転生したら人生がサクセスモードだった   作:ねるすと

76 / 91
第76話

 中学2年になって、最初の公式戦。

 春季大会。

 俺たちは初戦を勝ち上がり、2回戦を迎えていた。

 今日の先発は俺。

 ショートには三上が入る。

 玲はベンチスタート。

 監督からは試合前に言われていた。

「成瀬」

「はい」

「秋と同じ投球が通用すると思うなよ」

「はい」

「相手はお前を知ってる」

「分かってます」

 ノーヒットノーラン。

 130km/h。

 76~77km/hのチェンジアップ。

 秋より。

 俺の情報は広がっている。

 だから。

 相手がどう来るのか。

 少し楽しみでもあった。

 

◇

 

 1回表。

 マウンドへ上がる。

 高瀬が座る。

 先頭打者。

 構えを見る。

「……」

 少し短く持っている。

 大振りするつもりはなさそうだ。

 高瀬の初球はチェンジアップ。

 でも。

 俺は首を振った。

 初球。

 外角。

 129km/h。

 投げる。

 カキンッ!

「っ」

 いきなり。

 きれいにセンター前へ運ばれた。

「ナイスバッティング!」

 相手ベンチから声が上がる。

 先頭打者は1塁へ。

「……初球からか」

 悪い球じゃなかった。

 外角。

 低め。

 でも。

 迷いなく振られた。

 2番。

 バント。

 ワンアウト2塁。

 3番打者。

 今度は。

 少し前に立っている。

 チェンジアップを意識している?

 初球。

 77km/h。

 見送る。

「ボール!」

 ほとんど反応しない。

 2球目。

 130km/h。

 外角。

 カキィン!

「っ!」

 右中間。

 抜ける。

 2塁ランナーがホームへ。

「セーフ!」

 0対1。

 先制された。

 打った3番は2塁へ。

「成瀬!」

 高瀬が声を掛ける。

「分かってる」

 4番。

 また。

 バットを短く持っている。

 初球。

 チェンジアップ。

 見送る。

 ストライク。

 それでも。

 反応は薄い。

「……これ」

 2球目。

 129km/h。

 ファウル。

 3球目。

 129km/h。

 外角低め。

 カキンッ!

 ライトへのフライ。

 でも。

 十分な距離。

 2塁ランナーが3塁へ進む。

 ツーアウト3塁。

 5番。

 初球。

 130km/h。

 内角。

 詰まらせた。

 でも。

 打球は一、二塁間。

 セカンドの三上が追う。

 届かない。

 ライト前。

 0対2。

「……」

 初回。

 いきなり2点。

 最後の6番はショートゴロ。

 ようやく。

 チェンジ。

 ベンチへ戻る。

 高瀬が隣へ座った。

「どう思う?」

「研究されてる」

「俺もそう思う」

「チェンジアップ、ほとんど捨ててる」

「うん」

「真っすぐは最初から振ってくる」

「うん」

 高瀬が少し笑った。

「有名人は大変だな」

「嬉しくない」

「秋にノーノーなんかするから」

「もう1回やりたいけど」

「反省してねえな」

 

◇

 

 打席へ向かう相手選手を見る。

 全員。

 大きく振ってこない。

 130km/h。

 中学2年としては速い。

 でも。

 玲の140ほどじゃない。

 真田だって134を投げる。

 俺のストレートだけなら。

 絶対に打てない球じゃない。

 そして。

 76km/hのチェンジアップ。

 秋は。

 その速度差で相手の時間を壊した。

 でも。

 最初から。

「遅い球は捨てる」

 そう決めていたら。

 話は変わる。

 チェンジアップを見逃す。

 ストレートだけに絞る。

 それなら。

 選択肢は1つになる。

「なるほど」

 俺は。

 少し笑っていた。

 高瀬が見てくる。

「何?」

「いや」

「打たれて嬉しいの?」

「それは嫌」

「じゃあ何」

「攻略されてる」

「……嬉しそうに言うな」

「だって」

 攻略されたなら。

 次は。

 こっちが攻略し返せばいい。

 

◇

 

 2回。

 先頭の7番。

 初球。

 129km/h。

 見逃し。

 初めて。

 真っすぐを見送った。

「……」

 さっきまでとは違う。

 俺が初回に打たれた。

 だから。

 相手も少し変えた?

 2球目。

 チェンジアップ。

 見送り。

 ワンボール、ワンストライク。

 3球目。

 130km/h。

 内角。

 ファウル。

 ツーストライク。

 打者の足。

 やっぱり。

 速い球へ意識がある。

 だったら。

 チェンジアップ?

