転生したら人生がサクセスモードだった   作:ねるすと

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第63話

 初先発を告げられた日の夜。

 俺は机に座って、システムを開いていた。

「先発か」

 中学に入ってから、公式戦ではほとんど野手として出てきた。

 投手として投げる玲を、ショートから見ることの方がずっと多かった。

 今の俺の球速は126km/h。

 玲は135km/h。

 単純な速さでは、かなり差がある。

「でも、玲と同じ投手になる必要はないんだよな」

 全国大会で見た投手たちを思い出す。

 140km/h近いストレートを投げる投手。

 複数の変化球を使う投手。

 球速以上に、制球と配球で打者を抑える投手。

 速い球は欲しい。

 それは変わらない。

 でも今すぐ玲と同じ135km/hを投げられるわけじゃない。

 なら。

 今持っている126km/hを、もっと強く使えばいい。

 

 

 システムに残っている育成ポイントを確認する。

 中学に入ってから。

 打撃。

 守備。

 投球。

 全国大会。

 いろいろな経験を積んできた。

 でも俺は、使い道を決めきれないポイントをかなり残していた。

 理由は単純。

「全部伸ばしたいから、迷うんだよな」

 ミートにも使いたい。

 パワーにも。

 走力にも。

 球速にも。

 制球にも。

 何か1つへ大量に使えば、他が遅れる。

 だから貯めていた。

 でも。

 初先発が決まった今なら、使い道は決まっている。

「よし」

 変化球。

 技術。

 精神。

 貯めていたポイントの大半を、投手能力へ振る。

 

【育成ポイントを使用します】

 

【チェンジアップ 3 → 4】

 

 さらに。

 

【チェンジアップ 4 → 5】

 

「……結構使うな」

 残ったポイントを確認する。

 まだ少しある。

 でも、もう一つ。

 欲しいものがあった。

 玲の135km/hを見たあと。

 俺の126km/hを受けた高瀬は、それでも「打ちにくい」と言った。

 ストレートとチェンジアップ。

 同じ腕の振り。

 球速差。

 それを。

 もっと武器にする。

 

【特殊能力《緩急○》を習得しました】

 

「よし」

 残ったポイントは、ほとんどない。

 ここまで貯めたものを。

 ほぼ全部使った。

 少しだけ怖さもある。

 でも。

 後悔はなかった。

 

【成瀬 伊織】

 

【投手能力】

球速     126km/h

コントロール B72

スタミナ   B70

 

【変化球】

チェンジアップ 5

 

【投手特殊能力】

対ピンチ○

低め○

リリース○

緩急○

 

「これで、どこまでいけるかな」

 球速は変わらない。

 126km/h。

 でも。

 投手としては。

 昨日とはかなり違うはずだった。

 

 

 翌日のブルペン。

「高瀬」

「何?」

「ちょっと受けて」

「先発の調整?」

「うん」

 高瀬が防具をつけて座る。

 玲も隣で見ていた。

「まず真っすぐ」

「分かった」

 外角低め。

 126km/h。

 バァンッ!

「ストライク」

 もう1球。

 125km/h。

 内角。

「ストライク」

「じゃあ次、チェンジアップ」

「おう」

 同じように腕を振る。

 指先からボールが抜ける。

 ふわっと。

 でも、ただ山なりに投げたわけじゃない。

 ストレートと同じ軌道に見せながら、途中から一気に速度を失う。

 高瀬が捕った。

「……」

「どう?」

「今の何キロ?」

「76くらい」

「は?」

 高瀬がミットを下ろした。

「何キロ?」

「76」

「真っすぐ126だよな?」

「うん」

「50km/h違うじゃねえか」

「そうなるな」

「そうなるな、じゃねえよ」

 玲が横から口を挟む。

「遅い」

「チェンジアップだからな」

「すごく遅い」

「分かってる」

「僕のストレートより59km/h遅い」

「いちいち計算するな」

 

 高瀬がもう一度座る。

「もう1回」

「チェンジアップ?」

「いや、最初に真っすぐ」

「分かった」

 126km/h。

 外角。

 バァンッ!

