転生したら人生がサクセスモードだった   作:ねるすと

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第66話

 秋大会、2回戦。

 初戦を5対0で勝ってから、数日が経った。

 この日の相手も、新チームになってから負けなし。

 試合前のアップをしながら相手ベンチを見ると、1人だけ妙に目につく選手がいた。

「成瀬」

 ノックの順番を待っていると、隣にいた三上が声を掛けてきた。

「何?」

「あいつ、ずっとお前見てない?」

 三上が顎で相手チームを示す。

 視線の先。

 ショートの位置でノックを受けている選手がいた。

 細身。

 俺と同じくらいの身長。

 動きが軽い。

 正面のゴロを捕る。

 送球。

 速い。

「うまいな」

「そこ?」

「そこだろ」

「いや、めっちゃ見られてるけど」

 確かに。

 その選手は送球を終えたあと、また俺の方を見た。

「知り合い?」

「知らない」

「じゃあ何で?」

「知らないって」

 今度は三遊間の打球。

 逆シングル。

 そのまま身体を流しながら1塁へ。

 送球は少し高かったけど、十分アウトにできる球だった。

「……守備いいな」

「成瀬が人の守備見てる」

「見るだろ普通」

「お前、投手ばっか見てるイメージ」

「ショートなんだけど俺」

「投手でもあるじゃん」

「面倒くさいな」

「それはこっちの台詞」

 三上が笑った。

 

◇

 

 試合前。

 監督が相手のメンバー表を見ながら説明する。

「相手の1番、御子柴。1年」

「1年?」

 三上が小さく反応した。

「ショート。足がある。ミートもいい。守備もこの年代ではかなり上手い」

「……」

 さっきの選手だ。

「成瀬」

 監督が俺を見る。

「はい」

「同じ1年だからって意識する必要はないぞ」

「してません」

「本当か?」

「ちょっとだけ」

 監督が笑う。

「素直でよろしい」

 今日の先発は玲。

 俺は3番ショート。

 高瀬が捕手。

 黒田は5番サード。

 三上は8番セカンド。

 新チームになって。

 少しずつ。

 俺たち1年も、試合の中に当たり前のように入るようになっていた。

 

◇

 

 1回表。

 こちらの攻撃。

 先頭の橘さんがライト前ヒットで出塁。

 2番が送りバント。

 ワンアウト2塁。

「3番、ショート、成瀬君」

 打席へ入る。

 その途中。

 相手のショートと目が合った。

 御子柴陽斗。

 向こうも。

 明らかに俺を見ている。

「……何だろ」

 まあいい。

 今は打席。

 相手先発は2年生右腕。

 球速は125km/h前後。

 初球。

 外角ストレート。

 見送る。

「ストライク!」

 2球目。

 低めのスライダー。

 ボール。

 3球目。

 内角。

 振る。

 カキンッ!

 打球は三遊間。

「抜ける」

 そう思った。

 でも。

「っ!」

 御子柴が横へ動く。

 逆シングル。

 捕った。

 そのまま踏ん張る。

 1塁へ。

「アウト!」

「うわ」

 速い。

 俺は1塁を駆け抜けながらショートを見る。

 普通なら。

 内野安打になってもおかしくない打球だった。

 御子柴は俺を見て。

 少しだけ笑った。

「……なるほど」

 そういうことか。

 

◇

 

 1回裏。

 玲がマウンドへ上がる。

「水城、最初から飛ばしすぎるなよ」

 高瀬がマスク越しに声を掛ける。

「分かってる」

 先頭打者。

 御子柴。

 初球。

 133km/h。

 外角。

「ストライク!」

 2球目。

 135km/h。

 内角。

 御子柴が振る。

 カキンッ!

「ファウル!」

「当てるな」

 玲が少し嬉しそうに呟く。

 3球目。

 高瀬が低めへ構える。

 玲が投げる。

 132km/h。

 御子柴が振る。

 カキンッ!

 打球は俺の左。

「来た!」

 三遊間。

 走る。

 追いつく。

 逆シングル。

 身体を止める時間はない。

 そのまま1塁へ投げる。

「アウト!」

 間に合った。

 御子柴が1塁を駆け抜けて、こっちを見る。

 俺も見る。

 一瞬。

 目が合った。

 向こうが。

 今度は、はっきり笑った。

 

◇

 

 2回。

 3回。

 試合は0対0。

 玲は、かなり良かった。

 135km/hのストレート。

 132km/h前後の低め。

 そして。

 まだ未完成の高速落下球。

 3回。

 相手8番。

 初球135km/h。

 ファウル。

 2球目。

 133km/h。

 低め。

 見逃し。

 ツーストライク。

 3球目。

 130km/h。

 途中までストレート。

 手元で沈む。

 ブンッ!

