転生したら人生がサクセスモードだった   作:ねるすと

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第72話

 秋大会決勝。

 準決勝でノーヒットノーランを達成した翌日、俺はいつものショートへ戻っていた。

 そして。

 今日の先発は、当然のように玲だった。

「水城」

 試合前のミーティングで監督が名前を呼ぶ。

「はい」

「最後まで行けるなら行ってもらう。ただし、力で押し切ろうとするな」

「はい」

「昨日の成瀬を見て、何か思っただろ」

 玲が一瞬だけ俺を見る。

「……はい」

「なら、それを自分の投球にしろ」

「はい」

 短い返事。

 でも。

 いつもより少しだけ強かった。

 

◇

 

 アップを終えたあと。

 ブルペンへ向かう玲についていく。

 高瀬が防具をつけながら振り返った。

「成瀬、お前はショートの準備しろよ」

「分かってる。ちょっと見るだけ」

「昨日7回投げた奴が一番元気だな」

「投げるのと守るの別だし」

「普通は疲れるんだよ」

 玲がマウンドへ立つ。

 初球。

 バァンッ!

「134」

 高瀬が言う。

 2球目。

 135km/h。

 3球目。

 132km/h。

 低め。

 そして。

 4球目。

 130km/h前後。

 途中まで真っすぐに近い軌道。

 最後。

 ミットの直前で沈む。

 バシッ!

 高瀬が少しだけミットを下げた。

「今のいいな」

「うん」

 玲がボールを受け取る。

 また。

 同じ球。

 今度は高い。

 ほとんど落ちずにミットへ入る。

「……違う」

 玲が首を振った。

「まだ安定しないな」

 高瀬が返す。

「うん」

 俺は後ろから見ながら聞いた。

「玲」

「何?」

「昨日からずっとそれ投げてる?」

「うん」

「寝た?」

「寝た」

「何時間?」

「6時間」

「ならいいか」

「何で伊織君がお母さんみたいになってるの」

「昨日の夜も投げてそうだったから」

「投げた」

「投げたのかよ」

 高瀬が呆れている。

 玲は気にせず、もう一度ボールを握った。

「伊織君」

「ん?」

「昨日、打者見て投げてたよね」

「うん」

「何見てた?」

「構えとか足とか、視線とか。あとは前の球にどう反応したか」

「全部?」

「全部っていうか……昨日は何となく繋がって見えた」

「何となく」

「説明しづらい」

「じゃあ僕も見る」

 玲が打席のないブルペンを見た。

「今は誰もいないぞ」

「試合で」

「そっちね」

 ボールを握る。

「伊織君みたいに投げる」

 昨日、バスでも言っていた。

 俺は少し考えてから答えた。

「別に俺みたいじゃなくていいんじゃない?」

 玲が振り返る。

「何で?」

「玲、135あるじゃん」

「うん」

「俺にはない」

「でも伊織君は抑えた」

「だからって76投げる必要ないだろ」

「投げない」

「だろ?」

 俺は玲の持っているボールを見る。

「俺は128と76でやる。玲は135と、その速い落ちるやつでやればいい」

「……」

「同じこと覚えても、使う球は違う」

 玲が少し考える。

「じゃあ」

「うん」

「僕の方が速いまま、伊織君より上手く投げればいい?」

「なんか腹立つけど、そうだな」

「分かった」

「素直だな」

 玲はそれだけ言って。

 次の球を投げた。

 135km/h。

 高瀬のミットが鳴る。

「……やっぱ速えな」

 昨日、自分が128を出して少し嬉しかった気持ちが。

 ほんの少しだけ薄れた。

 

◇

 

 決勝戦。

 俺は3番ショート。

 玲は先発で6番。

 高瀬が捕手。

 橘さんが1番センター。

 黒田は5番サード。

 三上が8番セカンド。

 相手は秋大会をここまで勝ち上がってきた強豪。

 派手な選手はいない。

 でも。

 上位から下位まで簡単にアウトにならない。

 初回。

 玲の初球。

 135km/h。

「ストライク!」

 相手の1番は振らない。

 2球目。

 132km/h。

 低め。

 これも見送る。

 ワンボール、ワンストライク。

 3球目。

 高瀬のサインに。

 玲が首を振った。

「お」

 ショートから見ていて、少し笑う。

 昨日まで。

 玲は高瀬のサインに首を振ることがほとんどなかった。

 次。

 高瀬が外角へ構える。

 玲が頷く。

 135km/h。

 外角。

 カンッ!