「次、同じところ」

「うん」

 腕を振る。

 76km/h。

 高瀬が捕る。

「……これ嫌だな」

「昨日も言ってたぞ」

「昨日より嫌」

「何で?」

「差がでかすぎる」

 高瀬がボールを返す。

「76見せられたあとに126来たら、絶対速く感じる」

「それが狙い」

「しかも腕の振りがほとんど同じだろ」

「うん」

「水城と違う意味で、受けてて気持ち悪い」

「褒めてる?」

「めちゃくちゃ褒めてる」

 玲だけが。

 何も言わずに俺を見ていた。

 

 

 数日後。

 新チームになって最初の練習試合。

「先発、成瀬」

「はい!」

 監督に言われて、マウンドへ向かう。

 キャッチャーは高瀬。

「緊張してる?」

「少し」

「意外」

「何だよ」

「成瀬って何でも普通にやるから」

「俺だって緊張する」

「じゃあ初球は真ん中?」

「嫌だよ」

「だよな」

 高瀬が笑ってホームへ戻る。

 

 相手は地区でもそこそこ強いチーム。

 新チーム同士の練習試合とはいえ、上級生もいる。

 玲はベンチ。

 今日は俺の登板を見るらしい。

 

「プレイ!」

 

 

 1回表。

 先頭打者。

 高瀬が外角低めに構える。

 初球。

 125km/h。

 バァンッ!

「ストライク!」

 2球目。

 同じ腕の振り。

 チェンジアップ。

 78km/h。

 打者の身体が。

 完全に前へ出た。

「っ!」

 バットが空を切る。

「ストライク!」

 ツーストライク。

 打者が少し後ろへ重心を残す。

 次は遅い球を警戒している。

「高瀬」

 サインを見る。

 ストレート。

 内角。

 頷く。

 3球目。

 126km/h。

「っ!」

 打者が振る。

 遅れる。

 ファウル。

「やっぱり」

 76km/hを見せたあと。

 126km/hが。

 数字以上に速く見えている。

 

 4球目。

 外角低め。

 125km/h。

 打者が当てる。

 弱いゴロ。

「セカンド!」

「アウト!」

 ワンアウト。

 ベンチから玲が。

 じっとマウンドを見ている。

 

 

 2人目。

 初球。

 チェンジアップ。

 見送られる。

「ストライク!」

 76km/h。

 今度は最初から入れた。

 相手打者が少し驚いた顔をする。

 2球目。

 126km/h。

 外角。

 振り遅れてファウル。

「……面白いな」

 速くなったわけじゃない。

 俺のストレートは。

 昨日から1km/hも伸びていない。

 それなのに。

 打者の反応が違う。

 3球目。

 チェンジアップ。

 今度は見送られた。

「ボール!」

 待った。

 なら。

 次。

 内角へ125km/h。

 カンッ!

「詰まった!」

 ショートゴロ。

 アウト。

 

 2人。

 どちらも。

 まともに芯へ当たっていない。

 

 

 3番打者。

 この打者は少し違った。

 初球のストレートを。

 センター前へ。

「ヒット!」

 初被安打。

 高瀬がボールを返す。

「どうする?」

「そのまま」

「了解」

 ランナー1塁。

 4番。

 まず。

 外角低め。

 126km/h。

 ストライク。

 2球目。

 チェンジアップ。

 77km/h。

 バットが途中で止まる。

「ボール!」

 見た。

 3球目。

 もう一度チェンジアップ。

 今度はストライクゾーンへ。

 打者が振る。

 カンッ!

 タイミングを外した弱いゴロ。

「セカンド!」

 2塁。

 1塁。

「アウト!」

「アウト!」

 ダブルプレー。

 3アウト。

 初回。

 無失点。

 

 

「おかしい」

 ベンチへ戻ると。

 玲がいきなり言った。

「何が?」

「伊織君、126しか出てない」

「しかって言うな」

「でも打たれてない」

「抑えてるからな」

「何で?」

「何でって」

 水を飲む。

「打ちにくい球を投げてるから」

「速くないのに?」

「本当に一言多いな、お前」

 高瀬が横から笑う。

「水城。成瀬の球、打席で見たら多分思ってるより嫌だぞ」

「そう?」

「76見たあと126来ると速く感じるし、126待ってると76で身体前に出る」

「……」

「あとコースもいい」

 玲は黙った。

 俺を見る。

「次も見る」

「好きにしろ」

 

 

 2回。

 三者凡退。

 3回。

 ヒット1本。

 四球1つ。

 ツーアウト1、2塁。

 この日、初めてのピンチ。

「タイム」

 高瀬がマウンドへ来る。

「疲れた?」

「まだ全然」

「じゃあ何でさっき抜けた?」

「少し力入った」

「水城みたいなことすんなよ」

「分かってる」

「次、5番」

 高瀬が相手ベンチを見る。

「初球から振ってくる」

「うん」

「どうする?」

「遅いのから」

「いきなり?」

「多分、真っすぐ待ってる」

「分かった」

 戻る。

 5番打者。

 初球。

 76km/h。

「っ!」

 打者が大きく崩される。

「ストライク!」

 次。

 126km/h。

 外角低め。

 ファウル。

 ツーストライク。

 3球目。

 またチェンジアップ。

 今度はボールゾーンへ。

 バットが出る。

「ストライク! バッターアウト!」

 三振。

「よし」

 無失点。

 ベンチへ戻ると、高瀬が俺の肩を叩いた。

「今のは気持ちよかった」

「だろ?」

「完全に遊んでたな」

「人聞き悪い」

「でもそうだろ」

「……ちょっとだけ」

 