 いや。

 それは。

 相手も分かっている。

「高瀬」

 サインを見る。

 外角低め。

 ストレート。

 頷く。

 129km/h。

 カンッ!

 セカンドゴロ。

「アウト!」

 ワンアウト。

 8番。

 今度は。

 真っすぐを3球続ける。

 129。

 128。

 130。

 最後はライトフライ。

 9番。

 初球。

 チェンジアップ。

 相変わらず見送る。

 でも。

 2球目も。

 チェンジアップ。

「っ」

 少しだけ。

 身体が動いた。

 ストライク。

 ワンボール、ワンストライク。

 3球目。

 129km/h。

 ファウル。

 4球目。

 77km/h。

 今度は振る。

 ブンッ!

「ストライク! バッターアウト!」

 三振。

「……そういうことか」

 捨てる。

 と言っても。

 完全に無視できるわけじゃない。

 ストライクになるチェンジアップを続ければ。

 相手も。

 振らざるを得ない。

 ただ。

 秋ほど簡単ではない。

 

◇

 

 2回裏。

 黒田の二塁打から1点を返した。

 1対2。

 3回表。

 打順は1番へ戻る。

 初回。

 初球のストレートを打たれた相手。

 今度は。

 初球。

 76km/h。

「ストライク!」

 見逃し。

 2球目。

 77km/h。

 また見逃す。

「ストライク!」

 ツーストライク。

 相手ベンチから声が飛ぶ。

「追い込まれたぞ!」

「ここから真っすぐ!」

 俺にも聞こえる。

 高瀬のサイン。

 130km/h。

 首を振る。

 高瀬の眉が動く。

 次も。

 ストレート。

 首を振る。

「……」

 球種は。

 2つしかない。

 なら。

 答えは1つ。

 高瀬も分かったらしい。

 チェンジアップ。

 頷く。

 77km/h。

「っ!」

 打者が慌てて振る。

 カンッ!

 力のないサードゴロ。

「アウト!」

 1人。

 次の2番。

 送りバントを狙ってくる。

 ストレートを高めへ。

 ファウル。

 次。

 内角。

 129km/h。

 詰まったセカンドフライ。

 ツーアウト。

 3番。

 初回にタイムリーツーベースを打たれた打者。

 構えを見る。

 足。

 バット。

 視線。

 速い球。

 また。

 そこに合わせている。

「……」

 分かる。

 何を待っているかは。

 でも。

 分かっていても。

 今の俺には。

 選べる球が2つしかない。

 ストレート。

 チェンジアップ。

 相手も。

 その2つを知っている。

「足りない」

 小さく呟く。

 初球。

 130km/h。

 ファウル。

 2球目。

 77km/h。

 ボール。

 3球目。

 129km/h。

 外角低め。

 カンッ!

 ショートゴロ。

 三上が処理する。

 アウト。

 抑えた。

 でも。

 思った。

 もう1つ。

 欲しい。

 

◇

 

 4回。

 5回。

 俺は。

 相手の狙いを読みながら。

 配球を変え続けた。

 チェンジアップを捨てるなら。

 ストライクへ入れる。

 真っすぐへ絞るなら。

 内外を変える。

 同じ130km/hでも。

 高め。

 低め。

 内。

 外。

 全部。

 使う。

 3回以降。

 ヒットは1本だけ。

 追加点は許さなかった。

 一方。

 打線が4回に同点。

 5回。

 俺の犠牲フライで勝ち越し。

 3対2。

 6回表。

 俺はそのままマウンドへ。

 先頭。

 4番。

 初球。

 129km/h。

 ファウル。

 2球目。

 77km/h。

 見逃し。

 ワンボール、ワンストライク。

 3球目。

 130km/h。

 ファウル。

 ワンボール、ツーストライク。

 次。

 チェンジアップ。

 打者は。

 完全に待っている。

「……」

 高瀬のサインもチェンジアップ。

 俺は首を振った。

 次。

 外角低め。

 ストレート。

 頷く。

 129km/h。

 打者が振る。

 カンッ!