 ファウル。

 ワンボール、ツーストライク。

 打者の足が少し早く動いた。

 速い球へ合わせている。

 俺にも。

 なんとなく分かる。

 次。

 高瀬のサイン。

 130km/h前後。

 あの球。

 玲が投げる。

 途中まで。

 135km/hとほとんど同じ。

 打者が振り始める。

 そこから。

 ボールが落ちた。

 ブンッ!

「ストライク! バッターアウト!」

 三振。

 玲が。

 マウンドで少しだけ笑った。

「分かった?」

 ショートから声を掛ける。

「少し」

 聞こえたらしい。

「試合中に喋るな!」

 高瀬に怒られた。

 

◇

 

 2番打者。

 初球。

 130km/h前後の落ちる球。

 今度は見送られる。

 ボール。

 2球目。

 同じ軌道から135km/h。

「ストライク!」

 打者のバットは出ない。

 3球目。

 また135km/h。

 今度はファウル。

 ツーストライク。

 玲が高瀬を見る。

 高瀬のサインは。

 落ちる球。

 玲が首を振った。

「また?」

 次のサイン。

 低めの132km/h。

 頷く。

 投げる。

 カンッ!

 セカンドゴロ。

「アウト!」

 打ち取ったあと。

 玲が打者の背中を見ていた。

 速い球。

 落ちる球。

 それだけじゃない。

 今。

 何を待っていたのか。

 見ようとしている。

 

◇

 

 初回は三者凡退。

 2回も三者凡退。

 でも。

 3回。

 先頭に初ヒットを許した。

 続く打者が送りバント。

 ワンアウト2塁。

 9番が右打ち。

 一、二塁間を抜ける。

 ワンアウト1、3塁。

 玲が。

 一度だけ息を吐く。

 俺は昨日を思い出した。

 完全試合が消えた時。

 俺は。

 次の打者を見た。

 今。

 玲も。

 そうしている。

 1番打者。

 初球。

 135km/h。

 高め。

 ボール。

 2球目。

 132km/h。

 低め。

 ストライク。

 3球目。

 130km/h前後。

 落ちる球。

 打者は見送る。

 ツーボール、ワンストライク。

 高瀬がタイムを取った。

 マウンドへ行く。

 何か話している。

 すぐに戻った。

 玲が。

 俺を見る。

 目が合った。

「何だよ」

 小さく呟く。

 次の球。

 135km/h。

 内角。

 ファウル。

 ツーボール、ツーストライク。

 打者は速い方へ遅れている。

 次。

 落ちる球か。

 そう思った。

 でも。

 玲が投げたのは。

 132km/h。

 外角低め。

 カキンッ!

 ショート正面。

「来い!」

 捕る。

 2塁。

 1塁。

「アウト!」

「アウト!」

 ダブルプレー。

 チェンジ。

「ナイス!」

 玲がマウンドから言う。

「そっちこそ」

 ベンチへ戻る途中。

 高瀬が玲に話している。

「今の、落とさなかったな」

「待ってたから」

「分かった?」

「多分」

「多分か」

「伊織君も多分って言ってた」

「そこ真似すんな」

 

◇

 

 打線は3回裏。

 橘さんがヒットで出塁。

 盗塁。

 2番が送ってワンアウト3塁。

 俺の打席。

 初球。

 外角ストレート。

 見送る。

 ボール。

 2球目。

 スライダー。

 ファウル。

 3球目。

 内角。

 振る。

 カキンッ!

