転生したら人生がサクセスモードだった   作:ねるすと

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第75話

 4月。

 校門の前に貼り出されたクラス分けを見る。

「2年3組……」

 自分の名前を見つけ、そのまま少し下へ視線を動かす。

 藤崎詩織。

「あ」

「伊織君」

 後ろから声がした。

 振り返ると、詩織もクラス表を見上げている。

「同じだな」

「うん」

「小学校以来?」

「中学では初めて」

「そうだっけ」

「そうだよ」

 詩織が少し呆れた顔をする。

「伊織君、中1の時は1組。私は2組」

「ああ、体育祭も別だったな」

「今思い出したでしょ」

「ちゃんと覚えてた」

「怪しい」

 でも。

 同じクラスなら。

 朝も。

 授業も。

 学校行事も。

 今までより一緒になる時間が増える。

「よろしく」

「うん。よろしく」

 詩織が笑った。

 中学2年。

 新しい1年が始まった。

 

◇

 

 玲は2年1組。

 三上は2年4組。

 学校まで同じなのは玲だけだから、昼休みに顔を合わせることはある。

「伊織君」

「何?」

「同じクラスじゃなかった」

「誰と?」

「伊織君」

「去年も違っただろ」

「今年は一緒になると思ってた」

「何で?」

「何となく」

「クラス分けにライバル枠ないから」

「そうなの?」

「あるわけないだろ」

 玲は少し残念そうだった。

 その横を通った詩織が足を止める。

「水城君、今年もよろしくね」

「うん」

「伊織君とクラス違って残念だったね」

「うん」

「即答なんだ」

 俺が言うと。

 玲は普通に頷いた。

「だって学校でも野球の話できるから」

「昼休みに来てるだろ」

「足りない」

「多いよ」

 詩織が小さく笑っている。

「2人、本当に仲いいね」

「ライバル」

 玲が答える。

「友達でもあるだろ」

「うん。友達でライバル」

「そこは即答なんだな」

 悪い気はしなかった。

 

◇

 

 学年が上がれば。

 俺たちが所属する**城東シニア**でも、立場が変わる。

 俺たちが2年生。

 橘さんたちは3年生。

 そして。

 新しい1年生が入ってくる。

 初日の練習。

 グラウンドの端に並んだ新入団員たちを見て、少し妙な気分になった。

「去年は俺たちがあそこだったんだよな」

 三上が言う。

「1年早いな」

 黒田も腕を組む。

 高瀬は防具をつけながら新入団員を見ていた。

「今年、キャッチャー2人いる」

「嬉しそう」

「当たり前だろ。俺がずっとお前らの球受けるのしんどいんだよ」

 玲が横から聞く。

「僕の?」

「お前が一番だよ」

「伊織君も130」

「成瀬は球速より別の意味で面倒」

「褒めてる?」

「半分」

 去年。

 俺たちは城東シニアに入ったばかりの1年生だった。

 先輩を追いかけるだけで精一杯だった。

 今年は。

 追いかけながら。

 少しだけ追われる側にもなる。

 

◇

 

「集合!」

 橘さんの声が響く。

 新しいチーム。

 とはいっても。

 夏までは橘さんたち3年生が中心だ。

「今年の目標は去年と変わらない」

 全員を見る。

「全国優勝」

 去年。

 城東シニアは全国ベスト4。

 届かなかった。

 秋は新チームで優勝した。

 でも。

 シニアの一番大きな夏は。

 まだ取っていない。

「俺たち3年にとっては最後の夏になる」

 橘さんが続ける。

「だからって、3年だけで勝つつもりはない。2年も1年も全部使う」

 視線が俺たちへ向く。

「特に成瀬、水城」

「はい」

「はい」

「去年より期待されてると思え」

「はい」

 俺が答える横で。

 玲も真っすぐ前を見ていた。

 全国優勝。

 去年より。

 はっきり現実的な目標に見えた。

 

◇

 

 練習が始まる。

 冬を越えた身体は、去年の春とは違う。

 打球が強い。

 送球も伸びる。

 足も。

 少しずつ。

 中学生の身体になってきている。

 ノック。

 三遊間。

 逆シングル。

 踏ん張る。

 1塁へ。

 バシッ!

「ナイスボール!」

 深い位置からでも。

 余裕が出てきた。

 守備力B76。

 まだB。

 でも。

 中学カテゴリでこの数字なら。

 かなり高い。

「成瀬! 次前!」

「はい!」

 ボテボテ。

 前へ出る。

 捕る。

 そのままランニングスロー。

 アウト想定。

「いいぞ!」

 楽しい。

 やっぱり。

 ショートは楽しい。

 

◇

 