「ストライク! バッターアウト!」

 玲が小さく拳を握る。

 高瀬も。

 少しずつ新しい球の使い方を掴み始めていた。

 

◇

 

 4回表。

 俺の第2打席。

 先頭打者。

 初球。

 外角。

 ボール。

 2球目。

 ストレート。

 ファウル。

 3球目。

 スライダー。

 見送る。

 ツーボール、ワンストライク。

 4球目。

 内角高め。

「そこ」

 振り抜く。

 カキィン!

 今度は。

 センター前。

「よし!」

 1塁へ。

 御子柴の守備範囲には。

 飛ばさなかった。

 1塁上からショートを見ると、御子柴が俺を見ていた。

「……何?」

 聞こえる距離じゃない。

 でも。

 なんとなく。

 悔しそうだった。

 

 次の4番がヒット。

 ノーアウト1、2塁。

 黒田。

「頼む!」

「任せろ!」

 初球。

 外角。

 カキィン!

「行った!」

 打球が左中間を破る。

 俺が2塁から一気にホームへ。

「セーフ!」

 1対0。

 さらにもう1人返って。

 2対0。

「よっしゃあ!」

 黒田が2塁で拳を握る。

 ベンチが沸く。

 俺も戻りながら黒田へ声を掛ける。

「ナイス!」

「お前が出たからな!」

「珍しく素直」

「うるせえ!」

 

◇

 

 4回裏。

 先頭は御子柴。

 玲の初球。

 134km/h。

 外角。

 見送る。

「ストライク!」

 2球目。

 高速落下球。

 低め。

 御子柴は振らない。

「ボール!」

「見た」

 玲が少し眉を寄せる。

 3球目。

 135km/h。

 高め。

 御子柴が振る。

 カキィン!

「センター前!」

 ヒット。

 玲が振り返る。

 御子柴は1塁上で小さく拳を握った。

「打った」

 玲が言う。

「打たれたな」

 ショートから返す。

「次は抑える」

「今の回まだ終わってないぞ」

「分かってる」

 続く2番。

 送りバント。

 ワンアウト2塁。

 3番。

 内野ゴロ。

 ツーアウト3塁。

 4番。

 初球。

 135km/h。

 ファウル。

 2球目。

 132km/h。

 低め。

 ボール。

 3球目。

 高速落下球。

 打者が当てる。

 ボテボテのゴロ。

「ショート!」

 前へ出る。

 御子柴が3塁からスタートしている。

 1塁へ投げれば。

 アウトは取れる。

 でも。

 それでは1点入る。

「ホーム!」

 捕る。

 すぐ投げる。

 高瀬が受ける。

 タッチ。

「アウト!」

「よし!」

 チェンジ。

 無失点。

 戻る途中。

 御子柴とすれ違った。

「今の、ホーム投げるんだ」

 初めて。

 向こうから声を掛けてきた。

「間に合うと思ったから」

「普通1塁じゃない?」

「点取られたくないし」

「……」

 御子柴が少し笑う。

「やっぱり上手いね」

「そっちも」

「でも」

 一瞬。

 表情が変わる。

「ショートは負けないから」

「……」

 そういうことか。

「俺も負ける気ないけど」

「知ってる」

 御子柴はそれだけ言って、自分のベンチへ戻っていった。

 

◇

 

 5回。

 玲は無失点。

 6回から俺がマウンドへ上がった。

「成瀬、2回行け」

 監督に呼ばれてショートから投手へ。

「はい!」

 三上がショートへ入る。

 高瀬がマウンドまで来た。

「相手、そろそろ水城の速さに慣れてきてた」

「うん」

「だから逆に」

「遅くする」

「だよな」

 高瀬が笑う。

 先頭打者。

 初球。

 126km/h。

 外角低め。

「ストライク!」

 2球目。

 76km/h。

 チェンジアップ。

 打者の身体が前へ出る。

「っ!」

 空振り。

 ベンチから。

 相手選手の声が聞こえる。

「遅っ!」

 3球目。

 125km/h。

 内角。

 振り遅れ。

 ファウル。

 4球目。

 外角低め。

 126km/h。

 弱いゴロ。

 アウト。

「水城のあとだと、さらに効くな」

 高瀬が返球しながら言う。

「俺も思った」

 135km/h。

 そのあとに。

 76km/h。

 差は59km/h。

 自分だけで投げる時より。

 さらに打者の時間が狂っている。

 

