転生したら人生がサクセスモードだった   作:ねるすと

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第62話

 全国大会が終わって、数日が経った。

 学校は夏休み。シニアも3年生が引退し、次の練習までは少しだけ間が空いている。

 全国大会のために空けていた予定も、その分だけ残った。

 そんな日の昼前。

「伊織君、今日って空いてる?」

 家を出たところで、詩織に声を掛けられた。

「今日?」

「うん。全国、もう終わったんでしょ?」

「……終わった」

「あ、ごめん」

「いや、いいよ」

 予定を思い出す。

 午前中は自主練。もう終わった。

 夜は勉強。

 午後は、本来なら全国大会のために空けていた。

「午後なら空いてる」

「本当?」

「うん」

「じゃあ、久しぶりにどこか行かない?」

「いいよ」

 詩織が少し嬉しそうに笑った。

 

◇

 

 午後。

 駅前の本屋を見て、そのあと近くの店でかき氷を食べた。

「夏休みっぽい」

 詩織がイチゴ味のかき氷を食べながら言う。

「そう?」

「伊織君、最近ずっと野球だったでしょ」

「まあ」

「全国大会、ベスト4だったんだよね?」

「うん」

「すごいじゃん」

「でも負けた」

「……やっぱり悔しい?」

 少し考えてから、頷いた。

「悔しい」

「そっか」

 詩織は「でもベスト4なら十分だよ」とは言わなかった。

「決勝まで行きたかった?」

「優勝したかった」

「そっか」

「玲も同じこと言ってた」

「玲君なら言いそう」

「全国優勝しますって、もう先輩に宣言してた」

「ふふっ。本当に玲君らしいね」

「俺もするけど」

「伊織君も十分同じだよ」

「そう?」

「うん」

 笑われた。

 でも、不思議と嫌じゃなかった。

 

 しばらくして、詩織がストローを弄りながら聞いてきた。

「全国が終わったから、少し暇になる?」

「ならないと思う」

「即答なんだ」

「新チーム始まるし。勉強もあるし、自主練もしたいし」

「ピアノは?」

「やる」

「全部?」

「全部」

 またその答え。

 詩織は一瞬だけ俺を見て、それから小さく笑った。

「伊織君って、本当に変わらないね」

「そうかな」

「変わってるところもあるけど、そういうところは昔から変わらない」

「褒めてる?」

「半分くらい」

「残り半分は?」

「秘密」

 結局、教えてくれなかった。

 

◇

 

 家へ戻る。

 机の上に予定表を広げた。

 午前。

 自主練。

 午後。

 詩織。

 夜。

 勉強。

「綺麗に入ったな」

 全国大会で空いた時間も、結局すぐに埋まった。

 まだ余裕はある。

 少なくとも、俺はそう思っていた。

 そして、久しぶりにシステムを細かく確認する。

「全国も終わったし、一回見とくか」

 

【成瀬 伊織】

年齢:13歳

競技カテゴリ:中学

 

【野手能力】

弾道  3

ミート C69

パワー C67

走力  C67

肩力  C69

守備力 B72

捕球  C67

 

【投手能力】

球速     126km/h

コントロール B72

スタミナ   B70

 

【変化球】

チェンジアップ 3

 

【特殊能力】

送球○

アベレージヒッター

パワーヒッター

チャンス○

盗塁○

対ピンチ○

低め○

リリース○

 

「おお」

 中学入学時と比べれば、かなり伸びている。

 ミート、パワー、走力、肩、捕球はまだC。

 でも全部、少しずつBへ近づいている。

 その中で一足先に抜けているのが、守備力B72。

 そして投手能力では、コントロールB72とスタミナB70。

「守備とコントロールか」

 自分でも少し意外だった。

 打つことも好きだ。

 ホームランも打ちたい。

 走りたい。

 球速だって上げたい。

 でも今、一番高く評価されているのはショートの守備と、投手としての制球だった。

 全国でも守備はかなり通用した。

 投手としてはほとんど出番がなかったけど、能力だけを見るなら十分戦える。

「126か」

 玲は135km/h。

 まだ9km/h差がある。

 画面を切り替える。

 