 打球はセンター前。

「よし!」

 橘さんがホームへ。

 1対0。

 俺は1塁へ。

 ベンチを見る。

 玲が珍しく大きく拍手していた。

「自分の試合みたいな顔してんな」

 1塁コーチが笑う。

「先発ですから」

「お前じゃない」

「知ってます」

 

◇

 

 4回。

 玲は2番から。

 ヒット。

 四球。

 ノーアウト1、2塁。

 今日初めて。

 はっきりしたピンチ。

 相手4番。

 高瀬がマウンドへ行こうとする。

 でも。

 玲が手で止めた。

「……」

 高瀬も止まる。

 玲は打者を見ていた。

 バットを強く握っている。

 少し前寄り。

 初球から。

 135km/hを狙っているように見える。

 多分。

 玲にも。

 見えている。

 初球。

 132km/h。

 外角低め。

「ストライク!」

 打者は見送る。

 2球目。

 同じ132km/h。

 今度は内角低め。

 ファウル。

 ツーストライク。

 相手ベンチから声が飛ぶ。

「速いの来るぞ!」

「135合わせろ!」

 玲が。

 少し笑った。

 高瀬のサイン。

 130km/h前後。

 落ちる球。

 玲が頷く。

 投げる。

 途中まで。

 真っすぐ。

 打者が。

 135km/hを振りにいく。

 でも。

 ボールが消える。

 ブンッ!

「ストライク! バッターアウト!」

 ワンアウト。

 5番。

 初球。

 135km/h。

 ファウル。

 2球目。

 135km/h。

 またファウル。

 3球目。

 130km/h前後。

 打者が止める。

 ワンボール、ツーストライク。

 玲が。

 ボールを握り直す。

 高瀬のサイン。

 高めのストレート。

 頷く。

 投げる。

 バァンッ!

 球速表示。

 136km/h。

「っ!」

 打者が振り遅れる。

 空振り。

「ストライク! バッターアウト!」

「136!」

 ベンチから声が上がる。

「……マジか」

 俺も思わず笑った。

 昨日。

 俺が128を出した。

 今日。

 玲は136。

「本当に伸びるの早いな」

 少し腹が立つ。

 でも。

 それ以上に。

 楽しい。

 

◇

 

 ツーアウト1、2塁。

 6番打者。

 初球。

 135km/h。

 見逃し。

 2球目。

 132km/h。

 ファウル。

 ツーストライク。

 次。

 相手は。

 もう。

 136km/hを意識している。

 当然だ。

 今見せられた。

 なら。

 玲の選択は。

 ほぼ決まっていた。

 130km/h前後。

 高速落下球。

 途中まで。

 高めへ伸びるような軌道。

 打者のバットが出る。

 直前。

 落ちる。

 ブンッ!

「ストライク! バッターアウト!」

 三者連続三振。

 ピンチ脱出。

 玲がマウンドを降りる。

 途中。

 俺とすれ違う。

「136」

 俺が言う。

「うん」

「1km/hくらい俺にくれよ」

「無理」

「即答すんな」

「伊織君も上げればいい」

「上げるよ」

「じゃあいいじゃん」

「よくない」

 玲が笑った。

 

◇

 

 5回。

 玲は三者凡退。

 6回。

 先頭に二塁打。

 送りバントでワンアウト3塁。

 内野ゴロの間に1点。

 1対1。

 でも。

 玲は崩れなかった。

 次の打者を135km/hで詰まらせる。

 そして。

 7回表。

 打線が動いた。

 先頭の黒田がレフト前。

 玲が送りバントを決める。

 ワンアウト2塁。

 三上が右打ち。

 ランナー3塁。

 ツーアウト。

 橘さん。

 初球。

 カキンッ!

 センター前。

「抜けた!」

 黒田がホームへ。

 2対1。

 勝ち越し。

 

◇

 

