

「めちゃくちゃ慣れてるだろ」

「先発したい」

「欲出てきたな」

「最初から」

「知ってた」

 

◇

 

 準々決勝。

 試合は。

 今までで一番苦しかった。

 

 相手投手は3年生。

 右。

 最速135km/h。

 

「速いな」

 俺が言うと。

 隣の玲が答える。

「僕と同じ」

「お前は1年だろ」

「でも同じ」

「だからおかしいんだって」

 

 さらに。

 カーブ。

 スライダー。

 チェンジアップ。

 

 球種も多い。

 

 3回まで。

 こちらはノーヒット。

 

 相手も。

 こちらの3年生エースを打てない。

 

 0対0。

 

◇

 

 4回。

 先頭。

 橘さん。

 

 初球。

 135km/h。

 ファウル。

 

 2球目。

 カーブ。

 ボール。

 

 3球目。

 スライダー。

 ファウル。

 

 4球目。

 ストレート。

 

 カキィン!

 

「センター前!」

 

 初ヒット。

 

「やっぱり打つな」

 全国でも。

 橘さんは変わらない。

 

 次。

 送りバント。

 

 ワンアウト2塁。

 

 榊原さん。

 

 相手投手も。

 さらに力を入れる。

 

 135km/h。

 ファウル。

 

 スライダー。

 見逃し。

 

 最後は。

 外角ストレート。

 

 カキィン!

 

「ライト!」

 

 落ちる。

 

「回れ!」

 

 橘さんが3塁を蹴る。

 

「セーフ!」

 

 1対0。

 

「よし!」

 

 また。

 先輩たちが。

 先に試合を動かした。

 

◇

 

 5回裏。

 こちらがピンチを迎える。

 

 ワンアウト1、3塁。

 

 相手の5番。

 強い打球。

 

 三遊間。

 

「っ!」

 

 横へ飛ぶ。

 

 グラブに入る。

 

「伊織!」

 

 榊原さんの声。

 

 3塁ランナーが動く。

 

 俺は。

 倒れたまま。

 ホームへ投げる。

 

「っ!」

 

 送球。

 少し低い。

 

 榊原さんが。

 すくう。

 

 タッチ。

 

「アウト!」

 

「よし!」

 

 ツーアウト1、2塁。

 

「ナイス、成瀬!」

 

「ありがとうございます!」

 

 次の打者。

 内野フライ。

 

 無失点。

 

 ベンチへ戻ると。

 榊原さんが笑った。

 

「お前、最近ホーム投げるの好きだな」

「必要だからですよ」

「そういう返しできるようになったか」

「何ですかそれ」

「最初は全部自分でアウト取りたそうだったからな」

「……そうでした?」

「そうだった」

 

 否定できない。

 

◇

 

 6回。

 俺の第3打席。

 

 ワンアウト。

 ランナーなし。

 

 相手投手。

 まだ球威は落ちていない。

 

 初球。

 134km/h。

 外角。

 

「ストライク!」

 

 2球目。

 スライダー。

 

 ファウル。

 

 ツーストライク。

 

 3球目。

 低め。

 ボール。

 

 4球目。

 カーブ。

 

 見送る。

 

 ツーボール、ツーストライク。

 

「次……」

 

 ここまで。

 ストレート。

 スライダー。

 カーブ。

 

 全部見た。

 

 5球目。

 

 チェンジアップ。

 

「っ!」

 

 少し前へ出される。

 

 でも。

 バットを残す。

 

 カキンッ!

 

 ライト前。

 

「よし!」

 

 ヒット。

 

 1塁へ走る。

 

「ナイス、成瀬!」

 

「はい!」

 

 全国。

 上級生。

 135km/h。

 複数の変化球。

 

 それでも。

 少しずつ。

 対応できる。

 

【ミート経験を獲得しました】

【選球経験を獲得しました】

 

 まだ。

 成長できる。

 

◇

 

 7回裏。

 1対0。

 

 玲がマウンドへ上がった。

 

「水城」

「はい」

 榊原さんが。

 マウンドで玲を見る。

 

「1点だけだ」

「はい」

「三振はいらない」

「はい」

「勝てばいい」

「……はい」

 

 玲が頷く。

 

 初球。

 133km/h。

 ストライク。

 

 2球目。

 チェンジアップ。

 空振り。

 

 ツーストライク。

 

 3球目。

 玲は。

 135km/hを投げようとした。

 

 でも。

 一度。

 息を吐く。

 

 榊原さんのミット。

 外低め。

 

 そこへ。

 

 132km/h。

 

 バァンッ!

 

「ストライク! バッターアウト!」

 

 ワンアウト。

 

 2人目。

 内野ゴロ。

 

 俺の前。

 

 捕る。

 

 1塁へ。

 

「アウト!」

 

 ツーアウト。

 

 あと1人。

 

 相手の4番。

 

 初球。

 135km/h。

 

 ファウル。

 

 2球目。

 チェンジアップ。

 

 ボール。

 

 3球目。

 132km/h。

 

 ファウル。

 

 ワンボール、ツーストライク。

 

 スタンドの声が。

 大きくなる。

 

 玲は。

 笑っていなかった。

 

 ただ。

 榊原さんのミットを見ている。

 

 4球目。

 

 外角低め。

 

 133km/h。

 

 打者が振る。

 

 カキンッ!

 

「ショート!」

 

 俺の正面。

 

「来た!」

 

 捕る。

 

 1塁へ。

 

 投げる。

 

「アウト!」

 

「ゲームセット!」

 

「よっしゃあああ!」

 

 1対0。

 

 全国ベスト4。

 

 俺は。

 拳を握った。

 

 玲がマウンドから走ってくる。

 

「伊織君!」

「おう!」

「勝った!」

「勝ったな!」

 

 その後ろから。

 3年生たちも集まってくる。

 

 でも。

 榊原さんだけは。

 少し遅れて歩いてきた。

 

「あと2つだな」

「はい」

「全国優勝まで」

 玲がすぐに答える。

「勝ちたい」

「俺もだよ」

 榊原さんが笑った。

 

 ただ。

 その笑顔は。

 今までより少しだけ。

 固かった。

 

◇

 

 宿舎へ戻る前。

 監督から。

 明日の相手を聞いた。

 

「準決勝の相手は、今大会の優勝候補だ」

 

 全国でも。

 名前の知られた強豪。

 

 大型選手が多く。

 投手も。

 打線も。

 守備も。

 ここまでとは。

 また1段違う。

 

「相手の先発候補は3年。最速140km/h近い」

「140……」

 三上が呟く。

 

 玲が。

 少しだけ目を輝かせる。

 

「楽しそうな顔するな」

「してない」

「してる」

 

 俺も。

 多分。

 似たような顔をしていた。

 

 全国ベスト4。

 

 あと2つ。

 

 でも。

 次の相手は。

 今までで。

 一番強い。

 

 小学生の頃。

 俺たちは最後に。

 日本一になった。

 

 だから。

 どこかで。

 今回も。

 勝てると思っていたのかもしれない。

 

 この時はまだ。

 知らなかった。

 

 中学生の全国には。

 今の俺たちでは。

 まだ届かない場所があることを。

 

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