 打撃練習のあと。

 監督が俺をブルペンへ呼んだ。

「成瀬」

「はい」

「少し投げろ」

 高瀬が座る。

 まずストレート。

 128。

 129。

 130km/h。

 次。

 チェンジアップ。

 77km/h。

 冬前と同じように。

 約50km/hの差。

「いいな」

 監督が言う。

「ありがとうございます」

「ただ」

 続きがある。

「今年は去年と同じじゃ通用しないぞ」

「……はい」

「お前のことは、もう知られてる」

 ノーヒットノーラン。

 130km/h。

 76~77km/hのチェンジアップ。

 変幻自在。

 秋。

 かなり目立った。

「対戦相手も考える。遅い球があることも、制球がいいことも分かった上で打席に入ってくる」

「はい」

「今の2球種だけでも抑えられると思うか?」

 考える。

「抑えられると思います」

「強気だな」

「でも」

「ん?」

「増やせるなら増やしたいです」

 監督が笑った。

「お前はそう言うと思った」

「何がいいですか?」

「すぐ新しい球種に飛びつくな」

「……はい」

「まず今の2つをもっと磨け。その上で」

 監督がボールを持つ。

「縦じゃなく、もう1つ違う軌道があると面白い」

「違う軌道」

「例えばカーブ」

「カーブ……」

 頭の中に浮かぶ。

 130。

 77。

 そこに。

 さらに別の速度帯。

 別の軌道。

「欲しい」

「顔に出てるぞ」

 高瀬が笑う。

「でも監督、こいつに新しい玩具の話したら終わりですよ」

「玩具じゃない」

「同じだろ」

「違う」

 監督が俺を見る。

「夏までに使えるようにしろとは言わない」

「はい」

「身体と相談しながらだ」

「はい」

「勝手に投げ込むなよ」

「はい」

「本当に?」

「……はい」

「間があったぞ」

 高瀬に突っ込まれた。

 

◇

 

 隣のブルペンでは。

 玲が投げていた。

 140km/h。

 131km/h。

 高速で落ちる球。

 キレ○を身につけたことで。

 最後の変化は冬前より明確に鋭くなっている。

 バァンッ!

 140km/h。

 次。

 131km/h。

 途中までほとんど同じ。

 最後。

 沈む。

「……」

 俺が見ていることに気づいた玲が振り返った。

「何?」

「相変わらず嫌な球だなって」

「褒めてる?」

「褒めてる」

「伊織君は?」

「何が?」

「新しい球」

「何で知ってるの?」

「監督と話してたから」

「聞いてた?」

「少し」

「地獄耳だな」

 玲が近づいてくる。

「何覚える?」

「カーブ候補」

「遅い?」

「チェンジアップよりは速いと思う」

「76より?」

「当たり前だろ」

「ならいい」

「何で玲が許可するんだよ」

 玲は少し考えたあと。

「僕も遅い球欲しい」

「前から言ってたな」

「でも76は遅すぎる」

「まだ言う?」

「100km/h台くらいがいい」

「カーブ?」

「分かんない」

「じゃあ一緒に覚える?」

「嫌」

「何で」

「同じだと伊織君と一緒になる」

「そこ気にするのかよ」

「僕は僕の球にする」

 玲らしい答えだった。

 

◇

 

 練習後。

 高瀬と一緒に片付けていると。

 監督から呼ばれた。

「成瀬、水城、高瀬」

 3人で向かう。

「春の大会から、投手起用を少し変える」

 監督が言う。

「水城を軸にするのは変わらない。ただ、成瀬の先発も増やす」

「はい」

「高瀬」

「はい」

「2人の投球をもっと自分で組ませろ」

「……自分で?」

「秋の成瀬みたいにな」

 高瀬が俺を見る。

「また俺の仕事減るじゃないですか」

「減らない。考えてることが合ってるか確認するのがお前の仕事だ」

「重くなってません?」

「気のせいだ」

 監督が玲を見る。

「水城」

「はい」

「お前も球の強さだけで抑える段階は終わりだ」

「はい」

「140がある。落ちる球もある。だからこそ、考えろ」

「はい」

 玲が俺を見る。

 その顔が。

 少し嬉しそうだった。

「何?」

「投手として勝つ」

「またそれ?」

「うん」

「じゃあ俺も負けない」

「知ってる」

 中学2年。

 最初から。

 競争だった。

 

◇

 

 学校でも。

 新しいクラスが少しずつ落ち着いてきた。

 ある日の放課後。

 教室に残っていた俺へ、詩織が声を掛ける。

「伊織君、今日シニア?」

「ない」

「じゃあ帰る?」

「自主練する」

「やっぱり」

「でも1時間くらいなら」

「何が?」

「一緒に帰れる」

 詩織が少し黙る。

「……別に時間聞いてないけど」

「違った?」

「違わないけど」

 笑う。

「じゃあ帰ろ」

「うん」

 並んで校門を出る。

「2年生、どう?」

 詩織が聞く。

「楽しい」

「野球?」

「それも」

「学校は?」

「詩織と同じクラスだし」

 何となく。

 そのまま言った。

 詩織が一瞬だけ俺を見る。

「……そっか」

「何?」

「何でもない」

「変なの」

「伊織君に言われたくない」

 少しだけ。

 歩く速度がゆっくりになる。

 俺も合わせた。

 自主練。

 1時間。

 別に。

 今日くらい少し遅れてもいい。

 そう思った。

 

◇

 

 夜。

 システムを開く。

 

【新年度が開始されました】

 

【成瀬伊織】

学年:中学2年

 

【現在能力】

 

【野手能力】

弾道   3

ミート  B70

パワー  C69

走力   C69

肩力   B71

守備力  B76

捕球   B70

 

【投手能力】

球速      130km/h

コントロール  B78

スタミナ    B76

 

【変化球】

チェンジアップ 5

 

【投手特殊能力】

対ピンチ○

低め○

リリース○

変幻自在

 

【人生能力】

学力 A80

運動 S90

容姿 A85

芸術 C60

社交 B76

精神 A80

 

 去年の春とは。

 全然違う。

 数字も。

 立場も。

 できることも。

 でも。

「まだまだだな」

 カーブ。

 守備。

 打撃。

 130km/hのその先。

 人生能力だって。

 まだ伸ばせる。

 やりたいことは。

 減らない。

 むしろ。

 増えていく。

 

 中学2年。

 

 城東シニアでの二年目が。

 始まった。

 

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