 

 4回。

 5回。

 球数が増えても。

 やることは同じ。

 125。

 126。

 76。

 78。

 外。

 内。

 低め。

 たまに高め。

 速い球だけでは抑えられない。

 遅い球だけでも抑えられない。

 両方あるから。

 両方が生きる。

 5回を終えて。

 被安打3。

 四球1。

 失点0。

 奪三振4。

 

 

 6回。

 最後のイニング。

 先頭を内野ゴロ。

 次の打者をチェンジアップで空振り三振。

 ツーアウト。

 最後の打者。

 初球。

 76km/h。

 見送る。

 ボール。

 2球目。

 125km/h。

 ファウル。

 3球目。

 77km/h。

 ファウル。

 ワンボール、ツーストライク。

 打者は。

 もう完全に迷っている。

 速いのか。

 遅いのか。

 高瀬が。

 外角低めへ構える。

 ストレート。

「よし」

 腕を振る。

 126km/h。

 バァンッ!

「ストライク! バッターアウト!」

 6回。

 終了。

 マウンドを降りる。

 

 

「ナイスピッチング!」

「ありがとうございます!」

 高瀬と拳を合わせる。

 結果は。

 6回。

 被安打3。

 四球1。

 失点0。

 奪三振5。

 派手ではない。

 でも。

 ほとんど強い打球を打たせなかった。

 球速126km/h。

 それでも。

 抑えられる。

 

【練習試合で先発登板しました】

【6回無失点を記録しました】

【投球経験を獲得しました】

【制球経験を獲得しました】

【緩急○の実戦経験を獲得しました】

 

「成瀬」

 監督に呼ばれる。

「はい」

「良かった」

「ありがとうございます」

「球速以上に打者が差し込まれてたな」

「チェンジアップが効きました」

「それだけじゃない」

 監督が言う。

「コースも使えてる。走者が出ても投球を変えられる。今の時点なら、投手としての完成度はかなり高い」

「……ありがとうございます」

 嬉しい。

 素直に。

 嬉しかった。

 

 

「伊織君」

 帰り支度をしていると、玲が来た。

「何?」

「僕と投げよう」

「今6回投げたばっかなんだけど」

「明日」

「何で?」

「見たい」

「何を?」

「伊織君がどうやって投げてるか」

「……」

 玲がこんなことを言うのは。

 珍しい。

 いつもなら。

 もっと速く投げる。

 もっと三振を取る。

 そればかりだった。

 

「今日、どうだった?」

 俺が聞く。

「すごかった」

「俺が?」

「うん」

「126しか出てないのに?」

「……」

「言い返してみた」

「性格悪い」

「お前に言われたくない」

 玲が少し笑う。

 でも。

 すぐに真面目な顔へ戻った。

「僕の方が球は速い」

「うん」

「でも、伊織君の方が打者を見てた」

「まあな」

「コースも」

「うん」

「チェンジアップも」

「うん」

「僕もできる?」

「できるんじゃない?」

「……」

「お前135投げるだろ」

「うん」

「そこにコントロールとか、変化球とか、配球まで良くなったら」

 考える。

「普通に嫌だな」

「嫌?」

「相手したくない」

 玲の目が。

 少し輝いた。

「じゃあやる」

「何を?」

「全部」

「おい」

「伊織君ができるなら、僕もやる」

「俺の台詞取るなよ」

「でも僕の方が速い」

「やっぱりそこに戻るのかよ」

 

 

 その日の練習後。

 玲は1人でブルペンへ向かった。

 135km/hを投げるためじゃない。

 最初に投げたのは。

 130km/h。

 外角低め。

 次も。

 同じ場所。

 その次はチェンジアップ。

 腕の振りを確認する。

 もう一度。

 外角低め。

「……違う」

 玲が首を振る。

 そして。

 また投げる。

 

 俺が。

 126km/hで6回無失点。

 

 それを見た日から。

 玲の中で。

 何かが変わり始めた。

 

 もっと速く。

 

 それだけだった怪物が。

 

 もっと上手く。

 

 そう考え始めた。

 

 135km/hという武器を持ったまま。

 

 水城玲が。

 投手として。

 次の段階へ進み始めていた。

 

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