 7回裏。

 あと3人。

 玲がマウンドへ上がる。

 高瀬が声を掛ける。

「水城」

「何?」

「最後、どうする?」

 玲が少し考えた。

「普通に投げる」

「それでいい」

 先頭。

 135km/h。

 ファウル。

 132km/h。

 ストライク。

 最後。

 130km/h前後の落ちる球。

 三振。

 ワンアウト。

 次。

 初球。

 135km/h。

 セカンドゴロ。

 ツーアウト。

 最後。

 相手4番。

 今日、2打数ノーヒット。

 打席へ入る。

 玲が。

 じっと見る。

 バット。

 足。

 目。

 初球。

 136km/h。

「ストライク!」

 振らない。

 2球目。

 132km/h。

 外角低め。

 ボール。

 ワンボール、ワンストライク。

 3球目。

 130km/h前後。

 落ちる球。

 打者は止めた。

 ツーボール、ワンストライク。

 玲が。

 少しだけ首を傾ける。

 何か。

 考えている。

 4球目。

 135km/h。

 内角。

 ファウル。

 ツーボール、ツーストライク。

 打者の足が。

 少し早く動いた。

 速い球。

 そこに意識がある。

 最後。

 高瀬のサイン。

 落ちる球。

 玲が頷く。

 腕を振る。

 130km/h。

 途中まで。

 135km/hと同じ。

 打者が振る。

 そこから。

 鋭く。

 沈んだ。

 ブンッ!

「ストライク! バッターアウト!」

「ゲームセット!」

 2対1。

 秋大会。

 優勝。

 

◇

 

 整列を終えたあと。

 玲が俺のところへ来る。

「伊織君」

「何?」

「昨日より上手く投げられた」

「見てた」

「136も出た」

「それも見てた」

「伊織君は128」

「うるさい」

「8km/h差」

「増えたって言うな!」

 玲が少し笑う。

 でも。

 すぐに真面目な顔へ戻った。

「まだ伊織君みたいにはできない」

「十分だろ」

「ノーヒットノーランしてない」

「そこ?」

「うん」

「じゃあ次やれば?」

 昨日。

 俺が玲に言った言葉。

 玲は少しだけ目を見開く。

 それから。

「うん」

 真っすぐ頷いた。

 

◇

 

 その夜。

 俺はシステムを開き。

 玲を見る。

 

【水城玲の解析情報】

 

球速      136km/h

コントロール  C64

スタミナ    B72

 

【変化球】

チェンジアップ 3

 

【確認済み特殊能力】

奪三振

怪童

リリース○

 

 少し待つ。

 表示が変わった。

 

【解析情報が更新されました】

 

【高速落下球の完成度が上昇しています】

 

【高速落下球】

球速帯 129~132km/h

 

【特殊能力《キレ○》の習得条件を達成しました】

 

【確認済み特殊能力に《キレ○》が追加されました】

 

「……やっぱ取ったか」

 玲。

 136km/h。

 さらに。

 キレ○。

 あの落ちる球まで。

 少しずつ形になっている。

 昨日。

 俺がノーヒットノーランをした。

 それを見て。

 今日。

 玲が伸びた。

「これ」

 思わず笑う。

「ずっと続くんじゃないか?」

 俺が伸びる。

 玲が伸びる。

 それを見て。

 また俺が伸びたくなる。

 真田もいる。

 御子柴もいる。

 まだ。

 中学1年の秋。

「面白いな」

 野球が。

 どんどん。

 面白くなっていく。

 

◇

 

 そして。

 大会翌日。

 学校へ向かう途中。

 隣を歩く詩織が、俺の顔を見た。

「伊織君」

「何?」

「すごく楽しそう」

「分かる?」

「分かるよ」

「秋大会優勝した」

「聞いた。おめでとう」

「あとノーヒットノーランも」

「それも聞いた」

「誰から?」

「伊織君のお母さん」

「情報早いな……」

 詩織が笑う。

「よかったね」

「うん」

 本当に。

 楽しかった。

 だから。

 俺は昨日の試合のことを話した。

 玲が136km/hを出したこと。

 新しい落ちる球がさらに良くなっていたこと。

 投球も前より上手くなっていたこと。

「それでね」

 詩織が少し笑う。

「ん?」

「伊織君、自分がノーヒットノーランした話より、水城君の話してる時の方が楽しそう」

「……そう?」

「うん」

 言われて。

 少し考える。

「だって、玲が伸びたら」

 俺も。

 もっと伸びたくなる。

 そう言おうとして。

 止まる。

「何?」

「いや」

 俺は笑う。

「次は俺ももっと上手くなるから」

「またそれ?」

「またそれ」

 詩織は。

 少し呆れたように。

 でも。

 笑っていた。

 

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