◇

 

 7回。

 2対0。

 ツーアウト。

 最後の打者。

 御子柴だった。

「またこいつか」

 マウンドから見る。

 御子柴も。

 少し嬉しそうにバットを構えている。

 初球。

 126km/h。

 外角。

 見送る。

「ストライク!」

 2球目。

 76km/h。

 御子柴の身体が。

 一瞬だけ前へ動く。

 でも。

 止めた。

「ボール!」

「……見たか」

 3球目。

 125km/h。

 内角。

 ファウル。

 ワンボール、ツーストライク。

 高瀬が。

 チェンジアップを要求する。

 俺は首を振った。

 もう1球。

 ストレート。

 外角低め。

 頷く。

 投げる。

 126km/h。

 御子柴が振る。

 カキンッ!

「ショート!」

 三上の正面。

 捕る。

 1塁へ。

「アウト!」

「ゲームセット!」

 2対0。

 勝った。

 

◇

 

 整列が終わる。

 相手チームと挨拶をして戻ろうとすると。

 後ろから声が掛かった。

「成瀬」

 振り返る。

 御子柴だった。

「何?」

「次はショートで勝つ」

「今日もショートだっただろ」

「そうじゃなくて」

 御子柴が少し考える。

「守備で」

「守備?」

「今日、俺も1本アウト取った」

「うん」

「成瀬も取った」

「うん」

「でもホームのやつ」

「何?」

「あれ、俺なら1塁投げてた」

「そっか」

「だから次は、俺もできるようにする」

「……」

 変な奴。

 でも。

 嫌いじゃない。

「じゃあ俺はもっと上手くなる」

「うん」

「そうしたらまた追いかける?」

「追い越す」

「言うな」

 御子柴が笑った。

「御子柴陽斗」

「知ってる。メンバー表で見た」

「成瀬伊織」

「それも知ってるだろ」

「うん」

 手は出さなかった。

 ただ。

 お互い少し笑って。

 別れた。

 

◇

 

 帰りのバス。

 三上が隣から俺を見る。

「友達できた?」

「何でみんなそれ言うの?」

「真田の時も増えたじゃん」

「あれ友達なの?」

「多分」

「御子柴は?」

「もっと分かんない」

 前の席から高瀬が振り返る。

「ショートのライバルじゃね?」

「ライバル?」

「向こう完全に成瀬意識してたぞ」

「そうかな」

「そうだろ」

 そのさらに前から玲が振り返った。

「伊織君」

「何?」

「僕は?」

「何が?」

「ライバル」

「お前も?」

「僕が先」

「順番あるの?」

「ある」

「面倒くせえ」

 三上が笑う。

「成瀬、ライバル多すぎだろ」

「俺が増やしてるわけじゃない」

「でも投手に真田」

 高瀬が指を折る。

「ショートに御子柴」

 玲が続ける。

「僕は全部」

「だからお前は何なんだよ」

「ライバル」

 玲は当然みたいに答えた。

 

◇

 

 その夜。

 システムを開く。

 

【強敵との守備競争を経験しました】

【守備経験を獲得しました】

【判断経験を獲得しました】

 

「守備競争?」

 そんな扱いなんだ。

 画面を見ながら。

 昼間の御子柴の守備を思い出す。

 逆シングル。

 送球。

 足の運び。

 上手かった。

「でも」

 負けたくない。

 打撃も。

 投手も。

 走塁も。

 全部伸ばしたい。

 その中でも。

 今。

 一番高い野手能力は。

 守備力B72。

 中学に入ってから。

 少しずつ。

 ショートという場所が。

 前より面白くなっている。

 

 真田蒼士。

 投手として。

 玲を。

 俺を。

 追いかけてくる同級生。

 

 御子柴陽斗。

 ショートとして。

 俺を追い越すと言った同級生。

 

 そして。

 水城玲。

 全部で俺に勝つつもりの。

 一番近くにいる怪物。

 

「……楽しくなってきたな」

 

 全国には。

 まだ知らない選手がいる。

 

 中学1年の秋。

 

 俺の周りには。

 少しずつ。

 同じ時代を戦う名前が。

 増え始めていた。

 

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