 ファーストゴロ。

「アウト!」

 5番。

 センターフライ。

 6番。

 最後はチェンジアップで三振。

 6回終了。

 初回の2失点だけ。

 ベンチへ戻る。

 監督が言った。

「ここまで」

「まだ行けます」

「知ってる」

「じゃあ」

「春だぞ」

 短く言われる。

「水城に任せろ」

「……はい」

 去年なら。

 少し不満だったと思う。

 でも。

 今は。

 任せる。

 それも。

 少しずつ覚えている。

 

◇

 

 7回表。

 マウンドへ玲が上がる。

 俺はショートへ戻る。

 先頭打者。

 140km/h。

「ストライク!」

「……速いな」

 自分が6回まで投げた後だから。

 余計にそう見える。

 次。

 132km/h。

 高速で落ちる球。

 空振り。

 ツーストライク。

 3球目。

 140km/h。

 三振。

 2人目。

 139km/hで詰まらせて。

 俺へのショートゴロ。

「アウト!」

 最後。

 140km/h。

 131km/hの落ちる球。

 最後は高め140km/h。

「ストライク! バッターアウト!」

 3人。

 試合終了。

 3対2。

 勝った。

 

◇

 

 整列を終え。

 ベンチへ戻る。

 俺の今日の結果。

 6回。

 被安打4。

 失点2。

 四球0。

 奪三振5。

 悪くない。

 むしろ。

 初回に2点取られてからは。

 かなり抑えた。

 でも。

「秋とは違った」

 高瀬が隣で言う。

「うん」

「ノーノーした投手だからな」

「関係ある?」

「あるだろ。向こう、明らかに成瀬対策してた」

「だよな」

「で?」

「何が?」

「嬉しそうなのは何で?」

 自分でも。

 少し分かっていた。

「次やること決まった」

「……やっぱり」

 高瀬がため息をつく。

「新しい球?」

「うん」

「監督が聞いたら止めるぞ」

「もう監督から言われてる」

「じゃあ俺が止める」

「何でだよ」

「お前放っとくと今日から投げ始めるだろ」

「……」

「黙るな」

 

◇

 

 翌日の練習。

 監督の前。

 俺はボールを握っていた。

「カーブ」

「はい」

「まず覚えるのは握りと回転だ」

「はい」

「曲げようとするな」

「はい」

「無理に手首ひねるな」

「はい」

「球速も気にするな」

「はい」

「分かってるか?」

「分かってます」

「顔が早く投げたいって言ってる」

「……投げたいです」

「正直でよろしい」

 高瀬が座る。

「軽くな」

「はい」

 握り。

 指。

 抜き方。

 教わった通り。

 投げる。

 ふわっ。

「……」

 ボールは。

 ほとんど曲がらず。

 高瀬の手前で少しだけ落ちた。

 球速。

 111km/h。

「これカーブ?」

 俺が聞く。

「今はただの遅い球」

 高瀬が即答した。

「チェンジアップより速い」

「そこ喜ぶところじゃない」

 もう1球。

 109km/h。

 少し。

 横へ。

 少し。

 下へ。

「今の」

 高瀬が言う。

「ちょっとそれっぽい」

「マジ?」

「ちょっとな」

 もう1球。

「今日は終わり」

 監督が止める。

「まだ2球」

「だから終わり」

「……はい」

「その顔やめろ」

 システムを開く。

 

【新たな変化球の習得を開始しました】

 

【カーブ:未完成】

 

「……来た」

 ストレート。

 チェンジアップ。

 そして。

 カーブ。

 まだ。

 投げられるとは言えない。

 でも。

 新しい選択肢が。

 1つ。

 増え始めた。

 

◇

 

 その日の帰り。

 学校から家へ向かう途中。

 詩織が俺を見る。

「今日、機嫌いいね」

「分かる?」

「分かる」

「新しい変化球覚え始めた」

「へえ」

「カーブ」

「曲がるやつ?」

「今はほぼ曲がらない」

「じゃあカーブじゃないんじゃない?」

「高瀬にも似たようなこと言われた」

 詩織が笑う。

「でも楽しいんだ」

「うん」

「試合、打たれたって聞いたけど」

「2点取られた」

「負けた?」

「勝った」

「じゃあよかったね」

「よかった」

 少し考える。

「でも、打たれたのもよかったかも」

「何で?」

「足りないもの分かったから」

 詩織が。

 少しだけ目を細めた。

「伊織君、本当にそういうの好きだね」

「何が?」

「できないこと見つけるの」

「普通嫌じゃない?」

「伊織君は嬉しそう」

「……そうかも」

 できない。

 足りない。

 攻略された。

 昔なら。

 嫌だったかもしれない。

 でも。

 今は。

 次に育てる場所が見つかった。

 そう思える。

「カーブか」

 まだ。

 ほとんど曲がらない。

 だからこそ。

 育てるのが。

 楽しみだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。