転生したら人生がサクセスモードだった   作:ねるすと

7 / 28
第7話

 翌週。

 父さんに少年野球のことを話すと、思った以上に食いついた。

「伊織、野球チーム入りたいのか?」

「うん」

「本気で?」

「うん」

「よし!」

「うわっ」

 肩を掴まれた。

「父さんも小学校の時やってたんだよ!」

「知ってる」

「言ったっけ?」

「……この前」

「ああ、そうだった」

 危ない。

 転生者。

 こういうところで地味にボロが出る。

「じゃあ母さんに相談だな」

 結果。

 条件付きで許可された。

『嫌になったらちゃんと言うこと』

『無理をしないこと』

『幼稚園を休んでまで練習しないこと』

 全部了承。

 そして。

 俺と玲は。

 週末のキッズクラスへ参加することになった。

 

 

「よろしくお願いします!」

 グラウンド。

 俺と玲が頭を下げる。

 玲のお父さん。

 俺の父さん。

 少し離れたところには。

 なぜか詩織と詩織のお母さんまでいる。

「詩織、何しに来たの?」

「見学」

「毎回来る気?」

「駄目?」

「駄目じゃないけど」

 野球に興味があるわけでもなさそうなのに。

 よく分からない。

「伊織君」

「ん?」

「今日も頑張ってね」

「おう」

 詩織が笑う。

 

【藤崎詩織の好感度が少し上がった】

 

 ……なるほど。

 応援イベントみたいなものか。

 少し納得した。

 

 

「今日はまず走ろうか!」

 キッズクラスのコーチが声を上げる。

 参加しているのは俺たちを含めて八人。

 年長から小学二年くらい。

 競技というより。

 野球を使って身体を動かす教室に近い。

 まずはグラウンドを軽く走る。

「玲、速っ」

 俺の横から。

 玲が飛び出していく。

「伊織君遅い!」

「うるせえ!」

 五歳児の身体。

 運動22。

 仕方ない。

 でも。

 悔しい。

 結局。

 八人中。

 玲が二番。

 俺は五番。

「……」

「伊織君」

「何」

「怒ってる?」

「怒ってない」

「顔が怒ってる」

「怒ってないって」

 玲が笑う。

 こいつ。

 昨日まで俺に憧れてたんじゃないのか。

「もう一回やったら勝つ」

「いいよ」

 この辺り。

 中身三十八歳とか。

 あまり関係ないらしい。

 負けると普通に悔しい。

 

【運動が少し上がった】

 

 人生能力にも経験が入る。

 野球と人生。

 同じ行動で両方育つこともある。

 これは効率がいい。

 

 

 次はキャッチボール。

「相手の胸を狙って投げよう!」

 コーチが実演する。

 俺と玲でペア。

「いくよ」

「うん」

 投げる。

 パシッ。

 玲の胸元。

「お」

 前より明らかに投げやすい。

 コントロールF21。

 やっぱり。

 能力を上げた効果は確実にある。

 今の俺なら。

 この距離なら。

 かなり安定して相手の周辺へ投げられる。

「伊織君、上手くなった」

「だろ?」

「昨日より」

「練習したから」

 正確には。

 経験を使ったから。

 玲が投げ返す。

 パシッ。

「……」

 胸元。

「玲も上手くなってるじゃん」

「練習した」

「どれくらい?」

「毎日」

「毎日?」

「うん」

 玲のお父さんを見る。

 苦笑している。

「幼稚園から帰ると、毎日キャッチボールしろって」

「……」

 こいつ。

 才能だけじゃない。

 練習もする。

 一番嫌なタイプじゃないか。

「伊織君?」

「なんでもない」

 俺も。

 やらないとな。

 システムがあるからといって。

 何もしなくていいわけではない。

 むしろ。

 練習した分が確実に残るなら。

 やらない方が損だ。

 

 

「次はバッティング!」

 待ってました。

 ティースタンド。

 前回。

 少しだけ経験した。

 今日は。

 もう少し真面目に試したい。

「成瀬君からいこうか」

「はい」

 バットを握る。

 前回の反省。

 前世のフォームを無理やり再現しない。

 五歳の身体。

 小さな手。

 弱い筋力。

 今できる範囲で。

 ボールへバットを当てる。

 一球目。

 カンッ。

 二球目。

 コン。

 三球目。

 カンッ。

「上手い上手い!」

 コーチが褒める。

「バットに当てるの上手だね」

「ありがとうございます」

 前世では。

 こういうところだけは人並みだった。

 長打力はない。

 足も普通。

 でも。

 バットへ当てること自体は嫌いじゃなかった。

 十球。

 二十球。

 少しずつ。

 身体の感覚が合ってくる。

 

【打撃練習を行いました】

 

【筋力が少し上がった】

【技術がかなり上がった】

 

 経験が入る。

 そして。

 俺は気づく。

 ミート。

 今なら。

 上げられる。

「……」

 練習中にやってみるか?

 少し迷う。

 でも。

 効果を確認したい。

 視界の中だけで操作する。

 

【ミート G 10】

【蓄積した経験を使用しますか?】

 

 はい。

 

【ミートが上がった】

【G 10 → F 20】

 

 瞬間。

「……っ」

 目が。

 少し変わった。

 いや。

 視力が良くなったわけじゃない。

 ボールと。

 バットの位置。

 その関係が。

 さっきより。

 少し分かる。

「成瀬君?」

「もう一球お願いします」

「おう」

 ボールがティーへ置かれる。

 構える。

 ボールを見る。

 振る。

 カンッ!

 今までで一番いい音。

 打球が真っ直ぐ飛んだ。

「おお!」

 コーチが声を上げる。

「今の良かったぞ!」

「……」

 自分でも分かる。

 芯に近かった。

 もう一球。

 カンッ。

 また当たる。

「これか……」

 システムによる成長。

 すごい。

 でも。

 それ以上に。

 怖いくらい気持ちいい。

 努力して。

 経験を貯めて。

 能力に使う。

 すると。

 自分が本当に上手くなる。

 ゲームでは何百回もやった。

 でも。

 自分自身で味わうのは。

 まるで違う。

「もう一球!」

 止まらなかった。

 

 

「次、水城君!」

「はい!」

 玲がバットを持つ。

 俺は少し離れたところから見る。

 最初は。

 俺の方が上手かった。

 今日も。

 最初の数球は玲の方が空振りが多い。

 カスッ。

 空振り。

 コン。

「難しい」

 玲が言う。

 でも。

 見ている。

 俺がどう振っていたか。

 コーチが何を教えているか。

「玲君、バットを振る時に頭が動きすぎてるな」

「頭?」

「そう。なるべくボールをずっと見てみよう」

「うん」

 次。

 カンッ。

「……」

 次。

 カンッ。

 次。

 カンッ!

「おい」

 十球もしないうちに。

 ほとんど空振りしなくなった。

「すごいな玲!」

 玲のお父さんが喜んでいる。

 詩織も拍手している。

「玲ちゃん上手!」

「ありがとう」

 玲が笑う。

 そして。

 俺を見る。

「伊織君」

「なに?」

「今の、伊織君より飛んだ?」

「……ちょっとだけな」

「やった」

「次は俺の方が飛ばす」

「じゃあ競争ね」

「だから何でも競争にするな」

「伊織君が言った」

「そうだっけ?」

 笑いながら。

 胸の奥では。

 少し焦っている。

 俺は経験を使って。

 ミートを上げた。

 玲は。

 普通に練習しただけ。

 なのに。

 もう。

 同じくらい当て始めている。

 才能。

 その言葉が。

 少しずつ。

 現実味を持ち始めていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。