【水城玲の解析情報】

年齢:13歳

競技カテゴリ:中学

 

【投手能力】

球速     135km/h

コントロール C62

スタミナ   B70

 

【変化球】

チェンジアップ 3

 

【確認済み特殊能力】

奪三振

怪童

リリース○

 

「コントロール、また上がってる」

 中学入学時はD58。

 今はC62。

 全国では甘くない球まで打たれた。

 それでも、玲自身は確実に投手として成長している。

「スタミナは同じか」

 球速は9km/h差。

 制球は俺の方が10高い。

 同じ投手でも、やっぱり全然違う。

 

 次に、人生能力を開く。

 

【人生能力】

学力 B79

運動 S90

容姿 A84

芸術 C54

社交 B72

精神 B79

 

「……学力と精神、あと1か」

 80になればA。

 夏休み。

 時間はある。

「両方行けるな」

 予定表へ、夏休み中の勉強時間を書き足す。

 全国で負けた。

 野球も強くなる。

 学力も上げる。

 精神も上げる。

 芸術だって、まだC54。

 伸ばせる。

「やること多いな」

 でも。

 それが楽しかった。

 

◇

 

 数日後。

 新チーム最初の全体練習。

 グラウンドへ入った瞬間、やっぱり少し広く感じた。

 3年生がいない。

 榊原さんも、3年生エースもいない。

 いつもいた場所から、まとめて人が消えている。

「変な感じだな」

 三上が言う。

「静か」

 黒田も周りを見る。

 高瀬はキャッチャーミットを弄りながら黙っていた。

 俺も同じだった。

 つい数日前まで当たり前だったものが、もうない。

 

「集合!」

 監督の声で全員が集まる。

「今日から新チームになる」

 前へ呼ばれたのは、橘恭平さんだった。

「新キャプテンは橘」

「はい」

 橘さんが一歩前へ出る。

 相変わらず、力の抜けた表情をしている。

「一言」

「はい」

 少し考えてから、俺たちを見る。

「榊原さんたちの真似をするつもりはないです」

 静かな声だった。

「僕らは僕らで、勝てるチームになればいいと思ってます」

 そこで少し笑う。

「とりあえず、全国優勝を目標にしましょう」

「はい!」

 玲の返事だけが妙に早かった。

「水城、元気だね」

「優勝したいので」

「僕もしたいよ」

「じゃあします」

「簡単に言うなあ」

 橘さんが笑う。

 新しいチーム。

 新しいキャプテン。

 同じグラウンドなのに、少しずつ空気が変わっていく。

 

◇

 

 守備練習のあと。

「高瀬」

「はい!」

「防具つけろ。水城の球を受けてもらう」

「俺がですか?」

「ああ。榊原が抜けた以上、捕手も新しく競争になる。これからは上の投手の球もどんどん受けてもらう」

「……分かりました!」

 高瀬の表情が引き締まる。

 すぐに防具をつけ、キャッチャーミットを手にブルペンへ向かった。

 

「水城、入れ」

「はい」

 玲がマウンドへ上がる。

 高瀬がホーム側で腰を落とした。

 

「高瀬君」

「何?」

「速いよ」

「知ってるよ! だから最初から全力で投げんなよ!」

「分かった」

 そう答えた玲が、初球から思い切り腕を振った。

 

 バァンッ!

 

「うおっ!」

 高瀬のミットがわずかに流れる。

 

「今の135?」

「多分」

「全然分かってねえじゃねえか!」

「ちゃんと捕った」

「そういう問題じゃねえ!」

 

 三上の笑い声がブルペンの外から聞こえてきた。

 それでも数球すると、高瀬も少しずつ玲の球に慣れてきた。

 

「外」

「うん」

 133km/h。

 外角へ。

 

「次、チェンジアップ」

「うん」

 同じ腕の振りから速度を落とす。

 高瀬がしっかり捕った。

 

「……これ、打つ側嫌だろうな」

「何が?」

「同じように投げるの」

「伊織君もやるよ」

「成瀬も?」

「うん」

 

 その瞬間。

「成瀬」

 監督に呼ばれた。

「はい!」

「次、お前投げろ」

「俺ですか?」

「投手だろ」

「はい」

「だったら投げろ」

 

 ミットを持った高瀬が俺を見る。

「そういや公式戦で全然投げてなかったよな」

「3年生いましたから」

「球速いくつ?」

「今126くらい」

「水城の後だと遅く感じそう」

「おい」

「事実だろ」

「まあ事実だけど」

 

◇

 

 マウンドへ上がる。

 中学の距離にも、もう慣れた。

 高瀬が座る。

 

「とりあえず真っすぐ」

「分かった」

 

 初球。

 外角低め。

 126km/h。

 

 バァンッ!

 

「ストライク」

 高瀬が少しだけ首を傾げる。

 

「……」

「何?」

「いや、普通にいい球」

「何だと思ってたんだよ」

「水城の後だから、もっと楽かと思った」

「失礼だな」

 

 2球目。

 同じコース。

 125km/h。

 ストライク。

 

「次、チェンジアップ」

「うん」

 

 同じところから腕を振る。

 チェンジアップが高瀬のミットへ収まった。

 

「……ああ」

「何?」

「これ嫌だ」

「だから何が」

「真っすぐと途中まで分かんねえ」

 

 もう一度。

 ストレート。

 次にチェンジアップ。

 さらに内角、外角、低め。

 高瀬は受けながら少しずつ眉を寄せる。

 

「水城と全然違うな」

「知ってる」

「水城は構えた瞬間から『速い球来る』って怖い」

「うん」

「成瀬は……何投げてくるか考えるのが嫌」

「褒めてる?」

「多分」

 

 後ろで見ていた監督が口を開いた。

「高瀬。その感覚、覚えとけ」

「はい」

「水城は球そのもので押せる。成瀬はコースと球種を使える」

 

 監督が俺を見る。

「成瀬」

「はい」

「お前、今までは野手の練習を優先してたな」

「はい」

「これからは投手としての調整も増やす」

「……はい!」

「水城1人に全部投げさせるつもりはない」

 

 玲も横で聞いていた。

 

「先発もですか?」

 俺が聞く。

「もちろん考える」

 胸が少し高鳴った。

 

「成瀬」

「はい」

「次の練習試合」

 監督が言う。

「お前が先発しろ」

「……はい!」

 

 中学に入って、初めての先発。

 

「伊織君」

 玲がすぐに近づいてくる。

「何?」

「先発いいな」

「お前、この前までずっと投げてただろ」

「リリーフ」

「同じ投手だろ」

「先発したい」

「監督に言え」

「僕の方が9km/h速い」

「今それ関係ある?」

「ある」

「ねえよ」

 

 高瀬がため息をつく。

「お前ら2人とも面倒くせえな」

 少し離れたところで、橘さんが笑っていた。

 

◇

 

 練習後。

 予定表を開く。

 次の練習試合の日に、新しい文字を書き込む。

 

『先発』

 

 中学カテゴリ。

 球速126km/h。

 コントロールB72。

 チェンジアップ3。

 玲みたいな135km/hはない。

 怪童もない。

 それでも。

「抑えればいい」

 速さだけが投手じゃない。

 全国で何度も見た。

 球速以外にも、打者を抑える方法はいくらでもある。

 

 だから、まずは今あるものを全部使う。

 そして。

 それで抑えられるなら。

 そこに球速まで加えれば。

「もっと強いよな」

 結局、考えることは同じだった。

 

 打つ。

 走る。

 守る。

 投げる。

 

 全部。

 育てる。

 

 新チームと一緒に。

 俺の中学野球も、また新しい形で始まろうとしていた。

 

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